第0.5話 目覚めの時
どうも、初めましてになります・・・・・・よね?奈留樹と申します。
兎にも角にも豚の角煮も、明日見る蕾と開く花というのを投稿させていただきました。まぁ、あらすじ見て察す方も居ると思いますが。よくあるアレですね。
よくあるアレの通りに、結構長めなものになる予定なので懲りずに見ていただければ幸いです。
因みに、物語の序盤から全貌が見渡せると思うのですが、その序盤というのが『ラノベ1巻分の終盤』になるので・・・・・・そこに到達するまで1月以上掛かると思います。
ある種の処女作というのもあるので、指摘や酷評も待ってます。あ、無論好評もありがたいですね。まぁ、もう終われとかは止めていただけると・・・・・・。
「───様!───様!」
何度も何度も体を揺さぶられている。こうしている間にも2度、3度と止めることなく体を揺さぶられる。
揺さぶられていると言っても、乱暴な感じではなく・・・・・・そうだ。優しくて心地の良い感じがする。痛いといった感じはせず、また眠ってしまいそうな心地の良さ。
もう一度だけ寝てしまおうかと思ったのだが、もう目が開いてしまった。
「杏耶様!」
目が開くと同時に耳もしっかりと機能し、先程まで不鮮明に聞こえていた言葉を認識するようになる。それは良いのだが。
「・・・・・・?」
今ひとつ状況を飲み込むことが出来ない。
もう何年と眠っていたような感覚がある。
俺が呆然としていると、目の前の子はいきなり俺の足元に倒れこんだ。
いや本当に何が起きているのか誰か説明して欲しいのだが、そんな事をしてくれる人がこの状況下で居るのだろうか?見渡せど誰も居ない。つまりの所、誰もこの状況を説明してはくれないということだ。
今俺の足元で倒れている子は健やかな寝息を立てている。が、その顔を見れば目元が黒く・・・・・・何日起きていたのかはわからないが、酷いクマになっている。
と、そこで。
「メルシー?メルシー ミラン?」
不意に言葉が出ていた。
確か、どこかの国の言葉だった気もするのだが。俺には今呟いた言葉はその意味で言ったという気がしない。何と言うか、誰かの名前を言った気がするのだ。
そう思えばこの子は俺の事を杏耶様と呼んでいた。
あぁ、なんて簡単な事を今・・・・・・認識したのだろうか。
「美原 杏耶───」
それが俺の名前で。メルシー ミランというのがこの子の、彼女の名前なのだ。
どうやら本当に頭の回転が鈍っていたらしい。俺の記憶にある日付とこの部屋の片隅においてあるカレンダーが指す日時を比べてみると、なんとまぁ1ヶ月も経っていた。
俺の記憶違いでなければ・・・・・・の話なんだが。でもまぁ、記憶互いな訳はないだろう。
メルシーがこんな凶悪なクマを作っているのが証拠だ。
何日寝ていなかったのかは知らないが、随分と面倒を見てくれていたらしい。左手で右腕を擦ってみても、垢という垢は落ちない。
つまりの所、風呂の面倒まで見てくれていたのだ。
前々から思っていたのだが、メルシーは俺に尽くしすぎる傾向がある。さっきも変わらずに俺の事を杏耶様と呼んでいたしな。
「ん・・・・・・?」
動き出した俺に反応したのか、メルシーは見て判るくらいに辛そうに頭を起こす。そして俺の目が開いている事を確認すると、急に起き上がった。
「お・・・・・・お早うございます!きょ、杏耶様・・・・・・」
「・・・・・・おう、おはよう。って、そんなに畏まらなくてもいいぞ?」
「え、いえ、ですが───」
「別に誰かが口酸っぱく文句言う訳でもないだろうに」
そう言うとメルシーは口を小刻みにしながら座った。
「それはそうですが・・・・・・いえ、杏耶様。明日からは一層、呼び方に気をつけないといけません。もう起きられたのですし、例の授与式に出てもらいませんと」
「授与式・・・・・・」
さて、それは何だったか。授与式という言葉自体は判る。何かを与えられる式典の事だ。
しかし肝心の、何が授与されるのかということを思い出すことが出来ない。
何やら意味深そうに呟いたのが問題だったのか、メルシーは何か感づいた様に首を傾げて俺に尋ねた。
「覚えてないのですか?」
まぁ、普通はそう聞くだろうな。
とは言っても、こちらはおよそ1ヶ月眠っていた身。ある程度のことは見逃してくれてもいいと思うのだが。馬鹿にした目をされていない分だけマシか。
