髑髏の巨人兵
「こんの骨デクノボウがーーーーーッッッ!!!!!」
ザフィアルはロザレイリアたちの召喚したトーラー・スケルトンに猛スピードで突撃した。
相手はほのかにオレンジ色に発光している。
正面からくる悪魔めがけて剣を切り上げて、そして振り下ろした。
「遅い!! 遅すぎてカメでも避けられるぞ!!」
ザフィアルはその一振りをひらりとかわした。
「今度はこちらの―――」
ウルティマ・デモンが気づいたときには既に手遅れだった。
「残像だとッ!?」
トーラー・スケルトンは剣を振り下ろすとほぼ同時に横方向への薙ぎ払いを放っていた。
厳密には残像では無く、フェイントなのだが、この連撃はまず目では追えなかった。
反射神経で避けるタイプの魔術師でなければほぼ必中と言っても良い。
リッチーたちはいつになく本気で団結していた。
楽土創世のグリモアを研究対象にしたくてしたくてしょうがないからだ。
攻撃がクリーンヒットした悪魔は宙を吹っ飛んだ。
「ぐぬぅぅッッ!!!!!!」
なんとか踏みとどまったが、悪魔は半身に違和感を感じていた。
ペタペタと触ると攻撃を受けた方の体がごっそり無くなっていた。
「ハハ……ハハハ!!!!! よくもやってくれたなぁ? だが、この程度、造作でもないぞ!!」
教主が力を込めると抉れた半身が盛り上がるようにして再生された。
「ハハハ!!!!!! 骨クズぅ!! 骨クズぅ!!」
ザフィアルも少なからずマジックアイテムの毒気に当てられていた。
もっとも、これだけどっぷりデモンに浸かってしまうとそれはそれで思考が侵食されていくのだが。
恐れること無くウルティマ・デモンは再び猛スピードでオレンジの骨に突っ込んでいった。
今度はうまく攻撃をかいくぐり、あばら骨を体当たりで数本たたき落とした。
「このまま背骨をブチ折ってやるぅッ!!!!!!!」
腕をブレード状に変形させた悪魔は敵の上半身の背骨に横から突っ込んだ。
「うおおおおぉぉぉ!!!!!!」
バチバチと切断面が削れて火花が散るが、切り落とせる気配がしない。
なにしろ骨太で硬すぎるのだ。満足そうにロザレイリアは笑った。
「ロギー・カルシウムをバカにしないでください。毎日、チチガエルの牛乳を飲んで積み上げたものです。……冗談ですけけどね」
気づくとザフィアルの腕は背骨に食い込んで抜けなくなってしまった。
そのタイミングを骸骨の巨人は見逃さなかった。
まるで自害をするように、剣を腹に向けて構えた。その先には動けなくなったザフィアルが居る。
不死者は思い切り骨の剣を刺して骨の間を縫い、背骨スレスレの場所に貫通させた。
狙いは恐ろしく正確で、デモンは真っ二つに分解されてしまった。
「うおおおおおおおおぉぉぉああああ!!!!!!」
胴から上は天高く、それより下は地面に叩きつけられるように吹き飛んだ。
リッチー達はこれを確認して休憩をとった。この巨人は強力だがマナの消耗が激しすぎる。
いくらマナに限界がないリッチーとは言え、絶え間なくこれを動かすとなると本来のポテンシャルを発揮できないおそれがある。
動かしっぱなしでも普通に戦うには十分だが、ザフィアルや学院のトップクラス相手では厳しいものがあった。
そのため、余裕ができるたびにリッチー達は休みを挟んでいるのだった。
ザフィアルは完全にとどめを刺されて死んだ……とはその場の面々は思っていなかった。
このくらいでは奴は死なない。それを承知の上、まだまだ余裕のあるロザレイリアは強気だった。
「フフフ。さすがザフィアルさん。上下真っ二つになっても蘇生されるおつもりですね。やはり、体の何処かにある核を潰さねば再生し続けるでしょう」
上空に打ち上げられたザフィアルの胴体の切断面からはメリメリと音がしていた。
「はあああああぁぁぁッ!!!!!」
かなりの短時間でデモンの下半身は何事も無かったかのように再生した。
一方、地上に叩きつけられた半身はあたりに拡散して、悪魔のエサとなった。
魔界から呼び寄せられたデモンうじゃうじゃと湧き出してくる。
ウォルテナから引き連れてきた連中より更に人外の、もはやモンスターの群れが現れた。
次々と人間や不死者を蹴散らしながら勢力を拡大していく。
そしてついにトーラー・スケルトンに達し、その巨体によじ登っていった。
あっというまに骨の巨人は悪魔で埋め尽くされてしまった。
ザフィアルは拳に力を入れて力強く握った。
「不死者の塊ならこれはどうだ!? 煌めけ!! 暁の呪印ッ!!」
骸骨の表面を覆った悪魔はそれぞれが真っ赤な閃光を放って爆発した。
この強烈な光と燃え上がる炎属性は不死者の弱点を的確についた。
だが、相手は全く怯まなかった。
モクモクと上がる煙の中から反撃の斬りがザフィアルを襲う。
ロザレイリアは骸の常識を覆した。
「骸の魂を宿してはいますが、実体は強化骨格!! トーラー・スケルトンには光も炎も効きません!! お死になさいッ!!」
対するザフィアルはそれをブレードの突き出した腕で受け止めた。今度はその場で踏みとどまった。
