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性悪貴族?なにそれおいしいの?  作者: ぽて
ドキドキワクワク学外研修編

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17/45

3 王都にはイロイロあるんだよ!



「−−ようこそ王都商業区詰め所へ!」


 やけに爽やかな挨拶で迎えられた一行。今日からお世話になる研修先である、商業区に建てられた詰め所の一室での事だった。今回はだいたい七日ほどここで寝泊まりし、兵士としての仕事を体験する事になっている。


「私は今回、君達を担当をさせてもらうハインツ・ゲプハルトという。よろしく」


 軽装に身を包んだ若者と言っても良い年かさの青年が名乗り出た。


「ハインツ殿。今回は急な受け入れを許可頂きありがとうございます」


 アルが代表でハインツと挨拶を交わす。


「……いえ、未来の後輩達のためでもありますし、こちらも割と人手不足ですので助かります」

「まあ、未熟なやつらですがこき使ってやってください」


「ちょ、きょーかん。いまサラッと末恐ろしいこと言いましたよね!?」


 ヒューイの叫びと同時にアルへ「あんたは働かないのかよ!?」と、問い詰める視線が複数突き刺さったが彼はどこ吹く風だ。伊達に年単位で不良教官していない。


「俺は例の件の報告があるからな。たぶん最初の数日はそっちに掛かりっきりだ」


 悪いなと、悪びれなく皆に告げるアル。別にサボる訳じゃなくて仕事するんだからいいだろ? とも言いたげであった。


「それじゃ俺はもう行くから、後はハインツ殿の指示に従うこと!」


 そう言うとアルは部屋を出て行った。


「では、改めてこの実習地での実習内容の説明をさせてもらおう」


 とは言え、改めて説明するほどの内容では無いが……と前置きするハインツ。


「これから七日間。君たちには街の見回りや、細かな雑用などをしてもらう事になる」


 具体的な事は当日の朝に連絡事項として伝えるとのことだった。


「そして本日の仕事なのだが……君達だけで見回りコースの下見をしてもらう」

「下見、ですか。ですが俺たちは−−」


 エルンストが戸惑いがちに尋ねた。コースが決まっているのなら、わざわざ下見する必要は無いように思えたのだ。


「−−ああ、それに関しては……実習生が王都出身者とは限らないのでね。一日目は土地勘を掴む為にも自由行動日にしているんだ」


 他にも移動で疲労している場合も考え、休息日の代わりとしての意味合いもあるのだとか。


「ちなみに今日の食事だが、各々好きな店で食べるか自炊するかのどちらかになる。安く済ませたいのなら詰め所の隣の食堂だな」

「今日は……という事は、明日からは違うという事でしょーか?」


 食事には人一倍こだわりのあるヒューイが不安そうに問いかける。


「明日から、朝は基本的に詰め所内の食堂での食事。ちなみに当番制だ」


 昼食や夕食に関しては、各々の仕事上がりの時間がバラバラな関係上、外の店で取ったり前日に手配した弁当を食べたりするとの事だった。時間がある者は自炊するらしい。


「朝食の当番に関しては、予定表を作っているのであとで渡すとしよう」





「見回りコースの下見かー……楽しみだなぁ」

「下見って言っても商業区ですけど……。そんなに楽しみなんですか?」


 弾んだ声で呟くヒューイに、アステルが疑問の声をあげる。ノーチェ以外は王都に実家があるし、先立っては長期休暇で帰省していたので、商業区という立地上、来る機会は何度でもあったと思われたからだ。


「うん、とても楽しみです」



「ヒューイさん、こないだの長期休暇の間に街を回ったりはしなかったんすか?」

「休みの間いっぱい屋敷にカンヅメでしたがそれがなにか……?」


 問われたヒューイの目線が遠い所を見ていた。一緒だったはずのノーチェには異常は無い。


「それ、軟禁されてたんじゃあ……」

「外には出られなかったけど、不自由はしなかったという不思議な現象がありました」


 それは『外出』以外の大概の要望が叶う環境下だった。


「あれが食べたいナーって呟いたら晩ご飯に出てきたり、美味しいおやつ食べたいなーって言ったらすぐに出てくる天国のような場所でした。まる」

「あそこはワガハイにも至れり尽くせりだったニャ」


 長期休暇中のノーチェに関しては、一応ヒューイの使い魔という事で、彼と一緒にユストゥス家へと逗留する事で落ち着いていた。……のだが、彼女に関してはノーマークだったようで、偶に姿を消す事があった。なお外で何をしていたかは不明だ。


