好奇心は猫を殺す
ロザレイリアはクレイントスに遺品を破壊されそうになって以来、沈黙を保っている。
隠された彼女のラボに結界を張り、籠城していた。
これでちょっとやそっとではクレイントスの魔術に破られない環境を作っていたのだ。
そこでさらに神経を研ぎ澄まして不死者達に力を注いでいた。
第3陣として出撃を控えていたファイセル達は戦場を見ていて驚いた。
オレンジの骸骨が再び集まりだしたのである。
絶えず肩車を組んで、すね、ふともも、腰と形成していく。
あっというまに頭部まで完成してトーラー・スケルトンが再生した。
しかも色が黒く変色していた。ただならぬ魔力を感じる。
学院勢たちもこれには慌てた。
「お、おい、さっき確かに分解したはずだろ?」
「ま、まさか不死身なの?」
「ジェイス・スケルトンだって!? あんなの図鑑でしかみたことねーぞ!!」
漆黒のスケルトンは大きさに見合わない機動力をみせた。
ダッシュして一気に距離をつめて学院を骨の剣で薙ぎ払う。
その一斬りは要塞の上部にくいこんだ。
無敵かと思われたシェルターだったが、ジェイスは想像以上にパワーがあった。
大地震のように要塞が揺れる。
ロザレイリアは瞑想してますます戦力をインフレさせていった。
1陣、2陣で戦闘不能になった魔術師たちは学院のリアクターで回復を続けていた。
だが、ここを攻められると一気に不利になってしまう。
まさに防衛の正念場だった。
究極悪魔のザフィアルは狂ったように笑った。
「これは良い!! これは良い!!!! 悪魔ども!! 目に入るものは全て蹴散らせ!!!! ロザレイリアも学院もまとめて潰してやれ!!! そして、滅亡の救済は訪れる!!!!」
骸骨の巨人は剣で学院を叩きつつ、もう片手の盾を振って悪魔を粉々にした。
悪魔は悪魔で勢いをつけて要塞に這い上がってきた。
ファイセルのチームは飛び込んできた敵を迎撃し始めた。
白いシルクハットに白いスーツを着て顔が真っ青な悪魔がやってきた。
優雅にステッキをクルクルとまわして弄ぶ。
「ほっほっ。ここに来ればごちそうにありつけると聞きました。私の糧となりなさい!!!」
彼が言い終わるや否や、ジュリスがレーザーを放った。
「おちょくるんじゃねーよ!!」
だが、悪魔は杖を猛回転させて弾いた。
それでもこぼれた光線で相手は怯んだ。
「ぐっ!!! くおっ!!!!」
ここまで来ると雑兵でもかなり手強く、一撃KOは難しかった。
弾き返し後のスキを狙ってラーシェが突っ込む。
「くらえええぇッッッ!!!」
ストレートパンチが決まりそうだったが、悪魔はそれをうまい具合にステッキでいなした。
「くっ!!!」
彼女が退くとリーリンカがお茶入れのポットを投げた。
ジュリスの攻撃が良い具合に敵の動きに響いていた。
「メルティー・デモン・ティーだ!!!」
薬茶が直撃すると敵の体表が溶けて床にベッタリ張り付いてしまった。
ラーシェが追撃をかける。
「ほっ、ふっ、でやぁぁ!!!」
悪魔は華麗なステッキさばきを見せたが、ラーシェは内腿に杖をひっかけてへし折った。
彼女のお得意の武器破壊が効いた。
「ボボギィッ!!!!」
鈍い音が響く。ファイセルはこのスキを待っていた。
「ダブル・ネックハンガー!!!」
群青と深緑の学生服が裾をつないで相手の首を刈るようにラリアートを食らわせた。
「ぐにゅッッ!!!」
蒸発するかのようにシルクハットの悪魔は消っていく。
4人は額の汗を拭った。
「雑魚でもこれかよ。シャレになんねーぜ」
相性が悪かったジュリスが愚痴る。
他のパーティーもなんとか侵入者を撃退していた。
そんな中、声がかかる。
「第1陣、間もなく回復完了!! 第3陣、押せるぞ!!! 全隊打ってでろ!!!! 学院に取りついているトーラー・スケルトンを集中して撃破してくれ!!!! 」
侵攻してくる敵を蹴散らしながら3陣はジェイス・スケルトンに攻撃をしかけた。
だが、骸骨の巨人はあまりにも頑丈で精鋭部隊で当たってもびくともしなかった。
それを見ていた学院のネクロマンサーやリッチー研究科たちはああだこうだ言って対策を練っていた。
リジャスターの男性が前に出た。
「俺は斥候として契約しているリッチーがいる。まぁ、今回の一件で滅びてしまったが、情報を引き出すことは出来た」
彼はその場の面々にクレイントスがリッチーを滅ぼしたこと。
