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性悪貴族?なにそれおいしいの?  作者: ぽて
ドキドキワクワク学外研修編

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11 ぞんびぱにっく



 学者の合図で道化師が笛を吹くと、そこかしこに座り込んで居たゾンビが彼らを守るようにわらわらと動き出した。あっという間にゾンビの壁が出来上がり、学者と道化師の姿が見えなくなる。


 真っ先に飛び出したのは意外にもヒューイだった。「ちょわー」と力の抜けるような掛け声と共に、ゾンビの腹へ掌底を打ち込み次々と吹き飛ばして行く。


「ヒューイ、お前ゾンビは苦手だったんじゃなかったか?」

「今回はぐっちょぐちょのねっちゃねちゃじゃないのでー」

「……まあ、ある意味新鮮? だからなー」


 野に放たれて居ない分、損傷が少ないモノが多い。だが——


「あまり効いてはおらんようだのう」


 吹き飛ばされた先でムクリと起き上がり、のっそりと列にもどるゾンビの方々。


「……これ、燃やすか術者どうにかしないとジリ貧なぱたーんでわ?」

「いやいや、こんな密室空間でファイヤーとかしたら俺らも蒸し焼きだろうが!」


 『術者をどうにか』の一択しかねーよ! と、アルがツッコミを入れる。唯一ファイヤーできるテオドールはちゃんと心得ていて、火系以外の術で応戦準備していた。


「手ぇ休ませないでください! 左翼から囲まれかけてるっすよ!」


 ローレンツの声が響くや否や、エルンストの剣が一閃しゾンビ数体を上下に真っ二つにした。


「これだけ狭ければ言われずともわかる! 今回ばかりはお前も応戦しろ、ローレンツ!」

「えぇっ!? 俺っち実戦は苦手なんすよぉぉ!」


 むしろ戦闘前に輝く立ち位置というか! ローレンツがエルンストに抗議するが聞く耳を持たない。物量で攻められているのは、以前あった騎士学校の魔物襲撃と重なるが、今回は室内である。索敵する以前に敵が多すぎて手が圧倒的に足りないのだ。


「ヒューイ、こんな時こそアレだアレ!」

「きょーかん、指示語ばっか使うのは老化の始まりって知ってます?」

「うるさいわ、ほっとけ!」


 怒りに任せてゾンビを蹴り飛ばしつつアルが叫ぶ。老化を気にするにはまだ二十年ほど早い。


「とゆーか『アレ』じゃ分かりませーん」

「こんな時こそ魔改造索敵陣だよ! アレのホーミング使って一掃すんだよ!!」


 確かにそれならばあっという間に制圧できる。だが——


「あ、無理でーす! まだそこまで習得できてないです!」

「意味が無ぇぇっ!!」


 こういう時の為の魔改造だろ!? との叫びと共に、またもや数体のゾンビが吹き飛んだ。


「…………皆、下がる」

「ワガハイと魔術師でちょっくら壁に穴開けるから、お前らであのウザい道化師と憎っくき学者をどうにかするのだ!」


 テオドールとノーチェが共同で何かをやらかすらしいと察して、慌てて飛び退く前衛一同。


「…………『凍れ、残らず凍れ』!」


 テオドールの詠唱で前方にいたゾンビ達があらかた凍りついた。そこへ——


「『影錐・改!』」


 ノーチェの魔術がぶち込まれて、粉々になっていくゾンビ達。その後には一本の道が出来ていた。


「寒っ」

「弱音を吐いている場合か!」


 急激に下がった室温に身を震わせるヒューイに、喝を入れたエルンストが真っ先に『道』へと突入した。





 道に残っていたゾンビを斬り倒しながら進んだ先では道化師が笛を吹いていた。


「笛吹き、だったか?」

「ハーイ、ワタシの通称ですネ」


 エルンストの問いに、笛から口を離し応じる道化師。二つ名が付いているということは、それだけで腕が立つという証左でもある。その所作がいかにふざけたものであろうと油断はできない。エルンストはゴクリと唾を飲み込む。


