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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter:9 虹の向こうに何が見えるの?
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バッドエンドなンだよ!!

天空に(まね)かれてアシェリィとシャルノワーレは困惑した。


ファイセルも、レイシェルハウトも確認することができなかったからだ。


そんな中、2人を殺した楽土創世のグリモアがやってきた。


「グゲッグゲゲゲゲゲッッッ!!!! ファイセル君もレイシーちゃんも死んだよ。いや、俺が殺したんだっけかな? ギャハハハハハ!!!!!!」


こちらを動揺させるウソだと人間とエルフは思った。


「これがどっこい、夢じゃなくて本当なんだなァ!!」


空中にファイセルとレイシェルハウトの無惨(むざん)な姿が浮かび上がった。


「ファイセル!! ファイセル!!!! うあああああッッッ!!!!」


生首を抱えたリーリンカの慟哭(どうこく)が聞こえる。


一方の倒れたレイシェルハウトは(おびただ)しい量の血を流して息絶(いきた)えていた。


創世(そうせい)の魔術書はアシェリィとレイシェルハウトに現実を突きつけた。


「別にこれをウソっぱちだと思ってもかまわねぇよ? 信じられない。こんなこと信じられねぇよなぁ!? これがマジなんだなこれがァ!! だってよ、俺がお前らにウソつく意味がねーもん。お前らにそんな小細工必要ねぇし。赤子の手を(ひね)るよりも簡単にお前らを殺せンだからな!!!!」


状況は絶望的だ。しかし、アシェリィもシャルノワーレも強い意思を持っていた。


「よくも先輩とレイシェルハウトちゃんを……。そりゃ辛いしくじけそうだよ。くじけそうだけどッッッ!!! 他の死んでいった人たちもそう。みんなのためにもこんな世界のルーブは許せない!! この身、滅びてもお前だけは粉々にしてやる!!!!!!」


アシェリィは憎しみに満ちた表情を浮かべた。


その覚悟から涙を流すことはなかった。


そして素早くサモナーズ・ブックを()びだした。


「もとはといえば全ての元凶(げんきょう)はあなた。放置すればまた大戦が起きる。当然、復讐者(ふくしゅうしゃ)も増える。そんな思いをするのは私だけで十分でしてよ!!!!!」


ノワレも同じように引き締まった顔をした。


そして母樹(ぼじゅ)星弓(せいきゅう)に手をかけた。


そんな2人をグリモアは(あお)った。


「おいおい。憎しみが原動力なのかよ。それじゃあ俺は倒せねぇな。なぜなら憎しみは俺の大好物だからな!!! ドツボにはまるだけだぜ!!!!!」


これを憎まずして、何を憎むのか。


だが、ここで相手の挑発に乗っては思うツボだ。


何度も憎しみに飲まれそうになったが、2人はこらえて平常心を(たも)った。


魔術書は不機嫌そうだ。


「あんだよお前ら。憎くないのかよ? 憎しみに狂ってかかって来ないのかよ!?」


アシェリィもシャルノワーレも黙ったまま、じっと敵を見つめた。


「チッ!! 感情に(あらが)うつもりか!? なんだよその勝ち目アリみてぇなマジの顔!!うっぜぇなァ!!! 俺に勝てるわけねェだろォ!!!!」


ペースを乱されてグリモアは苛立(いらだ)ち始めた。


だが、そいつはすぐに感情を収めていつものテンションに戻った。


「ゲハハハハ!!! その余裕ぶったツラ、いつまで持つか見物(みもの)だな!!!」


魔術書はページをバラバラめっくってバタンバタンと開いたり閉じたりした。


「さて、今回のテーマだが"大切なものを失いつつ死んでいく事"だ。ファイセル君は身体を失ったし、リリィは旦那を目の前で殺された。レイシーちゃんはうっかり楽園に誘われて命と、親友を失った。じゃあお前らは……?」


アシェリィとシャルノワーレは思わず互いを見つめた。


「はーい正解ィィィーーーー!!! お前らの大切な物、それは互いの命だよ!!!! お前らを交互に、じわじわと痛め付けて殺してやるンだよ!!!! もちろんかばいあうのもOKだ。俺がいい具合に調整してやるからよ!!!!!! 最後は未練を残したまま『ノ…ノワレちゃん……』『ア…シェ…リィ…』とか言いながら死ぬんだろ!? その時の絶望感!! たまんねぇな!!!!!!!」


