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性悪貴族?なにそれおいしいの?  作者: ぽて
ドキドキワクワク学外研修編

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16/45

2 ぞんび大量発生とキャンプ

*前半部分に少々不快になる表現がある可能性があります。



 ゴトゴトと車輪が回る音が響く。


「のどかですねー」


 ヒューイが馬車の幌の切れ目から、視界に広がる草原を見て呟いた。離れた場所には森も見える。


「そーだなー。本当は徒歩で行軍予定だったんだけどなー」


 何もかも悟ったような表情でアルが答える。予定とは踏み倒すためにあるんダナーとか呟いている。とはいえ、手配が遅れたのは決して彼のせいではない。


「王都まで徒歩とか期限切れ必至でしょうに」


 剣の手入れをしつつツッコミを入れるのはエルンスト。それ以外にやることが無いので剣はピッカピカである。


「まあ期限内に到着せんと、先方にも迷惑が掛かるしのう……」


 フェルも苦笑しつつ話に加わる。


「…………馬車、楽々」


 心なしか弾んだ声で呟くテオドール。フィールドワーク好きとはいえ、歩かないで良いならそれに越した事はないらしい。


「ひーまーだーニャー」


 ごろにゃんと転がりまわりつつ、喚くのは猫姿のノーチェだ。使い魔だと事前説明したこともあって、彼女がしゃべっても雇われ御者が驚くことは無い。


「−−あ、索敵陣に反応アリっす。皆さん出番っすよー」


 ローレンツの声に御者が馬車を止める。


「皆さん、怪我をしないように気をつけてくださいね!」


 アステルの元気な声に見送られつつ、一同は馬車を飛び出した。


「−−とは言え、またゾンビか」


 エルンストは卒なく、近づいてきた魔物−−人型ゾンビを切り捨てていく。


「うわーん! ぐっちょぐちょのねっちゃねちゃーは嫌だぁー!!」


 プチパニックになったヒューイは数体のゾンビを武技で吹き飛ばした。


「てコラ、ヒューイ! この程度のヤツに武技なんて使うんじゃない!」

「だってきょーかん! ぐっちょぐちょのねっちゃねちゃなんですよ!?」


 僕の武器籠手! 直でゾンビに触れるとか無理! そんな叫びがこだまする。


「それにしても多すぎじゃのう、このゾンビ共」


 槍でゾンビを薙ぎ倒しつつ疑問を呈するフェル。馬車での移動を始めてからこれまでに出会った魔物の6割方がゾンビだ。頻繁に馬車等の行き来があるこの街道で遭遇するにしては多すぎる。しかも獣ではなく人型のものが、だ。


