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些細なる復讐

作者: 悠雨
掲載日:2015/03/19

拙いですが。

親の決めた婚約者と結婚。想いあっての結婚だなんて出来るとは思っていませんでしたから、別になんの疑問もありませんでした。別によくある話です。

フロイエン伯爵子息夫人。それがわたくし、フィアンティーナの肩書きでございます。

わたくしの旦那様であるケイル様は、フロイエン次期伯爵。他に兄弟はおられません。旦那様は何故かわたくしと結婚してからあまり屋敷に帰って来なくなったそうです。他所へ入り浸っているのでしょう。まあ別に、驚きはしません。これもまた、よくある話でございましょう。

そしてまた、よくある話でございますが。わたくしはお義母様と上手くいっておりません。伯爵夫人たるお義母様は、御歳40を越えておりますが、気品漂う美しいお方でございます。同時に誇り高く厳しい方であり、ケイル様が他所へ行って帰って来ないのは、わたくしに魅力が足りないからだと仰りました。わたくしは一応、結婚前は家柄もあり『社交会の花』として名を挙げられていたのですけれども。

「だからわたくしはリリィのがケイルに合っていると思ったのに」

いつだったかお義母様がそう零したのをきちんと聞き取りました。リリィ。本名をリリエラというわたくしと同じ歳の伯爵令嬢でございます。とても活発で魅力的な方でした。わたくしは静かに佇むような印象を与えますので、タイプは真逆と言っていいでしょう。

ですが。わたくしの実家に婚約を申し込んできたのはこちらの伯爵家です。まあ数多の婚約の申し込みからフロイエン家を選んだのはわたくしの両親ですが。しかしだからと言って今更返品されても困るのですが。

そんなこんなで。わたくしはよくある生活を送っております。子供がおればもう少しマシでしょうが、旦那様とそういうこともするのですが、懐妊の兆候はなく確率的にも可能性はとても低いです。このままでは、本当に返品されてしまうかもしれませんね。

わたくしの話はさておき、わたくしの旦那様、ケイル様の話でもございましょうか。旦那様は特別美形ではございませんが、整った顔形で愛嬌ある笑顔が人を惹きつける方です。人脈が広く、顔も広い方です。手も早いです。しかしわたくしにはその人好きする笑顔を結婚してから見せてくれたことがございません。時折帰って来ても、わたくしを見ると明らかの疲れた顔をされるので、わたくしはなるべくすぐにお側を離れられるよう善処しております。嫌われてはいないと思うのですが、苦手と思われているのだと思います。ですのでわたくしは子供を授かることを諦めました。よってお義父様が引退され旦那様が家督を継いだあかつきには、愛妾の方を屋敷にお招きしたほうがよいと思い、こっそり見取り図を見てます。その時はわたくしの存在は邪魔でしょうから、なるべく遠い部屋を頂きましょう。

そういった将来設計を旦那様とお話したいのですが、あいにくと話す機会がございません。まあなんとかなるかと思って日々を過ごしております。そんなこんな時期に結婚して1年でございます。

そんなある時旦那様がご帰宅された際、引きつった顔で告げました。

「フィアンティーナ。明後日ロヴィード家に向かう」

「かしこまりました」

同伴しろと仰いましたので、その日は旦那様とロヴィード侯爵様のお屋敷の伺いました。社交場とは出会いの場ですので、結婚したわたくしには意味がありません。ですのでわたくしはほとんどお屋敷で過ごす毎日です。時折仲の良かったご令嬢を招いてお茶会などをするのですが、わたくしの友人はお義母様が気にくわないとあまりいい顔をしないので、わたくしは招待されてもあまり行けません。

ということで久々の外出にウキウキ気分で馬車に乗っているのですが、しかし隣には仏頂面の旦那様。モヤモヤとしたものが胸にしこりを残します。そんなに嫌なのでしょうか。自分で言うものでないですが、わたくしのちっぽけなプライドのために言わせていただきますが、わたくしは結婚前は『水仙』に例えられ持て囃されておりました。清廉な令嬢と引く手数多だったのです。実家も伯爵家です。

お義母様はああ仰いますが、わたくしはリリエラともう一人、エイーシャとう令嬢と並び評されておりました。

温厚なわたくしですが、さすがにこう毎度毎度顔をしかめられたり、うんざりされたり、引き攣ったりされると物申したくもなります。

「旦那様」

仏頂面がこちらを見ます。少しぐらい、意地悪言ってもいいでしょう?

「何か?」

「旦那様は今、何人の女性と関係がございますか」

旦那様は目をひん剥いてこちらをご覧になりました。まあ。おかしい。

「フィアンティーナ!?」

「単純計算で3人とわたくしは予想しておりますが」

旦那様がお屋敷に帰るのはだいたい4から5日のインターバルがございます。おそらく特別お気に入りが1人いるのでしょう。

「お前何言って」

旦那様は動揺していらっしゃいます。思わず口元に笑みが浮かびました。すると旦那様が目を見張りました。

「旦那様?」

「……なんでもないっ」

まあ。珍しく声を荒げられました。興奮していらっしゃるのか、お顔が少し赤くなっております。そんなに不快でしたでしょうか。でしたらほんの少し溜飲が下がります。わたくしは満足です。

この反応に味を占めたわたくしは、はっきりとは明言しませんが、ときおりこうしてやり返しすようにばりました。不満はあれど、文句はございません。だってよくある話ですもの。毎度毎度、旦那様はそれはそれは面白い反応をしてくださいます。

