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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter:9 虹の向こうに何が見えるの?
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牛馬豚

上空では延命処置を(ほどこ)された究極悪魔が(わめ)き、笑っていた。


「見ろアルクランツのゴミども!! 見ろロザレイリアのゴミども!!! もはや勝負あったも同然ッ!!!!!! お前らなぞ話にもならない!! まとめて消し去ってやるぞ!!!!」


もちろん彼は自分の置かれた立場をわかっていない。


一時的な記憶が抜き取られているのだから無理も無いのだが。


「サモン・デモン!!!!」


魔界から大量の魑魅魍魎(ちみもうりょう)が吹き出た。


もっとも魔界議会で干渉しないという結論が出た以上、中位や上位の悪魔はやって来なかったが。


この段階になると武家の戦士や一般人の生き残りはほぼいなかった。


残ったのは悪魔、不死者そして学院の人間達だ。


滅亡願望の悪魔は面白いほどクレイントスの思惑(おもわく)どおりに動いた。


(これはこれは……学院だけでなく、ロザレイリアさんもセットで倒してくれますか。私が直々に手を汚す必要が無くなりましたねェ…。ここで下手に加勢するのは愚策(ぐさく)というもの。私はしばし鳴りをひそめるとしますか」


血塗(ちまみ)れのリッチーはフッと姿を隠した。


ケンレン、フラリアーノ、ナッガン、バレンの4人は異形(いぎょう)の3匹の悪魔とにらみあっていた。


この悪魔達が消えないということはまだザフィアルは滅んでないということになる。


いつ増援が来てもおかしくはなかった。


だが、ナッガンクラスの面々は命を落としてても、ボンズ・チャリオットを食い止めた。


その甲斐(かい)あってか、3匹の悪魔との戦いには妨害(ぼうがい)が入らなかった。


他のクラスの生徒も同じように寄ってくる強敵を阻止(そし)したのだろう。


馬の頭の悪魔、牛の頭の悪魔、豚の頭の悪魔との3体が行く手を(ふさ)いだ。


それぞれがゴツイ鈍器を持っていた。


「グシシシシ!!!! 俺が、俺の、俺こそ悪魔のナンバーーーーワンーーーッ!!!!」


馬頭はハイテンションにじたんだを踏んだ。


地面がグラグラ()れる。


「ふーむ。この4人はニンゲンの中ではかなり強敵。地面2、空中2と見た」


牛頭は冷静にこちらを分析し、作戦まで予想してきた。


「ブヒイイィ!!!! フブヒヒィッッッ!!!! ニンゲン!! ニンゲンニンゲンニンゲン!!!!」


豚頭はごちそうをみるような目で見て、よだれをダラダラ垂らした。


作戦は読まれていたが、これ以上の策はないと思えた。


「ピューーーーーッッッ!!!!」


ケンレンが指笛を吹くと巨大な鳥が地面スレスレを滑空してきた。


息をあわせてケンレンとフラリアーノはジャンプした。


掴まったのは虹色(にじいろ)の羽を持つというロック鳥だった。


ケンレンは背中に(また)がるとフラリアーノの方に手を伸ばした。


「大丈夫ですかな?」


その手を左手で握り、隻腕(せきわん)の教授はひっぱりあげてもらった。


「大丈夫です。いざとなれば幻魔で」


地上戦力に(とぼ)しい、または詠唱(えいしょう)に時間がかかるものは空へ。


陸戦が優れているバレンとナッガンが地上には残った。


真っ先に豚頭が突っ込んでくる。


近距離になると思ったよりデカい。


長身のバレンの2倍はあった。


「うんむぐォォォ!!!!」


貪欲な悪魔は金棒を横に振った。


「スキだらけだぜ!! こんの豚野郎!!!!」


バレンは素早くしゃがむと足払いを放った。


「ふごおっッッッ!?」


相手はバランスを崩して転がり回った。


すかさずマッチョアフロは豚の腹部に強烈な()りを喰らわせる。


「おらぁ!! ブラストシューーーーートッ!!!!」


キックがクリティカルヒットした豚頭は体の大きさが嘘のようにぶっ飛んだ。


激しい衝突音をあげて岩にぶつかる。


だが、すぐに豚は立ち上がった。頭をブルブルと振る。


「手強いな。刺し(ちが)える気でやらねぇと全滅するかもしれねぇな」


バレン教授は筋肉バカに見えて、こういうときに冷静に客観視できる。


その予測は実状をふまえての意見であり、現実じみていた。


ぬいぐるみを腰にぶら下げたいかつい教授はは考え込んだ。


「たとえ、そうだとわかっていても私達は命を()けねばならない。そう、自分のクラスメイト達に報いるためにも!!!」


一方、地上の様子を(うかが)いながら上空を旋回(せんかい)していた。


あご(ひげ)をなぞりながらケンレンは顔をしかめた。


「これは厳しいかもしれませんね。死ぬ気でやっても一筋縄(ひとすじなわ)では行かないでしょう」


草模様のネクタイを締め直してフラリアーノは汗をぬぐった。


「ええ。相討ちを覚悟をしないといけませんね。ですが、あの3匹をそのまま放置するわけには行かない。誰かがここで食い止めねば!!」


そんな中、馬頭は頭上に目をやった。


「あー、アイツらハエみたいに飛び回りやがって。グシシシシ!!!! ほんなら叩き落としてやるよオォン!? グエエエエ!!!!」


