再臨!! 樹の双頭龍
殺戮に満ちた世界を欲する悦殺のクレイントス。
それを阻止しようとウィナシュ、ラヴィーゼ、アシェリィ、そして、シャルノワーレが立ちふさがった。
死霊使のラヴィーゼは素早く相手の特徴を見切った。
「あれはもう、リッチーを超越してる。多分、弱点である遺品もないし、ローブに刻まれた呪印は不死者のものでもない。悪い知らせだが、これといった穴がない。……だけどな、こういう窮地にこそ、面白くなってくるってもんだぜ!!!!」
彼女は慄くどころか勢いづいた。
厳しい戦いになるとはわかりつつも、チームはそれに引っ張りあげられた。
クレイントスはこちらを小バカにするように嘲笑った。
「ええ。そのお嬢さんの言うとおりですよ。遺品は亜空間に溶かしてしまいました。もはや実体はありません。印のほうは暁の呪印といいまして。ザフィアルさんの力の元だったものです。これによって私はリッチーの限界を越えたといっても良い」
長々と話をしだすクレイントスにウィナシュが釣竿を振り上げた。
「おしゃべりが、過ぎるってんだよ!!!!」
高速で飛んできたルアーが悦殺を襲う。
だが、彼は一瞬でテレポートしてそれを逃れた。
「ビシュン!! ビシュンビシュン!!!!」
シャルノワーレは無言のまま弓を引いてテレポート先を狙った。
不死者を狩っているのにまるでアサシンのような瞳をしていた。
出現したクレイントスは器用にローブをよじった。
「おっとっとっと……」
難なく弓の連射を回避してくる。
この調子では一方的に殺られるだけだ。
実力を思い知らされて一気に焦燥感が広がった。
そんな時だった。アシェリィは聞きなれた声を聴いた。
(アシェリィ……聞こえますか? 私です。フラリアーノです……)
アシェリィは驚いて辺りを見回した。
「フ……!!」
(静かに!!! これは貴女にしか聞こえていません!!!)
思わず声だけが聞こえた少女は口を両手で塞いだ。
まだ誰にも気づかれていない。
(いいですか、私は魔力を使いすぎて魂の融資。つまり仮死状態にあります。 わかりますね? まだ意識が残っているところをみると肉体のほうは無事なようです)
アシェリィも同じサモナーなので彼の言っていることは理解できた。
(続けます。私は他のサモナーに助力できないかとチャンネルを合わせていました。そこで運良くあなたにたどり着いたのです。ラヴィーゼさんもサモナーですが、死霊との波長は合わなかったので……)
黙りこくる生徒へ教授は本題に入った。
(リッチー対策に次元をふさぐ幻魔を造っていました。ただ、莫大な魔力を食うので、おいそれと使うことは出来ませんでした。ですが、出し渋ってもしょうがない。今こそが使い時です。いいですか、あなたに私の魂を憑依させるんです。大丈夫、私にしか負荷はかかりません)
たしかにそうすればフラリアーノの幻魔を呼ぶことは可能だ。
(そ、そんな!!! で、でも!! そ、そんなことしたらフラリアーノ先生の魂は擦りきれ、消えちゃう!!! そしたら先生、死んじゃうじゃないですかぁ!!!!)
思わず拳を握しめてアシェリィは顔をしかめた。
フラリアーノは、それを優しく諭した。
(アシェリィ、私は何度も生き延びましたが、誰一人として教え子を護ることは出来なかった。リコットさんやクールーン君も全て私のせいです。その上、あなたやラヴィーゼさんを救えないのであらば、私は死ぬよりも苦しい思いをしなければなりません。私はもう、後悔したくはない。時間がない。 さぁ、行くのです。 私の愛しい教え子たちよ!!!!!!)