それに、ロザレイリアがラボに籠りっきりであることを伝えた。
その情報をもとに話し合いは発展した。
老いた屍使いの男性は目を見開いた。
「そりゃ古代マーケンの死術書の4節に載っているレリクス・クラッキングじゃな? 魔力を逆流させて遺品を破壊するというリッチーにとっては恐ろしい術式じゃ。尽きぬと深い知識を持つ彼らなら解読も不可能ではないじゃろ」
その時、ニャイラがすっとんきょうな声をあげた。
「はぅあッ!!!! そういえばクレイントスに会ったとき、なにか不自然に思ったんです。よくよく思い出すと、マントの裾のはためきが規則的だった気がするんですよ!!!!」
それを元に更に議論は活発化した。
結果的にクレイントスの動きは古代マーケン語の通信信号と一致していた。
その解読が成立したことによって術式の発展系が出来上がった。
その場の面々は好奇心を隠せない。
それはニャイラも同じでよだれを垂らさんとする勢いだ。
「こ……これを発動しちゃったらどうなるんだろ? クレイントスもロザレイリアもふっとんじゃうのかな…? だ、だとすれば……」
確実かつ高威力に発動させるため、その場の術者は円陣を組んで術式に重ねた。
「せーのッッッ!!!!」
次の瞬間、放たれた魔力がロザレイリアを襲った。
「これはッ!? クレイントスでは無い何かが来るッ!!!! 緊急回避ッッッ!!!!!!」
骸の女王はラボから炙り出された形になった。
一方のクレイントスは自分の存在を維持するための遺品を破壊されそうになった。
凄まじい魔力がリッチー流れ込んできたが、彼の遺品はなんともなかった。
それどころか、彼は受けたエネルギーの術式を瞬時に改竄した。
まるで子供がイタズラをするかのような感覚でだ。
「おやぁ、お馬鹿さんですねぇ。そんな付け焼き刃の知識と術式、そして魔力で私が滅ぶとでも? 脆い人体にお返ししてさしあげましょう。 レリクス・クラッキング返し!!!! フフフフフフ!!!!!!!」
高出力の魔力が逆流し、円陣を組んでいた学院勢に一瞬で届いた。
「え、あ………」
ニャイラ達は揃ってぐるりと白目を向いた。
あっという間に研究家やネクロマンサーはショートして爆散してしまった。
あたりにバラバラになった人間の骨やら肉やらが注ぐ。
それらは生き物が焼けた嫌な臭いを放っていた。
発動した者は誰一人としてこの呪詛返しから生き延びることはできなかった。
クレイントスは仕留めることができなかったが、ロザレイリアを引きずり出すことは出来た。
これによって彼女の集中力は著しく乱れた。
リッチーとしてはほぼワンマンで闘っていただけあって、不死者はかなりパワーダウンすることになった。
ジェイス・スケルトンも大幅に弱体化した。
攻撃をしかけると骨体にヒビが入った。
骸の巨人はヤケクソになったようで、ところ構わず暴れまわった。
だが、その頃には回復していたリジャスターや、研究生はすぐに髑髏に とりついた。
あれだけ固かった全身の骨がバキボキと折れていく。
学院勢の奮闘もあってか、巨大なスケルトンは粉々に飛び散った。
今度こそ完全に粉砕したという手応えがあった。
だが、気づけば要塞は悪魔と不死者に囲まれていた。
足の遅さが災いして四方八方から袋叩きになる形になった。
内部に直接攻撃は届かなかったが、このままでは時間の問題だった。
ザフィアルはそれを上空から見ていた。
「さて、いよいよ邪魔者のロザレイリアを叩くときが来たか。楽園を創る障害の1つだ。それに、頭が消えれば不死者たちは暴走する。それに悪魔を足す。すると戦場はより苛烈さを増す。そうすれば……」
ウルティマ・デモンは彼女の位置を探っていた。
「何が起こったのかはわからんが、今のロザレイリアはテレポートさえおぼつかないらしい。集中力もがくっと落ちている。死にかけを狙うのはスマートではないが、滅ぼせるなら滅ぼすのみ。いや、すでにアイツは死人だったな。ハハハハハハ!!!!」
独り言を言うとザフィアルは戦場を離脱して猛スピードでロザレイリアを討ちに行った。
ロザレイリアの方は深海の隠しラボから放り出されて、海原の上空に浮き上がった。
「ザフィアルが来ますね。これは正面衝突は避けられない。ですが、私の中の遺品を破壊されないことにはこちらの勝ち。ここでむざむざと滅っされるわけにはいきませんよ!!!!」
こうして悪魔と骸の大将戦が始まろうとしていた。




