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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter:9 虹の向こうに何が見えるの?
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創世のアイドル

カラミティ・ドラゴンは邪悪なオーラを放ちつ、体を震わせた。


次の瞬間、落ちた頭のあった場所からレーザーが撃たれた。


それは足元の床を突き抜けて大地をえぐっていく。


王都ライネンテの人々や、都市を巻き込んで。


そのままの勢いでカルティ・ランツァ・ローレンやミナレートを真っ二つにした。


激震(げきしん)をあげながら大地が割れる。


それぞれが島になってしまうレベルの被害だった。


慈悲のない攻撃はまだ続く。


今度はダッザニアやウォルテナが破壊されていった。


すべての大陸に破滅の光が降り注ぐ。


終いには魔界や冥界(めいかい)幻魔界(げんまかい)にまで被害は及んだ。


楽土創世(らくどそうせい)のグリモアだったモノは(よろこ)びに包まれていた。


「あぁ……たまらぬ。全世界から集まる苦痛、苦しみ、憤り、混乱、絶望の叫び。それこそが(われ)(ちから)の源……」


ドラゴンはそう言いながら夕焼け空に溶け込んでいった。


最初は青空の天の上のような空間だったが、それは仮の光景だったらしい。


今は本性を現して世界崩壊を思わせる空のになっていた。


そして、それは姿を現した。


まるで舞台装置のよう白い彫像(ちょうぞう)のようなものがせり上がってきた。


まず、筋肉質で半裸の男性の上半身が浮き上がってくる。


片腕には骸骨(がいこつ)の頭部を、もう片腕には悪魔の頭を持ち上げていた。


それぞれの頭は人間部分のよりは一回り大きく、両肩の上に担がれていた。


腰布は2人の妖精が掴んで覆っている。


そして、足首から下は床から生えるように土台がついていた。


これらの全てが白い彫像(ちょうぞう)のような質感をしていた。


「龍は人間の畏怖(いふ)する存在。しかし、人間の肉体や精神はそれを超越(ちょうえつ)する。悪魔や(しかばね)幻魔(げんま)までも制する人間の肉体美。そしてそこから(あふ)れる(たくま)しさ。素晴らしいとは思わんか。これはその姿を体現したものだ」


今まで戦ってきたものとは明らかに異質で4人は混乱した。


「悪趣味に思えるか? これはお前たち、人類の意識下を(すく)ったもの。まぁ私としては、もはやどんな姿形でもかまわない。既に創世(そうせい)の秒読みは始まったのだからな。間もなく、今まで通りに(われ)が感情を搾取(さくしゅ)する世界に戻る。そう(りき)むこともない。また恐れることもない。なぜなら全てが元に戻るだけなのだから」


姿は変わったが、結局は魔術書やドラゴンの望んだ世界と同じだった。


「もちろん、私を破壊するという選択肢もお前たちにはある。だが、このまま(とき)が過ぎるのを待てば、今までいた平穏な世界で暮らすことが出来る。これは最後通告だ。刃を向けるならば今度こそ、命を刈り取らせてもらう。夢の楽園か、現実の地獄か。比べるまでもないと思うのだが……」


