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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter:9 虹の向こうに何が見えるの?
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甦りの龍のヒゲ

アシェリィとシャルノワーレは何もない暗闇に沈んでいた。


人間の少女は肩を落とした。


「そっかぁ……。私たちは2回死んじゃってたから生き返れなかったんだね……」


エルフの少女もうなだれた。


「そうですわね。せめて新しい世界がどうなったのか、見てみたかったですわ……」


アシェリィは幼少の頃に病気で、ノワレは2度のドラゴン変態でそれぞれ1回死んでいた。


そのうえ、グリモアの電撃で2回目の死を迎えた。


確かに、主人公達は復活したが彼女らにはその権利は無かったらしい。


「でも、こうやってアシェリィと一緒に()ちていくのならまんざらでもなくってよ」


「ノワレちゃん……」


2人は手を繋ぎあって、深淵(しんえん)に沈んでいく覚悟をした。


目をギュッとつむって緊張した彼女らだったが、いきなり辺りが明るくなった。


まるで深海から(すく)い上げられたようだ。


そこには海龍が(たたず)んでいた。


優しげな声で語りかけてくる。


「アシェリィ、シャルノワーレ。よくやりましたね。お礼を言わせてください。貴女たちは復活したものの、既に2回死んでしまっているため生命を取り戻したのは一時的なものでした。ですが、奇跡的(きせきてき)に肉体も魂もまだ生きています。まだ諦めることはありません。今の2人が再び体へと戻れれば完全なる蘇生(そせい)が可能なのです」


日の当たる海底で死んだはずの2人は目を会わせた。


「なに、簡単なことです。私の左右に生えた2本のヒゲをかじりなさい。そうすれば不老不死(ふろうふし)……いえ、貴女たちの場合は(よみがえる)るチャンスができるかもしれません」


アシェリィは慌てた様子で声をあげた。


「でっ、でもッ!!! 海龍様のヒゲは命の源だって!!! そんな事をしたら海龍様が死んじゃうじゃないですか!!!!」


大海のドラゴンはあぶくを出している。笑っているようだった。


「安心なさい。私は長い休眠状態になってしまいますが、滅びてしまうことはありません。これは他の属性のトップの協力あってのものです。今回の大戦は私たちの責任でもあります。我々、幻魔(げんま)怠慢(たいまん)です。その尻拭(しりぬぐ)いをしてくれた貴女方を見殺しにするわけにはいきません。まぁ、復活は無理難題ではありますが……」


人間とエルフの少女達は素直に喜べなかった。


それに、(ことわり)をねじ曲げる行為が幻魔界に(およ)ぼす影響は計り知れないからだ。


弱い幻魔(げんま)は滅びてしまうし、コミュニティも崩壊するだろう。


だが、海龍は告げた。


「大丈夫。新しい世界では幻魔(げんま)も日常生活に溶け込んでいます。小さな者たちもちゃっかり出稼(でかせ)ぎに出ていますから。さあ、余計な心配をせずに、私のヒゲをかじるのです!!」


アシェリィとシャルノワーレは向かい合って(うなづ)くと前に出た。


そして同時に海龍のヒゲをかじった。


言葉にはできないが、非常にそれは美味だった。


すると辺りがグルグルと回りだした。


「我が子らよ。健闘(けんとう)(いの)ります……」


現世に戻ってきた2人は辺りを見回した。


そばを泳ぐ魚の種類からアシェリィは場所を特定した。


「ここ、ポカプエル湖の中だよ!!! 魚は幻魔(げんま)じゃない!! 本物だよ!!!!」


シャルノワーレは驚いて水面に釘付(くぎづ)けになった。


自分達の肉体が湖面に浮いていたのである。


顔は確認できないが、服装は全く同じである。


それをオルバが(のぞ)いていた。


師匠(せんせい)!!! 師匠(せんせい)!!!! 聞こえないんですか!?」


全くリアクションはなかった。聞こえていないようだ。


一方のオルバは注意深く観察した。


「これはアシェリィとノワレくんの死体……いや、生きてるな。魂を待っているかのようにみえる。空からか、いや、湖の中か。2人とも、聞こえるかい? ここが踏ん張りどころだよ。死ぬ気で体にしがみつくんだ!!!」


アシェリィとシャルノワーレは互いを見ると全力で湖面めがけてもがき始めた。


創世(そうせい)の魔術書に殺された時と似たような感触だった。


だが、あのときより明らかに反発が強い気がした。


しかも、気づくと急激に霊体が薄くなってきている。


残された時間はわずかだった。


「ぐぬぬぬぬッッ!!! 全然距離が縮まらないよ!!! 海龍様が言っていたようにこれはめちゃくちゃ無茶な事なんだよ!!!!」


苦虫を()み潰したような顔をするアシェリィをノワレは突っついた。


「無理でもヘチマでもやるしかありませんわ!!! なんとしても、2人揃(そろ)って生き返るんですわ!!!!」


その強い意志にアシェリィは元のじゃじゃ馬っぷりを取り戻した。


「私らしく無かったね。そうだよ。チャンスがあるなら何としても(つか)みとるまで!!! 行くよーーーーーッッッ!!!!」


しかし、もがけばもがくほど魂が泡となって消えていく。


彼女らの意識も薄れてきて、もはや会話をする余裕さえ無くなっていった。


(もう……ダメなのかな……)


(あぁ………アシェリィ………ごめんなさい………)


