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性悪貴族?なにそれおいしいの?  作者: ぽて
ヒューイ君と愉快な仲間たち編

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閑話 暴君と魔王様

 ヒューイが食堂でおやつ代わりの間食をしていた時の事。別行動をしていたはずのノーチェがやってきて唐突に−−


「ワガハイ、新しい魔術を思い付いたのだ!」


 と、自信満々にそんな宣言をした。ただ、見た目猫なのでイマイチ決まらない。それにも気付かず彼女は続ける。


「その名も『影分身』! 自分を増やす魔術!」


 これで美味いもの探しも捗るというものだ! 凄いだろう? 崇め讃えても良いんだぞ? と胸を張るノーチェさん。しかし−−


「では、早速−−……あ、詠唱ミスった」


 珍しく、すまんなーと軽い謝罪をするノーチェさん。本人は軽いが、彼女が謝るとは余程のことだった。何せ普段から魔王としてのプライドは高い彼女が謝罪、である。

 単に詠唱を間違えただけでそんな事態になる訳がない。


「……な、なんでいま謝ったのカナー?」

「ああ、それなのだが間違えてお前を対象にしてしまった。あと設定をちょっと間違えたニャ」


 ワガハイとしたことが……てへっ。とか可愛く誤魔化そうとしているが、内容が酷い。


「どこをどう間違えたのか詳しくっ!」

「フィーリング的な事を説明するのって難しいよニャ……?」

「一体何をしようとしたのぉぉーー!?」


 叫ぶヒューイを覆うかのように、ぼわんとあがる煙。その煙が収まった後には−−二人のヒューイがいた。


 大人しそうな何時ものヒューイと、不機嫌顔だが気の強そうなヒューイ。大人しそうな方をヒューイA、強気そうな方をヒューイBとする。


「………………えっと」


 もう一人の自分をみて戸惑うヒューイA。どうすればよいかわからず言葉も出ない。


「言いたいことがあるならもっとはっきり言え。……鬱陶しいヤツ」


 ふんっ、と無駄に偉そうなヒューイB。どこかの剣士様を思い起こさせる傲慢っぷりである。


「その……キミ、影分身さん?」

「かげぶんしん? 何だそれ」


 どうやらヒューイBには先ほどまでの記憶が無い様子だった。


「ふむ。どうやら強気そうなのが影分身の様だな!」

「……猫が喋ってる? なんだこれ」

「ワガハイ、今はこんなだが猫ではない。ノーチェ様と呼べ!」


 ヒューイに付けられたこの名前が意外と気に入っているらしい彼女。だが−−


「おもしろいなこれ。どんな仕掛けなんだ?」


 ガシッとノーチェを掴んだヒューイBは、好奇心の赴くままに引っ張ったり縮めたりポンポン叩いてみたりと、怖いもの知らず特有の蛮行に及んだ。無知とは恐ろしいものである。


「ちょ、ノーチェは人形とかじゃなくて生き物だから! ひどい事はやめたげて!」

「生き物? 喋る猫なんている訳ないだろう。絶対何かの仕掛けがあるはずだ!」

「ニャーッ!!」


 ついに我慢の限界を超えたノーチェが反撃に出た。影魔法でやたらでかいハンマーを作り出して、ヒューイBへと向けたのだった。


「消えろだニャァァ!!」


 下方から上方への見事なスイング。ヒューイBはなす術もなく吹っ飛んだ。





「ふむ。どうやら影分身の方のキサマは戦闘能力が皆無のようだニャ」


 吹っ飛ばされて目を回しているヒューイBを見下ろしつつノーチェは呟く。……確かに、いつものヒューイなら避けられる攻撃ではあった。


「なんか性格も全然違うっぽいんだけど、影分身ってこんなものなの?」

「いや、今回のはイレギュラーってヤツなのニャ。理由はワガハイにもわからん!」


 なにせ設定を間違えたからな! と何故か胸を張るノーチェ。だからその『設定』って何なんだと聞きたい気持ちでいっぱいのヒューイAだったが、明確な答えが返ってくる事は恐らくないだろうと諦めていた。なにせフィーリングなので。