「明日は本家で第2位称号の授与式です。ようやく、名実ともに美原家の第2位として扱われるようになるそうですよ」
「・・・・・・あぁ、思い出した」
俺が昏睡する前、だったか。
俺が所属している組織の中での上から2番目の椅子にようやく座らせてもらえる事になったんだったな。前はそれを聞いた時に凄く喜んだ記憶があるのだが、今は全然そんな事無いな。寝過ぎで冷めたのか・・・・・・。
それはともかく。その組織では一体何をやっているのか。何を持って、その組織での序列が決まるのか。
それを説明するには、一握りの人が持つ異能についての歴史を大雑把に辿る必要がある。
今から数十年前に、ごく限られた人が人智を超えた力を見せたらしい。それが、人類初の異能を使うもの・・・・・・能力者の発見ということらしいのだが。
その人は何も無い所から炎を生み出し、操ってみせたらしく。その存在が一部に露見してから、能力者という存在が急増した。最初の能力者みたいに炎を操る以外の能力も多数確認されていたようだ。
で、一部の人間がその能力を管理し、能力者達を日常生活へと返すための組織を作り出したという訳だ。
・・・・・・しかしこれは日本国内での話で。
海外では以前から能力者という存在の他に魔法使いという、お伽話で良く出て来る存在も確認されており。昔からそれらを管理・有効活用する組織が存在していた。
能力者を管理する組織が異端審問会。魔法使いを管理するのが異端査問会。
現在ではこの2つの組織が問題となっている。これらの組織は戦争や利権争い等の抗争に手を出しており、はっきり言ってしまえば暴力団のような組織になっている。唯一の救いというのが、お約束よろしくで能力や魔法の存在を秘匿としている所か。まぁ、これに関しては俺の所属している組織でも同じ所なのだが。
で、その2つの組織がどういう問題を起こしているのかというと。日本にも活動拠点を作ってしまった事だ。最初の内は小さな組織に戦力として能力者や魔法使いを貸していただけなのだが、十数年前に本格的に進出。国内に拠点を構えるに至った。
日本国内に存在している能力者は発見され次第に確保され、極少数確認されている魔法使いも確保されるに至った。無論、政府はそれに対して抗議をしたのだが、金と力の前についに無言になってしまった。
俺の所属している組織、美原家は。美原権三郎が、社会的立場を失った能力者達を社会復帰させるために作った組織だ。こうなることを見越し、審問会・査問会が国内進出を果たしたと同時にそれらに対抗しうる部門の設立をしていたのだ。
その部門では、ある一定の序列が定められており。人格や戦闘能力を主な基準として優劣の判断がされる。
序列が上な程、良い待遇を受けられ、一種の報酬も増加する。
「・・・・・・杏耶様」
「ん?」
どうやら考え込みすぎていたようだ。しかし、これだけ寝ていたのであれば整理する必要もあるだろう。
メルシーは心配そうに俺を見た。
「大丈夫でしょうか?何か心配事があるのでしたら・・・・・・話して欲しいのですが」
「問題はないよ。ちょっと整理していただけだ」
「整理・・・・・・?」
「あぁ。いや何、寝過ぎで頭がボケていただけだから」
「そうですか」
メルシーは俺に、まだ何か隠しているのではないか?という視線を投げつけてくるのだが。実際に能力者や魔法使いについて整理していただけだし。
とは言っても、心配事が無い訳ではない。
まず俺は、正確に言えば能力者でも魔法使いでもない。実質的能力者という分類。
俺に与えられた武器といえば、ある程度の体術と接近用の高速移動術だけだ。
能力者というのは、結構日常で使われている物を操る能力が多いのだ。国内最初の能力者が炎を操ったように。
魔法使いというのは、能力者と違って・・・・・・能力者が出来る事を殆ど一人でこなせてしまう。つまり、炎も操れ水も操れ、風も電気も操れると言った風。言うならば、能力者が指向性で魔法使いが無指向性。
で、俺は実質的に裸でそいつらと戦闘するようになるのだ。心配しない訳がない。
これまでも何度か戦闘自体はした事あるのだが、審問会や査問会の強者達と戦ったことは一度もない。
「・・・・・・」
明日から、戦うことになるのだ。
───この時、俺はその事しか考えていなかった。しかし、全ての歯車はもう、嵌っていた。