ドリーム・オブ・カーネイジ
ザフィアルとレイシェルハウト、そしてパルフィーは全力の死闘を繰り広げていた。
「パルフィー!!! 巻き込まれて死ぬんじゃないわよ!! 銀の騒雨!!! オージェンタイン・スコールッッッ!!!!」
レイシェルハウトが光る魔術を頭上に打ち上げた。
ほぼそれと同時にパルフィーは超人的な反応でバク転を繰り返した。
そして術者にピタリとくっついた。
直後に光弾は炸裂して、無数の貫通弾へと変化した。
それがまるでクラゲの形のように広がって降り注ぐ。
根元に居るものはダメージを受けない。攻防一体の強烈な魔術だ。
ザフィアルもこれを回避しようとしたが、あまりに高速の発動についていけなかった。
「うごおああぁぁぁぁ!!!!!!」
銀の豪雨は悪魔を穴ぼこだらけにした。
普通ならここで気を抜くところだが、究極悪魔が不死身に近いとの情報を彼女らは聞いていた。
「ぬぅん!!!」
メリメリとペン先程度の無数の穴が塞がっていく。
ウルラディール当主は額に手を当てた。
「ハァ、あれだけのをお見舞いしたってのに、ここまで手応えがないと困るわ。不死身だってのはあながち間違っていないみたいね……」
呆れる彼女をよそにパルフィーはずいっと前に出た。
「お嬢、なに弱気なこと言ってんだよ!! コイツは悪魔であって不死者じゃない。完全な無敵ってわけじゃないんだ。弱点を突くまでひたすらボコる!!!」
猫耳にたぬきの尻尾を持つ亜人の少女は敵めがけて突撃をかけた。
悪魔のか細い腕を強く引き寄せると地面に思い切り叩きつけた。
「ごはぁっ!!!!」
少女はパルフィーの言葉で惑いを拭った。
真っ赤なツインテールをなびかせてすかさず追撃をかけた。
「まさか貴女に正論で言い聞かせられるとはね。でも、それでこそパルフィーらしいわ!!!」
レイシェルハウトはクルクルとワンドを回すと呪文を詠唱した。
「その魂、冷たき土の下へ眠れ!! 滅寧のデモンズ・トンブ!!!!!!」
頭上から不意うちで墓石が降ってきた。かなり大きく、立派な造りだ。
首をはねられた悪魔のレリーフが彫ってある。
パルフィーが避けた直後に、それはザフィアルを下敷きにした。
「うぬぉォォォッッッ!!!!!!」
これはデモン・スレイヤーズ・スペルの一種で悪魔を強制的に墓場送りにする呪文だ。
ウルティマ・デモンはじたばたしていたが、しばらくするとピクリとも動かなくなった。
それでも墓場の呼び主は攻撃をやめなかった。
手をかざしてバッと手を開くと墓石に足が生えて、その場でじたんだを踏んだ。
容赦なくトンブは悪魔を滅多踏みにしている。
そうこうしているとザフィアルはゲラゲラと笑いだした。
やはりこの程度では死なないらしい。
「ハハハ!!!! ぐはッ!! ゲハァッ!!! ゲヒ、ゲヒヒヒヒ!!!! ウルラディールのガキ、ずいぶんやってくれるじゃないか!!! 貴様には慈悲の心と言うものがないのか!? ごはぁッ!!!!」
まるで生きているかのような墓石はバタンバタンと暴れた。
徹底的に悪魔を踏み潰してやろう。そんな強い意志が感じられる。
背中をさんざん攻撃されたザフィアルは体を仰向けの姿勢に変えた。
そして墓石の攻撃を受け止めた。
「甘いなァ? こんな石ッコロ程度で私を滅ぼせるわけがないだろう!!!! くだけ散れ!!!!!!」
ザフィアルが墓石を破壊しようとしたが、レイシェルハウトは追撃をかけた。
ジャンプして上から墓を蹴りつけてデモンにめり込ませた。
彼女はそのまま高く跳んできりもみ回転すると無数の乱れ斬りを放った。
一斬り一斬りが計り知れない威力を持つ。
「唸れ!! ヴァッセの宝剣ッ!!!! 華舞のロンスレート!!!!!!」
レイシェルハウトは墓石ごとザフィアルを破壊した。
これをまともに喰らった悪魔はズタズタに引き裂かれて肉片と化した。
常識的に考えればザフィアルはここで終わるはずだった。
だが、究極悪魔は残った指先で自分の欠片をかき集めてみるみる元の姿に戻った。
「見ろォ!! 見ろォォォ!!!! これが不死身の肉体だぁ!!!! もうお前らに勝ち目はない!!!!!! よくもいたぶってくれたな!? お返しだ!! さぁ怯えろ!!! 怯えろォォ!!!!」
ザフィアルは禍々(まがまが)しい呪印のオーラを帯びて突っ込んできた。
まだ余裕のあったレイシェルハウトとパルフィーだったが、この突進には危機感を感じた。
猛スピードでウルティマ・デモンがせまる。その時だった。
「フフフフフフ。さようなら。お馬鹿なザフィアルさん」
悦殺の クレイントスがここぞとばかりに宙に印を切った。
「蒸発させて終わりにしようかと思いましたが、よくよく考えれば誘爆させたほうが都合が良い。少しばかり手間がかかりましたが、まぁ朝飯前ですかね。フフフフフフッッッ!!!!!!」
「な……ぐっ……がっ!!!!!!」
自分がどうなったのかを自覚しないままザフィアルは大爆発を起こした。
レイシェルハウトとパルフィーは互いに声をかけ合った。
「パルフィーーーーーッッッ!!!!」