「確かに多過ぎるな。この辺りで大きな争いやら疫病が流行ったなんて話は聞いた事は無いが……」


 アルも怪訝な表情を隠さない。ゾンビはその名の通り死体が魔物化したものである。元になるものが大量になければ、そもそも大量発生などしようがないのだ。

 辺境地域ならともかく、王都に近い事もあり情報の漏れがあるとも思えない。


「王都に着いたら警備のヒトなんかに確認したほうがよくないっすか、これ?」

「そりゃあな。こりゃ明らかに異常だ。とはいえ、いつからこんな状態になってんだか……」


 騎士学校にも情報が来ていなかったのを考えるに、恐らくこのゾンビたちが徘徊し始めたのはごくごく最近の事なのだろう。それも二、三日以内。


「そういえば……ノーチェさんは何か分からないんですか?」


 アステルがハッと思い付いてノーチェを見遣る。魔王である彼女なら自分達より魔物に詳しいのではないか、と。


「この辺はワガハイの縄張りじゃないからわからん。それに死霊系はニャア……あまり縁も無いし」


 あいつら話通じないしと、にべもない。


「わからんものは仕方ねぇよ。コイツは群のリーダーみたいなモンだが、外の事までは流石にな。それにコイツ、特殊な部類っぽいからなぁ……」


 一般的な認識の魔王より弱いから、とは言わない辺りがアルの優しさだ。

 そうこう話している間に、ゾンビを片付けたヒューイたちが戻ってきた。


「うぅ……ぞんびなんて嫌いだぁぁ。怖いし気持ち悪いしごはん落とさないし」

「全く貴様ときたら……。落としたら落としたでやばいだろうに……」


 魔物なので倒せばゾンビ自体の肉体は綺麗さっぱり消滅するが、腐敗の原因はゾンビ扱いされないらしく消えない。何故か倒す際に使った武具の汚れも消えない。万が一食材を落としたとしても衛生的にアウトだろう。きっと腐っているに違いない。


「エルンスト君、変な事想像させないでよー……うっぷ。想像したらなんか気分悪くなってきた」

「するな! それに最初に言い出したのは貴様だろうが!」

「……ふむ。肉は腐りかけがどう、とか聞いた事があるが、完全に腐ってしまっておったら流石のヒューイもお手上げかの?」


 フェルのからかいに、珍しくヒューイは眉をひそめて答えた。


「いや、いくら僕でもカニバリズムの嗜好は無いから。勘弁してよフェル」

「むう。些か趣味の悪いことを言ってしまったようだな……すまん」


 申し訳なさそうに謝罪するフェル。

 そこで初めてヒューイに関して、食べられる物−−ゲテモノ等かどうかの可否に関わらず−−に関しては無条件で肯定的なのだろうという思い込みがあった事に気付いた。


 他の面子も同じだったようで、各々驚きが顔に出ている。ノーチェだけは「カニナントカとは何なのだ?」と不思議そうにしていたが。


「ヒューイさんでもニガテな物があるんですね……」

「俺っち、正直言ってヒューイさんは食べられそうな物なら見境無いと思ってたっす……」


 アステルは口に手を当て驚き、ローレンツは何気に失礼なカミングアウト。


「ワガハイ、肉なら何でも食べれるが。さすがに腐ってるのは無理だニャ。腹を壊してしまう」


 ヒューイの発言の意味を聞いた野生のノーチェが、言外に不穏な事実を感じさせる発言と、魔物らしからぬ胃腸の弱さを告白した。


「いやいや、みんな何か勘違いしてない? ぞんびが落とすのが肉とは限らないじゃん?」


 魔物が落とすのは主にその姿に関わりのある物である。肉などの食料が多いのは、大半の魔物が野生動物の体を取っているからである。

 ならば人型で装束を纏っている魔物−−大体は死霊系になるが−−に関しては……というと。身につけている物だったり、所持していた道具だったりを落とす事が多いと言われている。


 ヒューイの言葉で、その辺りの知識を思い出した一同だが、それでも衛生面の懸念は消えないのであった。


「……とはいえ、所持品ドロップで食料を狙うというのも大概だろうに」


 エルンストの呆れた声が皆の気持ちを代弁していた。





「きょーかーん。折角の馬車の旅で目と鼻の先に町があるのに、何で僕ら野宿の準備してるんですか……?」


 賑やかな喧騒を背に、ヒューイが物欲しげな様子でアルに尋ねたのだが。


「徒歩での演習訓練がパーになった分、野営の実践訓練ぐらいはしときたい」

「……ぞんびウヨウヨなのに?」

「−−むしろ、だからこそだ。見張りの良い訓練になる」


 いつ来るともしれない敵を待ち構えるよりは、確実に敵が来ると分かった上で待ち受ける方が初心者向けではある。念のために結界の魔道具を使うから安心しろと慰められてしまった。


