バッドエンドなンだよ!!
天空に招かれてアシェリィとシャルノワーレは困惑した。
ファイセルも、レイシェルハウトも確認することができなかったからだ。
そんな中、2人を殺した楽土創世のグリモアがやってきた。
「グゲッグゲゲゲゲゲッッッ!!!! ファイセル君もレイシーちゃんも死んだよ。いや、俺が殺したんだっけかな? ギャハハハハハ!!!!!!」
こちらを動揺させるウソだと人間とエルフは思った。
「これがどっこい、夢じゃなくて本当なんだなァ!!」
空中にファイセルとレイシェルハウトの無惨な姿が浮かび上がった。
「ファイセル!! ファイセル!!!! うあああああッッッ!!!!」
生首を抱えたリーリンカの慟哭が聞こえる。
一方の倒れたレイシェルハウトは夥しい量の血を流して息絶えていた。
創世の魔術書はアシェリィとレイシェルハウトに現実を突きつけた。
「別にこれをウソっぱちだと思ってもかまわねぇよ? 信じられない。こんなこと信じられねぇよなぁ!? これがマジなんだなこれがァ!! だってよ、俺がお前らにウソつく意味がねーもん。お前らにそんな小細工必要ねぇし。赤子の手を捻るよりも簡単にお前らを殺せンだからな!!!!」
状況は絶望的だ。しかし、アシェリィもシャルノワーレも強い意思を持っていた。
「よくも先輩とレイシェルハウトちゃんを……。そりゃ辛いしくじけそうだよ。くじけそうだけどッッッ!!! 他の死んでいった人たちもそう。みんなのためにもこんな世界のルーブは許せない!! この身、滅びてもお前だけは粉々にしてやる!!!!!!」
アシェリィは憎しみに満ちた表情を浮かべた。
その覚悟から涙を流すことはなかった。
そして素早くサモナーズ・ブックを喚びだした。
「もとはといえば全ての元凶はあなた。放置すればまた大戦が起きる。当然、復讐者も増える。そんな思いをするのは私だけで十分でしてよ!!!!!」
ノワレも同じように引き締まった顔をした。
そして母樹の星弓に手をかけた。
そんな2人をグリモアは煽った。
「おいおい。憎しみが原動力なのかよ。それじゃあ俺は倒せねぇな。なぜなら憎しみは俺の大好物だからな!!! ドツボにはまるだけだぜ!!!!!」
これを憎まずして、何を憎むのか。
だが、ここで相手の挑発に乗っては思うツボだ。
何度も憎しみに飲まれそうになったが、2人はこらえて平常心を保った。
魔術書は不機嫌そうだ。
「あんだよお前ら。憎くないのかよ? 憎しみに狂ってかかって来ないのかよ!?」
アシェリィもシャルノワーレも黙ったまま、じっと敵を見つめた。
「チッ!! 感情に抗うつもりか!? なんだよその勝ち目アリみてぇなマジの顔!!うっぜぇなァ!!! 俺に勝てるわけねェだろォ!!!!」
ペースを乱されてグリモアは苛立ち始めた。
だが、そいつはすぐに感情を収めていつものテンションに戻った。
「ゲハハハハ!!! その余裕ぶったツラ、いつまで持つか見物だな!!!」
魔術書はページをバラバラめっくってバタンバタンと開いたり閉じたりした。
「さて、今回のテーマだが"大切なものを失いつつ死んでいく事"だ。ファイセル君は身体を失ったし、リリィは旦那を目の前で殺された。レイシーちゃんはうっかり楽園に誘われて命と、親友を失った。じゃあお前らは……?」
アシェリィとシャルノワーレは思わず互いを見つめた。
「はーい正解ィィィーーーー!!! お前らの大切な物、それは互いの命だよ!!!! お前らを交互に、じわじわと痛め付けて殺してやるンだよ!!!! もちろんかばいあうのもOKだ。俺がいい具合に調整してやるからよ!!!!!! 最後は未練を残したまま『ノ…ノワレちゃん……』『ア…シェ…リィ…』とか言いながら死ぬんだろ!? その時の絶望感!! たまんねぇな!!!!!!!」
ノワレは素早く弓を射って外道をねらった。
最高クラスの弓の攻撃をあっさりとかわす。
「最高クラスの弓ィ? 最高のマジックアイテムに敵うかよ!! オラ、いくぜッ!!!!」
グリモアの背表紙の魔法円が妖光る。
次の瞬間、アシェリィとノワレは深海の底に居た。
呼吸は出来ないし、なにより水圧で体が押し潰されそうだ。
2人はまるで人間に握られた蛙のようになってしまった。
その直後だった。アシェリィのブックが輝く。
「フォルム・チェンジ!!! アクアクルール!!!!!!」
その詠唱と同時に彼女の髪の色は流れる水のように変色した。
同時にサモナーズ・ブックは一気に海水を吸い込んだ。
気がつくと水は一気にはけていた。どうやら幻覚だったらしい。
「お、アシェ、なかなかやるじゃん。じゃあお次はノワレちゃんだな。そんなに弓に自信があるならこっちの弓も打ち落としてみなよ。いくぜ~~~!!!!」
恐ろしい早さで弓矢の弾幕が飛んでくる。