まるでこうなることを完全に予測していたという様子だ。
「死体風情が!! 究極悪魔の力を舐めるなよ!!!!」
ウルティマ・デモンのブレードは強化骨格の刃に食い込んでいた。
「ここをこうして……捻る!!」
ザフィアルは思い切り力をつけ、立てた腕をぐいっと寝かした。
「この刃、腕ごともらっていくぞ!! ぬぅっ!!!!!」
すると大きな骨の腕は反動でもっていかれ、根っこからボキリと折れてしまった。
圧倒的な質量の差があったが、それを無視するかのようにザフィアルは骨体を折ってみせた。
ウルティマ・デモンはブレードを落ち行く刃から切り抜いた。
「フン。まったく手応えが無いな。お遊びも大概にしろ」
片腕を失った程度でトーラー・スケルトンがどうこうなるとは思えなかった。
次の瞬間、落ちていく骨の剣と腕が小さくバラバラに分散して小さなスケルトンに分裂した。
これらもオレンジ色に光っている。ただのスケルトンではなく、巨人をスケールダウンしただけだ。戦闘力は元と差がない。
骸骨は大地に散らばり、人間や悪魔と衝突し始め、ますます戦場は混乱を極めた。
数は人間が一番多いが、ザフィアルから生まれた悪魔と、この橙色の骸骨が押し始めていた。
その時、再び周辺の者たちは時空の歪みを体感した。
(ぐにょぉ~~~ん)
ロザレイリアもザフィアルも確かな手応えを感じていた。
「クックック!!! 私とロザレイリアの戦いで瞼を開けつつあるか!!!! ならば叩き起こすまで。見せてやろう!! 骸の女王、楽土創世のグリモアが現れるまでにくたばってくれるなよ!! あぁ、もうくたばっていたな。たとえお前らが滅びてもそこらへんのゴミと学院のクズ共を片っ端から殺るまでよ!!」
滅亡主義者が悦に浸っている間に次の一手は打たれていた。
地表で砕かれた骸骨が指笛を吹いた。もちろん実体はないので魔術で鳴らしている。
すると散らばって分裂した骨達が物凄い勢いで集まって肩車をし始めた。
「来たぞぉぉぉ……」
「えっほ、えっほ……」
「俺ぁ高いとこ苦手だぁ~~~」
あっという間に彼らはザフィアルの高度まで積み上がり、悪魔の足首を掴んだ。
「骨クズが!! 吹き飛ばしてやる!!!」
デモンが暴れる前に骸骨が周りを取り囲む。
気づくと積み上げられた骨クズ達は一体化してトーラー・スケルトンの片腕として合体した。
しっかりその手にはザフィアルが握られている。
ここぞとばかりにロギー・カルシウムの巨人は残った方の手で折られた腕を拾い上げて、ガッチリとあるべき場所にくっつけ直した。
結果的にザフィアルはトーラー・スケルトンの掌に捕らわれた形になった。
このままギュッと握りしめてしまえばいくら核のある悪魔とて回避することは難しい。
思わぬチャンスにロザレイリアはキラリキラリと目を光らせた。
「先に死ぬのは貴方です!! お逝きなさい!!!」
巨人が拳を閉じようとした時、その手のひらが何者かに切り落とされた。
気づくとザフィアルは宙を飛ぶカミソリのような悪魔にぶら下がっていた。
「助けを乞うなど情けないことこの上ないが、こんなところで死ぬわけにはいかんからな!! それよりどうした? 攻撃速度も威力も鈍ってきているではないか!!」
確かにオレンジ色の骨のパワーも、スピードも落ちてきていた。
やはりザフィアル相手には分が悪く、少しずつボロが出始めていた。
そのスキを見逃さない者が居た。究極悪魔が立て直しを図っている間に、そいつは出現した。
「いーーーーいタイミングですね!!!!!! トーラー・スケルトンがパワーダウンしたこの状態なら一網打尽に出来るでしょう!!!!! 差し上げますよォ!! レリクス・クラッキングッッッ!!!!!!」
悦殺のクレイントスである。彼はリッチーの遺品を破壊する魔術を骨の巨人めがけて打ち込んだのである。
召喚した屍から魔術が逆流してアジトのリッチー達に届く。
そこから更に思念を逆流して各々(おのおの)の遺品が破壊された。
「ボシュゥゥゥゥ!!!!!」
「パンッ!!!」
「ボスン!!!!!」
リッチー達は次々と蒸発したり、破裂していった。
残るはロザレイリアだけだ。
「ジャンプするッッッ!!!!!!!」
急いでこの魔術を解析していたおかげで、彼女は既の所でクラッキングを回避した。
クレイントスは骨の指を打ち鳴らした、
「チッ。ロザレイリアさんは取り逃しましたか……」
その光景をザフィアルは上から見ていた。
トーラー・スケルトンは体が維持できなくなってバラバラと崩れ始めた。
今度は分裂するのではない。本当に骨クズになってしまった。
だが、不死者の陸上戦力は健在だった。むしろ強くなっている気さえする。
究極悪魔は尋ねた。
「おい、お前、リッチーだろ。なぜ骨を潰した? お前だけ望みが違うのか?」
殺戮を望むリッチーは振り向いてザフィアルを見た。
「おっと。足音がしませんか。少しずつ、着実に来ますよ。彼らが……」
意識をそちらのそらしている間にリッチーはかき消えた。
そして学院の亀龍は戦場に足を踏み入れようとしていた。




