表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter:9 虹の向こうに何が見えるの?
605/644

プロフェッサーズ・ペンタグラム

リジャントブイルの要塞ようさいは遂に臨戦態勢に入った。


速度の速い悪魔や、テレポートの出来る不死者ふししゃが迫ってくる。


学院生達やリジャスターは迎撃に出た。


今まで押されがちだったが、今度はリベンジとばかりに受け身ではなく打って出た。


悪魔はデモンスレイヤーに溶かされていき、不死者アンデッド聖騎士セイクリッド・ナイツに浄化されていった。


ただ、テレポートしてくるリッチーは完全には撃滅げきめつ出来なかった。


それに、ロザレイリアの影響か、光属性も混じっておりダメージも通りが悪い。


だがアルクランツの集めたエナジーを受け取った学院生は強かった。


今まで明らかに見劣りしていた研究生エルダーでも前線で通用するようになっている。


生けとし生ける者達は群がる魑魅魍魎ちみもうりょう蹴散けちらしていった。


学院に直接攻撃を仕掛けるものも居たが、亀龍タートルドラゴンはズシンズシンとそれを踏みつけた。


一応、対空の攻撃手段もあって空気砲を上空めがけて発射した。


これはあまり殺傷能力はないが敵を吹き飛ばす能力は高く、かなり広範囲にわたって相手を吹き飛ばしていった。


学院側に制空権はなかったが、この攻撃によって上空はクリアを保っていた。


予定通りヒット・アンド・アウェイの作戦をとり、学院勢は出たり入ったりを繰り返してダメージや消耗しょうもうを抑えた。


深い傷を負っても、要塞に逃げ込んだり救助班が向かえば命を落とすことはまず無い。


これまでむざむざ仲間を殺されて苦汁くじゅうめきた経験がここで生きてきていた。


多くの犠牲者ぎせいしゃが出たコロシアムは解体され、まとめて要塞ようさいとなった。


だが、全部が全部をまとめたわけではない。学生寮などはミナレートに置いてきている。


初等科エレメンタリィ中等科ミドルの生徒たちは退避させていた。


ここに残るのは研究生エルダーとOB・OG達のリジャスターが中心である。


一時期は全滅寸前だったが、減っては集まり、減っては集まりを繰り返して現在は200名程度の戦力になっていた。


話を聞いて次々とかけつけたリジャスター達の愛校心にも支えられていた。


残りの人員を振り絞っても、むくろと悪魔がそれぞれこれと同規模の軍団を率いていると思われる。


そのため、2軍がそろって襲撃されると頭数的あたまかずてきに厳しいものはあった。


いくら勢いづいているからと言って見るからに敵は多く、本陣に乗り込むとなれば四方八方から叩かれるのは容易よういに想像がついた。


その戦力差に恐れや絶望感を感じる者、戦意をなくす者などがちらほら現れ始めた。


だが、そのたびにどこからともなく声が聞こえた。


(精神論ってバカにするけどな、アタシは何度も言うぜ。”勇気とガッツ”だ!!)


周りを見渡しても声の主は居ない。だが、自然とちからき上がってくる。


望まぬ者にとっては余計なお節介せっかいだったが、アルクランツの残留思念ざんりゅうしねんは強烈にこの世に残った。


ましてやその思念がかえるところである学院はそのちからが強くおよんでいた。


学院勢たちは順調に敵の勢力を撃破していった。


とはいえ敵も本気でかかってきている。何の考えもなしにメンバーを回していくと回復しきらないうちに出撃することになってしまう。


そのために教授4人組が立ち上がった。一度、味方をひっこめてから彼らが出撃した。


先手をうったのはフラリアーノだった。


真っ赤な炎柄ほのおがらのネクタイを左手でキュッとしめる。


もう腕がくなってかなり経つ。そのため、すっかりこの感覚に慣れつつあった。


サモナーズ・ブックをどこからともなく取り出す。


「死者はなんじるべきひつぎかえれ!! サモン!! ダークブルーブルー・コフィン!!!!!」


真っ青な棺桶かんおけが地面からせり出した。


そのふたが少しだけ開くと真っ黒な手が不死者アンデッド達に手招てまねきをした。


するとひつぎは物凄い勢いでむくろを吸い込み始めた。


リッチー達はこらえていたが、動きを封じることには成功していた。


これはここに残っている不死者アンデッドの軍勢が半壊するレベルの攻撃だった。


スーツ姿の教授は汗をかきはじめていた。


(これだけ強力な幻魔を長時間維持するのは厳しい!! 支障が出ないあたりで切り上げますか!!)


