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性悪貴族?なにそれおいしいの?  作者: ぽて
ドキドキワクワク学外研修編

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20/45

閑話 妖精女王



 パチパチと日の爆ぜる音が響く。


「……ひま」


 騎士学校から王都への道行ではあれだけ出てきていたゾンビもパタリと途絶え、他の魔物どころか野生動物の気配すらも無い。ヒューイは暇を持て余していた。


「ヒューイさん、お疲れ様です」


 そこにやって来たのはアステルだ。手には湯気を上げる二つのカップを持っている。彼女はヒューイのそばまで来ると、片方のカップを差し出した。受け取ったカップからは甘いカカオの香りが立ち昇っている。


「ココア?」

「はい、どうぞ。今夜はちょっと肌寒いですから」


 手渡されたカップを両手で受け取り、彼女へ隣に座るよう促す。


「アステルちゃんと二人っきりって、なんだか不思議な感じだねぇ」


 ふーふーと熱いココアに息を吹きかけ冷ましつつ、ふと浮かんだ事を口に出すヒューイ。

 お菓子関連ではたいがいノーチェかテオドールが一緒だし、それ以外で絡むことは意外と少ない二人である。その点で彼女も同意する。


「……あ、ところで不思議といえば、ヒューイさんは知ってます? 妖精女王シリーズ」


 ようせいじょおうしりーず?

 唐突な話題転換にオウムのように聞き返すヒューイ。「やっぱり知りませんよね」とアステルは苦笑い。


「アナベル・へーレンっていう女性作家の童話なんですけど、この世界の何処かにある妖精郷に住んでる女王様のお話なんですよ」


「よーせいのじょおうさま……?」


 ヒューイの脳裏に浮かんだのは、何故か仮面を被り、赤や黒の配色されたゴッスーでロッリーなドレスを着て扇子で口元を隠し「オホホホホ」と笑う貴婦人の姿だった。非常に鞭とか何かが似合いそうなビジュアル。ヒューイ自身は妖精何某を知らないので、それが正解かどうかは不明だが。


「お話自体は女王様が女王様になる前のエピソードなんですけどね」

「ほうほう。つまりどんだけ妖精女王がヤバイか伝える伝記って訳だね!」

「違いますよ! どうしてそんな結論に!?」


 わたし童話って言ったじゃないですかー!


 ぽこぽこと攻撃力皆無な連続攻撃を繰り出すメディックさん、涙目である。その様はちょっと可愛らしくて、なんだかとても申し訳なくなってくる。


「いや、そのね。女王様って言うくらいだから、思わずSでM的な方向で想像しちゃったっていうかー……」

「童話って言ってるのにぃ……」


 涙声のメディックさんを見ていたら、流石にヒューイのぽんこつな頭でも「女の子を泣かせたまま放置というのは男子としてどうだろう?」という考えがよぎった。こういう時はどうすれば−−?


「ど、どういうオハナシなのか聞きたいなー?」


 とりあえず、詳しく話を聞いてみる事にした。内容も聞かずに否定、よくない。


「そうですよね、聞きたいですよね!?」


 ヒューイが興味を示した途端に食い付くアステル。よほど同志が欲しかったらしい。





 アステルの話すところによれば『妖精女王』シリーズとは−−


 女王がまだ一介の名も無き妖精であった頃に、異界を放浪していた最中出逢った少年と少女との友情物語なのだそうだ。


『その異界では妖精の姿が見える人間は極端に少なく、友人も居なかった女王は日々暇を持て余していた』


「……それ女王様、ただのコミュ障ぼっちだったって事なんでは……?」


 冒頭のあらすじを語ったアステルへ、ヒューイの鋭いツッコミが炸裂した。勢いで「そんな事は」と反論しかけた彼女だったが……。


「言われてみればそう、かも……?」


 納得しかけて彼女は首を振る。きっと女王は孤高の人なのだと自分に言い聞かせる。だってそうじゃないと、今までこの物語に夢見てきた時間が泡と消える。というか今後、純粋な心で読めなくなってしまう。


『ある日、女王は自分の姿が見える少年と出会いました。二人はすぐに意気投合して友人になりました。それからというもの二人はずっと一緒にいます』


「……それ、単に男の子が付きまとわれてただけなんじゃ?」


 妖精さんが意気投合したと思い込んでただけで……と、続けたヒューイ。


「もうっ、ヒューイさんは妖精女王に何か恨みでもあるんですか!?」

「いやね、なんかどっかで聞いた事あるなーって気がしてね? 思わず即答しちゃうってゆーかね?」


 否定されすぎてか気分を害され不機嫌になってきたアステルに、「続き、続きをっ!」と、煙に巻く作戦に出たヒューイ。


 だが、それは完全に失敗だった。


 彼は知らない。その後も意図せずしてアステルの話にダメ出しをし続けるハメになる事に。





 −−一方、某所。


「アナちゃん、いらっしゃーい!」

「ご招待いただきありがとうございます、女王様」


 桜色の長い髪をツインテールにして花飾りで留めた十四、五歳ほどの翠の目をした少女と、茶色の髪を後ろで団子にして留めたドレス姿の若い女性が笑顔で挨拶を交わしていた。


「アナちゃん最近調子はどんな感じー?」

「うふふ。女王様のおかげで色々楽しく過ごさせて頂いております」


 無邪気な少女−−女王−−の問いに、女性−−アナ−−は朗らかに答える。傍目には親子くらいの歳の差があるように見受けられ微笑ましく見えるが、実際の年齢は真逆だ。


 いつも二人でお茶を楽しむテラスへと向かいながら、アナは「そういえば……」と、手に提げていたバッグを指差した。


「今日のおやつはちょっと風変わりなんですよ」

「へえー。何かなっ、何かなっ?」


 彼女のセンスには十全の信頼を置いている女王は、それが何なのかあまりにも楽しみではしゃぎだす。お菓子の時間は、長い時を生きてきた女王にとっても至福の時なのだ。


「最近、王都で評判になっている東方のお菓子なんだとか」


 見た目はちょっと地味なのですけどね、とアナは少し苦笑い。


「東方……地味。それって和スイーツ!?」

「あら、ご存知でしたの?」


 アナが取り出したのは、楕円形のあずき色をした物体だった。今まで焼き菓子かケーキというラインナップだった事を考えると異端としか言い様のない何か。ただ、女王はそれに見覚えがあった。


「うぇぇぇっ、ホントに和菓子だ! しかも、おはぎ!」


 そこで女王は「あれ?」と、首を傾げた。


「どうかなさいました?」


 アナが心配そうに女王の顔を覗き込んだ。


「うーん。東方には何回か行ったけど……あそこでおはぎなんて見た事無いなぁって」


 むしろ、それよりももっと−−


 言い掛けて女王は口を噤んだ。アナが居る今、これ以上はいけないと自重したのだ。冒険家の彼女が『その場所』を知ったら、絶対に向かおうとするだろうから。そうしたらおやつが定期的に食べられなくなる。女王は自分の欲に忠実だった。


「いやいや、私の勘違いだったよー。東方のお菓子だよ、これは!」

「……あの、いま明らかに何かを誤魔化しましたよね?」

「ソンナコトナイヨー。ワタシ、ウソツカナイ」

「そうですか」


 女王の態度は明らかに黒だったが、アナはあえてスルーした。時間ならいくらでもあるのだ。追求は後にしたって問題は無い。


「では今日もお話、聞かせてくださいな」

「うんっ。……さぁて、どの話がいいかなぁ−−」


 そうして今日もお茶会という名の取材がはじまるのだった。



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