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性悪貴族?なにそれおいしいの?  作者: ぽて
ドキドキワクワク学外研修編

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7 イシュト騎士団長の見た目が海賊だった件



「よく来たな、小童ども!」


 勢いよく口を開いたのは、褐色の筋肉ダルマこと筋骨隆々で頭にはバンダナを巻いた、一見海賊と言われた方が納得してしまう出で立ちの男。スマートが服を着ているような人物であった王都のハインツとは大違いだ。


「俺ぁ、この詰所を預かる団長のセヴェーロだ。この街は王都と違ってあまりお上品じゃあないが、やる事は変わらん。よろしく頼むぞ」


 ちなみに昨日対応してくれたのはセヴェーロの副官だった。日程的に都合が悪く、本日が初の顔合わせだった訳だがインパクトが違う。しかし言い渡された役目は王都と同じ。やはり街の見回りだった。


「あと触手生物の件についてはアルフレッドから報告を受けてっから、ついでに調べてみるといいだろうよ」


 好きにしろというセヴェーロのお墨付きを頂いた。だが彼の太っ腹な振る舞いではなく他の事実に皆は驚いた。


「「「「「「——き、教官の仕事が早いだってー!?」」」」」」

「どういう意味だ! 俺だってやる時はやるんだよ!!」

「いえ、こういう言い方をするのは大変失礼だって思うんですけど……教官って怠け者のイメージがあると言いますか」


 吠えるアル。アステルが皆の意見をそこそこ控え目に伝えたのだが……。


「やるべき事はちゃんとやっとるわ!」

「きょーかんって昼寝ばっかりしてるから、ぶっちゃけ仕事サボって溜めまくってるかと思ってました」

「……あのなぁ、最低限は片付けねーとお前らの実習が出来ねえだろうが」


 自分に降りかかってくるならともかく、他人に迷惑をかける真似はしないとアルは言う。


「つまり優先度の低い仕事は溜めまくっているという事だな」

「らしいといえば教官らしいんじゃが……いつか痛い目を見てもワシらにはどうにもできんぞ?」


 エルンストとフェルが呆れ顔の呟きに、肝心のアルは「そんなヘマはしねえよ」と自信満々に答えた。だが生徒たちの視線から疑いが消えることは無かった。後で後悔しながら、泣く泣く書類を処理するアルの姿が容易に想像出来たからだ。


 そのやり取りを見ていたセヴェーロが、クックックと笑いを漏らした。


「ほう? 中々に愛されてるじゃねぇか、アル坊」


 言いつつ、アルの頭を乱暴に撫で回す。


「坊主扱いは止めろやクソジジイ!」


 セヴェーロの手を乱暴に払い退けるアルの顔は、恥ずかしさで赤くなっている。あと数年で三十路だというのにこの扱いは無い。その後もやいのやいのと言い合う二人を見て、ヒューイは首をかしげた。


「なんか仲良さげですけど、セヴェーロさんはきょーかんと前からお知り合いなんですか?」


 彼の疑問ももっともだった。初対面にしては、二人の距離感は近すぎる。


「コイツが騎士学校の教官になる前にちょいとばかりな」

「あれのどこが『ちょいとばかり』なんだよ!? ……腐れ縁ってやつだ!」


 どうやら深い事情があるらしい。


「それにしても……」


 ヒューイをまじまじと見るセヴェーロ。その顔には僅かの困惑があった。


「? 僕がどうかしましたか?」

「いやさ、お前さん本当にあの(・・)ユストゥスの末っ子なのか、と思ってなぁ……生活態度が一変したっつーのは聞いてたんだが、ここまでたぁなぁ……」

「みんな言いますよねー、それ。もしかして……会ったことがおありで?」

「いや、会ったというよりは以前にちょいと見かけたっつーレベルなんだが……」


 彼が言うには、数年前に行われたパーティーでヒューイを見かけたとの事。その頃には、すでに『暴君』は完成していたらしい。


「え? セヴェーロさんって貴族なんですか!?」


 反射で驚いたアステルが慌てて口をつぐむが時遅し。かなり失礼な態度ではあったが、セヴェーロ自身思い至るところがあるのだろう。苦笑いで済ませて言った。


「おうよ嬢ちゃん。こんなナリしてるが一応は団を預かる立場。当然、最低限の身分は必要になるってぇ訳さ」


 それほど位は高くないがと謙遜するものの——


「でもパーティーで僕を見かけたって事は、セヴェーロさんソコソコ良い家柄なのでは?」


 以前に貴族の話を聞いた後に、貴族についてテオドールを質問攻めにしてみたのだ。貴族には何か決まり的なものがあると聞いた事がある気がしたので。そうしたら、貴族は基本的に同格かそれに近い位の者と付き合うのが一般的だとか。つまりパーティーでヒューイを見かけたという事は、そういう事なのだ。


「ま、運良くいい家に生まれたってぇだけさ。今はこの通り」


 そう言って、初見では貴族に見えない自覚があるのか自分を指差す。まぁ、とはいえ不満なんぞないがとセヴェーロは笑った。


「じゃ、まあ話は長くなっちまったが後は頼まぁな」



 そしてヒューイ達は街へと繰り出した。





 情報収集は難航した。なにせ名物とはいえ、名前からして『謎の触手生物』で通っているのだ。詳細を詳しく知る者など、そうそう居ない。居たらそもそも『謎』という文言は外れているはずである。