まあ、こうして仕返しをするたびに、旦那様の顔はより引き攣っていくのですけど。




☆……☆……☆




婚約者は自分で選んだ。夜会で、名高い花の一人。『水仙の君』フィアンティーナ嬢。穏やかな雰囲気と佇まいと清廉な美貌から、水仙の君と、そう呼ばれていた。俺は彼女の雰囲気が好きだった。しかし彼女を妻にと望む者は多かった。

彼女に俺が選ばれたのは奇跡だった。特別接点があるわけでもなく、秀でた家柄でもない。求婚者の中には俺よりも身分の高い男などいくらでもいただろう。その報せを聞いた時、俺は柄にもなく有頂天になった。

しかし。何度か顔を合わせるうちに気付いた。俺を選んだのは彼女ではなく、彼女の両親である伯爵夫妻だった。彼女は親の決定に逆らうことなく、ただただ従順だった。

ガッカリした。けれど、これから俺を知ってもらえばいいと思った。

好きになって欲しかった。頑張った。しかし彼女には何一つ響いてなどいなかった。

結婚が近付けば近付くほど、彼女の興味が引けないことに焦りを感じた。アドバイスをくれたのは、友人だった。

「どっかに入り浸ってみれば?」

自分を見てくれって思うかもよ?

それが全ての始まりだった。俺は娼館に通い出した。

ルル、セラヴィ、ポーラ。ルルとセラヴィは俺のお気に入りの娼婦で、ポーラは男爵家の令嬢だ。ちなみの三人より多くは出来なかった。

しかし時折帰っても、フィアンティーナは一切顔色を変えなかった。焦った。どうにかしようと、母に相談した。俺がフィアンティーナに婚約を申し込んだくせにフィアンティーナを放っておいて外泊ばかりの俺を母はよく思っておらず、フィアンティーナに失礼だと言った。しかし事情を話すと、

「では、わたくしは嫌味な姑になりましょう。そうすれば、貴方に泣きつくのではなくて?」

やつ当たりになるだろうが。しかし俺はそれでもよかった。母は早速実践してくれたが、フィアンティーナが俺に泣きつくことはなかった。

そんなこんなで結婚して一年が経つ。妖艶なルルにはフィアンティーナのことをよく愚痴る。するとルルは笑って、

「あたしが言うのもあれだけど、ケイル様なんか振られちゃえばいいのにー」

「なっ」

「他の女のとこに入り浸る亭主なんて捨てられるわよー」

その言い分は確かにその通りで、どうにかしようと友人に近々行われる夜会の招待を貰った。友人の知恵を授けられたら困るので、フィアンティーナはほとんど外出させていない。気分転換も兼ね、夜会に連れ出そうと思った。ロヴィード家の跡取りであるその友人は、まだ馬鹿なことをしてるのかと笑った。

「ストレートに言えばいいのに」

言えたら苦労しない。

好きでもない奴に言われても困るだろ。

しかしそう言うと友人は変な顔をした。

「お前ら夫婦だろ」

それでも俺は。やっぱ彼女に好かれたい。

たとえ久々の帰宅でも彼女が一切顔色を変えなくても。喜色にも怒気にも染まらない、何とも思ってない顔に何度か落胆したことか。しかも最近は早々に離れようとする。

もしかして愛想尽かされたのか。セラヴィに言うと爆笑された。

「尽かされないはずがないじゃない」

ポーラは困ったように、

「もっと奥様に優しくしてあげてください」

もう来なくていいので。と扉を閉められた。

俺はどうしようない奴だ。

「ケイルはさー。顔に出やすいよね。一回奥様に見せてやればいいのに。奥様のこと話すときのデレデレ顔」

「……俺そんな顔してるの?」

「崩壊レベルよ」

それはいかん。

セラヴィにそう言われ表情に力を入れ始めた頃。フィアンティーナは早々に離れるようになった。何故だ。


そんなこんなで変わらない関係にやきもきするなか、共にロヴィード家の夜会に向かった。フィアンティーナは心なしかウキウキしているようだった。そのさまが可愛くて、緩みそうになる顔に必死で力を入れてた。すると、

「旦那様」

彼女は俺を、名前で呼ばない。

「何か?」

「旦那様は今、何人の女性と関係がございますか」

彼女爆弾発言に、目が飛び出るかと思った。

「フィアンティーナ!?」

「単純計算で3人とわたくしは予想しておりますが」

「お前何言って」

もしかして、もう愛想尽きましたとか言われるのかこれ……。動揺していると、ふいにフィアンティーナが笑った。してやったり。とでも言わんばかりだ。

「旦那様?」

「……なんでもないっ」

その笑顔があまりにも可愛らしくて。どうしようかと思った。

それからしばらくは、ちゃんと毎日家に帰った。すると彼女は何度か、俺を動揺させてくれた。可愛い笑顔付きで。

でも流石に何度もやられると、俺の心臓も持たないし、なによりやられっぱなしは嫌だ。

だからある時。

「フィアンティーナ」

「はい」

近付いてきた彼女の足元に跪いて、手の甲に口付けを落とした。


「俺の子供を、産んでくれないか」


この日見た彼女の顔は、生涯いじり続けられるほど間抜けだった。




お読みいただきありがとうございました。

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