「そいつはそんなでも一応、高位貴族の実子だからな。おかしな事ではない」


 エルンストが訳知り顏で口に出した。ここ最近の素行から忘れがちだがヒューイは、生活に必要な物の買い出しなどは使用人がするし、それ以外で何か欲しい物があるなら商人の方が出向くレベルの貴族なのだ。

 そんな事情を説明しつつも、「俺とて商業区は特別な理由でもない限り足を運ぶ事はないが……」と彼は付け足した。エルンストの実家−−ライン家−−も一応は上流貴族の一派である。この面子の中で彼はヒューイに次いで高い身分なのだ。


「はぁー、下手に身分の高いヒトは大変っすねー。ウチは貧乏貴族っすから気楽なモンっすよ」

「ワシも正室の嫡子ではないから、その点は気楽じゃな」


 エルンストとは対照的に、ソコソコ普通なお陰で自由に生きてますと言外に宣言するローレンツとフェル。


「…………俺も、気楽」

「テオドールの家はかなりの名門だった気がするんじゃが……?」

「…………家。身分の枠、では、測りきれない」


 テオドールの実家は普通の貴族の家とは違うと言いたいようだ。実際、彼の家は高位の魔術師を輩出する家柄なのだが、身分よりも魔術に夢中な変わり者が多い家系なので色々とフリーダムである。変人が多いとも言えるが。


「貴族の方も色々と大変なんですねぇ……」


 雲の上の人間は大変なんだなあといった程でアステルが呟いた。てっきり、高級店の並ぶ高級街などは高位貴族でも来ていたりするんじゃないかと思っていたので。


「それじゃあヒューイさんは、ある意味初めての商業区デビューなんですね!」

「まー、記憶喪失後は初めてだから間違ってないんだけど……アステルちゃんてば少し大げさじゃないかな?」


「そういえば今回のコース見てみたんすけど、高級街と下町が程よくミックスされてるんすよねぇ……」


 過半数が貴族で構成された見習い班に、平民が多くたむろする区画への見回りもシレッと混ぜ込むあたり、このコースをセッティングしたハインツさん地味ーに教官向きなのでは? とはローレンツの弁。


「あ、それ隠れた名店ふらぐだねっ。下町とかそういうの多そうだし!」

「お前の興味はやはりそっちか」


 ヒューイ安定の反応に、これまたやはりエルンストが呆れ返る。こいつは何故こうも食べ物に関連付けるのが好きなのかと。


「だってさー、高くておいしいのは当たり前だけど、安くておいしいのは凄いじゃん?」

「言いたい事は分からんでも無いが、これは任務だからな!? あくまでも土地勘を掴むための下見であって、食事処の調査などでは無いぞ!?」


 真面目なエルンストに、ヒューイが不満そうな声をあげるが、更に念を押されてしまった。しかし−−


「土地勘を掴むには、目印になる建物を覚えるのが早道だと思うんだよね」

「……確かに、道理だな」

「でもって、それが好きな物に結び付いてれば一層覚えも良くなると思います」

「……お前としてはそれが食事処だと言いたい訳か」

「そうそう」


 キラキラした目でコクコク頷くヒューイとは反対に、エルンストはプルプルと震えている。まるで噴火するのを堪えている火山のようにも見える。


「………………」

「…………」


 無言で向かい合う二人。先に根負けしたのはエルンストだった。ため息をつきつつ、諦めたように「お前はそういう奴だったな」と呟いた。


「仕方がない。昼食時に一軒だけなら寄り道を許す」

「一軒だけとか、それ意味なくない!?」

「なら夕食時の一軒も付け加えてやる」

「スズメの涙ぁぁーー!」


 倒れ伏すヒューイ。その肩にポンと手を置く救い主の姿があった。


「…………今度、いい店教える」

「テオ君……!」


 ガシッとテオドールの手を掴むヒューイ。


 −−心の友よぉぉ!

