0 プロローグ
「さて、今年も大闘技会……略して大運動会と学園祭の時期な訳だが——」
「きょーかーん。いま、あからさまに略し方がおかしかったでーす!」
というか、略せてませーん。と、ヒューイのツッコミが入ったが黙殺された。
「ちなみに大運動会は知っての通り、学年別チーム戦によるトーナメント方式勝ち抜き戦だ」
一年生の時は任意のチーム編成だったが、二年生以降はチーム=班である。つまりいつもの面子で連携を生かして勝ち進む必要があるということ。
「去年は暴君のポンコツ指揮のせいて散々だったらしいが、今年は普段ぽんこつだが戦闘だけは達者な魔王がついてる!」
指揮されるより個別に戦った方が強いという本末転倒な惨状だったらしいとアルは伝え聞いていた。ちなみに去年度の運動会、担当している班の無かった彼はもちろんサボタージュしていたので全容は知らない。
「……教官。去年はサボってたのに今年は妙にヤル気に溢れてるっすね」
「………………怪しい」
ローレンツとテオドールがツッコミを入れると、アルはあからさまに慌てはじめた。
「そ、そんな事は無いぞぅ」
否定はするが言葉尻からして信憑性がない。
「人って後ろめたい事があると言い淀んじゃうんですよね……」
「これはクロじゃな。白状するなら今のうちかと思うが?」
アステルとフェルも追い打ちをかける。
「教官の事だ。どうせロクでもない理由だろう」
「ロクでもない……トトカルチョ的な?」
「ぎくぅっ」
エルンストに聞き直したヒューイの言葉で、出さなくてもいい典型的な心の声をわさわざ口にするアル。的中したようだ。
「賭け事か。実に『らしい』な」
「そんな事ねーよ!? やってんのはみんな担当持ちの教官連中なんだからな!?」
「なおさらタチが悪いっすね」
「皆、教え子に自信を持ってるいるがゆえ……と、言って欲しいなそこは」
吹き出る汗を拭いながら言い訳じみた言葉を発するアル。台詞だけ聞くとかっこいいかもしれないが、実際にしているのは生徒をダシにした賭事である。
「つまり、自分の受け持つ生徒が勝てばメリットがあるという事かの」
「アル教官がやる気になるって、商品は一体何なんでしょうね?」
良識派のフェルやアステルまでもが彼の下心を疑っている。もはや完全に不良教官の名を欲しいままにするアル。
「ま、まあ運動会の話はここまで! 学園祭……学園祭の話をしよう!!」
「教官、誤魔化すのヘタっすね。まー、俺っち達に実害が無いなら良いんすけど……まさか妨害工作とか無いっすよね?」
「いやー流石にそこまでするような連中じゃない、と思いたいな……」
嫌がらせの一つや二つくらいはしてくるかもしれないが、と珍しく苦い顔でつぶやくアル。
「きょーかん。まさか他の先生たちにそこまで恨まれて……?」
「疎まれちゃいるがそこまでじゃねーよ!? むしろ、お前のほうがよっぽどじゃねーか!」
僕? と首をかしげるヒューイ。全く心当たりが無い。
「今でこそある意味無害だが、記憶喪失前は酷かったからなー。……無関係だった俺でも知ってるくらいだ。この機会に足を引っ張ろうって輩がいてもおかしかない」
「えー。いい加減、時効では?」
「時効って、まだ一年も経ってねーんですけど!?」
実はヒューイが記憶喪失になったあの雪山演習からまだ半年と少ししか経っていなかったりする。
「時の流れって……意外と遅いですねー」
「遅いっつーか……むしろ濃すぎだった気がするぞ、俺は」
魔王が仲間になったり、街の新たな名物を作り出したり、大ダコと戦ったり……。いろいろあり過ぎてたまには休みたいくらいだとアル。他の皆も同じ気持ちのようで、苦笑いを隠せない。
「ま、ともかく。暴君時代に買った恨みっつらみに気を付けとけよー」
そんなこんなで騎士学校には運動会と学園祭の準備期間が訪れようとしていた。