「お嬢ーーーーーーッッッ!!!!!!」
2人は激しい炎と衝撃に飲み込まれてしまった。
クレイントスの目論見通りに悪魔が誘爆し始める。
学院内に侵攻していた悪魔も爆発していった。
要塞は外から内からダメージを受け、防衛線を保てなくなった。
これによって学院の設備やシェルターは壊滅してしまった。
気づくとサユキは傾きかけた狙撃台で気がついた。
額から流れる血を無視して戦場を目で追う。
「お嬢様は!? パルフィーは!? これは……ザフィアルにつられて悪魔が誘爆した……? じゃあ、あの中心には!!! うッ!!!!」
今ごろになって彼女は額の、頭の痛みをこらえきれなくなった。
そして、その場で気絶してしまった。
学院はファネリの元、部隊を再編成したがもはや守備隊を集めるのが精一杯だった。
度重なる死闘で士気も落ちている。
かろうじて学院が落ちないような防戦一方しか出来なくなっていた。
ただ、戦力が大幅に削られたのは学院勢だけではない。
親玉を失って弱体化して、誘爆で頭数の減った悪魔軍団。
同じくリーダーを失った不死者も暴走のパワーが落ちてきていた。
結果的にすべての陣営が著しい損害を受けていた。
(ぐにゃ~~~~ぁぁぁん)
(ぐにょ~~~~んんん)
(みにょおおお~~~ん)
いまだかつてないほどの歪みが戦場を包んだ。
とうとう多数の犠牲の上に楽土創世のグリモアが姿を現そうとしていた。
それを我が手にせんとクレイントスは亜空間から躍り出た。
「フフフフフフッ!!! 待ち焦がれた、この時!!!! いまこそ、殺戮が殺戮を呼ぶユートピアの実現です!!!!!!」
雲の合間からまばゆい一筋の光がさした。これには思わず全員が目を奪われた。
あと少しで楽園に手が届く。クレイントスは恍惚の感を隠せなかった。
だが、それを邪魔するものが現れた。
「ビシュン!!!!」
リッチーの目前を輝く矢がかすめていった。
「クーーーレーーーイーーーーンーーートーーースーーーーッッッッ!!!!」
矢の主はシャルノワーレだった。
対クレイントスのために控えていた4人は戦闘態勢に入った。
ウィナシュにシャルノワーレ、アシェリィにラヴィーゼだ。
彼女らは防衛に回っていたが、もはやそこは機能を成していなかった。
他にも編成された班は居たが、ダメージが大き過ぎる。
そのため、チームの全員がまともに戦えるのはノワレたちしか居なかった。
ここぞとばかりに悲願の仇を撃滅するチャンスがやってきた。
一行はわずかに残ったカタパルトに乗り、真紅のリッチーめがけて襲撃をかけた。
奇襲される形になったクレイントスだったが、彼はひどく冷静だった。
「ああ、やはりしぶとい生き残りがいましたか。しかもよりによってエルフさんのリベンジときたものですか。これは殺戮の世界の前座にはちょうどいい。いえ、あなたたちも近く、互いに終わらぬ殺しあいをするのです。肩の力を抜きなさい……」
問答無用で矢がリッチーに飛んできた。
「ビシュン!! ビシュン!! ビシュン!!!!」
だが、 クレイントスはそれを嘲笑うかのように矢をかわした。
「フフフフフフッッッ!!!!!! 無駄ですよぉ。あなたの乱れた心では私を滅ぼすことは出来ない」
シャルノワーレは彼を見上げ、青筋をたてつつ叫んだ。
「ふざけるな!! 心をさんざ弄んだお前が心を語るのか!!」
クレイントスへの復讐が関わってくるとノワレは人が変わり、歯止めが効かなくなる。
もはや最愛のアシェリィの声ですら届かなかった。
自分のせいでエルフの多くが命を落とした。
その負い目が彼女を復讐へと駆り立ていた。
故に目の色が変わるのも無理からぬことだった。
ウィナシュとラヴィーゼは暴走するシャルノワーレを作戦から外した。
マーメイドのウィナシュはアシェリィに語りかけた。
「今のノワレの戦闘能力は間違いなくピカイチだ。だがな、あれじゃ連携に組み込むのには無理がある。お前の気持ちはわかるが、アイツは無視して、あたしとラヴィーゼと一緒に動け。逆にそっちのほうが本人のためになる」
それを聞いてアシェリィは頭をかかえた。
死霊使のラヴィーゼもウィナシュに同意した。
「人魚先輩が言うとおりだ。それにうっかり近づくとシャルノワーレの攻撃に巻き込まれかねん!! ここはこらえ時だぞ!!!」
猪突猛進で沸点の低いアシェリィだ。
突っ込んでいくかと思えたが、ここは珍しく落ち着いていた。
シャルノワーレがああであるから、自分まで加勢すれば、止める人が居なくなる。
そんな危惧をアシェリィは抱いていた。
楽土創世のグリモアの前に、立ちはだかる4人を前にクレイントスは笑い声をあげた。
「フフフフフフフフフッッッ!!!! ちっぽけな娘が4人。これが楽園に至る最期の障害ですか。なんともまぁ低いハードルですね。いいでしょう。貴女たちにはよりハードな特等席を用意しておきます。より激しく殺し殺され殺しあうそんなステキな席を!!!!」
リッチーは真紅のローブをパタパタとはためかせた。
少女たちは彼の野望を阻止するために決戦に望んだ。