 −−……いいって、事よ……。


 アイコンタクトでそんな会話があったとか無かったとか。


「……いい加減、出発せんか?」


 フェルの言葉で、やっと行動開始となったのだった。そうして、まずは近場の高級街から回り始める事にした一行。だったのだが−−


「−−ニャニャっ!?」


 突如ノーチェが驚きの声を上げた。その視線の先には高級菓子店。そして彼女は即座にそこへ走り寄った。

 通り沿いのガラス越しには、綺麗にデコレーションされたフルーツ盛りだくさんのケーキや、色とりどりのアイシングで可愛く飾り付けられたクッキーやらが陳列されている。


「キレイなのニャー、美味しそうなのニャー」


 きらきらと目を輝かせて、それらを見つめるノーチェ。その様は恋する乙女の様でもあった。猫だが。


「−−ハッ、いかんいかん。ワガハイにはアステルの作る素朴な極上すいーつがあるではないか!」


 なんだかんだ言いつつ着実に、アステルによる魔王の餌付けが進んでいる様である。彼女のお菓子にはノーチェへの愛情がこもっているからだろうか?


「私、ノーチェさんに期待されている……?」


 そんなノーチェを見て、アステル自身も着々と魔王専属パティシエへの道を歩いていた。





「……皆、ストップ」


 下町エリアに入った辺りでテオドールが唐突に一行の足を止めるよう進言した。


「どうした、テオドール」

「……野暮用」


 そう言うと彼はいそいそと、一本の通りへと入っていった。他の面子もぼうっと立っている訳にはいかないので、その後に続く。


 そうして歩くその先には一つの屋台があった。店先で肉がついた串を何本も焼いているため、食欲をそそるタレの香ばしい匂いが辺りに広がっている。なお、なんの肉かは明記されていない。


「…………へい、おやじ。串焼き、四十本」


 若干何時もより滑らかな口調で注文するテオドール。屋台のおやじさんも「へい!」と威勢のいい声で答えた。


「路地裏ぐるめ……」

「慣れとるの。もしや常連か?」

「というかテオドール。あいつは一人で四十も食べる気なのか?」


 ヒューイがジュルリとよだれを垂らし、テオドールの食欲にエルンストが呆れ返る。


「ワガハイも欲しいのだ……」

「ノーチェさんには私が買いましょうか?」


 物欲しそうに串焼きを見つめるノーチェを見て、すかさず財布を取り出すアステル。


「アステルちゃんが日に日にノーチェさんに甘くなってくっす……」


 そうこう話している間に、店主とのやりとりを終えて、いくつかの袋に分けられた串焼きを抱えたテオドールが振り向いて言った。


「……一人、五本ずつ」


 そうして袋を差し出すテオドール。


「……え、テオ君いいの?」

「…………一人で食べる。寂しい」


 集団の中で一人だけ串焼きを爆食いする姿を想像すると、確かに浮きまくるだろうと思われる。


「まさか……ワガハイの分もあるのか!?」


 その言葉に頷くテオドール。自分の分もあるとわかり「魔術師お前いいヤツなのニャ」と、ノーチェは喜びをあらわにした。


「それでも残りの十本はテオさんが食べるんすね……」

「…………購入者、責務」


 大義名分があるからかテオドールは心なしか胸を張っている。


「責務というより、無理矢理大義名分を付けただけだろう、この場合」

「…………五本、少なかった?」

「そういう問題じゃ無い!」


 まるで賄賂を要求しているようでは無いか! と、エルンストが憤慨している隣では……


「……もっきゅもっきゅ。うまうま」

「焼けて香ばしくなったタレの味が肉に絡んで絶妙っすねー」

「まさか焼いただけの肉がここまで美味になるとはッ! やはりニンゲンは侮れないのニャ!」

「シンプルな塩焼きも良いですけど、タレ焼きもおいしいですね」

「そうさなー。外で食べる開放感というのもあるやもしれん」


 彼以外の面々が串焼きに舌鼓を打っていた。


「……貴様らなぁ」

「あ、エルンスト君。いらないなら僕にそれちょーだい」

「やらん!」


 まだ自分の分が残っているにもかかわらず、要求してくるヒューイの手をはねのけると、エルンストは自分の分の串にかぶりついたのだった。





「ここは市場か……」


 エルンストのつぶやき通り、道の両端には新鮮な野菜や果物を扱う屋台をはじめとして、色々な食材を並べる様々な屋台が隙間なく並ぶ。広い道も多くの人で賑わい、辺りには客呼びの声が響き渡りっている。