教え子のアシェリィは必死に拒否しようとした。
だが、瞳を閉じると死んでいったサモナーズ・クラスの生徒たちが笑っていた。
リコットの声が聞こえる。
「アシェ。アシェ。私たちの……フラリアーノ先生の死を……ムダにすんなし……」
桃色の髪の少女はそうはにかんだ。
「うわああああああぁぁぁぁッ!!! 憑依・フラリアーーーーノーーーーーッッッ!!!!!!」
少女は教授を肉体に憑依させた。
目付きは細目でニッコリとしているように見えた。
左腕はまるで死んだかのようにだらりと垂れ下がいる。
空いた方の右手でありもしないネクタイを締め直す。
同じチームだったラヴィーゼは心臓が止まりそうなくらい驚いた。
「うっ!!! お前……それ、フラリアーノ先生じゃないか!!!!! そうか。先生は命を……」
まるで別人のようにアシェリィは微笑んだ。
「やるよ、ラヴィーゼ!!! 先生の……皆の為にも!!!! サモン!! グラビトン・グレイ!!! アルリルマー!!!!!!」
召喚された幻魔は青白く光る女神だった。
大きさは人間と変わらないが、ふわふわと宙に浮いている。
肌は彫像のように白く、神秘的だった。
あちこちに美しい刺繍の入ったローブを着ている。
そして艶のある髪をまち針で結っていた。
手には落としたらわからないくらいのサイズの縫い針を持っている。
それをみてクレイントスは警戒した。
「あれは……ディメンション・クローザーですか……。少し雲行きが怪しくなってきましたね……」
すぐに彼はテレポートを試みた。
亜空間への時空が開かれる瞬間だった。
開きかけた綻びをアルリルマーが目にも留まらぬ早業で縫い付けたのである。
空間転移を封じられたリッチーはらしくもなく舌打ちをした。
「チッ!! 亜空間にダイブ出来なくなりましたね!!! だが、この程度では!!!!」
そんな彼をシャルノワーレの矢が襲う。
またもや器用にクレイントスはローブをよじってこれを回避した。
だが、気づくと彼は引っ張られていた。
地上ではウィナシュの肩にラヴィーゼが両手を置いていた。
「みてみろ!!! 死霊使との連携ルアー、フックフック・ネクロだ!!! 今のお前は霊体を別空間に逃すことが出来ない。いわば半霊体!! 不死属性のルアーならひっかかるってわけよ!!!!!」
人魚のウィナシュウロコをガリガリ削りながら踏ん張った。
少しずつ抵抗する悦殺の自由を奪い、引き寄せていく。
「いけーッ!!!、やれ!! ノワレ!!!!!!」
エルフの少女はまたもや恐ろしいほどの速さで矢を連射した。
だが、うまい具合にリッチーは体をよじって平たくなった。
「フフフ……やはりこの程度ですか。ルアーも矢も子供だましに過ぎない。私を滅ぼせる者はいないんですよ」
それを聞いたノワレは激昂した。
「侮るなクレイントス!!! たとえ刺し違えてもお前を滅ぼしてやる!!!!」
腰の小袋から彼女はピンポン玉くらいの種を取り出した。
躊躇うこともなくそれを飲み込む。
「ああああああーーーーーーッッッ!!!!!!!」
種を体内に取り込んだ少女の体が変形していった。
そして、あっという間に双頭で木の幹のようなドラゴンになってしまった。
ツイン・ツイステッド・ツリー・ドラゴン。
略称T3Dが降臨した。
「あれは……ドラゴニアの種!! もはや絶滅した種のはず!! どうして今になって!!!」
さすがに相手がドラゴンとなると分が悪いと踏んだらしく、クレイントスは急いでルアーを外した。
そんな彼に樹のドラゴンが襲撃をかけた。
上空をみていたアシェリィは直感的に感じ取った。
「ああ、ノワレちゃん!! ダメだよこれ以上は!!!!」
しかしその声は虚しく、制御を失った彼女には届かなかった。
骸と龍は激しく衝突した。
「T3Dが何だと言うのですか。所詮は木っ端屑!! 炎で焼き尽くしてしてさしあげますよ!!! さぁ、お仲間のように消し炭になりなさい!!!!」
リッチーは無詠唱で小さな火球を打ち込みまくった。
放たれたのはゆらゆらとして小さな灯火のようだ。
しかし、着弾するとそれは大きな爆発を起こした。
もくもくと煙があがったが、ドラゴンの姿は目視できた。
ただ、T3Dは激しく燃焼していた。かなり痛手を負っているように見える。
それでもドラゴンは怯まなかった。
「グガアアアアアアッッッ!!!!!!」
突進されて噛みつかれそうになったが、またクレイントスは風にふかれるようにしてひらりと避けきった。
それでも焦りは隠せない。
「しょうがない雑魚ドラゴンさんですねェ!!!! 丸焦げにしてさしあげますよ!!!!!!」
矢継ぎ早にクレイントスは爆破を繰り返した。
それでもT3Dの勢いは衰えない。
捨て身でクレイントスに食らいついていく。
骸とてここまで来て滅びるわけにはいかない。
冷静さを欠かずに手堅くヒットアンドアウェイで対抗していた。
それでも、樹の化け物はどんどん攻撃を激化させていくのだった。
命など要らぬといわんばかりの振る舞いで。




