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性悪貴族?なにそれおいしいの?  作者: ぽて
ドキドキワクワク学外研修編

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26/45

10 犯人はコイツだ!



「…………あの、いまなんて?」


 ヒューイは恐る恐るエトガルに聞き返した。先ほど聞いた単語が間違いでありますように、と願いながら。


「材料の在庫がね、残り少ないんだ」


 ——だから個数限定販売。おひとり様一個限り。


 願いもむなしく響き渡る容赦の無い通告。レシピ提供者であっても慈悲はない。その辺りエトガルは公正な人物だった。


「——のおぉぉぉっ!? なんで!? どして!?」

「それがね、イシュトから来るはずの荷物が魔物に襲われたとかで」


 エトガル菓子店で今、一番人気のおはぎは、その材料の大半が輸入品である。なので、当然といえは当然のごとく貿易都市イシュト経由での入荷になるのだ。その荷物が、王都へ届く前に魔物襲撃で散逸したとかなんとか。回収は絶望的らしいので、次の入荷まで待たねばならないとも。


「魔物というと……ぞんびとか?」


 最近、王都近辺で猛威を振るっているゾンビパニックがこんな所にまで影響を……? と、思いきや。


「ゾンビ? いや、正確には積み荷を積んだ船だから、それは無いかな」

「大ダコぉぉ!?」


 まさかのニアミス。先日、大ダコに沈められた船の中に東方のものが含まれていたらしい。


「僕らがもっと早くあの大タコを討伐してたらぁぁ……!!」


 おはぎが数量限定になることは無かったのに——!


 ヒューイは地面に膝をついて後悔に打ちひしがれた。あの時、アイツが暴れていなければ……! いや、もっと早くアイツの存在に気付いていれば!!


「……実はヒューイくんにはもう一つ残念なお知らせをしなくちゃならないんだ」

「え、こんな状態の僕に追い打ちかけちゃうんですか!?」

「むしろ、ヒューイくんだからこそ、かなぁ」

「鬼畜! エトガルさんの鬼畜ぅぅ!」

「実は東方の人にツテが出来てね——」

「あーあー、きーきーたーくーなーいー」


 よほど話したかったのだろう。エトガルはヒューイの抵抗など無視して話し続けた。彼はお菓子の事となるとテンションの浮き沈みがはげしいのだ。


「新作が——」

「エトガルさんのおにちくー——……新作?」

「そう、新作が完成したんだよ!」

「喜ばしい報告じゃないですか!」


 それがそうでもないんだと、エトガルの表情が曇った。


「例によって例のごとく、材料が足りないんだよね……」

「おーおーだーこぉぉぉ!」


 食材になる前の魔物には厳しいヒューイ。ちなみに大ダコのドロップだったタコ足は麻薬以上の中毒性がある可能性が高いと判断されたため、即座に封印処置が施されて研究所送りになった。つまり食べた者はいない。楽しみにしていたのに食べられなかった恨みもあり、憎しみは倍増していた。


「さっきからタコタコ言ってるけど、何かあったのかい?」

「聞いてくれます!? 実は——」





「いま帰ったのニャー」

「ごくろーさまー……」

「元気が無いようだが、どうしたのだ?」


 うにゅにゅーっと力無く机に突っ伏すヒューイにノーチェが問い返すが答えは無い。


「…………おはぎ、数量制限」

「——なん、だと……!?」

「………………新作和すいーつ、延期」

「にゃんですとぉぉ!?」


 しょんぼりとしたテオドールの言葉で状況を把握したノーチェは、ヒューイと同じように力無く崩れ落ちたのだった。


「おっ、ノーチェ。帰ってきたか——って帰って早々、何があったんだよ?」


 ノーチェの声を聞きつけ部屋に入って来たアルは、死屍累々の様に驚きの声をあげた。


「ヒューイさん達にとっての一大事っすよ」

「そうか。なら、問題は無いな」


 ローレンツの言葉に大事ないと即座に切って捨てる。彼らの大事は他人にとっての小事であることがほとんどである。

 ——だが。ガタンとひときわ大きな音が響いた。先ほどまで口からエクトプラズムを出していたヒューイが正気を取り戻したのだ。


「大有りですよ、問題!! おはぎがお腹いっぱい食べられないんですよ!?」

「ぶっちゃけ心底どうでもいい」

「おはぎだぞ!? あのほっとひと息に最適なお茶のお供が数量制限なのだぞ!?」

「猫舌に茶は熱すぎるとかこないだ言ってたヤツが、お茶のお供とか言ってもなあ……」


 ヒューイとノーチェに詰め寄られても全く動じないアル。嗜好品に関する事柄で緊急性が無いので、対応もぞんざいだ。


「しかも新作和スイーツが延期!」

「……む。それはちょっと興味ある」


 新作という単語にピクリ、と反応するアル。実はハインツにご馳走になって以来、地味に和菓子ファンになっていたのだ。さすがにおはぎには飽きが来ていたが、新作とあらば多少は気になるものである。


