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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter:9 虹の向こうに何が見えるの?
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血塗れの歪み

第四次ノットラント内戦……もとい世界大戦の最終決戦の地となったのは島の中央部だった。


そこに位置する小都市、ダッザニアで大規模な衝突が起こっていた。


最初は東の武家、西の武家の戦いだったはずなのだが、いつの間にか多くの勢力がからみ合い敵味方の関係なしの殺し合いに発展していた。


もはやどうして、なぜ戦っているかすら彼ら彼女らにはわからなくなっていた。


これは楽土創世らくどそうせいのグリモアによる影響だった。


強力なマジックアイテムは人の心を狂わせるのだ。このレベルの代物しろものならば余計にだ。


一足先にかけつけて、そのさまを見下ろしてえつひたっている者が居た。


悦殺えっさつのクレイントスである。


彼は徹底てっていして行われたリッチー狩りもかいくぐった実力者だ。


リッチーの中ではロザレイリアの次点に暗躍あんやくしている。


ただ、それは不死者アンデッドへの帰属意識きぞくいしきというよりは自分が楽しいかどうかで決めていた。


「はっはっは!!!!! 素晴らしい!! 誰れかれの区別なく、際限さいげんなしに殺し合う!! これぞ殺戮さつりく骨頂こっちょう!! 生き物も不死者アンデッドも悪夢も殺しあう殺戮さつりくの世界!!!! まさに私のパラダイス!!!!!」


クレイントスは狂ったように笑った。


今まではなりを潜めていたが、これこそが彼の望むユートピアだったのだ。


だがこの戦はやがて壊滅かいめつして終わる。


彼が本当に願うのは終わり無い殺戮さつりく輪廻りんねだった。


「学院の連中に、ザフィアル、そしてロザレイリア。いつのまにか3人で呑気のんきに仲良し小好こよししていますが、大事な事を忘れていらっしゃる。私も争奪戦に……いや、美味しいところを持っていただかせてもらいますよ。彼らの願いはどれをかなえても、”刺激”と”苦痛”がたりない。ふと曲がり角で誰かにあったら殺し合いに発展する。そういう選択肢が出てくるのがベストなのです。共生きょうせいの生ぬるさや滅亡の味気なさには、ほとほとあきれる!!」


彼の理想は常識を大きくいっしていた。その願いを聞けば誰もが顔をしかめるだろう。


言うまでもなくこれからぶつかるであろう3者はこれを拒否きょひするに違いない。


だが、これをロザレイリアが把握はあくしていないわけがなかった。


ダッザニアにテレポートする前にむくろの女王は警戒した。


(クレイントスが本格的に動き始めましたね。もう爪を隠す気はないようで……。テレポート直後はほんの一瞬ですがスキができる。今、迂闊うかつに移動すると狙い撃ちされかねない。先にリッチーをけしかけて様子を見ましょう)


そうこうしているうちにザフィアル率いる悪魔軍団は移動を始めた。


速さの違いはあるが、遅くともウルティマ・デモンも10分程度でダッザニアに着くだろう。


(ザフィアルとぶつけるという手もありますね。それで互いに消耗しょうもうしてくれればおん。クレイントス、むざむざあなたにグリモアはくれてやりませんよ……)


戦場の上空から反旗を翻したリッチーは無数の魔法弾を放った。


それはスクリューのようで、刃が高速で回転していた。


次々と戦士達を巻き上げて肉塊へと変えていく。


「フフフフ!!!!! フフフフフッッッ!!!!!!!」


彼はその凶器を乱射して大量虐殺ジェノサイドを始めた。


快感に身を震わせるクレイントスをとがめるものが居た。


ロザレイリアの忠実な部下であるリッチーだ。いまさっきテレポートしてきたのだろう。


「クレイントス、貴方あなた、ロザレイリア様の方針にはおおむね賛成なのではなくって? それだから多少自由にしておいてもロザレイリア様は邪険じゃけんにしなかったのよ。わかっているの?」


たのしみを妨害ぼうがいされたリッチーは不機嫌そうに振り向いた。


「そんな事、知りませんネェ。いつ私があなた達と同調したというのです? だいぶ前にたもとを分かったと言ったじゃありませんか。もっとも、それより前から私は何かに属したことはないですよ?」


声をかけたリッチーも不快感をあらわにした。


ものめ!! こんなやからにロザレイリア様が直々(じきじき)に手を出すことはない!! 消えろ!!」


相手のリッチーはむくろの女王のさけがきを任されているだけあって、リッチーの追放権を持っていた。


だが、それを発動する前にクレイントスが動いた。片腕をスッっと差し出したのだ。


「バッ!!」


直後、追跡してきたリッチーの目が黄色にキラリキラリと光った。


「あ、あ……あおお……」


そううめき声をあげると、ロザレイリアの手先は蒸発してしまった。


「ボンッ!! ボシュゥゥゥ!!!!!」


肩を揺らしてクレイントスは笑った。


「フフフフ……。長年にわたって研究してきたのはなにもザフィアルだけではないのですよ。これはレリクス・クラッキングという魔術でして。リッチーにこれを打ち込むとそのショックが相手の霊体を逆流して、全ての遺品にダイレクトにダメージを与えるというものです。つまり、これを喰らったリッチーは1発KOなのです。それはロザレイリアさんとて例外ではありません。いくらリッチーがたばになってかかってこようと、クラックしてしまえば造作ぞうさも無いこと。さぁ、ロザレイリアさん。どう出るでしょうねェ……」