それを見かねてか、漆黒しっこくのケルベロスにまたがったケンレンが前に飛び出した。


「フラリアーノ先生!! これだけやってくれれば十分ですよ!! あとは無茶しない程度に敵を撃破していってください!!」


彼と交代するようにツナギの教授は突っ込んでいった。


「頼みます!! 私もすぐ立て直します!!」


冥府めいふの番犬に乗った教授は親指を立てた。


ケンレンが乗っているのは悦殺えっさつのクレイントスの使い魔だった。


本来は血も涙もない畜生ちくしょうだが、彼の腕前にかかれば飼いならすのは難しくはなかった。


「は~い!! ベロちゃ~~~ん♥ いきまちゅよ~~~♥」


ヒゲづらの中年男性は声色を高くした。


シェオル・ケルベロスは骸骨の群れに突っ込んでいった。手当たり次第にあちこちを蹴散けちらす。


頭が3つあるのでそれぞれが独立した動きをしていた。


1つの頭は緑色の火炎を吹いて敵を燃やし尽くしているし、もう1つの頭は吹雪を吐いて次々と相手をこおらせていく。


もう1つの頭は溶解弾ようかいだんを撒き散らして不死者をドロドロに溶かせていった。


まさに一騎当千いっきとうせんがごとき暴れっぷりで、フラリアーノの取りこぼしを片っ端からボコボコにしていった。


一方、ナッガンとバレンは悪魔の相手をしていた。真っ先にバレンが突っ込んだ。


「おめぇら俺がただの脳筋のうきんだと思ってんだろ? それなりに器用なこともできるんだぜ。コオオォォォォ!!!!」


彼は構えるとその場で猛スピードのパンチの連打を放った。


相手とはだいぶ距離があって、当たらないかと思われた。


だが、パンチの先にいる悪魔が殴られたような傷を負って吹っ飛んだ。


しかも目にも留まらぬラッシュ攻撃だったので次々と悪魔はKOされていく。


バレンは殴るのを止めなかった。打撃の射程を伸ばす魔術である。


ここまで来るともはや拳術というか飛び道具使いだ。


通常、体から離れた打撃はいちじるしく減衰げんすいするものだが、彼の場合はほぼ100%の威力を維持していた。


「よく誤解されんのよ。誰が『離れてたら攻撃があたりませーん』なんつったんだよ?」


これが悪魔にはバシバシ決まった。顔面を潰されたりボディーにクリティカルヒットしたり、アッパーも決まった。


マッチョガイは全く容赦ようしゃすることもなく、悪魔の死体を積み上げていく。


だが、敵とて必死だ。数をそろえてなだれ込んでくる。


段々とバレンは敵をさばききれなくなりつつあった。


自分にダメージを負わない程度には戦えるが、一体多数の戦いにはやや弱かった。


うしろから声がかかる。彼の後ろにはナッガンが駆けつけてきていた。


「ここは任せろ。バレン先生はそのままパンチで迎撃してくれ。それ以外の広範囲は俺がやる」


ナッガンは腰のホルダーに手をかけるとクタっとしたウサギのぬいぐるみを取り出した。


「スタッフィーだ……」


グレーのオールバックに無骨な姿に似合わぬぬいぐるみだ。


「相変わらずやべーなそのウサちゃん。久しぶりに抜いたんじゃねぇか?」


ナッガンは首を左右に振った。


「定期的にメンテナンスはしてある。問題ない。さぁ、おしゃべりはこの程度にしてやるぞ」


「おうよ!!」


2人は迫りくるデモンに備えた。


ナッガンが手にしたぬいぐるみからは異様な殺気とプレッシャーが放たれていた。


もうこの時点で下級のデモンは二の足を踏んだ。


「俺も言っておくか……。誰が『細いレーザーの狙撃しかできない』と言った?」


そう言いながら彼はウサギのぬいぐるみの首筋をつまんだ。


人形は「くたぁ」と垂れ下がったが、あやしくボタンの目が光った。


次の瞬間、一筋の光線が大地をぎ払った。


ただのレーザーだと悪魔たちはたかをくくったが、その着地点は光の壁のように大爆発を起こした。


不死者アンデッドも巻き込まれる。この強烈な光でザコのむくろは消し飛んでしまった。


それを見ていた教授たちは感心の声を上げた。


「さすがナッガン先生!! 私も負けてはいられませんね!!」


「わぁお♥ ステキ!!」


「やるじゃねぇか!! こうしちゃらんねぇ!! 俺も筋肉、うならせてくぜ!!」


4人の教授に呼びかける者が居た。


「若い4人が頑張っとるんじゃ!! ワシが気張らんわけにはいくまいて!!」


ファネリが戦場に出てきていた。


「皆のもの、さがれい!!」


教授たちとファネリはスイッチで攻防を切り替えた。


「ワシら生き残った5人の教授、死んでいった仲間のためにもこの戦い、必ず勝つッ!!」


ファネリは手首をクルクルと回した。


「はあああああぁぁぁ!!!!! 獄波ごくはのメルティカ・ウェイバー!!!!」


真っ赤な灼熱しゃくねつの波が戦場を洗い流すように流れていった。


これによって敵の先発隊はほぼ全滅した。


ファネリたちは息を荒げていたが、このおかげで他の面々のダメージを疲労で肩代わりすることが出来た。


ザフィアルもロザレイリアもこの結果はおおむね予想通りだった。


だが、それはあくまで結果の話であって相手の魔術のパワーアップに懸念けねんを抱かざるを得なかった。


滅亡を望む悪魔は忌々(いまいま)しいといった様子だ。


「フン。アルクランツめ。いた種が着実に芽吹めぶきつつある。死して私の喉元のどもとを狙うか。いいだろう。死にぞこないの顔を絶望に染めてやろうではないか」


不死者アンデッドの世界を望むリッチーは悪魔を茶化した。


「まぁ。まだアルクランツ先生に執着しゅうちゃくするのですか? あなたも人の情が抜けていないようですね。そんなようでは足元をすくわれますよ?」


ザフィアルは隠し爪を突き出してロザレイリアをおどした。


「それ以上、ふざけた事を言ってみろ。さもないと……」


骸の女王は笑った。


「フフフ。さもないと? 私を簡単に傷つけることは出来ないのは貴方もご存知でしょう?」


戦いの最中にあっても相変わらず2人は犬猿けんえんの仲だった。


もっともこのような不透明な関係だからこそ数で劣る学院にも勝ち目が残っているのだが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