巨大な金属バットをもつ敵は口から気功の弾を吐き出した。


そしてそれを宙に放ると思い切りバッティングした。


「グシシシシ!!! 俺の強打はいつもホームラーーーンッッ!!!!」


高速で気合い弾がロック鳥を(ねら)う。


「くっ!!!! このまま受けるとまずい!!! 幻魔で打ち返します!!!!!!」


フラリアーノはサモナーズ・ブックを手のひらに浮かして固定した。


「サモン!! グレイグレイッシュ・バキュメ・カノン!!!!」


巨鳥の下部に目玉のついた大砲がせりだした。


それがエネルギー体を吸い込む。


「打ち返しますッ!!!」


目玉はターゲットを(とら)え今度は馬めがけて射撃が迫っていった。


「フンフンフーーン。俺の強打はいつもホームラーーーンッ!!!!!」


なんと馬頭はバットでそれを打ち返した。しかも狙いは精密だ。


「くっ!!! これだけ強烈な弾をこれだけの頻度(ひんど)で食らったら!!!!」


だが、ここで逃げるわけにはいかない。貴重な戦力を失うことになる。


そうこうしているうちにフラリアーノの大砲に限界が来た。


目玉はギョロギョロと白目を向いた。


「メリッ……メリメリメリッ!!!!」


鈍い音を立ててキャノンは崩壊(ほうかい)した。破片(はへん)が飛び散る。


幻魔が打ち負けた衝撃でフラリアーノは大きく後方に投げ出されてしまった。


「ぐぅぅッッッ!!!! 私の心配はしないでくださいッ!!!! これならまだやれます!! ケンレン先生は他のお二方(ふたかた)と連携することだけを考えてください!!!!」


そう言いながら彼は混戦でごっちゃになった戦場に い落ちていった。


ホームランバッターはまだ満足していないらしい。


「あんのどんくせぇ鳥が目障(めざわ)りだなぁ。ハデな色の羽しやがって。よし、じゃあ俺が打ち落としてやりますかぁ!!!」


この敵の攻撃は優先して妨害(ぼうがい)したいところだが、豚頭と牛頭が壁になっていた。


「クソッ!!!! フラリアーノが飛んだか!!!!」


「戦いに集中しろッ!!!!!! まずは豚を何とかするぞ!!!!」


上空のロック鳥の上ではケンレンが動き始めていた。


(このままのスピードではあのエナジーボールからは回避不能。だけど奥の手が無いわけではないわ。今はフラリアーノ先生も降りたし、ここはやるしかないわね!!!)


その時、冷静な牛は絶好調の馬に注意を(うなが)した。


(にじ)が降ってくる……」


ノリに乗ったバッターは怪訝(けげん)な顔をした。


「あ? なんだよそれオマエのポエムか? わけのわかんねぇ事をぬかしてんじゃねぇよ!!!!」


空のケンレンはタイミングを(うかが)うとロック鳥にムチを入れた。


すると後部に生えている7色の羽がパージした。


「!!!!!!」


馬頭が気づいたときには遅かった。


悪魔の全身を巨大な7色の羽がグサリグサリと貫いたのだ。


「あああ!!! あおおおお!!! おめぇ!!!! おめぇ!!!! 畜生(ちくしょう)めぇぇぇ!!!!」


彼は膝をついてそのまま倒れ込んでしまった。


荒野の地面が流れた紫色の血で染まった。


牛頭はそれを見て分析(ぶんせき)していた。


(あの羽、かなり重かったようだな。さっきとは比べ物にもならない速さだ。かなり出来る)


そして脇に倒れた馬を横目で眺めた。


(豚も馬も想像以上に役立たずだ。取り()といったら打たれ強いことぐらいか……いや、そういう契約だったな)


馬の悪魔は体制を立て直そうと地面に腕をついた。


それを確認して牛頭は少しホッとした。


(俺らのうちの決められた1人は弱点だ。そいつが死ねば残り2人は消滅。逆に言えば(コア)をやられさえしなければ俺らはほぼ不死身。そういう悪魔契約した上のタフネスだからな。お前らが弱点を潰すか、あるいは先に潰されるか……。まぁ俺たちも誰が穴なのか互いにわからんのだが……)


ロック鳥に(また)がったケンレンは地上を見た。


「あのお馬さん、倒れてはいるけれど、まったく手応えがなかったわ。にしてもフラリアーノ先生が離脱しちゃったし、地上にヘルプを呼ばなきゃ!!!!」


ケンレンは指笛で増援を呼んだ。


「ピューリピューリ!!!!」


すると砂煙(すなけむり)をあげて何かが群れをなしてやってきた。


ノットラントに住む二足歩行ネズミ、ピリエーである。


しかも普通の個体よりは2倍近く大きい。


テイマーは上空から好物のノットラント・コーンをばらまいた。


これを見てピリエー達は異常なまでにエキサイトした。


敵には体格で負けるが、数の暴力でグイグイと押し込んでいく。


ある程度、もみくちゃにしてダメージを与えたら散開してバレンとナッガンの攻撃チャンスを作った。


「なんだこりゃ。毛むくじゃらのもみくちゃじゃねーか!!!!」


「いや、こういうのも悪くない」


ケモノたちが蹴散(けち)らして行ったので3体の悪魔はばらけた。


このうちの決まった1人を倒さねばならない限り相手は驚異的なタフネスを発揮(はっき)する。


そんな事をケンレン達が知る(よし)もない。


ここで牛馬豚をバラけさせてしまい、同時に複数を狙いにくくなったのは悪手(あくしゅ)だった。


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