確かに平穏な生活には戻れるかもしれない。


だが、それは楽土創世(らくどそうせい)のグリモアの欲望を肯定(こうてい)することになる。


きっと今までの歴史の中でも、何度もこういった決断が行われてきたのだろう。


それでもこの星の寄生者が滅びていないのはつまりそういう事である。


ファイセルも、レイシェルハウトもアシェリィもシャルノワーレも……。


たとえ辛い現実に直面しようとも、この負のループから世界を解放する。そう強く決意していた。


特に話し合ったわけでもないが、心は1つだった。


そして、彼ら彼女らは武器を構えた。


彫像(ちょうぞう)はピクリとも動くことなくそれに答えた。


「人間とはもう少し(かしこ)い生物だと思っていたが、とんだ買い(かぶ)りだったようだ。いいだろう。お前たちも絶望に沈んで新世界の(かて)となれ!!!」


創世の像は神々しく、聖なるプレッシャーをかけてきた。


さきほどの姿とは似ても似つかないオーラだ。


人にプラスに影響することの多い聖属性だが、あまりにも強すぎるとそれだけで肉体を滅ぼす。


創世(そうせい)の彫像は片手を天にかざした。


人智超覇(じんちちょうは)(きら)めき」


清らかな光に飲まれていく。だが、それは全てを焼き付くすような強烈なものだった。


これを防ぐ手立ては無いように思えたが、魔術覚醒(アウェイキング)したファイセルが動いた。


肩掛けカバンの中身をガサゴソと漁る。


「えーっと、あーっと、これでもなくって……。じゃーん!! 常闇(とこやみ)のランタン!!!」


彼が黒く光るランタンをかざすと光が一気に吸い込まれていった。


そして空間はインクをぶちまけたように真っ黒に染まった。


場の属性が闇に染まったので、聖属性は弱体化した。


「面白いマジックアイテムを使う。見直したぞ。(あや)めるには()しい(ちから)だ」


感心しているスキをノワレは突いた。


「よそ見が命取りでしてよ!!」


彼女は星弓(せいきゅう)を連射したが、土台ごと回避し、これをかわしきった。


「まだッッッ!!!!」


2連射して人体の弱点と思われる頭部と心臓を()ぬいた。


クリーンヒットしたが、これではダメージを与えられていない。


ダメ元なのだから仕方がない。 そう全員が思った。


体内のどこかに(コア)があるのか、弱点属性があるのか、はたまた体外に実体があるのか。あるいは無敵なのかもしれない。


全ての可能性を視野に入れたが、破壊する前にこちらが持たない。


主人公たちは焦りを隠せなかった。


「どうだ? 怖いか? 案ずるな。(われ)の養分となるだけだ。お前たちは弱点を探そうとしているらしいが、それは(あさか)はな考えだ。我は世界中の負のエナジーで構成されている。お前たちが世界中に夢や、希望、救いを与えでもしないかぎりは我は滅びぬ。ザフィアルが望んだ滅亡による救済のほうが現実的なのでは思えてくるな」


さきほどの大破壊で世界は絶望に満ちていた。


人間とエルフの、しかもたった4人程度で何が動かせるのだろうか。


そうこうしているうちに自分達も希望を失っている事に気づく。


心が底無し沼にハマっていき、戦意は削られていった。


「お前たちも絶望に取り込まれるか。そもそも4人で出来ることなどたかが知れている。最初から結果はわかっていた。そうだろう?」


彫像(ちょうぞう)もどきは知ったような口を叩いた。


いや、本当に知っていたのかもしれない。


そんな時、アシェリィのサモナーズ・ブックが輝いた。


真っ黒な空間から豊かな海の海底に変わる。


イメージされた風景なだけで、実際に息苦しくなるわけではなかった。


さきほど空に浮いていたのもそのせいだ。


巨大な海龍がゆったりとこちらにやってきた。


「思い出しなさい。あなたがたは希望によって死を克服(こくふく)しました。再び絶望に飲まれそうになっても、希望は決して(つい)えることはありません。ほら、見てみなさい」


絶望に押し潰されたかと思われた世界だったが、星の住民達は再び(いの)り始めた。


人間や悪魔などに関わらず今、この時だけは同じ平和や希望を描いた。


「どうか、負の鎖を断ちきり、この星に平穏を」……と。


残された希望が4人のマジックアイテムになだれ込む。


ファイセルの婚姻(エンゲージ)チョーカー。


レイシェルハウトの魔剣ジャルムガウディ。


アシェリィのサモナーズ・ブック。


シャルノワーレの母樹(ぼじゅ)星弓(せいきゅう)


それぞれが爆発的な量のマナを集めて、使い手の魔力を飛躍的に上げた。


創世(そうせい)彫像(ちょうぞう)は波動を放って海龍を深海に押しやった。


「いいですね? 弱点を突こうとは思わないことです。ただ、ありのままを叩きつける。それぞれがベストを尽くせば世界は変えられる……あなたたちなら!!」


敵は海龍を見下した。


幻魔風情(げんまふぜい)が。余計な真似をしてくれる。だが、もう手遅れだ。お前らに出来ることは何もない」


そういうや(いな)や、レイシェルハウトが無詠唱(むえいしょうで)で魔術を発動した。


彫像(ちょうぞう)の左足にエネルギー体で出来たワイヤーアンカーを打ち込んだ。


相手の素早い回避を先読みしてワイヤーを引っかける。


直後、その線を急速で巻き取り、猛スピードで接近した。


「はああああぁぁぁッ!!! 風輪(ふうりん)のリーンラウテ!!!!」


空中で体ごと高速スピンし、相手の左足に突撃をかけた。


「ギャリギャリギャリギャリ!!!」


嫌な高音を立てて刃がめり込んでいく。


かなり深いところに食い込んだところで不気味な像は回避行動をとった。


レイシェルハウトはからぶる形になったが、まだワイヤーが巻き付いている。


宙で方向転換すると再び突進をかけた。今度は右の脇腹である。


「ギリギリギリギリギリギリ!!!!」


(どう)を一気両断する勢いだ。


また逃げようとしたが、シャルノワーレがそれを牽制(けんせい)した。


空中で遊ぶワイヤーめがけて不思議なタネを指で弾いた。


それはすぐに発芽(はつが)するとラインに沿って(つた)が伸びた。


そして敵に直撃すると身体中に太いサボテンが生えて寄生者を抱き込むようにして刺さった。


ノワレの植物に魔力を込めるシード・アウェイカーだ。


動きを封じた間、着実にレイシェルハウトは胴体を切断していった。


相手は確かに傷ついてダメージが通っていたが、痛んだり苦しんだりはしなかった。


像なので当たり前と言えば当たり前なのだが。


そんな中、敵はつぶやいた。


「素晴らしい。素晴らしい。それこそ命の躍動(やくどう)。だが、それは最後の輝きだ。このペースでは間に合わない。さあ、あがいてみせよ」


こうして戦いは最終局面を迎える。

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