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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter:9 虹の向こうに何が見えるの?
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ウルラディールⅥ

レイシェルハウト率いるウルラディール家の6人は学院にいた。


要塞に取りつく敵を危なげなく撃破していく。


周りも激しい攻撃に苦戦しながらも、持ちこたえていた。


これなら自分達が抜けてもなんとかなるだろう。


そうウルラディールの後継者は判断した。


防衛に割り振られていた彼女らだったが、余裕があるようだったら攻めにまわっても可と言われていた。


「くっ!! ザフィアルがいない!!! あいつはどこへ!?」


ちょうどその頃、究極悪魔は戦いを終えて戦場に帰るところだった。


レイシェルハウトにとっては故郷で、自分の小国であるウォルテナの(うら)みがある。


あれだけ栄えていて、(にぎ)やかで、気温は寒いが、人の心は暖かい都市だった。


それを悪魔の根城にされた。


この上ないほど蹂躙(じゅうりん)された光景を見た令嬢(れいじょう)(いきどお)っていた。


当然のようにレイシェルハウトはザフィアルに対し、万死に値すると思っている。


その時のために爪を()()ましてここまで(こら)えてきたのだ。


「どこ!? ザフィアルは!!! どこなの!?」


冷静さを欠いたレイシェルハウトの肩をサユキとパルフィーが叩いた。


「気持ちはわかりますが、落ち着かなければ勝てるものも勝てませんよ」


「まったくお(じょう)はいつまでも成長しねぇんだから。あたしの方がよっぽど伸びたぜ」


2人の言葉を聞いてレイシェルハウトは笑った。


「はぁ…あなたたちに言われるようではまだまだね。わかったわ。出来る限り、理性を保つわ。じゃないと死に急ぐって私もわかっているもの」


そんなやりとりをしていると空を超高速で何かが横切った。


それは間違いなくザフィアルだった。


ソニックブームが起こり、戦場は荒れた。


「来たッ!!!! いよいよ決戦の時ッッッ!!!!!!」


次期当主はサユキ、パルフィー、カエデ、百虎丸(びゃっこまる)、リクに視線をやった。


この6人のアタックチームでザフィアルに当たると決めていた。


少々、人数が多いが連携は抜群(ばつぐん)だった。


ウルティマ・デモンの帰還によりいまだかつてないほどの空間の(ゆが)みが発生した。


(ぐにゃ~~~~ん)


(ぐにゅ~~~~~ん)


(にょ~~~~~~ん)


戦場周辺の者は楽土創世(らくどそうせい)のグリモアが現れつつあることを(さと)った。


狂ったように、いや、狂ってザフィアルは笑った。


「ハーッハッハッハッハァーーー!!!! ついに!! ついに来るぞォォォ!!!! フハハハハ!!!!」


一方、潜伏(せんぷく)していたクレイントスはクールだった。


(いや~、ザフィアルさんはせっかちで困る。まだあと少し"()()"が必要ですね。学院の方々はあと残り戦力が全盛期の5割。暴走したアンデッドと悪魔軍団で当たれば間もなく学院は落ちる。そうなれば例のブツを(ひと)()めして、私の楽園が実現するのは容易(たやす)い。そのためにもう少しザフィアルさんには走ってもらわねば……)


悦殺(えっさつ)のクレイントスはピッピッと(ちゅう)に印を切った。


これがザフィアルを消し去るリハーサルだった。


しくじらないように繰り返して改良を加えていく。


このリッチーはそういうところに抜かりがなかった。


学院の要塞への攻撃は激化した。


コレジールの爆破であちこちが破損し、穴が開いていた。


もはや安全なシェルターとは言いがたい。


それどころか、下手をすると雨風凌(あめかぜしの)ぎにすらならない。


亀龍(タートルドラゴン)の脚部もやられてしまい、引くも攻めるもできなくなってしまっていた。


そこに悪魔と不死者(アンデッド)がなだれ込んできた。


魔術修復炉(まじゅつしゅうふくろ)は破壊され、大怪我(おおけが)からのカムバックができなくなった。


戦況は防戦一方の消耗戦の様相を(てい)してきた。


勝機があるとすればザフィアルの滅殺(めっさつ)しかなかった。


不死者だけならなんとか押し返せる(ちから)は残っている。


一抹(いちまつ)の希望にかけてウルティマ・デモンに次々と学院勢が挑んでいった。


ザフィアルを囲んで遠近から袋叩(ふくろたた)きにしていく。


だが、悪魔は衝撃波を放った。


ただの波ではない。それに直撃したものは一切の魔術が妨害(ぼうがい)された。


それはほんの一時的なものだった。


しかし、ガードが無防備になっているときに放たれたウェーブは効果覿面(こうかてきめん)だった。


これによって周囲の者たちが受けたダメージは大きかった。


こればかりはいくら腕利(うでき)きの魔術使いでも避けたり、守ることができなかったからだ。


だが、これはザフィアルにも(こた)えたようで悪魔は息を荒げていた。


さすがにこれだけ強力なデモンズ・スペルは連発不可能に思えた。


ちょうどカタパルトでスタンバイしていたレイシェルハウト達はかろうじて難を逃れていた。


これはザフィアルを叩く絶好のチャンスとなった。


レイシェルハウトは右手に魔剣ジャルムガウディ、左手に愛用の魔石のついた小杖を握りしめた。


(この剣の正体がなんであれ、代々受け継がれてきたことは変わらない。そう、このヴァッセの宝剣(ほうけん)で!!)


