災イニ畏怖ス
楽土創世のグリモアは姿形を変えていった。
魔術書の殻を破り、それは巨大なドラゴンとなった。
かなりの巨体で首長竜のようなフォルムをしている。
体のところどころがマグマのように明暗していた。
たてがみも生えていて、燃え上がっている。
「ギャハハハハ!!! お前らの畏怖する龍の姿に仕立ててやったぞ!!!! さしずめ、"カラミティ・ドラゴン"っつーとこかな!! ゲハッゲハッゲハッ!!!!」
相手が名乗るかどうかというところでファイセルが動いた。
「よくも……よくもみんなをひどい目にあわせてくれたな!!! お返しだ!!」
彼は片足を勢いよく振りあげた。
「あーした天気に……なぁれッ!!!!!!」
ローファーが跳んで物凄い勢いでドラゴンの頭部をとらえた。
「ビシューーーンッ!!!」
靴だけの強烈なキックがグリモアにヒットする。
思わず禍々(まがまが)しい龍は大きくのけぞった。
「ぐぉあッ!!! コイツ、バカにしやがって!!!!」
よろめく敵に後ろから何かが体当たりしてきた。
猛烈にスピンがかかっている。大きな蒼い狼だった。
「いっけぇ!!! アルルちゃん!!!!」
回転タックルの後、水圧カッターで龍の懐をえぐった。
「グギャアアアアッ!!!」
アルルケンは着地してアシェリィの方を見た。
「ようやく実力で呼びだせるようになったが、これで最後か。美味いマナだが、お前の生命力を削ってるかと思うと後味はよくねぇな」
アシェリィは狼をひたひたと撫でた。
「まあまあ。最後だからこそ一暴れしちゃおうじゃない!!!」
それを聞くとまたアルルケンはドラゴンに食いかかっていった。
ファイセルとアシェリィがスキを作ったところでレイシェルハウトが前に出た。
「荒嵐のフュミュラート!!!!」
魔剣ジャルムガウディを振り回してドラゴンを切り刻む。
「破禍のダインズレウス!!!!!!」
禍々(まがまが)しい化け物を切り裂くように盾状に旋風を巻き起こした。
続いて魔剣とショートワンドを両手持ちにする。
高くそれらを天にかざすと剣術と魔術が一体化した。
バリバリと魔力を帯びつつ、剣は拡大するように広がった。
「はああああッ!!! 天覇のリューンギルド!!!!!!」
縦、横とレイシェルハウトは幅広の斬擊を展開してなぎはらった。
属性と言うよりは純粋なマナを実体化させたエネルギーブレードだ。
「ぐがおおおおおッッッ!!!!!!」
高威力の3連撃がクリティカルヒットした。
攻撃が決まったのを確認するとシャルノワーレはスナイパーの目で狙った。
「ビスンッ!!! ビスンビスンッ!!!!」
数本のエネルギー体の矢がカラミティの頭を貫く。
だが、あくまで龍は仮の姿。どこの部位にどうやってダメージを受けようがあまり関係がなかった。
ダメージを与えているようには見えず、手応えがない。
だが、先手をとられたドラゴンは苛立っていた。
何をしでかすかわからない危うさがある。
「バカな!! お前らみたいなヤツらに俺が!? こんなの想定外だ!!!! こんなの想定外だ!!! お前らみたいなイレギュラーが居てたまるものか!!! お前らはな、お前らは俺の玩具で上等なんだよ!!!! おとなしく死ねェェェ!!!!」
龍は赤、黒と点滅する炎を吐き出した。
明らかに壊滅的な威力の攻撃だった。
しかし、あたりが海底になって炎は消えた。
どこからか穏やかな声がしてきた。それは海龍のものだった。
「楽土創世のグリモア……いえ、星に巣食う者。もう滅びるときが来たのです。大人しく消えさりなさい」
禍々(まがまが)しいドラゴンは水龍を皮肉った。
「何度も何度も見て見ぬをしたお前らが今更それを言うかよ!!! 都合がよくなったらそれだ!!! どうせ薄っぺらく『可能性を見いだしました』とか言うんだろ!? お前らだって俺と同類のクセしてよ!!! とんだ風見鶏だよお前らは!!!! グゲッグゲグゲ!!! 所詮はそうやって高見の見物なんだろ? 生憎だが、俺ぁ滅ばねぇぜ!!!!」
海底から上空に舞台が戻った。
その直後、カラミティは激しくじたんだを踏んだ。
床がないように見えるが、確かに足場がぐらぐらと揺れている。
ファイセルは軽くジャンプすると長い間、滞空した。
布を飛行させて飛ぶのは割と簡単だ。しかし、人をのせるとなると話は違う。
ただ、今のファイセルの場合は事情が違った。
「お……? 滞空するだけのつもりだったけど、思ったより軽い。これなら空を飛べるかもしれないぞ」
などと、またもや自分でも予想外の応用を編み出しつつあった。
レイシェルハウトは回避呪文、ウィン・ダ・ボイドの発展型で震動の合間を縫うようにかわした。
ひらり、ひらりと揺れるポイントだけを器用にかわしていく。
「サモン!! スカイ・ブルー!!!」ヒスピス!!!!」