「でしょ? でも延期なんですよ!」


 きょーかんは早く食べたいとは思わないんですか! とまくし立てるヒューイ。


「延期なら仕方ないだろ。で、それは置いておいて——ノーチェ、成果は?」

「……新作」

「お前もかよ! ……あー、いや、わかってた。わかってたけどな?」


 落ち込む前に成果を教えて欲しいなぁとアルは頭を抱えた。





 王都から少々離れた森の中にポツンと建つ山小屋。ノーチェによればここに犯人は潜伏しているという。建物の大きさと被害の大きさが見合わないように思えるのだが、山小屋はカモフラージュで地下深くに研究施設があるかららしい。


「うーん。まさに秘密基地って感じ」


 今回は正義じゃなくて悪の方っぽいけど、とヒューイ。


「まあ、偏見で見てやるな。……つっても今回はことがことだけにデリケートな問題だからなぁ」


 ネクロマンサーにも良いのはいるんだ。悪そうな見掛けの奴が多いが、とアルがフォローをいれる。扱うモノがモノなので必然的に人種が偏る傾向にあるのは仕方がないとも。


「墓場の人達的には、今回のは悪の魔術師確定らしいですよー……」

「被害者? がそう言っておるなら、もうそれは悪の魔術師で決定なのではないか?」

「被害者が幽霊じゃ、被害届けも出せないけどな」


 まあこの時期に墓場荒らしをしている時点で、このところ王都付近で起こっているゾンビ増殖騒動と無関係ではあるまい。生者の被害も少なからず出ている。ならば悪の魔術師というのもあながち間違ってはいない。


「傍目には何の変哲も無い小屋っすけどねー」

「上は全然面白く無いが、地下とかやばいくらい凄いぞ」


 家には人の気配が無かったので、コッソリと侵入する。鍵はかかっていなかった。


 中に入ると至って普通の生活空間だった。入口の対面にキッチン、中央には机が置いてあり、僅かだか生活感も感じられる。奥にはおそらく寝室に繋がっているだろうドア。

 そんな小屋の中を一通り見て回ったのだが……誰もいない。そして地下への入口も見当たらない。


「あの、ノーチェさん。地下への入口が見当たらないんですが……?」

「それならここニャ。テーブルの下」


 困り果てたアステルに、トントンと床板を叩いて場所を示すノーチェ。いつもお菓子を与えられているからか、アステルにはかなり甘い。そして彼女か叩いた床から返ってくる音は軽い。下に空洞があるのは確実だった。


