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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter:9 虹の向こうに何が見えるの?
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悪魔の鼓動、教授の鼓動

牛馬豚の3体の悪魔はピリエーの群れで散り散りになった。


すかさずケンレン、バレン、ナッガンが自分のバトルスタイルに有利な悪魔にとりついた。


普通の悪魔なら死んでいるところだが、馬頭はむくりと起き上がった。


両手で羽を引っこ抜っこ抜きながら空を見上げた。


「あんのクソ鳥!!! 打ち落として焼き鳥にしてやる!!!! グシシシシ!!!!!!」


敵がよそ見をしているのをバレンは見過ごさなかった。


「てめェの相手はこっちだァ!!!」


馬頭の(あご)に強烈なアッパーカットがクリティカルヒットした。


「ぶもおおおッッ!!」


悪魔は地面を擦りながら吹っ飛んだが、立ったままの姿勢を維持していた。


(なんだコイツ……。いくらタフつったってあれだけ羽のダメージを受けたのに、手応えがねぇ。無敵……いや、何か条件があるはずだ。だとしてもいまはただボコるのみ!!!!)


激昂(げきこう)した馬頭が突進してきた。


「グシシシシグシシシシグシシシシ!!!!!!」


だが、お世辞にもそれは俊敏(しゅんびん)とは言えなかった。


筋肉の(かたまり)の教授は跳び箱を飛ぶよ姿勢で固めた拳を打ち付けた。


「ハンマースタンプゥゥ!!! 地でも()めてなぁ!!!!」


悪魔の頭に拳のハンマーがガチンと打ち付けられる。


後頭部を強打された馬頭はあごから地面に叩きつけられた。


だが、まだ敵は起き上がろうとじたばたしている。


(まただ……。殺す気でやってんだが、なんせ手応えがねぇ。このレベルの奴等(やつら)が3体で襲ってきてんのか?)


バレンは敵の狙いにハマってしまった。


もっともこれを戦略と理解しているのは牛だけだったが。


一方でその牛頭とナッガンは対峙(たいじ)していた。


ぬいぐるみを下げた教授は皮肉ぶって言った。


「似た者同士なのに、お前だけやけに理知的(りちてき)じゃないか」


牛は地面に大きなトンカチをついた。


悪魔らしからぬ堂々とした態度である。


「まぁそういうな。出来は悪くとも兄弟のようなものだ。それに俺は理性があるように見えて、あいつらと根底(こんてい)では同じだ。つまり、人間を殺すことに愉悦(ゆえつ)を感じるのだ」


あきれたようにナッガンは肩をすくめた。


「理知的とはいえど所詮(しょせん)、悪魔は悪魔に過ぎんか。いくらか交渉(こうしょう)余地(よち)があると思ったのだが……」


やれやれとばかりに牛はハンマーを担ぎ上げた。


「始めから殺す気だったくせによく言う。いいだろう。俺も久方(ひさかた)ぶりに人間の生き血をすすってみたいと思っていたところだ。失望させるなよ」


牛頭は戦いを前にして勝利を確信していた。


教授たちが分散して弱点を仕留めきれない場合は悪魔の勝ちである。


しかも3体のうち正解の1体に集中攻撃をかけないと人間たちには勝ち目がない。


(コア)は悪魔自身にもわからないし、他者には余計わかるはずもなかった。


その結果、延々と不死身の畜生(ちくしょう)達に死ぬまでなぶられることになる。


(たとえこのカラクリを見破ったとしても勝てる確率は3分の1。勝負は時の運とはまさにこの事か)