その時、アシェリィの目に釣り竿がとまった。


糸が()れてルアーが水中をふわふわしていた。


日に反射してそれはキラキラと光る。


釣りガールは無意識のうちに腰のロッドを取り出して、水中でルアーを投げた。


(から)まルアーッッッ!!!!」


師匠である人魚のウィナシュからもらったものだ。


湖のそばでオルバは魂の反応を探していた。


「どこだろう? まだ生きているはずだ。諦めるにはまだ早すぎる。なにか出来ることはあるはずだ」


創雲(そううん)賢人(けんじん)は心を落ち着けた。


それとほぼ同時に地面に立てかけてあった釣りざおが何者かによって引かれた。


あまりのパワーに竿(さお)は湖に吸い込まれそうになる。


すかさずオルバはロッドを拾い上げた。


「なんだってこんな時に限って大物がかかるんだ。お前の相手をしている暇は……」


竿(さお)(にぎ)った直後、オルバは感づいた。


「これは……人の重さだ。しかも2人分の。そうか。アシェリィとノワレくんがかかったんだな? フィジカルでの駆け引きじゃない。彼女達を釣り上げるにはメンタルを()()ますしかない。いいか、心を落ち着けろオルバ。焦ったら弟子たちは帰ってこないぞ」


彼は釣り竿(ざお)を握りつつ瞑想(メディテーション)を始めた。


鳥のさえずりや風の音が聞こえなくなっていく。


するとじわじわと湖底で揺らぐ魂を(とら)えることが出来た。


そして細いラインを伝ってこちらの合図を送った。


(アシェリィ、アシェリィ。いいかい、リールを高速で巻き上げるんだ。私がタイミングを合わせて引き上げる。うまくいけばなんとかなるはずさ。さぁ、もうちょっとだけ頑張って!!)


創雲(そううん)はほんのわずかな反応を逃さないように全身全霊(ぜんしんぜんれい)をかけた。


身体中からぶわっと脂汗(あぶらあせ)が出てくる。


しかし、もはやアシェリィにはリールを巻き取る力が残っていなかった。


"もうダメだ"


そう思った時だった。今度はノワレが根性を出して見せた。


アシェリィの手とリールを握りしめて、限界ギリギリまでマナを注ぎ込んだのだ。


その魔力を受けとると釣りざおの少女はカッと目を見開いた。


「いまだッ!!! 猛回転リール巻き取りッッッ!!!!」


陸上のオルバはそのかすかな反応をキャッチした。


「そらッ!!!」


凄まじいスピードで湖面に向かった魂は浮いている肉体と衝突した。


アシェリィとシャルノワーレがまず感じたのは(おぼ)れている感覚だった。


「ぬわっぷ!!!! おわっぷ!!!」


「あぼぼぼ!!! ぼふっ!!! ぼぼっ!!!」


雲の賢人(けんじん)は彼女らが生身の身体に戻ったのを確認すると、ふらふらと自宅のほうへと消えていった。


「あっ!!! ゴポポ……せんせい!!! 引き、引き上げてください…ガポガポ……よォ!!!」


湖に背を向けてオルバはつぶやいた。


「うん……? 私が海龍に繋いでファイルくんや、彼女らの復活を助けたのは夢じゃなかったのか? でも、アシェリィくん達の2回目の蘇生(そせい)を手伝ったのは現実だった気もするし。そもそも私は彼女達の存在を覚えていた。これは……創世(そうせい)に近づきすぎたからだろうか? ひょっとして私にも記憶が残っているのかな?)


彼はしばらく立ち止まって考えていたがすぐに答えを出した。


「ま、これが夢だとしたら寝たら()めるでしょ。もうどれが夢なんだか現実なんだかわからないし。まさに夢現(ゆめうつつ)だなぁ。いや、これはきっとタチの悪い夢だな。ここ最近は本当にハードだった。なんで夢の中でもしんどい思いをしなきゃならんの。さて、昼寝しよう」


賢人はとぼとぼと森の奥へ消えた。


その頃、なんとかアシェリィとシャルノワーレは岸にたどり着いていた。


「げほ!!! げほげほ!!!! 師匠~~!!! ポカプエル湖は塩湖なんだからさぁ。引き上げてくれなきゃ……うえっ、しおっから!!!」


人間の少女がむせているとエルフの少女が抱きついた。


「アシェリィ……私たち、本当に(よみがえ)ったのですのね?」


アシェリィは彼女を抱き返した。


互いの体温や鼓動(こどう)を感じとることができた。


「うん。そうみたい。奇跡的(きせきてき)だったみたいだけど、生き返ったもん勝ちだよね!!!」


2人は涙で顔をグシャグシャにしながら満面の笑みを浮かべた。


その後、一息つくと彼女らは湖の湖畔(こはん)に寝そべった。


あれこれと疑問が沸き上がってきた。


「ねぇ、アシェリィ。本当に新しい世界は(つく)られたのかしら? 何も変わっていないように思えるのだけれど……。本当に融和(ゆうわ)知恵(ちえ)、勇気と隣人愛のある世界に変わったのかしら?」


そう問いかけられた少女は辺りを見回した。


「う~ん、ここはとにかく人気(ひとけ)が少ないから、何が変わったのかはわかんないね。パッと見、変化はないみたいだけど……」


とんがり耳の少女はオルバが消えた方向を指差した。


「アシェリィの師匠(せんせい)、記憶改変の影響を受けてないように思えたのですが……」


その弟子は腕を組んだ。


「確かに。一連の出来事に深く関わってたからね。昼寝を邪魔するのは気がひけるけど、詳しいことを聞くのは師匠(せんせい)が適任だと思うよ。記憶が無くなってたらそれはすっごくイヤだけど、今は話してみるしかないね」


こうして2人は創雲(そううん)賢人(けんじん)の家へと向かった。

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