「こういう所は流石に人が多いねー」

「王都の台所だからのう……ここが閑散とする様なぞ、そうそう想像できん」


 それこそ王都を揺るがす事件・事故・災害が起きない限り、この人出が減る事はないだろうが……とはフェル以外の皆−−ヒューイとノーチェを除いて−−も思っている事ではある。


「こういう人通りの多いところは、はぐれやすいんで注意してくださいっす。特にヒューイさん」

「名指し!? しかも僕だけって何故に!」


 ノーチェなんかもはぐれやすそうじゃないかと口にするヒューイだったが、当の彼女は歴戦の猛者−−市場の常連である−−アステルに抱き上げられていて準備万端だった。フフンと勝ち誇った笑みを浮かべる彼女に、思わずぐぬぬとなる。


「こ、このくらいの人通りではぐれるほど子どもじゃないしー」

「はいはい。負け惜しみとかいらないっすからねー」


 じゃあコレ持ってください、とローレンツから手渡されたのは紐の端だった。なんの変哲も無い短い紐。もう片方の端は彼が持っている。紛う事なく迷子防止紐。


「…………あのさ、これ、用意良すぎじゃない?」

「いつかこんな日が来るかもしれないと懐に忍ばせてたんスけど、ついに陽の目をみる日がきたっすね!」

「なんてこと想定してるのさ!? でもって僕の事を何だと!」

「まぁまぁ。念のためっすよ、念のため」


 ヒューイさんがはぐれるのが一番不味いですからねー、というのが彼の言い分だ。テオドールやフェルは歩き慣れているようなので、はぐれても自力でどうにかできるだろう。エルンストも手間取りはするだろうが、出発元の詰め所へ戻るくらいはできる。アステルやローレンツは言わずもがな。はぐれた際の行動が一番読めないのがヒューイである。ヘタにコミュ力がある分、騒動を引き起こすか巻き込まれて、帰還できなくなる未来しか見えない。

 ……と、いうような力強い説得を受け、最終的にヒューイは迷子防止紐を受け入れた。


 そうしてやっとの事で市場散策を始めた一行だったが……事件は輸入品を扱う店の前で起こった。


「こ、これは−−」

「何かいいモノでも見つか−−ってヒューイさん何で泣いてるんすか!?」


 動きの止まったヒューイの顔を覗き込んだローレンツが驚愕の声をあげた。


「……へ? 別に泣いてなんてない−−」


 そう呟いたヒューイだがその手を目元に持っていくと、そこは確かに濡れていた。


「何で涙なんて……?」


 不思議がるヒューイ。理由に心当たりは無いが、何故かとても胸が苦しい。


「……原因、これ?」


 テオドールの手の中には、半透明で小さな粒状の穀物が山を作っていた。エルンストが店主に尋ねた所、これは「コメ」と呼ばれる食べ物で、海を越えた東方でパンの代わりに主食になっているのだとか。

 炊くか蒸すかして食べるそうで、その食感はモチモチとしているらしい。


「……ふむ。記憶喪失前に、何らかの思い入れでもあったという事かのう」


 ワシは知らんかったが……と、呟くフェル。記憶喪失前のヒューイとの付き合いは事務的なものだったので、彼もあまり多くを知らない。


「お米の国の人になりたい……もっちもち」

「どんだけ心を奪われてるんすか」

「よーし、今日の晩ご飯用に確保ー」

「初日からいきなり自炊に走る気っすか!?」

「お米が目の前にある! なら食べるべき! だってお米の国の人だもの!」


 叫んだヒューイの頭をパシンと叩く人物が。


「ここはコメの国じゃなくパンの国だ。いくらなんでも鞍替えが早すぎだろ!」

「うわーん、おーこーめー!」


 エルンストのツッコミにもめげず、購入するまで断固として店に張り付く勢いのヒューイ。その様はまるで、母親と駄々をこねる子供の図だった。それを見た道行く人々は苦笑いしつつ通り過ぎてゆく。