牛頭のそんな雑念が混じったハンマーが振り回される。


ナッガンはそれをバックステップでかわした。


「遅いッ!!!!」


教授は後ろにジャンプしながらウサギのぬいぐるみを抜いた。


高速の無数のレーザーが連射される。いくつもの光線が牛をつらぬいた。


次に左手で黒猫のぬいぐるみを抜いた。


ウサギのぬいぐるみと同じく、(いびつ)にボタンの目がついてい。


そして勝手にネコはストレートパンチを放った。


距離があるのに殴ったような衝撃が敵に伝わる。


「ぬおわぁッッッ!!!!!!」


牛頭は後方にふっ飛んで森に突っ込んだ。樹木をなぎ倒しながら転がっていく。


ナッガンは首をかしげた。


「なんだ? 確かに目一杯(めいっばい)くれてやったはずだが、まるでゴムを殴っているようだ。ダメージの通りがやけに悪い」


倒木をはねのけて牛の悪魔は起き上がった。


(ひる)む様子もなく、こちらにタックルをしかけてくる。


ぬいぐるみの教授は素早くボウガンを取り出した。


「まだだ!! パペットだけだと思うなよ!!!!」


彼は的確に牛頭の頭部と目を射ぬいた。


そのまま敵は視界を失ったまま気配だけを頼りに向かってくる。


ナッガンは横っ飛びした直後、大鎌を取り出した。


「このサイズで真っ二つだ!!」


地獄教官と恐れられていただけあって、武器を仕込むのは朝飯前だった。


鎌の刃が敵の胸あたりに食い込む。


突進の勢いがあって、かなりの重圧が鎌の持ち手にかかった。


「うおおおおぉぉぉ!!!!」


教授は気合いをいれて振り抜いた。


だが、胴体の半分程度までしか食い込ませることが出来なかった。


それでもこれだけやれば、少なからずダメージはあるはずだ。


しかし、悪魔は平然と頭や目に刺さった矢を引き抜いた。


そして、深くめり込んでいるにも関わらず、自力で大鎌も引き抜いた。


(コイツ……。あれだけ喰らっても痛覚がないのか? まて、いや、いくら悪魔とてそんなはずはない……)


違和感に気づいたナッガンだったが、さすがにこれだけで核心にはたどり着けなかった。


上空からそれを見ていたケンレンは予測を立てた。


(お馬さんも牛さんも尋常じゃないくらいに(かた)いわ。あれはおかしい。私が豚さんを攻撃した結果、どうなるかが重要ね)


髭面(ひげづら)のテイマーは(また)がった巨鳥をナデナデした。


するとロック鳥は卵を何発か落とした。


落下するとそれは爆発を起こした。豚頭が巻き込まれる。


(この子の卵は爆発しちゃうの。しかも多段爆発。豚さんはどうなったかしら?)


ターゲットは穴ぼこになった岩場を燃え上がりながら転げ回った。


空を(にら)んでいるが、その悪魔には対空の攻撃手段が無かった。


(うーん、やっぱりヘンね。タフネスって言うよりは無敵じみてるのよね……)