アシェリィはパワーアップした鳥の幻魔を呼び出した。
ヒスピスはもともとワシくらいの大きさだったが、今は人が乗れるくらいに大型化していた。
「ノワレちゃん!!」
「ええ!!! アシェリィ!!!」
アシェリィは幻魔に飛び乗るとシャルノワーレを引っ張りあげた。
こうして4人ともドラゴンの振動と踏みつけを回避しきった。
「ギャハハハハハハ!!! お前らコケにしやがって!!! 今度は俺の番だってんだよ!!!!」
創世のドラゴンは首をのばしてグルグルとかき混ぜるように動いた。
青空だったはずの場所がマグマのように変化した。
まさにこの世の終わりの光景と形容できる。
そして紅い空から真っ赤な雪が降り注ぎ出した。
「グギャギャギャ!!! 死ね!! 死ねえエエェ!!!」
攻撃を止めたアルルケンが叫んだ。
「こりゃ溶解雪だ!! 体に触れると溶けるぞ!!! なんとかしてやり過ごせ!!!!」
アシェリィたちは急上昇したが、頭上からのプレッシャーで押さえ込まれてしまった。
すぐにファイセルが声をかける。
「レイシェルハウト、アシェリィ!! 僕の鞄にめがけて急いで!! シェルターを展開するよ!!!!」
3人は地上のバッグへと駆け込んだ。
ヒスピスは一旦引っ込めておく。
汚い嘔吐の音の後、中身をぶちまけてからカバンは反対に裏返った。
そして伸縮性の素材で応急テントへと変化した。
ここに来てファイセルの魔術が恐ろしいまでに極まっていると他の者は思った。
それもそのはずで、なにせ本体が布になってしまったのだ。
シンクロどころの話ではない。
だが、さすがに頭部は守らなければならない。
「こりゃまずい。えーと、あーと……これだ!!」
カバンの底にしまってあったコフォルの帽子が飛び立った。
すぐにえんじ色のとんがりハットがファイセルの頭を守った。
「まさかここで役立つなんて……。コフォルさん、使わせてもらいます!!」
彼は帽子のフチをクイックイッと動かした。
「えーと、これだと当たっちゃうから、ペラペラにして……」
地上から見るとファイセルは被弾しまくっているように見えた。
「ファイセルさーーーーーん!!!!」
「せんぱーーーーーーいッ!!!!!!」
「ファイセルせんぱーーーーい!!!」
だが、彼は器用に服をよじったり、自分で絞ったりしてやり過ごしていた。
「うーん。リッチーってこういう気分だったのかな。ってそんなことを考えている場合じゃない!! 喰らえッ!!! ロケットパンチ!!!!」
衣服使いの手袋が握りこぶしを作って飛んでいった。
それはドラゴンの頭にクリティカルヒットした。
「ぐあおおおお!!!!!! 俺をバカにしてるだろ!? ふざけやがって!!! ふざけやがって!!! ふざけやがって!!!!!」
カラミティがファイセルを追おうとする直前にアルルケンが飛び出した。
「ふざけてんのは、てめぇだよ!!!!」
尻尾の強烈な一撃を立て続けに敵の頭に打ち込む。
すると、シェルターの天井に小さな穴が開いた。
ファイセルからはなんの連絡もなかったが、意味もないのに穴を開けるはずはない。
絶好のチャンスに続けと言わんばかりだ。
自然とシャルノワーレは片ひざをついて、穴の下から弓を引き絞った。
禍々(まがまが)しいドラゴンは集中攻撃を受けて大きくのけぞった。
はげしく動くターゲットに小さな穴。
狙いを定めるのは至難の技としか言いようがなかった。
だが、彼女はやってのけた。
「ビスン!! ビスンビスン!!!」
エルフ特有の能力に彼女の腕前、そして母樹の星弓の魔力が合わさってできた神業である。
エネルギー体はまたもや龍の頭を貫いた。
すると、カラミティの頭はもげて落ちてしまった。
頭のない龍は首だけをうねらせた。
どこからともなく声がする。
「ゲハハハハ!! グギャギャギャ!!!! ドラゴンのフリしてやってるだけで、弱点が頭とは限らねぇんだな。それこそ、頭がなくても問題はねぇンだな!!!」
カラミティの言うとおり、ダメージを受けたフリをしていたようだった。
「ギャハハハハ!!! 残念、残念だよ。果敢に悪のドラゴンに挑む主人公たち……なんちゃって!! ごっこ遊びするのはもうおしまいだよ!!!! お前らくらい、いつでも殺せンだ。 どうだ? 今度はいい塩梅だったろ? ほどほどに攻撃しつつお前らに華は持たせてやったしな!!! ゲハッゲハッゲハッ!!!!」
それでも4人は戦う姿勢を崩さなかった。
「お? おめーら、まだやる気かよ。本当にナマイキだな。往生際悪いぜ。このままあっさり殺してやろうかと思ったが、やっぱ弱いものイジメは愉しいなァ……。最後の最後まで苦しんで殺されろよな」
壊れそうになるほど、空間がグラグラと揺れる。
そして禍龍はおぞましいオーラを放った。