シャルノワーレは心を落ち着けた。瞳を閉じると飛来物の軌道が手にとるようにわかった。
星弓の矢はエネルギー体なので、矢筒に触れることなく連射できる。
まるで流星群が逆流するようにその矢は煌めき、敵の矢を全て打ち落とした。
「ほ~ん。こっちもなかなかやるじゃない。まぁお前の実力じゃなくて100パー星弓のおかげだけどな。グゲゲゲゲゲ!!!!」
攻撃を阻止されてもグリモアは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)と言った様子だ。
「そうこなくっちゃなァ!! そんな簡単に死なれちゃ面白くねぇかンな!!!! 死ぬまでせいぜい足掻いてくれよな!!!!!!」
2人はこのマジックアイテムは本当に邪悪であると思いしらされた。
こんなものをマジックアイテムとして有り難がるのさえ強い嫌悪感を覚えた。
「じゃっ、次いくぞーーー!!!」
すると辺り一体が凍りついた。
アシェリィもシャルノワーレもまもなく完全に凍結してしまう。
特に、樹木がベースとなっているエルフへ冷気に弱い。
ノワレには一刻の猶予もなかった。
次の瞬間、再びサモナーズ・ブックが輝いた。
「フォルム・チェンジ!! アイシクルール!!!!」
アシェリィの長い髪が真っ白に変色してなびいた。
すると氷と冷気が一気にブックに吸い込まれ、氷は消えて常温になった。
サモナーの髪の色も艶のあるグリーン へもどった。
生き残ったコンビは思わず深呼吸して、互いが生きているのを確認した。
「はぁ、はぁ……アシェリィ、助かりましたわ!!!」
「いや、私も凍える寸前だったよ!!!」
これを見ていた魔術書はイラつくでもなく、むしろ冷めていた。
「あー、そっかー。そうだよな。アシェには水も氷も効かねーんだったな。キャラ多いし、弱点覚えるのめんどくさいんだよね。特にお前ら2人はごり押しで死ぬことになってるし、別にいっかな。じゃ、電撃ビリビリで死ねよ」
急に青い空が暗雲に包まれた。
雷が鳴りはじめて電撃が降ってくる。
アシェリィは連続してフォルムチェンジしたため、消耗が激しかった。
「サモン!! フラッシュ・イエロウ!!! フェンルゥ!!!!」
なんとか呼ぶことの出来た雷属性の魚を頭上に構えて盾にした。
そして、あたりの雷を一手に引き受けた。
シャルノワーレはこれにかばわれて、ダメージを受けなかった。
「避雷針かァ!! だけどな、俺のビリビリドカンをそんなチャチな幻魔で抑え込めると思ってンの!?」
どんどん雷撃は強くなっていき、フェンルゥが限界に近くなっていった。
バチバチと今にもショートしそうだ。
限界なのは幻魔だけではない。アシェリィも追い詰められていた。
踏ん張りが利かずにふらついている。
「オーーーー!? そろそろかァ!? タメちゃうぜぇ!!!!」
上空の雷が一ヶ所に収束し始めた。
「まだッ!!! まだ諦めないッッッ!!!!」
だが、これが最後になるのは火を見るよりあきらかだった。
「アシェリィーーーーーー!!!!」
ノワレは駆け出してアシェリィを突き飛ばし、恋人をかばった。
「ジリジリジリジリジリジリ!!!!」
蓄積された強烈な電撃がエルフの少女に落ちる。
「ううぎゃああああああーーーーーッッッ!!!!」
鈍い悲鳴と同時に湯気をあげて、シャルノワーレは感電した。
アシェリィは彼女に駆け寄って思わず膝をついた。
「ノワレちゃん!! しっかりしてノワレちゃん!!!!」
肩を揺するとノワレは目を開けた。
「あ……アシェリィ、良かった。無事でしたの―――」
無事を確認しようと顔を向けた直後、今度はアシェリィが電撃を喰らった。
おおきく体がのけぞる。
「ガッ!!! ガアアアアアアッッッ!!!!!!」
エルフは大きく目を見開いた。
「おーッ!! いい感じに鳴くなァ!! そもそもこのビリビリ、一発や二発じゃ死ぬようには出来てねぇのよ。これからたっぷり交互に落としながら殺してやるよ。あー、そんな楽に死ねると思うなよ?」
その後、見るに耐えない拷問が続いたあと2人は感電死した。
一緒に死ぬことは許されず、アシェリィ、ノワレの順に殺された。
「おっと、女子が酷い目にあうシーンとか、ボク、見てらんない。ここカットカット。ギャハハハハハ!!!! あー、思ったよりつまんなかったなァ!! やっぱ人間の限界なんてこんなもんだよな。さて、次はどんな世界を創って大戦起こすかな……。おい、何こっち見てんだよ。バッドエンドだよバッドエンド。はいはい解散解散。選ばれた"主人公"はみぃんなあっけなく死んじまったんだよ。何を期待してた? 逆転劇か? 希望ある展開か? 残念でしたーーーーーッッッ!!!! それこそ"奇跡"でも起こらねぇ限りはこれでおしまいだ!!! じゃあな!!!! グゲゲゲゲゲ!!!!」
…………………………。