空を飛ぶケンレンもひっかかるものがあった。


だが、その答えを出せないままに戦いは泥沼化していった。


弱点が居るという発想は出てこなかった。


三角系のようにして疲れ知らずの悪魔たちはナッガンとバレンを囲んだ。


ケンレンも卵で爆撃したり、モンスターを呼び続けたりしたが限界は(いな)めなかった。


地上の2人も明らかに精彩(せいさい)を欠いており、避けるのが精一杯だった。


「ブブヒィィィ!!!!!! ニンゲンニンゲンニンゲン!!!!」


豚頭のトゲトゲメイスがバレンの脇腹にヒットする。


「があっ!!! こ……こんなヤツに!!!!」


相対的に教授達は追い詰められていく。


馬頭は気弾(きだん)を吐き出すと上空のケンレンめがけてバッティングした。


今までかろうじて回避していたロック鳥だが、ここにきて直撃を受けた。


「グシシシシ!!!! いいだろぉ!? 真上に打ち上げたからここらへんに降ってくるぜ!!!!!!」


ロック鳥を逃すためにテイマーはあえて飛び降りた。


結局、3人は外から攻められるという不利な位置どりを強いられてしまった。


牛頭が高速でハンマーでナッガンをうちつける。


「ぐぬぅッッッ!!!!!!」


飛んできた彼を馬頭が鉄棒で打ち返した。


「ヒットォォォ!!!!!!」


打ち返された彼はケンレンに衝突して互いに大ダメージを与えた。


「ごほぉっ!!」


こうして教授達は袋叩(ふくろだた)きにされてしまった。


あまりにも激しい殴打で彼らはみるみるアザだらけになった。


やがて徐々に立ち上がれなくなっていく。


特に他に比べて打たれ弱いケンレンは酷く、もはや戦闘不能に(おちい)っていた。


それでも悪魔は一切の慈悲もなかった。


「ブブヒィィィ!!! ブブヒィィィ!!!!」


トドメの一撃が振り下ろされるかと思った瞬間だった。


ナッガンが身を(てい)してケンレンをかばったのだ。


「うおあああぁぁ!!!!」


豚のトゲトゲのメイスが彼の体を貫く。


これが決定打となり、ナッガンは後頭部から倒れこんでしまった。


ここぞとばかりに牛が彼を思いっきり踏みつける。


「ごおおおッッッ!!!」


思わずバレンは歯を食いしばった。


「やめろてめぇら!!!!!!」


そう叫ぶといつのまにか馬頭に両手腕を捕まれて拘束されていた。


「おら、ウスノロマ。くれてやるよ!!!」


馬頭がバレンを突き飛ばすと興奮した豚頭はフルスイングした。


スパイクが彼を襲ったが、かろうじて、ガードできた。


だが、他の教授は虫の息だった。


戦況は最悪で悪魔が圧倒的に勝っている。


その戦線にスーツを着た者が現れた。


フラリアーノか戻ってきたのだ。


「みなさん!!! ……これは酷い!! そいつらは1体だけ"悪魔の鼓動(こどう)"が違うんです。 私の幻魔(げんま)ならその弱点の見分けがつきます。 一気に行きますよ!!!! 妖憑(フェアリー・ポゼッション)!!! サモン・ダークパープル!!! エヴィーラ・ジーニー!!!!」


彼がそう(とな)えると黒ずんだ小ぶりな魔神が現れた。


幻魔(げんま)は勢いよく豚の悪魔に手を突っ込む。


「ソウル・ブレイク!!!!」


すると魔神は豚の体内の弱点を握りつぶした。


その直後、悪魔3体はあっけなく爆散した。


「はぁ、はぁ、どうやら……一足…遅かったようですね……」


その場で(ひざ)をついてフラリアーノ教授は前のめりに倒れこんだ。


かろうじて立っていたバレンは何が起こったのか理解するのに時間がかかった。


だが、すぐに彼は救難信号を打ち上げた。


「クッソ!!!! 駄目だ!! どいつもこいつも息がない!!! だけど諦めるにゃあ早すぎるぜ!!!」


ダウンした者たちは遠退(とおの)く意識の中でぼんやりと思った。


(私がいなくなったら誰があの子たちの面倒をみるのかしら? いえ、大丈夫。きっとテイマークラスの皆がうまくやってくれるでしょ。でも、もう少し、やれたはずよ……)


ケンレンは飼い慣らしている動物やモンスターの今後について気にかけていた。


(うまい酒をやろうと約束したが、どうや先に逝ってしまった連中と()み交わすことになりそうだ。これが生徒を矢面(やおもて)に立たせた者の責任か。とんだ傲慢(ごうまん)だったな)


すべてのクラスメイト達にナッガンは深く謝罪の意を示した。


こうして4人は空飛ぶ部隊に救助されて学院へ帰った。


ナッガンとケンレンはアザや貫通した穴が紫に染まり、既に絶命していた。


それはなんとも痛ましい光景だった。


バレンは重症で魔術修復炉(まじゅつしゅうふくろ)送りである。


フラリアーノに関しては仮死なのか、死んでいるかの区別さえつかなかった。


バレンは戦線に復帰するつもりだったが、治癒(ちゆ)が間に合わない。


結果的にザフィアルの片割(かたわ)れにしてやられる形となった。


こうして、ほぼ全滅に近い状態で4人の教授達の戦いは終りを告げた。

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