 因みにだが、ゾンビは本来夜行性。昼間なのにワラワラ出てきていた今回の事態がおかしいのだ。


「……どうせ見敵必殺なんですよね? 徹夜確定じゃないですかやだー」

「その辺は経験してナンボってトコだろ。どうせこの先、嫌ってほどやる事になるんだから、今のうちから慣れとけよ」


 卒業後は、任務などで数日かけて行軍などという事もありうる。それを想定した訓練なのだろう。町の近くなので、魔物駆除の助けにもなりつつ、ある程度の安心感がある。


「−−とにかく。お前もサボってないで他の奴らの手伝いでもしてろ」

「あ、それなんですけど……見張りでもしとけって追い出されちゃいました」

「どんだけ不器用なんだよお前……」

「そんな事ないですー。単純に人数多くて溢れちゃっただけですー」


 今回は馬車で寝泊まりするので、寝床を整える必要はないし、水に関しては魔術師のテオドールがいるし、そもそも水場が近いところなので問題がない。料理に関してはテオドールがカマド作り、アステルが料理する事で落ち着いている。ローレンツはいつもの通り索敵。エルンストとフェルは焚き火用の枝拾いに出ている。


「あー。それじゃ教えてやっから一緒に魔道具の設置でもするか?」

「いいんですか?」

「いいんじゃね? 今後のことも考えりゃ、覚えといて損することでもねぇし」

「やったー。何気に初めてなんですよねー、生活用じゃない魔道具触るのって」


 魔道具には、部屋の明かりなど生活に密着している物を生活用、戦闘などで使う物を戦闘用、他に様々な状況で補助に使う補助用などの区別がある。

 生活用の物だと簡単な造りが多く、スイッチを押す程度の操作で稼動するが、他の物になると設置方法やら使用条件やら知識が必要になる物が多い。


「ちなみにコレが結界用の魔道具な」


 アルが取り出したのは一本が手のひらに収まるサイズの筒のような物、それが四本。筒の上方、三分の一程が透き通った紫の宝石のような物で出来ている。


「なんか綺麗ですね」

「正常に稼動してる時は、この部分が淡く光る様になってんだ」

「そういえば……これの効果ってどんなものなんですか?」

「基本的には獣除けだな。魔物も結界内にゃ入れん。つってもある程度の強さのヤツまでだが」


 獣に対しては、野生の獣が嫌がる波長を放出して追い返す機能。魔物に対してはその名の通り、魔物を通さぬ不可視の壁を展開する機能がある。そこそこ高機能な魔道具だ。

 その説明を聞いてふとヒューイにひらめく事があった。


「それってノーチェは出入りができないんじゃあ?」

「…………あ」


 ついつい忘れがちだが、猫の姿をしているとはいえノーチェは正真正銘の魔物だ。


「……使えないですねー」

「いやいや待て待て。最初から結界内に居れば問題は−−」

「もしノーチェが外に出ようとしたら、パリーンてなるパターンですよねそれ?」

「何でアイツ獣人じゃなくて魔物なんだ……!」


 そこへテオドールが通りかかった。かまど作りが終わったらしい。


「…………使い魔契約、する。問題無し」

「……あ」


 テオドールの言葉にアルが何かを思い出したかのように呻いた。


「そうだよアイツ使い魔扱いなんだから、正式に契約すれば問題無いじゃねーか」

「登録とは違うんですか?」


 確か先日、学園にノーチェの使い魔登録をしたとヒューイは記憶しているが、何が違うのだろうと首をかしげた。


「正式契約ってのは魔力のラインを繋げるんだよ。そしたら魔力の共有とかテレパスやら、離れた場所からの召喚とか色々出来るようになる」


 しかもラインを繋げることで契約主と同じ魔力の波長になるため、魔道具で展開した結界の内外を自由に出入りできるようになるとのこと。


「……ほへー、便利ですね」

「そうと決まれば、まずは魔道具の設置やっちまうか」

「それ、否が応でもノーチェに正式契約させる感じデスネ……」

「なんだかんだ言って、アイツもチョロいトコあるしなあ」


 正式契約せざるを得ない状況になれば乗ってくるだろうとはアルの言。


「……俺も、手伝う」


