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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter:9 虹の向こうに何が見えるの?
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立ち上がる4人の主人公

レイシェルハウトとクラリアは霊体が薄くなって天に旅立とうとしていた。


だが、そんな2人を誰かが、がっしり上から(つか)んだ。


もの凄い勢いでグイグイ押されて消えかかっていた2人は我に帰った。


振り向くとそこにいたのはアレンダだった。


「お嬢様、クラリアさん!! なに(あきら)めちゃってるんですか!!! こんなところで終わりでいいんですか!?」


アレンダは死体をつぎはぎにして(ひど)い見た目になったはずだったが、ここにいる彼女は生前と同じ姿をしていた。


「ほら!! 2人とも!! せーのッッ!!!!」


アレンダの力強い後押しで、消えかけていた霊体はもとに戻った。


そして少しずつ肉体に近づいていく。


必死に押し込みながらクラリアが応援した。


「いける!! いけるよ!!! (くじ)けないで!!!!」


だが、魂が体から押し返される(ちから)は非常に強い。


またもや膠着状態(こうちゃくじょうたい)(おちい)ってしまった。


そんな中、ふわりと体が軽くなった。


後ろを見るとレイシェルハウトの父と見知らぬ女性が加わっていた。


「お父様!! それに……母…様?」


両親は(うなづ)いた。


「すまないレイシェルハウト。立派な武士として育てようとするあまり、お前に父らしいことは何も出来なかった。妻にも申し訳ないと思っている。私に出来るのは……このくらいだ!!」


父、ラルディンの霊体は思い切り娘を押し出した。


「私こそ、あなたが幼い頃に死んでしまったから、母親らしいことはなにも。それどころか顔さえ覚えていないでしょう。でも、娘を想う気持ちは誰にも負けません!!!」


母、マーネも娘の背中を押した。


「父様……母様……」


おもわずレイシェルハウトは涙を流したが、その気持ちを無駄にしまいと体に戻れと強く念じた。


ゆっくりだが、彼女の魂が死体に近づいていく。


だが、やはり死者蘇生(ししゃそせい)のハードルは高く状況は一進一退だ。


必死にこらえているとまた体が軽くなった。


今度は誰かと振りと向くとレイシェルハウトは思わずギョッとした。


そこには(あかつき)呪印(じゅいん)が抜けたクレイントスが現れていた。


「クレイントス!! あなたがなぜここに!? 」


彼はひらひらと両手を振って、敵意がないことを示した。


「おっと。誤解しないでください。おかしな話ですが、どうやら私も死んでしまったようでして。そこいらをさ迷っていると面白いことをやっているな、と。前人未到(ぜんじんみとう)死者蘇生(ししゃそせい)にかけてみるのも悪くはないと思いまして。貴女とは腐れ縁のオトモダチですしね。それに星の寄生者に一発くれてやりたい。あなたにはそれが出来る」


元が霊体だったリッチーのクレイントスは人間の霊体に比べてがっしりとしていた。


見えない手で彼が(ちから)を込めると一気に肉体が近づいた。


「……クレイントス、まさかあなたに心から感謝する日がくるとはね」


だいぶ肉体に接近したが、まだソウルは届かない。


だれかまた援軍がくればとレイシェルハウトが思ったときだった。


彼女の両腕を誰かが(つか)んだ。


サユキとパルフィーである。


「!? あなた達!? し、死んでしまったの!?」


腕をぐいぐい引っ張りながらパルフィーはツッコミを入れた。


「勝手に殺すんじゃねぇよ!! あたしもサユキも生きてるっつーの!! むしろ死んでるのはお嬢のほうだろ!!」


和服の(そで)をたくしあげてサユキも声をかけた。


「お嬢様、よく見てください。あなたの背中側にいるのは亡くなった方々。正面にいる私たちは所謂(いわゆる)、生き(りょう)のようです。さぁ、いいから今は集中して!!!」


背中の全員の(ちから)、そして腕を引っ張られた勢いでレイシェルハウトの魂は一気に肉体に転げこんだ。


「………ッッッ!!!!」


死んだはずの少女は半身を起こしてまっさきに胸に手をやった。


「胸の……傷が……塞がってる?」


身体中をペタペタと触る。


心臓は確かに動いているし、呼吸も出来ている。


体に暖かみがあり、生きた肉体を感じとることができた。


だが、クラリアのペンダントがない。


(あわ)てて辺りを見渡すと見えない床の上にクラリアとアレンダの遺品が粉々になっているのを見つけた。


「あれは……夢じゃなかったのね……」


レイシェルハウトは立ち上がると魔剣ジャルムガウディとショートワンドを拾い上げた。


楽土創世(らくどそうせい)のグリモア……あの負の連鎖(れんさ)の元凶を断ちきらなければいけない。それが(よみが)えらせてもらった私の運命(さだめ)!!!」


こうして奇跡的に生き返った少女は導かれるように歩き出した。


その頃、アシェリィとシャルノワーレはゆっくり瞳を開けた。


そこは海の中のようだったが、そばに大樹が生えていた。


ありえない光景だったが、いまさら何があっても驚くでもない。


ゆっくりと海底から大きなドラゴンが現れた。


「あっ!! あなたは!!!」


蒼い体に長ヒゲ、長い首にヒレのついた手足。それは間違いなく海龍だった。


「こうやって会うのは初めてですね。アシェリィ……」


属性を(つかさど)るドラゴンに会えるとはただごとではないと少女はあたふたとした。


「アシェリィ、落ち着いて聞くのです。今、起こっている奇跡は失われつつある命を取り戻すものです。ですが、あなたは幼少期に一度、病気で命を落としています。そして、さきほど2回目の死を迎えました。これ以上、魂をとどめ続けるのは不可能なのです。一時的に私の生命力を与えますが、そう長くは持ちません。ですから悔いの無いよう、生命を燃やすのです!!!」


