テラー・ボンズ・チャリオット
戦場深くに斬り込んだナッガンクラスは格上相手に善戦していた。
冷静でカリスマのあるクラティスが自然とリーダーになっている。
「そっち行ったぞ!! ジオ、キーモ、グスモ、ドクを守ってやれ!!」
それに対してこちらの前衛はガン、リーチェ、そしてクラティスだけだったのでややバランスが悪かった。
だが、ガンが不足分をを補った。
「イーギス・マッドネス・ギアーーッッ!!!」
歯車は敵に突っ込んでいき、攻撃を一手に引き受けた。
今までギアは横方向からの攻めに弱かったが、今はサイドにも強固なシールドが展開していた。
ドリフトを繰り返して悪魔や不死者を蹴散らしてしていく。
これも自分の片割れだったリクとのシンクロのおかげだった。
生き残れったのはクラティス、ドク、ジオ、キーモ、ガン、リーチェ、グスモ。
この7人という数はアタックチームとしては多めだ。
通常、その場仕立てのメンバーでは統率がとれない。
だが、長くを戦いぬいてきた彼ら彼女らならしっかり連携がとれていた。
ナッガンクラスは不死者中心のエリアで奮戦していた。
トーラー・スケルトンは骨クズになったかと思われたが、再び動き出した。
これはロザレイリアが健在である証だった。
このオレンジのスケルトンはかなり手強く、囲まれると殺られかねない。
それらが生者の血肉を求めて猛攻撃をかけてきていた。
痛みを感じないので余計に厄介だ。
なんとか凌いでいると骸骨はピタリと止まった。
そしておびき寄せるかのようにガシャガシャ音をたてて歩きだした。
クラティスが声をあげる。
「まずい!!! あっちにはナッガン先生達が向かった方向だ!!!! 先生に負荷はかけられない。みんな、ここで撃破するぞ!!!! 」
アタックチームは頷いた。
そこに思わぬ人物が合流した。
「姉ちゃん、無事だったか!?」
クラティスの双子の妹で、アシェリィの親友のラヴィーゼだった。
「お前こそ!! どうしたこんなところで!!!」
妹は俯いた。
「チームが半壊しちまって……。敗走する途中で運良くねーちゃんと会えたんだ。あたしはこれでも不死者使いだからな。足を引っ張ることはねーと思うぜ」
これは心強い増援だった。彼女は死霊のエキスパートだからだ。
全く興味がないとばかりに橙のスケルトンはナッガン達の方へと歩きだした。
遠距離攻撃のできるリーチェ、キーモ、ドク、ジオは本気で攻撃をしかけた。
生きるように動く髪の毛のムチ、精密射撃の棒状のお菓子、そして、辺りを巻き込む花火弾だ。
これには手応えを感じたが、すくっと巨大骸骨の破片は起き上がった。
結局、数体しか撃破することが出来なかった。
ギラリと不死者達はこちらを向いて目を赤く光らせる。
そして、なんと合体し始めた。
組体操のように固まりあって、それぞれの腕や脚をからませて形作る。
1体でも恐ろしく強いのに、更にパワーアップしたら手のつけようがない。
思わず絶望しかけたナッガンのクラスメイトにラヴィーゼが喝を入れた。
「ほれ!!! 何ボサッとしてんだ!!! いくぞ!!!! 骨粗鬆症スロー!!!!!!」
ネクロマンサーが思いっきり振りかぶって丸い玉を放り投げた。
まるで煙玉のようにあたりに白い気体が充満した。
味方は誰も苦しんでいない。無臭であるし、人間には効果がないようだ。
少しして煙がひくとそこには恐ろしい化け物がいた。
巨大なオレンジ色の骨の戦車が姿を現したのだ。
車輪は左右に2つずつあり、2体のアテラサウルスの骨が台車を引いている。
その上には大きなスケルトンが大剣とトゲトゲのメイスを振り回していた。
跳ねられてもアウト、左右の間合いに入ってもアウト。
おまけに台車の後ろには通常サイズのスケルトンが乗っていて、槍で的確に狙ってくる。
見た限りではどこにも死角がなかった。
だが、ラヴィーゼはその場の恐怖を振り払った。
「やっぱりテラー・ボンズ・チャリオットか!! いいか? さっきのあたしの妨害で連中の骨はスカスカだ!! 元が強敵ゆえに簡単じゃないが、勝てない相手じゃないぞ!!! 気合いいれろ!!!」
圧倒的な存在感の不死者だったが、一同は勇気を振り絞った。
すぐにチャリオットは突進してきた。恐ろしく速い。
何とか全員が横っ飛びや頭から飛び込んでこれを回避した。
だが、様子がおかしい。骨の車輪が急に空回りしはじめたのである。
グスモは表情1つ変えずにつぶやいた。
「泥土竜…。足場を不安定にする罠でやんす。さ、早く攻撃を!!!」
彼はいつのまにか足元にトラップを仕込んでおいたのである。
「でかしたグスモ!!! 遠距離術者は総攻撃、前衛は相手の気を引き付けるぞ!!」
ジオはほぼ無詠唱で花火を連発した。彼女は限界突破しつつあった。
「うりゃりゃりゃりゃ!!!!」
戦車のあちこちが分裂してバラバラになっていく。
キーモはお菓子、塩味のチェルッキィーの箱を構えると一斉掃射した。
