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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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人間と悪魔と骸と

レイシェルハウト達が城塞都市ウォルテナを無事に脱出した頃、悪魔界では議会が開かれていた。


議長はきりのようなモヤで存在が曖昧あいまいだった。それでもしゃべりはする。


「は~い。じゃあ、臨時の悪魔議会を開催しま~す」


まるで少女のような声色だった。すさまじいギャップである。


「今日はね~。ノークタリアからノナネーク君が返ってきました。その件について話を聞いてもらいたいと思います。じゃあ、見た限りどんなのだったか教えてよ」


ノナネークは壇上だんじょうに上がった。とはいっても浮いているのでだんに乗る必要はなかったが。


「そうだね~。まずはセリちゃんが殺られたのは伝えておくよ。部下の子たちはショックかもしれないけど強く生きるんだよ」


これには部下以外の悪魔も悲しんでいるようだった。


全く興味がない、あるいは何も考えているかさえわからない議員も少なからず居たが。


「でね~。そんなハイレベルな生物がいるなら”ヤード”を広げようとおもうじゃん? でもね、またアイツなんだよ。ノークタリアはいっつもそう。アイツなんだ」


瞳を開けてノナネークはしぶい顔をしてみせた。


議長はそれを聞いて確認をとった。


「アイツってあのアレ? 困ったな~。いくらノークタリアに価値があったとしてもアレが居るとロクなことがないんだよね。これもう決議とる必要ないんじゃん?」


お付きの議員がささやいた。


「議長様、議長様。それはさすがに投げやりでございましょう。しっかり記録される公的な会議ですぞ!!」


姿はハッキリ見えないが、モヤモヤは不機嫌そうだ。


「あ~、じゃ~決をとるよ。これ以上、ノークタリアに干渉するなら賛成を、干渉しないなら否決してね。じゃあ投票開始!!」


あっという間に結果が出た。


「ん~。賛成が0票、否決が587票、無投票・無効票が127票 これはもう何も言うまでもないね。あそこはほうっておくことにしよう。悪魔界の穴は塞いでおくよ。ザフィアルは悪魔界もろとも滅亡させる気らしいけど、穴を塞いじゃえば関係ないからね。どうせ残った悪魔はザフィアルを新たな王とかいって崇拝すうはいしてる悪魔たちだろうから無視しま~す。じゃあこれにて閉会するよ。みんなご苦労さま~」


ぞろぞろと悪魔たちは議会から去っていった。


議長はノナネークに語りかけた。


「ねぇ。君、実はちょっとは興味あったんだろ? どう? やれそうだった?」


胎児たいじはくるりくるりと回った。


「う~ん、悪くはないかな。アルクランツ校長が死にぎわにマナを再集結させたみたいだけど、その人らがたばになってかかってくればあるいはって感じかな。まぁ知っての通り、ボクよりも強い悪魔なんてゴロゴロいるんだから本気を出せば簡単に落ちるとはおもうよ。でもね、やっぱりアイツの存在は不毛だからね。手を汚してまであそこがほしいかって言うと……ね?」


ミスト状の議長はケラケラと笑っていた。


しばらくして脱出したレイシェルハウト達が学院の要塞ようさいに帰還した。


ほぼ同時に素早く撤退を決めた西側の部隊も合流することが出来た。


確かに悦殺えっさつのクレイントスの放った魔物は手ごわかった。


だが、ファネリと4人の教授はこらえながら奮闘ふんとうした。


それにアルクランツの残したマナが加わり、こちらもほぼ無傷で帰還することが出来た。


結果的に東の部隊も西の部隊も大きな損害を出すこと無く、校長の最後の足掻あがきは大成功したといえた。


もっとも彼女の加護はこれだけで終わるわけではない。ここからが本番だった。


レイシェルハウト達を救出したドラゴンが上空に散開していく。


生き残りの中で最年長。現状で指揮をとっているナーネは老ドラゴンを指さした。


「おぬし、アルクランツの乗っていた飛竜じゃな。わしをウォルテナと学院の中間地点へ乗せていっておくれ」


彼女は悪魔とむくろの間で会談を開こうとしていたのだ。


それにしても現在のトップがそんな危険な交渉に行くのはリスキーすぎる。


そう皆が言ったが、ナーネは言って聞かせた。


「ええか。楽園の行方ゆくえを決める際は不戦という決まりがあるんじゃ。それは相手も重々承知じゅうじゅうしょうちの上。戦場にもルールはあるんじゃよ」


先の大戦を経験した老婆ろうばの言うことだ。皆はそれを見送った。


カンチューのまたがると会談へと向かっていった。


中間地点にはすでにザフィアルとロザレイリアが待っていた。


「おい、遅いぞ」


ウルティマ・デモンはやや苛立いらだっているようだ。


「まぁまぁ。それでは会議を始めましょうか」


ロザレイリアは場をおさめて本題に入った。


ナーネは2人にたずねた。


「まずはおぬしらのほっす楽園を聞かせておくれ……」


悪魔は即答した。


「全てを滅ぼすことによって苦痛の輪廻りんね救済きゅうさいする。滅びとはすべての存在にとって楽園なのだ」


むくろも続いてすぐに答えた。


不死者アンデッド不死者アンデッドによる不死者アンデッドのための世界をつくります。現代は光に満ちあふれすぎていますから……」


ナーネはうんうんとうなづいた。


「じゃあわしらじゃ。わしらは生きとし生けるもの楽園をのぞんでいる。そしてあやまちがおこらぬように、全員を賢人とする」


3人は黙って互いを見合った。それぞれ全く違った願いを持っていた。


ここで生物の代表が提案をした。


「ここで賢人会けんじんかいを開いて3分割すれば現在とあまり変わらない世界……すなわち現状維持が成立する。もし決裂けつれつするのなら甚大じんだいな被害をそれぞれがこうむることとなる。まだ踏みとどまれるぞ。わしら人間だからこそこの発想が出てくる。なに、不毛な争いを避けるのはあながち悪い話ではないと思うのだが……」


