ウルラディールⅥ
レイシェルハウト率いるウルラディール家の6人は学院にいた。
要塞に取りつく敵を危なげなく撃破していく。
周りも激しい攻撃に苦戦しながらも、持ちこたえていた。
これなら自分達が抜けてもなんとかなるだろう。
そうウルラディールの後継者は判断した。
防衛に割り振られていた彼女らだったが、余裕があるようだったら攻めにまわっても可と言われていた。
「くっ!! ザフィアルがいない!!! あいつはどこへ!?」
ちょうどその頃、究極悪魔は戦いを終えて戦場に帰るところだった。
レイシェルハウトにとっては故郷で、自分の小国であるウォルテナの恨みがある。
あれだけ栄えていて、賑やかで、気温は寒いが、人の心は暖かい都市だった。
それを悪魔の根城にされた。
この上ないほど蹂躙された光景を見た令嬢は憤っていた。
当然のようにレイシェルハウトはザフィアルに対し、万死に値すると思っている。
その時のために爪を研ぎ澄ましてここまで堪えてきたのだ。
「どこ!? ザフィアルは!!! どこなの!?」
冷静さを欠いたレイシェルハウトの肩をサユキとパルフィーが叩いた。
「気持ちはわかりますが、落ち着かなければ勝てるものも勝てませんよ」
「まったくお嬢はいつまでも成長しねぇんだから。あたしの方がよっぽど伸びたぜ」
2人の言葉を聞いてレイシェルハウトは笑った。
「はぁ…あなたたちに言われるようではまだまだね。わかったわ。出来る限り、理性を保つわ。じゃないと死に急ぐって私もわかっているもの」
そんなやりとりをしていると空を超高速で何かが横切った。
それは間違いなくザフィアルだった。
ソニックブームが起こり、戦場は荒れた。
「来たッ!!!! いよいよ決戦の時ッッッ!!!!!!」
次期当主はサユキ、パルフィー、カエデ、百虎丸、リクに視線をやった。
この6人のアタックチームでザフィアルに当たると決めていた。
少々、人数が多いが連携は抜群だった。
ウルティマ・デモンの帰還によりいまだかつてないほどの空間の歪みが発生した。
(ぐにゃ~~~~ん)
(ぐにゅ~~~~~ん)
(にょ~~~~~~ん)
戦場周辺の者は楽土創世のグリモアが現れつつあることを悟った。
狂ったように、いや、狂ってザフィアルは笑った。
「ハーッハッハッハッハァーーー!!!! ついに!! ついに来るぞォォォ!!!! フハハハハ!!!!」
一方、潜伏していたクレイントスはクールだった。
(いや~、ザフィアルさんはせっかちで困る。まだあと少し"撒き餌"が必要ですね。学院の方々はあと残り戦力が全盛期の5割。暴走したアンデッドと悪魔軍団で当たれば間もなく学院は落ちる。そうなれば例のブツを独り占めして、私の楽園が実現するのは容易い。そのためにもう少しザフィアルさんには走ってもらわねば……)
悦殺のクレイントスはピッピッと宙に印を切った。
これがザフィアルを消し去るリハーサルだった。
しくじらないように繰り返して改良を加えていく。
このリッチーはそういうところに抜かりがなかった。
学院の要塞への攻撃は激化した。
コレジールの爆破であちこちが破損し、穴が開いていた。
もはや安全なシェルターとは言いがたい。
それどころか、下手をすると雨風凌ぎにすらならない。
亀龍の脚部もやられてしまい、引くも攻めるもできなくなってしまっていた。
そこに悪魔と不死者がなだれ込んできた。
魔術修復炉は破壊され、大怪我からのカムバックができなくなった。
戦況は防戦一方の消耗戦の様相を呈してきた。
勝機があるとすればザフィアルの滅殺しかなかった。
不死者だけならなんとか押し返せる力は残っている。
一抹の希望にかけてウルティマ・デモンに次々と学院勢が挑んでいった。
ザフィアルを囲んで遠近から袋叩きにしていく。
だが、悪魔は衝撃波を放った。
ただの波ではない。それに直撃したものは一切の魔術が妨害された。
それはほんの一時的なものだった。
しかし、ガードが無防備になっているときに放たれたウェーブは効果覿面だった。
これによって周囲の者たちが受けたダメージは大きかった。
こればかりはいくら腕利きの魔術使いでも避けたり、守ることができなかったからだ。
だが、これはザフィアルにも堪えたようで悪魔は息を荒げていた。
さすがにこれだけ強力なデモンズ・スペルは連発不可能に思えた。
ちょうどカタパルトでスタンバイしていたレイシェルハウト達はかろうじて難を逃れていた。
これはザフィアルを叩く絶好のチャンスとなった。
レイシェルハウトは右手に魔剣ジャルムガウディ、左手に愛用の魔石のついた小杖を握りしめた。
(この剣の正体がなんであれ、代々受け継がれてきたことは変わらない。そう、このヴァッセの宝剣で!!)
