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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter:9 虹の向こうに何が見えるの?
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再臨!! 樹の双頭龍

殺戮(さつりく)に満ちた世界を欲する悦殺(えっさつ)のクレイントス。


それを阻止(そし)しようとウィナシュ、ラヴィーゼ、アシェリィ、そして、シャルノワーレが立ちふさがった。


死霊使(ネクロマンサー)のラヴィーゼは素早く相手の特徴を見切った。


「あれはもう、リッチーを超越(ちょうえつ)してる。多分、弱点である遺品もないし、ローブに刻まれた呪印は不死者(アンデッド)のものでもない。悪い知らせだが、これといった穴がない。……だけどな、こういう窮地(きゅうち)にこそ、面白くなってくるってもんだぜ!!!!」


彼女は(おのの)くどころか勢いづいた。


厳しい戦いになるとはわかりつつも、チームはそれに引っ張りあげられた。


クレイントスはこちらを小バカにするように嘲笑(あざわら)った。


「ええ。そのお嬢さんの言うとおりですよ。遺品は亜空間(あくうかん)に溶かしてしまいました。もはや実体はありません。印のほうは暁の呪印といいまして。ザフィアルさんの力の元だったものです。これによって私はリッチーの限界を越えたといっても良い」


長々と話をしだすクレイントスにウィナシュが釣竿(つりざお)を振り上げた。


「おしゃべりが、過ぎるってんだよ!!!!」


高速で飛んできたルアーが悦殺(えっさつ)を襲う。


だが、彼は一瞬でテレポートしてそれを逃れた。


「ビシュン!! ビシュンビシュン!!!!」


シャルノワーレは無言のまま弓を引いてテレポート先を狙った。


不死者(アンデッド)を狩っているのにまるでアサシンのような瞳をしていた。


出現したクレイントスは器用にローブをよじった。


「おっとっとっと……」


難なく弓の連射を回避してくる。


この調子では一方的に殺られるだけだ。


実力を思い知らされて一気に焦燥感(しょうそうかん)が広がった。


そんな時だった。アシェリィは聞きなれた声を聴いた。


(アシェリィ……聞こえますか? 私です。フラリアーノです……)


アシェリィは驚いて辺りを見回した。


「フ……!!」


(静かに!!! これは貴女(あなた)にしか聞こえていません!!!)


思わず声だけが聞こえた少女は口を両手で(ふさ)いだ。


まだ誰にも気づかれていない。


(いいですか、私は魔力を使いすぎて魂の融資(ソウル・ファイナンス)。つまり仮死状態(かしじょうたい)にあります。 わかりますね? まだ意識が残っているところをみると肉体のほうは無事なようです)


アシェリィも同じサモナーなので彼の言っていることは理解できた。


(続けます。私は他のサモナーに助力できないかとチャンネルを合わせていました。そこで運良くあなたにたどり着いたのです。ラヴィーゼさんもサモナーですが、死霊(しりょう)との波長は合わなかったので……)


黙りこくる生徒へ教授は本題に入った。


(リッチー対策に次元をふさぐ幻魔(げんま)(つく)っていました。ただ、莫大(ばくだい)な魔力を食うので、おいそれと使うことは出来ませんでした。ですが、出し渋ってもしょうがない。今こそが使い時です。いいですか、あなたに私の魂を憑依(ひょうい)させるんです。大丈夫、私にしか負荷(ふか)はかかりません)


たしかにそうすればフラリアーノの幻魔を呼ぶことは可能だ。


(そ、そんな!!! で、でも!! そ、そんなことしたらフラリアーノ先生の魂は()りきれ、消えちゃう!!! そしたら先生、死んじゃうじゃないですかぁ!!!!)


思わず拳を(にぎり)しめてアシェリィは顔をしかめた。


フラリアーノは、それを優しく(さと)した。


(アシェリィ、私は何度も生き延びましたが、誰一人として教え子を(まも)ることは出来なかった。リコットさんやクールーン君も全て私のせいです。その上、あなたやラヴィーゼさんを救えないのであらば、私は死ぬよりも苦しい思いをしなければなりません。私はもう、後悔したくはない。時間がない。 さぁ、行くのです。 私の愛しい教え子たちよ!!!!!!)