 どうやら家主は、多少は世間に顔向けできない自覚があるのか、地下への入口は隠し階段であった。長い階段を降りていくと、短い通路があり突き当たりにはドアが一つ。


 物音をたてないように慎重に近づき中の様子を探ると——


「うーん。もうそろそろこの実験も潮時かもしれませんねぇ……」

「というコトは、ワタシとの同盟も解消デスカ?」

「まさか! 笛吹きさんとは末長くお取引したいと思っていますよ」


 ドアの向こう側からは、いかにもな会話が聞こえて来た。片方は勤勉そうな男の声。もう片方は独特なイントネーションの、やはり男の声。


「……なんかあからさまにソレっぽい会話してますねー」

「俺たちのタイミングが良すぎたのか……侵入が察知されてて遊ばれてるのか微妙な所だな、これは」


 だが今から新たに証拠集めするよりも、自白証言を狙えそうではある。察知されているならいるで他にやりよう——強制捜査の執行や武力行使——もあることではあるし。


 そうして更に耳を澄ませる一同。


「——笛吹きさんなら、ゾンビ以外も操れるのでしょう?」

「まぁ自我の弱いモノなら、大抵行けますけどネ」

「なら、次はスライムでもためしてみます? あれには無限の可能性があると思うんですよ!」

「……ワタシ、一応ネクロマンサーなんデスけど」


 そこからは話が逸れていき、証拠となりそうな会話も期待できなくなった。だが、ここが墓場荒らしの本拠である事は疑いようも無い。なので——


「王都騎士団代理、学生構成班の捜査だ! 大人しく指示に従え!」


 部屋に突入したアルが口上を述べる。


 開いたドアの向こう——研究室のような広大な部屋——には二人の男がいた。眼鏡をかけ白衣を纏った研究者のような優男と、道化師のような化粧と格好をした人物。


 皆、ピンときた。


「「「「「「——学者風の男!!」」」」」」


 イシュトで聞いた謎の触手生物を放流したという『学者風の男』と、目の前の優男の印象が重なる。


「突然何なんですかあなた達! というか、あなた方とは初対面のはずですが……?」

「——お前、イシュトで触手生物を破棄しなかったか?」

「触手生物……?」


 エルンストの問いに優男は首を傾げた。心当たりは無い様子。イシュトの生態系テロ犯とは無関係なのだろうか? だが、こんな特殊事例に関わる学者風の男が何人も国内に潜伏しているとは考えたくない。


 ヒューイの脳裏に、ある考えが閃いた。


「あの、お兄さん?」

「何かな?」

「そのー……一年くらい前にイシュトで、魔改造したタコを捨てたりとかしませんでした?」


 しばらくの沈黙。


「——あぁ、アレか!」

「「「「「「こいつが犯人だーー!!」」」」」」


 犯行を認めた犯人に再び皆の心は一つになった。


「犯人とはなんですか。失礼ですね、君たち」


 ヒューイ達の咆哮でズレた眼鏡の位置を直しながら、犯人もとい学者風の男は憤慨したのだが、犯行が明らかな証拠(自白証言)があるため誰一人納得するはずもなく。


「失礼な訳あるか! 貴様のせいでイシュトは危機に陥ったんだぞ!」

「近海の生態系も破壊されかけたしのう……」

「中毒患者さんも続出してます!」

「テメーのせいで俺は連日寝不足なんだよコラァ!」

「今度は墓場荒らしと組んで何やらかす気っすか!?」

「僕の和スイーツライフ返せー!! ……あー、あと墓場の皆さん激おこなんですけどー」

「…………ゾンビ量産、勘弁」


 正義感あふれる若者に混じって、私怨をぶちまける大人げ無い大人と子どもが約一名ずつ。ヒューイのセリフで初めて事態に気付いたノーチェが「ほほう……コイツのせいか」と呟きながら爪を研ぎ始める始末だ。


「タコに関しては、処理に困った実験体を破棄しただけなんですが……」

「そもそも実験体を無許可で放流すんなや! あと最近、異常発生してるゾンビもあんたの仕業だな?」

「ゾンビに関しては……笛吹きさんが際限なく連れて来るから、実験後の検体を管理できなくなっただけですー」

「エェッ? ワタシのせいデスカ!?」


 そっぽを向いて「僕、悪くないしー」と口を尖らせる学者。そして突然矛先を向けられて目を白黒させる道化師。


「だから、ちゃんと許可を取ればそんな事にはならねぇんだよ!!」


 許可を取れば、国がちゃんとマネジメントしてくれる人材を寄越してくれるのだ。研究者には身の回りに頓着しない者が多いので。


「……と、言われましても。何処に許可を取れば?」

「そこは街の騎士団とかにだな」

「そういえば生体を使った魔術実験には許可が要るのではなかったかの?」


 フェルの指摘にアルはハッとなった。


「テメー、はぐれか!!」

「騎士団が、はあくしてない時点で、どう考えてもはぐれマッドさんですがー」

「ふむ、バレてしまいましたか……」

「バレないと思ってたことが驚きだよ!!」


 ヒューイのマッド発言を軽く流した学者にアルのツッコミが炸裂する。


「何にせよ……たっぷり余罪もありそうだし、とりあえず王都の詰め所まで来てもらおうか!」


 イシュトのタコといい、今回の墓場荒らしといいロクな事をしていない。オマケに人目を避けるように建てられたこの研究施設。叩けばいくらでも埃が出てきそうである。


「拒否権は……なさそうですね」

「当たり前だろう! イシュトと今回のゾンビ騒動でどれだけ被害が出たと思っている?」


 威嚇の意味も込めて剣の柄に手をかけるエルンスト。他の面々も武器を構える。


「ならば実力(物量)で切り抜けるとしましょうか! 笛吹きさん、やりますよ!」


 バサリと白衣をひるがえす学者。眼鏡がキラリと光り、その表情を隠した。笛吹きと呼ばれた道化師も、名の通りの笛を構える。


「——って、いま何かニュアンスがおかしかったぁ!?」


 ヒューイの叫びを合図に決戦の火蓋は落とされた。






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