 それでも分かった事は僅かながらあった。通常の漁で収穫できるのは小振りの物が殆どだという事。あと時たま一際大きな個体が獲れるのだが、とても美味で病みつきになるとの事。ただし一般人では相手取るのが難しいため、脅威度がDに設定されている。イシュトの漁師は火急の際には徴兵される事も多く、力自慢も多いので普通に収穫してしまうらしいが……。それが問題を大きくしていた。危険な物と比較的危険でない物が、混ざったまま流通してしまうのだ。


 その辺りで最初にあの生物と接触したのは漁師だと気付いた。なので片っ端から声をかけた結果——「そういえば」と、何か思い出したらしい漁師は言った。


「触手野郎の被害が公になる前に、アレ持って歩いてたモヤシがいたな……」


 モヤシ? と、一同が首をかしげる。


「おう。学者風の優男がな、何が楽しいのかニヤニヤとした顔でこの辺を歩いてやがったんだ」


 今思えばその時まで、もう見慣れてしまったあの触手生物を見た覚えは無かったとも漁師は証言した。


「教官、これは……もうクロでいいのでは?」

「放流したペットで生態系破壊テロか……頭おかしいにも程があるな、学者風の男」


 エルンストの言葉に頷くアル。由来不明の怪生物を『ニヤニヤ』しつつ持ち運んでいた——それも大発生以前に——という時点で人為的な事件の容疑者確定である。


「学者さん、ですか? 頭の良すぎる人が考える事って私たちには想像もつかないです……」


 動機がいまいち想像つかず困惑するアステル。


「美味しい食材を大量に提供してくれたのはともかく、あの中毒性は問題だよねー」

「…………中毒、だめ、絶対」


 論点はおかしいがヒューイとテオドールも現状が問題であるという認識はあるようだった。


「……お前らほんとブレないよな」


 アルが呆れたように呟いた。この二人、食べ物が関わると一足飛びに常識を忘れるので。


「美味しいものは美味しいので」

「……同感」


 中毒性さえ無ければ残す事に異存はないのだけどなあ……と、二人は言う。


「こうなったら、その学者の人に研究でもしてもらう? 無害で美味しい謎の触手生物の研究」

「…………ないすアイデア」

「そもそもその中毒性がおかしいと思うんじゃが?」

「うん?」

「そもそも生態系を破壊するためだけなら分裂能力だけで事足りる筈じゃろう。何故あんな、食わない限り発動しない特性がいる?」


 皆が押し黙る。フェルの疑問に答えられるとしたら、件の学者風の男だけだ。


「……とりあえず今後は、その学者風の男についての情報を集める事にしよう」


 エルンストの一声でまた情報収集兼見廻りが再開した。





 だが、それからは有力な情報が出ることは無かった。学者風の男の足取りも途絶え、二日目にして捜査は早くも暗礁に乗り上げてしまったのだ。


「じゃあ、今日の予定発表と行くかぁ! ——って。オイオイ、お前ら表情が暗いぞ?」

「気にすんなやクソジジイ。単に手掛かりが途絶えただけだからな……」


 アルの声も心なしか張りがない。


「——ま、そうだろうなぁ」

「…………ジジイ、テメェ分かってて許可出しやがったのか?」

「流石に中毒症状に関しちゃ掴んじゃいなかったが、外来種に生態系を崩されたとなりゃあ多少の捜査はするさな」


 一応無駄では無かったという慰めは含まれていたが、アルは納得いかない。


「……で、学生の実地課題としちゃ丁度いい、と送り出した訳かよ」

「そういうこった」


 一度正規の兵が捜査している事項なので、捜査自体に危険が無い事は織り込み済みである。どこまで捜査が進んだかで練度がわかるし、経験になる。新たな事実が判明すれば、それはそれで学生たちの実績や自信に繋がる。一石二鳥の実習というわけだ。


「じゃあ、改めて。今日の予定の確認だ!」


 そんなこんなで今日もまた、見廻り前の打ち合わせをセヴェーロとしていたヒューイたちだったのだが——


「——お頭ァ、大変でさあ!!」


 部屋に慌てた様子の兵士(?)が飛び込んできた。一応正規の騎士用制服を着ているのだが、言動がおかしい。


「お頭じゃねェ! 団長と呼べといつも言っとるだろうがァァ!!」


 セヴェーロに投げられてドガッと吹っ飛ぶ兵士(?)その1と、それをごくごく自然に避ける兵士(?)その2&その3。日常的に行われていると思われる流れるような動きに絶句した一同。明らかに手慣れている。一瞬、ここは本当に王国騎士団の詰め所なのかと、確認のため表に走り出しそうになる——


「………………」


 ——のを、何とか堪えきった。


「——おお、すまんな小童ども。ウチの奴等ときたら癖が抜けきらねぇのばかりでなぁ……」


 『一体何の癖なんですか?』とは聞けない空気が漂っている。まさか『か』のつく自由業の方々を引き抜いていたりするのか? 『そんな馬鹿な』とは断言できないくらいには自然な言動だった。昨日は運良く(?)見ることの無かった光景だった。


「——で、今度は一体何がありやがった?」


 部下のただならぬ空気を読んでか、唐突に態度を切り替え問うセヴェーロ。


「それが馬鹿でかい触手野郎が出たんでさぁ!」

「はぁ?」

「しかも大分興奮してるみてぇで、通りかかる船に片っ端から襲いかかってるってぇ有り様で……」


 このままだとイシュトへ入港する船の全滅もあり得るという部下たち。


「ふむ、そうと来りゃあウチの出番だな。掃討の準備だ野郎ども!!」

「おう!!」

「小童共も来い。船上戦闘なんざ滅多に体験出来んからなぁ!」


 海兵になるならば別だがと、セヴェーロはガハハと笑った。




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