教え子のアシェリィは必死に拒否しようとした。


だが、(ひとみ)を閉じると死んでいったサモナーズ・クラスの生徒たちが笑っていた。


リコットの声が聞こえる。


「アシェ。アシェ。私たちの……フラリアーノ先生の死を……ムダにすんなし……」


桃色の髪の少女はそうはにかんだ。


「うわああああああぁぁぁぁッ!!! 憑依(ポゼッション)・フラリアーーーーノーーーーーッッッ!!!!!!」


少女は教授を肉体に憑依(ひょうい)させた。


目付きは細目でニッコリとしているように見えた。


左腕はまるで死んだかのようにだらりと垂れ下がいる。


空いた方の右手でありもしないネクタイを締め直す。


同じチームだったラヴィーゼは心臓が止まりそうなくらい驚いた。


「うっ!!! お前……それ、フラリアーノ先生じゃないか!!!!! そうか。先生は命を……」


まるで別人のようにアシェリィは微笑んだ。


「やるよ、ラヴィーゼ!!! 先生の……皆の為にも!!!! サモン!! グラビトン・グレイ!!! アルリルマー!!!!!!」


召喚(しょうかん)された幻魔(げんま)は青白く光る女神だった。


大きさは人間と変わらないが、ふわふわと宙に浮いている。


肌は彫像(ちょうぞう)のように白く、神秘的だった。


あちこちに美しい刺繍(ししゅう)の入ったローブを着ている。


そして艶のある髪をまち針で結っていた。


手には落としたらわからないくらいのサイズの()(ばり)を持っている。


それをみてクレイントスは警戒した。


「あれは……ディメンション・クローザーですか……。少し雲行きが怪しくなってきましたね……」


すぐに彼はテレポートを試みた。


亜空間への時空が開かれる瞬間だった。


開きかけた(ほころ)びをアルリルマーが目にも留まらぬ早業(はやわざ)()い付けたのである。


空間転移を封じられたリッチーはらしくもなく舌打ちをした。


「チッ!! 亜空間にダイブ出来なくなりましたね!!! だが、この程度では!!!!」


そんな彼をシャルノワーレの矢が襲う。


またもや器用にクレイントスはローブをよじってこれを回避した。


だが、気づくと彼は引っ張られていた。


地上ではウィナシュの肩にラヴィーゼが両手を置いていた。


「みてみろ!!! 死霊使(ネクロマンサー)との連携ルアー、フックフック・ネクロだ!!! 今のお前は霊体を別空間に逃すことが出来ない。いわば半霊体!! 不死(ふし)属性のルアーならひっかかるってわけよ!!!!!」


人魚のウィナシュウロコをガリガリ削りながら()ん張った。


少しずつ抵抗する悦殺(えっさつ)の自由を奪い、引き寄せていく。


「いけーッ!!!、やれ!! ノワレ!!!!!!」


エルフの少女はまたもや恐ろしいほどの速さで矢を連射した。


だが、うまい具合にリッチーは体をよじって平たくなった。


「フフフ……やはりこの程度ですか。ルアーも矢も子供だましに過ぎない。私を滅ぼせる者はいないんですよ」


それを聞いたノワレは激昂(げきこう)した。


(あなど)るなクレイントス!!! たとえ刺し(ちが)えてもお前を滅ぼしてやる!!!!」


腰の小袋から彼女はピンポン玉くらいの種を取り出した。


躊躇(とまど)うこともなくそれを飲み込む。


「ああああああーーーーーーッッッ!!!!!!!」


種を体内に取り込んだ少女の体が変形していった。


そして、あっという間に双頭で木の(みき)のようなドラゴンになってしまった。


ツイン・ツイステッド・ツリー・ドラゴン。


略称T3Dが降臨(こうりん)した。


「あれは……ドラゴニアの種!! もはや絶滅した(たね)のはず!! どうして今になって!!!」


さすがに相手がドラゴンとなると分が悪いと()んだらしく、クレイントスは急いでルアーを外した。


そんな彼に樹のドラゴンが襲撃をかけた。


上空をみていたアシェリィは直感的に感じ取った。


「ああ、ノワレちゃん!! ダメだよこれ以上は!!!!」


しかしその声は(むな)しく、制御を失った彼女には届かなかった。


骸と龍は激しく衝突した。


「T3Dが何だと言うのですか。所詮(しょせん)()()(くず)!! 炎で焼き尽くしてしてさしあげますよ!!! さぁ、お仲間のように消し(ずみ)になりなさい!!!!」


リッチーは無詠唱(むえいしょう)で小さな火球(かきゅう)を打ち込みまくった。


放たれたのはゆらゆらとして小さな灯火(ともしび)のようだ。


しかし、着弾するとそれは大きな爆発を起こした。


もくもくと煙があがったが、ドラゴンの姿は目視(もくし)できた。


ただ、T3Dは激しく燃焼していた。かなり痛手を負っているように見える。


それでもドラゴンは(ひる)まなかった。


「グガアアアアアアッッッ!!!!!!」


突進されて噛みつかれそうになったが、またクレイントスは風にふかれるようにしてひらりと避けきった。


それでも焦りは隠せない。


「しょうがない雑魚ドラゴンさんですねェ!!!! 丸焦げにしてさしあげますよ!!!!!!」


矢継(やつ)(ばや)にクレイントスは爆破を繰り返した。


それでもT3Dの勢いは(おとろ)えない。


捨て身でクレイントスに食らいついていく。


(むくろ)とてここまで来て滅びるわけにはいかない。


冷静さを欠かずに手堅(てがたく)くヒットアンドアウェイで対抗していた。


それでも、樹の化け物はどんどん攻撃を激化させていくのだった。


命など要らぬといわんばかりの振る舞いで。


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