一方のノワレもカホの大樹から現実をつきつけられた。


「母様……母様なの?」


彼女は葉をざわざわと()らして答える。


「シャルノワーレ。元気ですか? ……と聞くのは(こく)ですね。あなたはドラゴニアの種を飲みましたね? 覚悟していたとは思いますが、その時点で貴女も命を落としています。私もその場しのぎで命を繋ぎ止めていますが、残された時間は短い。アシェリィと同じく、間もなくして貴女は息絶(いきた)えます。ですから行くのです!!」


それを聞くと2人は(そろ)って苦笑いしてしまった。


「あはは。ノワレちゃん、私たち、死んじゃうみたいだね」


とても死を前にした者の態度ではなかった。


「ふふふ。こんな状況で笑えるなんて、やっぱりアシェリィはアシェリィですわ」


だが、似たような感性だからかノワレも笑い返した。


「ほら~~~。ノワレちゃんだって笑ってるじゃん」


しばらく(なご)やかなやりとりを繰り返すと彼女らは顔をキリッと引き締めた。


アシェリィは輝くサモナーズ・ブックを(かか)げた。


「海龍さま!! もうちょっとだけ、私に(ちから)を貸してください!!! これだけはケリをつけないと死にきれません!!!!」


ノワレもキラキラと光を帯びる弓を持ち上げた。


「母様!!! 私も多くは望みません!!! ですが、アシェリィと同じくこのままでは死ねないわ!! なんとしても、アイツだけは!!!」


2人が少しずつ浮かび始めると人の気配がちらほらし始めた。


「これは……エルフの里の!?」


カホの大樹の周りに殺されてしまったエルフ達が集まり、ノワレに声援をおくった。


「み……みんな……」


思わず涙があふれる。


アシェリィの方には死んでいったサモナーズ・クラスの面々がいた。


フラリアーノも居る。彼は優しく声をかけた。


「アシェリィさん。後悔しないように、全力でやってきなさい」


リコットも声をかけてきた。


「ほんとはアシェにはこっちに来てほしくはなかったし。ま、それは全てが終わってのことだし。ヘマしたら許さんし」


彼女ははにかんだ。


コレジールも来ていた。


「先生も……死んじゃったんですね……」


彼は白いヒゲをいじった。


「ファイセルのほうに行っても良かったんじゃが、アイツはなんだかんだでやりおるからな。お主を送り出しにきたわけじゃ」


ナッガンクラスの面々もそろっていた。


ここにくるということは死んでしまったということになるが、死者の多さにアシェリィもシャルノワーレも絶句(ぜっく)してしまった。


ナッガンまで死んでしまうとは信じがたかった。


「お前らならやれる。俺たちの生きた証を世界のどこかに(きざ)み付けてくれ……」


クラスの皆は笑みをうかべ、無言のままアシェリィとノワレを力強く押し上げた。


どんどん体が上に(のぼ)っていく。


やがて真っ黒焦げになった2人の死体が見えてきた。


アシェリィは不安げだ。


「ね、ねぇ、ノワレちゃん……これホントに復活できるのかな?」


エルフの少女も首をかしげた。


「……かなり怪しいですわね。でも、今は海龍様と母様を信じましょう」


そうこうしているうちに彼女らの魂は肉体に入り込んだ。


2人はガバッと起き上がった。


どうやら体は元に戻ったようだ。


真っ黒焦げから蘇生(そせい)したわけで、本当の奇跡だと確信せざるをえなかった。


シャルノワーレはアシェリィに確認をとった。


「私たちは確かに(よみがえ)かえりましたわ。でも、それは一時的なもの。なぜなら私たちは一度死んでいるのだから。二重に生き返ることはできないわ……残された時間はあとわずか……」


だが、アシェリィは清々(すがすが)しいまでに勇気に(あふ)れていた。


いや、いつも通りの蛮勇(ばんゆう)かもしれない。


「望むところだよ!!! ノワレちゃんと一緒なら天国でも地獄でもかまわない!!! さ、楽土創世(らくどそうせい)のグリモアを壊しに行こう!!!!!」


思わず恋人たちは苦笑いを浮かべた。


そして痛いほどのハイタッチを交わした。


次の瞬間、見えない壁が崩壊した。


ファイセル、レイシェルハウト、アシェリィ、ノワレが合流する。


「アシェリィ!! ノワレさん!! レイシェルハウトさん!!!」


ファイセルが無事を確認すると他の面々も互いを呼んで無事を確認しあった。


中央にある創世(そうせい)の魔術書はバタンバタンと激しく開いたり閉じたりをしていた。


「なんでだ? なんでお前ら生き返ってんだよ!? お前ら確かに死んだだろ!? なんで、なんで生きてやがるんだ!!!!!」


これは想定外だったらしく、星の寄生者は動揺していた。


だが、すぐに平静を取り戻した。


「グゲッグゲグゲッッッ!!!! この死に損ないどもめが!!!! そんなちっぽけな魂で運命(さだめ)をひっくり返せるかよ!!!今度こそお前らをぶっ殺して、予定通りに俺の都合のいい()(つく)ってやるよ!!! もがき苦しみながら死ねェェェ!!!!」


すると楽土創世(らくどそうせい)のグリモアは別の姿に変形し始めた。


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