 そうしてテオドールを含めた三人は、野営地を四角く囲むように魔道具を一本づつ設置していった。そうして最後の設置場所へ集合した三人。


「−−んで、これが最後の一本な訳だが……ノーチェのヤツの現在地は?」

「アステルちゃんの隣で、ゴハンができるのをウキウキしながら見守ってます!」

「よし。なら勝手に動き回る恐れは無いな」


 そう言うとアルは最後の一本を設置した。


「んじゃ、ヒューイ。起動ワード頼むわ」

「はいっ。−−『リベレイト』!」


 ヒューイがその単語を口に出した瞬間、ほわんと音を立てて魔道具が淡く光を放ち始めた。


「おー、なんか綺麗ですね」

「馬鹿高いだけあって、見た目もいいんだよなコイツ」

「つまり壊したら高額弁償なんですねわかります」

「…………つぎ。正式契約」


 話がそれそうになったが、テオドールに促され三人でノーチェの元へ向かうと……。


「−−ごはん、ごっはん」


 行儀よく座り尻尾を左右に揺らすノーチェの姿。この様子だと、少なくとも料理が完成するまでは、結界外に突貫などという事態にはなるまい。

 問題はどのように話題提起すべきか……なのだが。


「−−ノーチェ、ちょっといいー?」

「ちょ、ヒューイ、おま、もうちょっと考えて声掛けろよ!?」


 作戦も何もないダイレクトな声かけにアルは慌てるが、当のノーチェは気分を害した様子は無い。


「何の用ニャ? 見ての通りワガハイ、忙しいのだが」

「僕と契約して正式な使い魔になってよ!」

「別に構わんが」

「あ、いいんだ」

「名目上は既にキサマの使い魔なのだから、それが実質になろうがそう変わらん」


 むしろ便利になる、とまで言う彼女。


「−−だいたい。キサマら先ほど結界張っただろう? このままでは出入りもままならん上に、少しうざいのニャ」

「あ、結界の魔道具ってノーチェさんにも効果あるんですね」


 どうやら結界魔道具の野生動物追い返し機能が彼女にも効力を及ぼしていたらしい。現状は家猫みたいなものだが、まだ野性味が強いのかもしれない。アステルも驚いている。


「そうと決まれば早速、契約するニャ。やり方はわかってるのかニャ?」

「それならあっちだよ。テオ君が準備してくれてる」


 そうして向かった先では、地面にはテオドールの手によって何やら意味ありげな円形の魔法陣が描かれていた。


「…………ここ、ヒューイ。あっち、ノーチェ」

「えーっと……なんか棒で適当に書いた感じだけど、こんなでも契約ってでき、るの……?」

「……問題、ない」

「心配すんな。陣の形さえ整ってりゃあ、地面に棒で書こうが紙に書いてようが石に刻んでようが変わらん」


 この手の儀式魔術もテオドールに任せれば間違いは無い。とはアルの言。


「……陣、魔力。通る、誓いの言葉」


 説明は端的だった。こういう時に複雑な説明をするのが難しいのが彼の欠点かもしれない。


「−−要はこの魔法陣にヒューイの魔力を通した上で、主人と使い魔であると宣言すりゃあいい」

「きょーかん……」


 アルの補足で方法自体は明確にわかったが、ヒューイは困った顔をしてアルを見上げていた。


「……ああ、みなまで言うな。……魔力の使い方が解らないんだな?」


 こくこくと頷くヒューイ。魔力があるのは判っているが使った事はない。


「まだるっこしい。ソイツが出来んのであれば、ワガハイが魔力を通せば良いではないか」

「この陣、主人側の魔力で起動させないと意味が無ぇんだよ」

「ニャゥ……じゃあチェンジで」

「…………他、知らない」


 テオのお手上げ宣言で、沈黙が降りた。


「……じゃ、ノーチェは魔道具解除までは、結界内から出ないという事でいいな?」

「…………異議なし」

「さんせーでっす」

「ちょ、マテ。少しは努力しようと思わんのか!?」


 結界はどうでもいいが、獣除けが……獣除けがぁぁぁ! そう叫ぶノーチェの声は黙殺された。



 その後、何だかんだあったが夕食が美味しかったので彼女も気分を持ち直したため、そう問題なかったという。



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