「それにしても……豪気な学生さんデスネ、貴方達ハ」

「『達』というのは買いかぶりすぎだ。俺は何もしていないからな」


 作戦を思いついたのも実行したのもエルンストでは無いので、そこは正直に所感を述べる。


「貴様はなぜそこの男に協力している?」

「同盟、というヤツですヨ。ワタシが材料の調達、彼が強化と改造」


 そして出来の良い物を笛吹きが貰い受けるというものらしい。学者は研究には興味があるが、今の所は成果物には興味が無いという。


「何でわざわざこんな非合法な真似するんすか? 登録ネクロマンサーになれば危ない橋渡らなくったって……」


 追いついてきたローレンツが、戸惑い気味に口を開く。


「ソウするだけの価値が彼にはあるのデス」


 確固とした意思で断言する笛吹きの言葉にローレンツは絶句する。安定志向の彼には、笛吹きがなぜ犯罪の片棒を担いでまで協力するのかが判らない。


 会話は終わりだと道化師は再び笛を口に当てた。





 アルとヒューイの前には学者が立っていた。

 素直に捕まれと言っても聞かないだろうから、と前置きした上でアルは学者に尋ねる。


「あんたの目的は何なんだ?」


 タコを魔改造してみたり、ゾンビを大量生産してみたり、やることに共通点が見出せない。まるで無造作に目に付いたものに片っ端から飛びついている印象さえある。


「目的……ですか」


 そう呟きながら眼鏡を弄る学者。理由を探しているようにも見える。


「…………えーっと、もしかしてホントになかったり?」


 考えなしにやっているように見えた事、それは本当に考え無しの所業だったのか、と問うたのだが。


「……いえ。まあ、あるにはあるんですが」

「あるんだ!?」


 彼にしてみればちゃんと法則性があったようだ。逆に驚きを隠せないヒューイ。


「そのー、ですね?」

「野郎がモジモジすんな、気色悪い」


 学者に対しては何故か風当たりの強いアル。昔、学者系の人間となにかあったのだろうかと勘ぐりを入れたくなる何かがある。


「最強の魔物、というのを作りたくてですねー」

「「————なっ!?」」


 その目的はとんでもないものだった。


「ほら、魔物の頂点に魔王? というのが居るらしいじゃないですか。それを僕の手で作り出してみたいなぁ、と」


 そしてどうせなら歴代最強の魔王を。と、学者は言った。思わずノーチェのいる方角を見る二人。今の学者のセリフ聞こえてなかったよな? と二人で確認するもギリギリセーフ。彼女はゾンビをサクサクジェノサイドするのに夢中であった。聞こえていたら、ややこしい事態に発展する事請け合いだ。


「作り出した後はどうするつもりなんだ?」

「どうにもしませんよ。次の目標を定めるだけです」

「うっわ…………やっぱ典型的なマッドサイエンティストさんじゃ無いですかやだぁぁ」


 大概の事にはおおらかなヒューイすら引くレベルである。支配欲などが無いぶん余計にタチが悪いとアルは思った。


「…………何にしてもお前はここで捕縛させてもらう!」





 各所での会話の裏、テオドールとノーチェ、フェルが地道にせっせとゾンビを処理していたおかげで、ゾンビの数も残り半分という所まできていた。


「……ふむ長話に興じ過ぎましたか。こうなったら奥の手を出すしか無いようですね!」


 やたらノリノリな学者が「カモーン」と叫びつつ右手をばっと挙げると、さらなるゾンビが一体現れた。今まで相手にしていたものより一回り大きい。


「魔改造タコの研究を応用してみた一体です!」

「……それってまさか——」

「そう、傷つければ増殖しますよ!」


 くははは! と一通り笑い続けた学者は急に涙目になって呟いた。


「ぶっちゃけ処理に困っていたので諸君に倒して頂きたいのです……」

「だからテメェ無計画に何かやらかすの止めろや!!」

「知的好奇心には勝てない生き物なんですよ……人間というのはね」

「格好良い言葉で誤魔化してもダメなもんはだめだっての!」


 アルのツッコミが炸裂するが、全く反省の色が無い学者。


「では行くのです、実験体一◯ひとまるご号!」

「ウガァァァ——!」


 学者の命令に、雄叫び上げてヒューイ達に迫ってくる一◯伍号。


「なんかめっちゃやる気に溢れてるぅぅ!?」


 力も強いらしく、振り下ろした拳が床に穴を穿った。


「要は傷つけずに倒せば良いんだろ。と、いうわけでヒューイ出番だ!」

「きょーかん、なんで僕をご指名なんですかぁぁっ!?」

「お前の攻撃なら傷つけるリスクが少ない!」


 俺やエルンストじゃどうしても傷つけちまうからなと、冷静に理由を述べるアル。ちなみにローレンツは戦力外である。元々が補助的ポジションなので火力が足りないのは仕方がないといえばそれまでではあるが。


「もーどぉーにでもなぁーれぇぇー!」


 半ばヤケクソで一◯伍号に殴りかかるヒューイ。


 パキィ——ン。


 何故かヒューイの一撃を受け止めた一◯伍号の腕が、澄んだ音を立ててアッサリと砕け散った。


「——へっ?」


 あまりの呆気なさに思わず声が漏れた。


「……あ、実は見た目に反してワレモノなので注意してくださいね!」

「そういう事はもっと早くぅぅー!!」

「お前、ホントは俺らにアレを倒させる気とか無いだろ!?」


 なぜ最初のパンチで砕けなかったのか不思議なくらいの脆さである。砕けたかけらがムクムクと通常サイズのゾンビになって襲いかかってきた。一◯伍号さんももちろん健在である。しかもちゃっかり腕が再生している。