彼は誰に説明するでもなくそうつぶやいた。


勝利の余韻よいんも程々に次の手を考え始めた。


「もうすぐデモンの大軍がきますね。これを1人で受けるのはさすがに分が悪い。とりあえず身を隠して静観せいかんするとしましょう。高みの見物というやつですね。フフフフ……」


悦殺えっさつはテレポートでどこかへかき消えた。


その一部始終いちぶしじゅうを見ていたロザレイリアは冷静に分析ぶんせきした。


(おそらく、あれはかなり広範囲のリッチーの遺品を破壊できる。まとまってかかるのは得策ではありませんね。ですが、すぐに攻めに回らずに姿をくらませるところを見ると連発は出来ないようですね。どこかに隠れひそんで私の首……いえ、遺品を狙いに来るはず。いくらワイトクイーンとなった私としても体内に取り込んだこの”ナッツ”を破壊されると消滅しかねません。ただ、あの方は大層な遊び人ですからね。仕掛けられる機械も多いですが逆に仕掛けるチャンスも多い。肉を断たせてなんとやら……)


次々とリッチーたちはダッザニアにテレポートしていたが、それを女王は呼び戻した。


そしてむくろ達に結束を呼びかけた。


基本的にはふわふわとした態度をしているリッチー達だが、楽土創世らくどそうせいのグリモアをお目にかかれるといえば話は別だ。


皆が皆、好奇心に目を光らせ、やる気をみなぎらせている。


「皆さん、いいですか? 私達は腰をすえてダッザニアを攻めます。一番先に私達が乗り込むつもりでしたが、クレイントスの件もありますし他の陣営が未確認の戦力を持っていないとも限らない。ここは慎重にいきましょう。我々はこういった回りくどい作戦は得意ですからね」


カリスマのあるロザレイリアのミーティングは続く。


「このままだと先に到着するのはザフィアル率いる悪魔軍団。ナーネの学院はまだ到着までしばらくかかるでしょう。そこで私達はトーラー・スケルトンを送り込んで悪魔を叩きます。望み薄ですが、もしかしたらその戦いでグリモアが現れるかもしれません。もし、そうなれば一斉にテレポートして発動を狙います。いいですね? では、始めますよ!!」


リッチーはそれぞれの足元に異なった魔法円を描いた。紫色に陣は怪しく光った。


各々の負のエネルギーを集めて不死者アンデッドつくり出していた。


その頃、下っ端の悪魔はダッザニアの前線にたどり着いていた。


大将の指示も無しに人間を殺し、血をすすった。だが、誰もその状況を気にしない。


そのため、小悪魔はやりたい放題だった。だが、その祭りに水を差す存在が現れた。


グラグラという振動と共に、地面から1体の巨大な骸骨がいこつい出てきたのである。


スケルトンといえば白が定番だが、その骸骨兵がいこつへいは淡くオレンジ色に発光していた。


その不死者アンデッドは骨の剣と盾で武装していた。


「カタカタ……カタタタタ!!!!!!!!」


これがかなりの巨体でアーヴェンジェのマッディ・ゴーレムと同じクラスのサイズだ。


遠くから見てもダッザニアにむくろの巨人が立っているのが目に見えた。


まだ距離のある学院からでも目視が可能だった。思わずざわめきが起こる。


スケルトンはメリメリと音を立てながら剣を大きく振りかぶった。


そしてそのまま人間、悪魔関係なしに手の得物えもので叩きつけた。


「ズズン!!!!!」


周囲の地面が恐ろしいまでに揺れた。


その振動でほとんどの人間と悪魔が立っていられなかった。


空中の悪魔が集まってきたが、ちゅうぐスイングでほぼ全員が撃墜げきついされてしまった。


驚くべくはあれだけ巨大にも関わらず、動きがかなり素早いことである。


悪魔も学院もあの図体ずうたいならつけ入るチャンスがある。そう思っていたが、リッチーの底力は半端ではなかった。


今度は狂ったように地団駄じだんだを踏んだ。


人間も悪魔も関係なく圧縮されてクズ肉となっていく。


その周りの者もあまりの衝撃で逃げることすらままならない。


「ズズン!!  ズズン!!  ズズン!!」


トーラー・スケルトンは無慈悲むじひだった。


いや、死こそ最高の慈悲なのかもしれない。


この暴れまわりでダッザニアの兵力は半壊した。それでも人が寄ってくる。


兵士でも何でも無い一般人さえ突っ込んできていった。


そんな時、その場の全員が時空のゆがみのようなものを感じた。


(ぐにゃぁ~~~)


学院生たちはそろって戸惑とまどいの声をあげた。


「何だ……これ!?」


「お、おい……。勘違かんちがいじゃねぇよな?」


「ねぇ……今のなに?」


「頭が……クラクラする……」


「心が……ざわつく……」


学院の長老、ナーネは確かにそれを感じ取った。


「いかん!! グリモアの顕現けんげんが近い!! 間に合うかッ!?」


ロザレイリアは思わず笑みを浮かべた。


「あらあら、学院の方々が来る前にアレが現れるかもしれませんね。あとはザフィアルさんをバラバラにして抹殺まっしょうしましょうか。あぁ、いよいよこの時が!!」


用心して遅めにかけつけたザフィアルも不敵ふてきに笑った。


「ハハハ!!!!!! もうすぐ滅亡の救いは成しげられる!! 学院の連中は指をくわえて見ているが良い!! ロザレイリアァ!! こんな骨のデクノボウでこの私を止められると思ってか!?」


大量に血を吸ったダッザニアには時空のひずみが確実に発生していた。


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