「……で、いつ元に戻るの?」

「………………さぁ?」

「今後はこの魔術使うの禁止だから」

「ニャっ!? にゃんですとー!!」


 それではワガハイの壮大な計画がぁ……と、嘆くノーチェ。だが、ヒューイとしてはうっかりで何度もこんな面倒起こされてはたまらない。


「うぅ……」

「あっ、大丈夫?」

「ぐっ、猫のくせに僕に手を挙げるなんて……! 今すぐ処分だ!!」


 ええっ!? とヒューイAが驚いている間にも、ヒューイBは剣−−ヒューイAと違い、彼は長剣を帯剣していた−−を抜いた。


「ほう、戦闘能力皆無のくせにワガハイに挑むか!」

「猫ごときに負ける訳無いだろう!」


 さっき見事に負けてただろうとツッコミを入れてくれる人間は、残念ながらいない。


「ちょっ、二人ともここ食堂!!」

「知ったことか!」

「この身の程知らずに思い知らせてやるニャ!」


 ヤル気満々の二人。だが、このまま二人を戦わせてしまうと、主にノーチェの手によって食堂が壊滅してしまう。


 食堂壊滅=美味しいご飯がしばらく食べられない。


 −−美味しいご飯が、しばらく、食べられない。


 大事なことなので二回繰り返した。繰り返したらプチンと何かが切れた。


「−−てい」

「−−なっ!? キサマその速さは−−」


 まずはノーチェに忍び寄り脳天にチョップ。

 成すすべなく一撃で沈む黒猫。仮にも魔王が、明らかに初戦闘時以上の力量を発揮したヒューイAの速さと一撃に耐えられなかったのだ。

 次に詰め寄るはヒューイB。突如として消えたかと思えば、いきなり目の前に現れたヒューイAに、言い知れぬ恐怖を感じて剣を向ける。


「お、お前、僕を誰だと思ってる!? 僕に何かしてみろ、父上に頼んで社会的に抹殺してやる!」

「僕もヒューイ・フォン・ユストゥスですが? 自分で自分を社会的に抹殺したいだなんて奇特な人デスネ」


 ハイライトの消えた目で告げるヒューイA。ここまで来るとヒューイAにも、ヒューイBがどういう存在なのか判ってきていた。恐らく彼は−−記憶喪失前のヒューイだ。しかし、ご飯の敵となるならば誰であろうと容赦しない。それが魔王様である。


「このぉッ!!」


 魔王様は大きく剣を振り被るヒューイBを、あわてず騒がずいなし、剣をその手から叩き落とした。


「−−なっ!?」

「食堂で暴れる、よくない」


 ジリジリとにじり寄る魔王様。そんな所に−−見覚えのある人物たちが。


「はぁ……なーんで俺っちたちがエルンストさんの特訓に付き合わなきゃいけないんすか……」

「グチグチ言うな。俺だってお前らで我慢してやったんだ。フェルディナントがいればもう少し歯ごたえがあったろうに……」

「エルンストお前、最近脳筋すぎ!」

「そうだそうだ! もう少し自重しろ!」


 ローレンツとエルンストを最前にクラスの男子たちが食堂に入ってくる所だった。


「エルンスト、ローレンツ! お前ら、僕を助けろ!!」


 これぞ天の助けとばかりに、彼らへ駆け寄るヒューイB。しかし−−


「ぼ、ぼぼ−−」

「ぼ?」

「暴君だぁぁぁっ!?」


 言動からその正体を察したクラスメート二人。


「なッ、まさか記憶が!?」

「あぁ、またあのストレス溜まる日々が戻って来るんすね……」


 驚き声を上げるエルンストに、これからの暗雲の日々に絶望するローレンツ。


そうして暴君相手に迫る剛の者とは−−? と、視線を移した先にいた人物を見て−−


「魔王様と暴君が一緒にいるぅぅ!?」


 あり得ない組み合わせに、これなんて悪夢とでも言いたげなパニックが起こった−−が。


「−−食堂で騒ぐ、よくない」

「「「「…………はい」」」」


 魔王様の一言で収まるパニック。しかしそれに納得いかない者が一人。魔王様を知らないヒューイBである。


「お前ら何でこんな奴の言葉を素直に聞いてるんだよ!!」

「−−てい」

「うぐっ……」


 魔王様の一撃に、暴君ことヒューイBは呆気なく崩れ落ちた。


「……自分相手に容赦のないことだな」

「ホント食べ物が絡むと恐ろしい人っすねー……」

「……魔王様パねぇ」

「おれ、絶対に魔王様には逆らわない」


 そうしてヒューイは本格的に『暴君よりヤバい魔王様』という評判を手に入れてしまったのであった。



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