アルクランツは最悪のケースも考えていて、学院の重鎮じゅうちんたちと話し合っていた。それがこの落とし所である。


だが、ザフィアルもロザレイリアもその提案を一蹴いっしゅうした。


悪魔は相手にすらする気がないらしい。


「くだらん。たとえ私のちからが残るとは言え、すべての存在の滅亡めつぼうとは行かない。今回は積み重ねを繰り返した末の千載一遇せんざいいちぐうのチャンスなのだ。くだらない話を聞く耳は持たん」


しかばねの女王もつっぱねた。


「論外ですね……。私達はとにかくあなた達、生者がうらめしく、憎たらしいのです。まさに消滅してほしい存在。また、ザフィアルのひとりよがりな滅亡願望めつぼうがんぼうも許すわけにはいきますまい。悪魔ごと消えてもらいましょう」


一気に場の空気がプレッシャーで息苦しくなった。


「……それでは今回は賢人会けんじんかいは開かない。最後の生き残りが楽土創世らくどそうせいのグリモアを手にする。いいんじゃな?」


ナーネが言うと3人は目配せしあった。それぞれがコクリとうなづいていた。


究極悪魔はくだらない時間を過ごしたとでも言いたそうだ。


婆婆ばばあ、次に会う時は命が無いと思え」


ロザレイリアはそういう悪魔に同意した。


「寿命がつきたらこちらにいらっしゃいな。その前にこちらへ来てしまうかも」


これを聞いた学院の長老は思ったより2人が険悪けんあくでないことを気づいた。


悪魔と不死者アンデッドはそれなりに連携しており、学院を潰した後に頂上決戦をする気配が色濃かった。


(まずい……。学院全体で当たったとしても相打ちになる可能性が高い。最後に残るかがいよいよわからなくなってきたわい)


彼女がそんな事を考えていると悪魔が声をかけてきた。


「おい婆婆ばばあ、そろそろだなぁ?」


むくろも目を光らせた。


「そうですね。いよいよといった感じでしょうか」


心当たりのある老婆は首を縦に振った。


「そうさな、前回は多くの陣営がぶつかりあった。そして衝突が激しくなって犠牲者ぎせいしゃおびただしくなっていくと、まるで血を吸うように楽土創世らくどそうせいのグリモアは現れた。第3次ノットラント内戦では疲弊ひへいが激しく賢人会けんじんかいで落ち着いたが、今回は違う。現れるとしたら戦の終盤。しかし、余裕が無いと発動はできん。結局、3陣営うちで残ったものだけが楽園を創ることができるじゃろうて」


交渉は決裂けつれつしたが、攻撃したり不意打ちするということはなかった。


ザフィアルとロザレイリアはウォルテナへ、ナーネは学院へと戻った。


そして彼女は決起集会を行った。


「敵は悪魔と不死者アンデッド両方だと思ってほしい。正直、かなりの強敵も鳴りをひそめている。じゃが、アルクランツ校長先生の集結させてくれたマナは本物じゃ。その証拠に、わしはおぬしらからひしひしと魔力を感じる!!」


いくつかの広いホールに分散して学院生達はそのスピーチを聞いていた。


「苦しく長い戦いが続いてきたが、おそらくこれが最後の衝突となる。もしわしらが負ければ世界は死霊に満ちる、あるいは存在ごと滅亡してしまうじゃろう。なんとしてもこれらは食い止めねばならない!! 生命を捨てろと言わざるを得ないのは非常に心苦しく思える。だが、たとえ生き延びたとしても帰るところがなければどうしようもない。いや、各々(おのおの)の存在自体が抹消まっしょうされてしまう」


彼ら彼女らは厳しい現実に直面していた。だが、動揺する者は少なかった。


逆に、生き残った面々は感覚が麻痺まひしていると言えるのだが。


それを見たナーネは心を痛めた。


「おうおう。こんな状況下でもなげかず、顔色1つ変えんのか。本来ならおぬしらは常夏とこなつの学院で青春を謳歌おうかすべきであった。それがどうした。まるで戦闘マシーンのようじゃないか。生き残ってもそれでは息苦しいだけじゃろうて。せめて、せめて最後だけは笑っておくれ……」


要塞はシーンと静まってしまったが、やがてちらほらと拍手はくしゅが始まった。


やがて変形してしまった学院を拍手はくしゅが包んだ。こんな厳しい中でも皆が笑顔を浮かべた。


この光景に長老は涙せずにはいられなかった。


「おうおう。皆のもの、生き残れよ!! 皆でそろってミナレートに帰るんじゃ!! わしらの魔法都市へ!!」


ナーネが高く手をかかげると学院が揺れ始めた。土台となっている亀龍が動き出したのである。


実はリジャントブイルは自律移動する機能があった。


その龍は恐ろしくかたい。並大抵の攻撃ではダメージを受けないだろう。


ただ、やはり弱点はあって燃費が悪いのと速度が非常に遅かった。


それでもシェルターが歩いているようなものなので、守りは盤石ばんじゃくだった。


戦いの少し前、アシェリィやジュリス、百虎丸、はナッガンクラスの面々と再会した。


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