ノワレは素早く弓を()って外道(げどう)をねらった。


最高クラスの弓の攻撃をあっさりとかわす。


「最高クラスの弓ィ? 最高のマジックアイテムに(かな)うかよ!! オラ、いくぜッ!!!!」


グリモアの背表紙の魔法円が(あやしく)光る。


次の瞬間、アシェリィとノワレは深海の底に居た。


呼吸は出来ないし、なにより水圧で体が押し潰されそうだ。


2人はまるで人間に(にぎ)られた(カエル)のようになってしまった。


その直後だった。アシェリィのブックが輝く。


「フォルム・チェンジ!!! アクアクルール!!!!!!」


その詠唱(えいしょう)と同時に彼女の髪の色は流れる水のように変色した。


同時にサモナーズ・ブックは一気に海水を吸い込んだ。


気がつくと水は一気にはけていた。どうやら幻覚だったらしい。


「お、アシェ、なかなかやるじゃん。じゃあお次はノワレちゃんだな。そんなに弓に自信があるならこっちの弓も打ち落としてみなよ。いくぜ~~~!!!!」


恐ろしい早さで弓矢の弾幕が飛んでくる。


シャルノワーレは心を落ち着けた。瞳を閉じると飛来物(ひらいぶつ)の軌道が手にとるようにわかった。


星弓(せいきゅう)の矢はエネルギー体なので、矢筒(やづつ)に触れることなく連射できる。


まるで流星群が逆流するようにその矢は(きら)めき、敵の矢を全て打ち落とした。


「ほ~ん。こっちもなかなかやるじゃない。まぁお前の実力じゃなくて100パー星弓(せいきゅう)のおかげだけどな。グゲゲゲゲゲ!!!!」


攻撃を阻止されてもグリモアは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)と言った様子だ。


「そうこなくっちゃなァ!! そんな簡単に死なれちゃ面白くねぇかンな!!!! 死ぬまでせいぜい足掻(あが)いてくれよな!!!!!!」


2人はこのマジックアイテムは本当に邪悪であると思いしらされた。


こんなものをマジックアイテムとして有り(がた)がるのさえ強い嫌悪感を覚えた。


「じゃっ、次いくぞーーー!!!」


すると辺り一体が(こお)りついた。


アシェリィもシャルノワーレもまもなく完全に凍結してしまう。


特に、樹木がベースとなっているエルフへ冷気に弱い。


ノワレには一刻の猶予(ゆうよ)もなかった。


次の瞬間、再びサモナーズ・ブックが輝いた。


「フォルム・チェンジ!! アイシクルール!!!!」


アシェリィの長い髪が真っ白に変色してなびいた。


すると氷と冷気が一気にブックに吸い込まれ、氷は消えて常温になった。


サモナーの髪の色も(つや)のあるグリーン へもどった。


生き残ったコンビは思わず深呼吸して、互いが生きているのを確認した。


「はぁ、はぁ……アシェリィ、助かりましたわ!!!」


「いや、私も凍える寸前だったよ!!!」


これを見ていた魔術書はイラつくでもなく、むしろ冷めていた。


「あー、そっかー。そうだよな。アシェには水も氷も効かねーんだったな。キャラ多いし、弱点覚えるのめんどくさいんだよね。特にお前ら2人はごり押しで死ぬことになってるし、別にいっかな。じゃ、電撃ビリビリで死ねよ」


急に青い空が暗雲に包まれた。


雷が鳴りはじめて電撃が降ってくる。


アシェリィは連続してフォルムチェンジしたため、消耗(しょうもう)が激しかった。


「サモン!! フラッシュ・イエロウ!!! フェンルゥ!!!!」


なんとか呼ぶことの出来た雷属性の魚を頭上に構えて盾にした。


そして、あたりの雷を一手に引き受けた。


シャルノワーレはこれにかばわれて、ダメージを受けなかった。


「避雷針かァ!! だけどな、俺のビリビリドカンをそんなチャチな幻魔(げんま)で抑え込めると思ってンの!?」


どんどん雷撃は強くなっていき、フェンルゥが限界に近くなっていった。


バチバチと今にもショートしそうだ。


限界なのは幻魔(げんま)だけではない。アシェリィも追い詰められていた。


踏ん張りが利かずにふらついている。


「オーーーー!? そろそろかァ!? タメちゃうぜぇ!!!!」


上空の雷が一ヶ所に収束(しゅうそく)し始めた。


「まだッ!!! まだ諦めないッッッ!!!!」


だが、これが最後になるのは火を見るよりあきらかだった。


「アシェリィーーーーーー!!!!」


ノワレは駆け出してアシェリィを突き飛ばし、恋人をかばった。


「ジリジリジリジリジリジリ!!!!」


蓄積された強烈な電撃がエルフの少女に落ちる。


「ううぎゃああああああーーーーーッッッ!!!!」


鈍い悲鳴と同時に湯気をあげて、シャルノワーレは感電した。


アシェリィは彼女に駆け寄って思わず(ひざ)をついた。


「ノワレちゃん!! しっかりしてノワレちゃん!!!!」


肩を揺するとノワレは目を開けた。


「あ……アシェリィ、良かった。無事でしたの―――」


無事を確認しようと顔を向けた直後、今度はアシェリィが電撃を喰らった。


おおきく体がのけぞる。


「ガッ!!! ガアアアアアアッッッ!!!!!!」


エルフは大きく目を見開いた。


「おーッ!! いい感じに鳴くなァ!! そもそもこのビリビリ、一発や二発じゃ死ぬようには出来てねぇのよ。これからたっぷり交互に落としながら殺してやるよ。あー、そんな楽に死ねると思うなよ?」


その後、見るに耐えない拷問(ごうもん)が続いたあと2人は感電死した。


一緒に死ぬことは許されず、アシェリィ、ノワレの順に殺された。


「おっと、女子が酷い目にあうシーンとか、ボク、見てらんない。ここカットカット。ギャハハハハハ!!!! あー、思ったよりつまんなかったなァ!! やっぱ人間の限界なんてこんなもんだよな。さて、次はどんな世界を(つく)って大戦起こすかな……。おい、何こっち見てんだよ。バッドエンドだよバッドエンド。はいはい解散解散。選ばれた"主人公"はみぃんなあっけなく死んじまったんだよ。何を期待してた? 逆転劇か? 希望ある展開か? 残念でしたーーーーーッッッ!!!! それこそ"奇跡"でも起こらねぇ限りはこれでおしまいだ!!! じゃあな!!!! グゲゲゲゲゲ!!!!」


…………………………。


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