すぐに6人はフォーメーションを組んだ。


さけがきは巨大なタワーシールドと小さなバックラーを使いこなすリクだ。


強烈な攻撃を一手に受けて後衛を生かすスタイルだ。


ガンとの邂逅(かいこう)によって車輪の特性を獲得していた。


もの凄い勢いで盾がスピンする。これならば攻防一体として機能しそうだ。


次いでパルフィーがその後ろを固める。


彼女はとにかくタフなのでダメージを受けても()ん張る。


それに加えて抜群(ばつぐん)の身体能力で攻撃自体もかわす。


故に、パルフィーも前衛向きだ。


中間には高い火力を持つレイシェルハウトだ。


決して打たれ強くはないが、回避呪文のおかげでまず被弾しない。


今回は魔術の威力を重視するためこのポジションについた。


その後ろにはカエデと百虎丸(びゃっこまる)がスタンバイした。


2人は耐久、回避ともにこのメンバーではやや(おと)る。


だが、西華西刀流(さいかさいとうりゅう)のコンビネーション攻撃が強力だった。


これが決まったときのダメージはこの中ではトップクラスだ。


うまく剣技が決まれば決めの一手になりうる。


最後に一番後ろはサユキである。


学院の狙撃窓に残り、ザフィアルを狙撃(そげき)する役割を(つと)める。


前線から引いたところで戦えるため、冷静な判断が可能だ。


時には指示を出して前が見えなくなりがちな仲間に、指示を出したりもする。


また、生き残りとしては屈指(くっし)の腕前を持っていたので周りから感心された。


彼女もこれに答えて、スナイパーたちにアドバイスを送った。


こうして頼りになる後方支援を受けて、5人はザフィアルめがけて飛び出した。


すぐにウルティマ・デモンは反応した。


「雑魚がぁッ!!! があああッッッ!!!!」


敵の口から太いレーザーが発射された。


それは空中に飛んだリクのシールドを直撃した。


「ぐううっっ!!!!」


青銅色の盾は猛回転してこれをはじいた。


「もらった!! ホワイト・バックラー!!! 」


右腕から回転をかけた小型盾を射出する。


それがザフィアルの脇腹に突き刺さる。


激しくスピンしてめり込む。


バックラーを引き抜くと悪魔はまたもや光線を打ち込んできた。


「死ね!! 死ねぇッ!!!!」


今度、ザフィアルは白い光線を放った。


これもリクのタワーシールドに直撃した。


こらえたが、その一撃で盾は四散(しさん)した 。


そしてリクは遠くに弾き飛ばされてしまった。


「ぐっ!! ここまでか!!! あとは頼みます!!!!」


なんとか盾でダメージを(おさ)えたが、それでも全身の骨がバキバキだった。


彼のシールドの影に隠れていたパルフィーが追撃をかけた。


「くらええええッッッ!!!!!!」


彼女は全力で究極悪魔の頭部めがけて踵落(かかとお)としを決めた。


「ぬぐぉっ!!!」


確かな手応えがあり、ザフィアルは強烈に地面に叩きつけられた。


本来ならばこの程度でダメージを受ける相手ではないはずだ。


繰り返される悪魔召喚や、ロザレイリアとの戦闘、全力の衝撃波。


これらがザフィアルの戦闘能力の低下を(まね)いていた。


ただ、クレイントスの予測通りで悪魔のへその()を断ちきらないと悪魔の親玉は無敵である。


そうとは知らずにウルラディール達は猛攻をかけた。


「エキスキューショナーズ・ハンズ!!!!」


レイシェルハウトは地面でもがく悪魔にルビー・ワンドを振った。


高破壊力のお得意の呪文だ。


炎と雷が降り混ざった稲妻が、バリバリと落ちる。


「ぐがああぁぁぁぁ!!!!!!」


敵はあまりの苦痛に悶絶(もんぜつ)しかかった。


「まだだ!!! 受けてみろ!!! シャドウ・ブレイド・アルター!!!!!!」


魔剣ジャルムガウディを下に突き立てて高速で落下する。


あまりの速さに残像が発生した。


3連の魔剣でザフィアルを串刺(くしざ)しにした。


それだけでは終わらない。


「ヴァッセ・ヴァッセノ・イグニーーーートォ!!!!!!!」


ルビーワンドと魔剣すなわちヴァッセの宝剣をぶつけ合うと大爆発が起こった。


これがあまりにも(すさ)まじい爆発で、戦場の一部分を吹き飛ばした。


後続の邪魔にならないように百虎丸(びゃっこまる)とカエデは爆風で上昇させられた。


足元ではモクモクと黒煙(こくえん)があがっている。


2人は状況を確認した。


「あの様子だとザフィアルは吹き飛んだ可能性が高いわ。でも油断してはダメ。追撃のチャンスがあればいつでも動けるように」


カエデの指示に百虎丸(びゃっこまる)(うなづ)いた。


「しかし、(けむり)が邪魔でよく見えんでござる。これではみんなが無事か、ザフィアルがどうなったかさっぱりわからんでござるよ」


生き残った学院勢は、いやな胸騒(むなさわ)ぎを感じずにはいられなかった。

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