「うわーん、だれかタースーケーテー。ぞんび無限増殖とか無理ゲーぇぇ!」


 そうヒューイが叫んだ瞬間。


『——そんな君に朗報です』


 彼にしか視えない『誰か』が耳元でささやいた。その言葉が放たれると同時に、何体かのゾンビが何故か攻撃をやめて撤退をはじめる。


「——え? 助っ人に来た?」


 今、昼間なんですけどー!? え? 根性でどうにかなる? あと、暗い場所なら支障は無い? なるほどなー、ここ照明が行き届いてないですもんねー……あはは。ちなみに、あのぞんびさんたちはどこに? 墓場に帰る? あ、ソレハソーデスヨネー……。


 やり取りらしきものの最後の方になると、ヒューイの目は死んだ魚みたいになっていた。そんなやり取りをしている間にも、更に数体のゾンビが道化師の笛の音に従う事なく研究室から出て姿を消していく。


 その様を垣間見た道化師はというと——


「——ムゥ。少年がワタシよりも強力なネクロマンサーだったトハ!!」


 何か勘違いを起こしていた。まあ側から見れば、ヒューイが何らかの能力を行使してゾンビを操っているように見えなくもない。


「違うよ!? 僕の自由意志じゃないよこれ!?」


 当然、否定するヒューイ。ネクロマンサーではないのにそう思われるのはちょっといただけないので。だが、


「コウなれば、潔く負けを認めまショウ……」

「いや、だからこれ僕の技とかじゃ——」

「謙遜しなくトモ良いのデス! 真のネクロマンサーは本人が意識せずとも対象自ら動くモノ」

「無いよ! 怖すぎでしょそれ!!」


 得意分野でヒューイに負けたのが悔しいのか、クッと苦悶の表情を浮かべる道化師。部屋が若干薄暗いので軽くホラーチックだ。


「現状、最大戦力の笛吹きさんの膝を地に付かせるとは……やりますね、学生さん方!」


 笛吹きが笛を吹かなくなったからか、最大の難敵だった一◯伍号もピクリともしなくなっていた。そこへすかさず、


「…………『ちょっとだけふぁいあー』」


 やる気の無さそうな詠唱が響く。テオドールだった。彼の火炎魔術で盛大に燃え上がる一◯伍号。程なくヒューイをパニックに陥れた一◯伍号さんは分裂する事もなく消滅した。


「…………対単体、超エコ、火炎魔術」


 いつもの無表情でブイと手を出す彼は、大金星を挙げたからか微妙に嬉しそうだった。大ダコ戦の雪辱を晴らせたのも大きい。


「………………」

「………………」


 あまりにも身もふたもない突然の出来事に沈黙が落ちる。


「——さ」

「さ?」

「三十六計逃げるに如かず!」


 突如そう言うと学者は背後の壁をバンと叩いた。すると人一人が通れそうな穴が一つ。そして残りのゾンビがまた壁になるようにわらわらと集まってきた。


「悪の科学者足るもの秘密の脱出口の一つや二つは用意しているものです!」

「自分で悪って認めちゃった——!?」


 ——というか、『科学者』?


 耳慣れない単語に首をかしげるアルたち。ヒューイは逆にアル達がなぜ首をかしげるのか分からず困惑していた。


「——おっと。『こちら』では魔術師、でしたね」

「——……お前、一体何者なんだ?」


 意味深な訂正に、アルが問いかけるが——


「もちろん『悪の魔術師』ですよ。あなた達の思う通りの、ね」


 行きますよ笛吹きさん、と道化師に呼びかけつつ、颯爽と学者は逃げ出した。





「結局、逃げられちまったな……」

「悪の科学者さんなのに、お茶目でしたねー」


 お茶目な悪人って色々矛盾してますけども。と述べるヒューイ。


「——って、お前『科学者』ってのが何か解ってるのか!?」

「なんとなくー? 研究職って事くらいですけど」

「……なるほど。『中の人』由来か」


 それにしても、とアルは思う。


「お前の『中の人』ってのは何者なんだろうな?」

「いたって普通の一般庶民らしいですよ?」

「記憶、戻ったのか? 『元』のじゃなくて『中の人』のが!?」

「僕の趣味趣向を分析した結果でっす!」


 分析したのはテオ君とロー君ですけどーと、ヒューイは言うが……。


「ユーレイが見える特殊体質の武技持ちが一般庶民な地域とか、一体どんな人外魔鏡だよ……」

「いやー、人外とかむしろ殆どいない感じな気がするんですけどー」


 戦慄を覚えるアルだが真相は闇の中、だ。


「そういえば、助っ人に来ていたという幽霊はどうしたんだ……?」


 キョロキョロと辺りを見回しながらエルンストが問う。もしかしたらまだこの辺りにいるかもしれないという恐怖と戦いながら。それに対するヒューイの答えは——


「みんなホクホク顔で帰っていったよー」

「幽霊なのにホクホク顔とはどういうことなんだ……!」


 意味がわからない。それよりもっと先にする事があるのでは無いか? 例えば成仏とか成仏。




 そんなこんなで、ヒューイ班初の学外実習は幕を閉じたのだった。……不穏な空気を残したまま。




 ちなみに街の中をゾンビ達が黙々と練り歩いてパニックになったこの日以降、毎年鎮魂の祭りが行われるようになるとはヒューイ一行にはあずかり知らぬところである。




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