「チェルッキィー50!!!」
細かいスケルトンをつぶしつつ、巨大な骸骨の頭にもヒットした。
頭部も吹き飛んで小さな不死者に分裂した。
素早い手つきでドクは銀のメスを連投した。
髪を武器に戦うリーチェは美しい赤い髪を鎖がま状に変形させた。
「ここがチャンスだね!!!」
細かくなった敵を根こそぎ薙いでいった。
粉々になったかと思われたが恐怖の戦車だったが、再生は早かった。
もの凄いスピードで骨同士が組み合ってもとに戻っていく。
ラヴィーゼは顔を歪めた。
「ちぃッ!! 確かに骨自体は弱体化してるが、復帰が早すぎる!!! こっちがバテるか、相手のマナが切れるか……。こりゃ消耗戦になるぞ。何か手はないか!!!」
クラティスが指示を出した。
「前衛動け!!! 後衛かやられたらアウトだぞ!!!!」
先陣を切ったのはガンだった。
「うおおおおぉぉぉ!!!!」
敵より一回り小さいが正面からギアは突進していった。
まるでライネン・ボーリングのように骸骨はバラけて吹っ飛んだ。
クラティスは応援旗をたたんで前に出た。
槍のように得物を振り回していスケルトンを砕いていく。
ネクロマンサーのラヴィーゼは骨の甲冑型パワードスーツで武装した。
再び合体しつつあるチャリオットを高速で斬ったり、叩き割った。
手応えがない。クラティスは声をあげた。
「だめだこれは!!!! 一旦退くぞ!!! キリがない!!!!」
この後もしばらく一進一退の戦いが続いた。
だが、人間と不死者の持久戦の結果は火を見るより明らかである。
ナッガンクラスはも疲労困憊していた。
一方のオレンジの骨達はスピードこそ遅くなったが、滅びる気配はない。
前衛が気を引き付けている間、ドクは俯いた。
「私は一番、役に立っていないという自覚があります。人に心配をかけるのが怖くて、なにも出来なかった…。ですが、ここで腹をくくらねばいつやるのかという話で。私は後悔したくありません……」
ズタボロで草や泥、そして血で染まった白衣とは言えない布切れを身につけた青年は覚悟を決めた。
当然、後衛の仲間は反対した。
「何言ってるのドク君!!! 自棄にならないで!!!」
「そうでござる!! 生き残ると決めたでござるではないか!!!!」
「おい、バカな事は止めろ!!! 無駄死にだぞ!!!! 」
だが、聞いていた最年少のグスモは不敵にニヤリと笑った。
「他人事たあ思えねぇ。あっしも人の影でコソコソ逃げ回るのはもうたくさんでやんす。あっしもドクさんに賭けやす。1人であの世にいくのは寂しいでやんすからね」
この反応に周りは驚いた。
「よし、やりますよ。私のウイルスエンサーは射ってみるまで副作用はわかりません。代わりにそれを上回るベネフィットがある。不確定要素だらけとは言え、今より有利に働くのは間違いない。効果を見極めたら動いてくださいね。では!!!!」
ドクは医療鞄から注射器を出すとすぐに射った。
あまりにも鮮やかな手つきで誰も止められなかった。
「うぉああああああ!!!!」ふっざけんじゃねぇよおおおおおお!!!!」
突然、彼の顔が真っ赤になった。そしてそのまま敵に突っ込んでいく。
前衛が苦戦する中、正面からかち合った。
当然、前に出ているメンバーも驚いた。
凄い勢いでチャリオットを押し込んでいく。
「ヤケクソになる代わりに勇気と怪力…でやんすね」
グスモは確かに彼の状態を把握していた。
前衛を置いてきぼりにするくらいプッシュは強力だ。
すぐにグスモは持ち味の速さで全力疾走していく。
あっという間に橙の戦車の脇を抜けると後ろに回った。
「ドクさん!!! あとちょっと押し込むでやんす!!!!」
「うおおあああァァァ!!!!!!」
薬の効果の切れたドクは両ひざをついた。
そのスキを上に股がる大髑髏は大剣を振り下ろした
「バシュゥゥゥゥ!!!!」
無慈悲な一振りでドクは血しぶきをあげながら真っ二つになった。
大きな硬直時間ができたグスモも後部の槍スケルトンに刺され、宙になげられた。
それを不死者はトゲトゲのメイスで貫通させた後、上に投げた。
そして落ちてきたグスモを剣でザックリ貫いた。
「ぐ…がぁッッ!!! へ、へへ…。も……す……」
次の瞬間、骨戦車全体をカバーしたせりだす床が出現した。
グスモが捨て身でしかけた罠が発動したのだ。
床は勢い良く飛び出したので、衝撃で骨がバラバラになって宙に浮く。
そしてトラップに空いた穴からは切り裂く竜巻が発生した。
これによって細かくなった敵は四方八方に吹き飛ぶ。
こうして戦車を完全に分解させることに成功した。
グスモの命をかけた仕掛け罠、昇り龍だった。
2人の肉体が散り散りになっていくのがハッキリ確認できた。
死亡を確認するまでもないくらいに木っ端微塵になってしまった。
「ふざけんなよ………ふざけんなよ………馬鹿やろおおおォォォ!!!!」
慟哭をあげたクラティスの声が虚しく戦場に響いた。