「言うことちゃんと聞くからおとーさーん!」

「誰が父親だ! お前の保護者になった覚えは……覚えは−−」


 −−父親になった覚えは無いが、保護者役なら覚えがあるな。今まさに。


 葛藤を乗り越えたエルンストは呻きながらも「仕方がない」と自分に言い聞かせながら口を開いた。


「……一食分だけだ。準備も自分でする事! それが守れなければ許可できん!」

「おとーさんありがとー!」

「…………ありがとう、お父さん」


 わーいと諸手を挙げて喜ぶヒューイと、棒読みで感謝の意を述べるテオドール。そして何故か周りから鳴り上がる拍手。


「だから俺は父親ではないと何度! ……というかなぜ便乗しているテオドール!」

「コメ…………興味ある」


 そこでエルンストはやっと気付いた。ヒューイがここまでこだわった物に、同類であるテオドールが興味を示さないはずがないと。


「……お前に関しては制限を設けるつもりはないが、条件はヒューイと同じだぞ?」

「……了解。二人、なら……早い」


 今晩のヒューイとテオドールの夕食が決まった瞬間だった。



 そして、『一度ある事は二度ある』とは言うが−−


「こ、これは−−」


 声を上げた彼の視線の先には、樽に山盛りにされた赤く小さな豆があった。


「またか! またなのかヒューーイ!」


 先程のひと騒動を思い出しゲンナリするエルンスト。もう父親役はこりごりだった。


「−−小豆(あずき)だぁぁ!」

「いやこれ東方から輸入されてるショウズって言うらしいっすよ」

「でも何処からどう見ても小豆ですが……?」


 先を見越してデータ収集を終えたローレンツが訂正を促したが、ヒューイは譲らない。


「以前、スープに入れてみた事あるんですけど、ちょっと苦いんですよねー……この豆」


 そしてヒューイのテンションに比べ、アステルの豆に対する評価は低い。


「えー。これ砂糖と一緒に炊いたら美味しいあんこができるのになー」


 しばらく「あんこ、あんこ」と連呼していたヒューイだったが、何がきっかけだったのか……唐突に「和すいーつ!」と叫び出した。事ここに至って彼の言動が地味におかしいと皆が感じ始めていた。今までも唐突に意味のわからない発言をする事はあったが、今回は少々酷い。


「何というか……ここまで来ると、これもうヒューイさんの記憶というより、別人の思念的なものが混ざってないっすか……?」


 主に東方出身の何某かが−−と、ローレンツがぼそりと呟く。だが彼の指摘が合っているとして、問題はその『別人』とやらが『誰』なのか全く見当つかない事だ。

 疑いの目がヒューイに突き刺さる。


「魂の叫びだよ! なんか無性に食べたいの!!」


 そういえば。と、フェルが口を開いた。


「東方出身者はしばらくコメや故郷の物が食べられないと、暴れ出すらしいなぁ」

「よっぽど心残りだったんすねぇ……中の人」


「中の人とか居ないし!」





 −−その夜。


 購入してきたコメを炊き、おかずに焼いた肉を用意し、万感の思いでコメを口に運んだヒューイだったが−−


「おうふ。米は米でも、もち米だこれ」


 噛んだ際に返ってくる弾力が思っていたよりも重い。それに見た目と食感がモッチリとしていた。ヒューイにとってそれはある意味絶望だった。


「…………思ってたのと、違う?」


 横からテオドールが首を傾げた。彼の前にも炊かれたコメと肉が並んでいて、モグモグと頬張りながらの言葉だったが、一応は意味の通る言葉にはなっている。彼的には特に不満を感じない食感と味だったようで、ヒューイがなぜ打ちひしがれているのか不思議だったのだ。


「モッチモチなのはいいんだよ……モッチモッチも嫌いじゃないんだよ……むしろ好きだよ? 好きだけどコレジャナイ」


 いま求めてるのとは微妙に違うんだよぉぉー!


 そんなヒューイの心の叫びが、詰め所の食堂に響き渡ったのだった。



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