すぐに6人はフォーメーションを組んだ。
さけがきは巨大なタワーシールドと小さなバックラーを使いこなすリクだ。
強烈な攻撃を一手に受けて後衛を生かすスタイルだ。
ガンとの邂逅によって車輪の特性を獲得していた。
もの凄い勢いで盾がスピンする。これならば攻防一体として機能しそうだ。
次いでパルフィーがその後ろを固める。
彼女はとにかくタフなのでダメージを受けても踏ん張る。
それに加えて抜群の身体能力で攻撃自体もかわす。
故に、パルフィーも前衛向きだ。
中間には高い火力を持つレイシェルハウトだ。
決して打たれ強くはないが、回避呪文のおかげでまず被弾しない。
今回は魔術の威力を重視するためこのポジションについた。
その後ろにはカエデと百虎丸がスタンバイした。
2人は耐久、回避ともにこのメンバーではやや劣る。
だが、西華西刀流のコンビネーション攻撃が強力だった。
これが決まったときのダメージはこの中ではトップクラスだ。
うまく剣技が決まれば決めの一手になりうる。
最後に一番後ろはサユキである。
学院の狙撃窓に残り、ザフィアルを狙撃する役割を務める。
前線から引いたところで戦えるため、冷静な判断が可能だ。
時には指示を出して前が見えなくなりがちな仲間に、指示を出したりもする。
また、生き残りとしては屈指の腕前を持っていたので周りから感心された。
彼女もこれに答えて、スナイパーたちにアドバイスを送った。
こうして頼りになる後方支援を受けて、5人はザフィアルめがけて飛び出した。
すぐにウルティマ・デモンは反応した。
「雑魚がぁッ!!! があああッッッ!!!!」
敵の口から太いレーザーが発射された。
それは空中に飛んだリクのシールドを直撃した。
「ぐううっっ!!!!」
青銅色の盾は猛回転してこれをはじいた。
「もらった!! ホワイト・バックラー!!! 」
右腕から回転をかけた小型盾を射出する。
それがザフィアルの脇腹に突き刺さる。
激しくスピンしてめり込む。
バックラーを引き抜くと悪魔はまたもや光線を打ち込んできた。
「死ね!! 死ねぇッ!!!!」
今度、ザフィアルは白い光線を放った。
これもリクのタワーシールドに直撃した。
こらえたが、その一撃で盾は四散した 。
そしてリクは遠くに弾き飛ばされてしまった。
「ぐっ!! ここまでか!!! あとは頼みます!!!!」
なんとか盾でダメージを抑えたが、それでも全身の骨がバキバキだった。
彼のシールドの影に隠れていたパルフィーが追撃をかけた。
「くらええええッッッ!!!!!!」
彼女は全力で究極悪魔の頭部めがけて踵落としを決めた。
「ぬぐぉっ!!!」
確かな手応えがあり、ザフィアルは強烈に地面に叩きつけられた。
本来ならばこの程度でダメージを受ける相手ではないはずだ。
繰り返される悪魔召喚や、ロザレイリアとの戦闘、全力の衝撃波。
これらがザフィアルの戦闘能力の低下を招いていた。
ただ、クレイントスの予測通りで悪魔のへその緒を断ちきらないと悪魔の親玉は無敵である。
そうとは知らずにウルラディール達は猛攻をかけた。
「エキスキューショナーズ・ハンズ!!!!」
レイシェルハウトは地面でもがく悪魔にルビー・ワンドを振った。
高破壊力のお得意の呪文だ。
炎と雷が降り混ざった稲妻が、バリバリと落ちる。
「ぐがああぁぁぁぁ!!!!!!」
敵はあまりの苦痛に悶絶しかかった。
「まだだ!!! 受けてみろ!!! シャドウ・ブレイド・アルター!!!!!!」
魔剣ジャルムガウディを下に突き立てて高速で落下する。
あまりの速さに残像が発生した。
3連の魔剣でザフィアルを串刺しにした。
それだけでは終わらない。
「ヴァッセ・ヴァッセノ・イグニーーーートォ!!!!!!!」
ルビーワンドと魔剣すなわちヴァッセの宝剣をぶつけ合うと大爆発が起こった。
これがあまりにも凄まじい爆発で、戦場の一部分を吹き飛ばした。
後続の邪魔にならないように百虎丸とカエデは爆風で上昇させられた。
足元ではモクモクと黒煙があがっている。
2人は状況を確認した。
「あの様子だとザフィアルは吹き飛んだ可能性が高いわ。でも油断してはダメ。追撃のチャンスがあればいつでも動けるように」
カエデの指示に百虎丸は頷いた。
「しかし、煙が邪魔でよく見えんでござる。これではみんなが無事か、ザフィアルがどうなったかさっぱりわからんでござるよ」
生き残った学院勢は、いやな胸騒ぎを感じずにはいられなかった。




