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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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Pray

アルクランツは地形が変化するほど七色属性の魔法弾を繰り返し打ちまくっていた。


「でやあああああぁぁぁ!!!!!!」


色が混ざってどんどん黒くなっていく。


まるでパレットの中身をぶちまけすぎてぐちゃぐちゃになったようだった。


この連撃によって彼女とザフィアル近辺の悪魔や不死者アンデッドは吹き飛んだ。


(くそッ!! 手応えが無い!! 相手はウルティマ・デモン。ザフィアルのやつがうぬぼれて究極悪魔を名乗るわけがない。この程度では、まだ、滅びない!!)


幼女は力の限り猛攻撃を続けた。


「これでももってけェェェ!!!!!」


彼女は光属性の大きなやりを造り出してザフィアルめがけて投げつけた。


光属性と闇属性が衝突してすさまじい爆発が起きる。


一連の攻撃は拘束力こうそくりょくが高く、直撃したのは間違いなかった。


反応がないが、アルクランツは気を抜かなかった。


「おい、生きてるんだろ!? こっちはまだ余裕があるぞ。いつまでも勿体もったいぶっていると後悔したまま滅ぶことになるぞ!!」


黒い煙がモクモクと上がっている。


そのスモークの中からピンク色をした細い糸のようなレーザーが現れた。


「チッ!! やはり死んでは居なかったか!! 追撃光線か!!」


アルクランツは白い迎撃レーザーを放った。それでも全ては相殺そうさいしきれない。


空中で鮮やかなステップをとって校長はそれをかわしきった。


そちらに気を取られた次の瞬間、アルクランツの脚が急激に引っ張られた。


「しまったッ!! デモンズ・スペルか!!」


ザフィアルはノナネークからスペルを見ながら盗んでいたのである。


幼女は脚をつかまれたまま引っ張り上げられた。


ほぼそれと同時にザフィアルに強烈な地面への叩きつけを喰らってしまった。


「ごはッ!!!!」


ただの物理攻撃だったが、ウルティマ・デモンの攻撃はあまりにも威力が高かった。


もう一度、脚をつかんだまま、今度は反対側に打ち付けられる。


「ぐぐっ!!!」


アルクランツは素早くローリングしてザフィアルの腕を抜け出して戦闘態勢に戻った。


ウルティマ・デモンはそれなりに傷を負っていたが、想定よりはるかに軽症だった。


「フフフ。勿体もったいぶっているって? この悪魔の傷を見てか? お前こそ手加減しているのではあるまいな? この程度、この程度でかぁ!? フハハハハ!!!!!」


校長はゴキブリを見るような嫌悪感を示しながら更に攻撃をしかけた。


「軽口を叩けないくらい端微塵ぱみぞんにしてやる!! うおおおおおおぉぉぉぉ!!!!! リミットブレイクだ!!」


アルクランツの魔力が跳ね上がった。ザフィアルの体感では今までの2倍は超えていた。


目にも留まらぬ速さでブロンドの幼女が迫る。


「いちッ!!!!」


ザフィアルの腹部にパンチを喰らわせた。細い腕からは想像できないパワーの一撃だ。


デモンが後方に吹っ飛ぶといつのまにかその後ろにアルクランツは回り込んでいた。


容赦なく飛び膝蹴ひざげりを放つ。ザフィアルは空中に打ち上げられた。


「にぃ!!!!」


うつ伏せの姿勢の悪魔の背筋に上側から強烈なスタンプキックが決まる。


「さんッ!!!!」


ザフィアルは無防備むぼうびに地面に叩きつけられた。


その真上からアルクランツは急下降した。そのまま拳を悪魔の背中に突き刺す。


「しぃ!!!!!」


そして手先を手刀に変えて右肩へと切り払う。


「ごッ!!!!」


今度は拳を突っ込んた場所めがけて左肩から手刀をえぐりこませた。


「ろくッ!!!!」


小さな手から放たれる手刀は小さかったが、魔術で攻撃範囲を拡張している。


この時点でザフィアルの胴体は左右からたすき掛けのようにして切りかれていた。


「くたばれザフィアルルゥゥゥゥ!!!!!!!!」


連撃を加えた少女は追い打ちとばかりにXの字にクロスして巨大な魔力で出来た刃による斬撃を放った。


斬撃と言っても実際は消滅させるレベルの威力で、またもやウォルテナ全体がぐらぐらと揺れた。


(まずいな。消耗しょうもうが激しい。しかしザフィアルをほふったならば上出来か……。だが確実にトドメは刺さねばなるまい。まだマナは残っている!!)


重い体を引きずるようにしてザフィアルの死体を確認しようと彼女は前に出た。


「ふむ。これは間違いなく……」


その時だった。アルクランツは自分の脇腹わきばらに違和感を感じた。


「なっ……。そんな……」


視線を体に移す。彼女の体にはぽっかり穴が空いていた。


横っぱらどころではなく、背骨に到達するまでえぐられている。


戸惑とまどいながら後ろを振り向くと、そこにはロザレイリアが浮いていた。


「フフフ……。どうです? ネクロ・シュートの味は。いくら貴女あなたと言えど、それだけ深手ふかでを負えば治癒が間に合いますまい。深手……というかほぼ死にかけていますし。つい先程さきほどまで自分の死という事を縁遠いと思っていた者が死に引っ張られていく様。実に美しい」


アルクランツは背後から撃たれたのである。


彼女は出血が止まらなかった。というか出血などという生易なまやさしいものではない。もはや血みどろである。


立っている姿勢さえ維持できない。もう体がポッキリ折れてしまいそうだった。


「ま、まさかロザレイリア直々のお出ましとはな……。う、迂闊うかつだった。お前らが組んでいるとわかった時点でこういう事態は想定できたのに。完全に私の慢心だ……」


彼女がかがみ込むと目の前にザフィアルが立っていた。


「だれが1対1の真剣勝負で決着を付けると言った? まぁお前に私にそこのむくろが揃っていれば因縁が果たされるのもまた運命か。……さすがにさっきの魔術にはかなり痛みを感じたぞ。だがな、究極の悪魔はこの程度では滅びん。よしんば私を滅ぼすとしてもお前には叶わなかったということだ。安心しろ。真の滅びは私が実現してやる」


教主は全身ズタボロだったが、それでも皮一枚で傷はふさがっていた。


ロザレイリアが不敵に笑う。


「フフフ……。ザフィアルさん。良い囮役おとりやくでしたよ。本当のところ、一騎打いっきうちではアルクランツさんには勝てない。だから私と組むとおっしゃったのでしょう?」


ウルティマ・デモンはそれをハッキリ否定した。


「何を言う馬鹿者。私1人でもこんな愚図ぐずに負けるわけがなかろう。それに、お前らと組んだ覚えもない。コイツが死んだら次はお前らだ」


挑発するようにロザレイリアはクルクルと回った。


「フフフフフ……不死者アンデッドを殺す? 馬鹿者はどちらでしょうね。おろかな方……」


アルクランツを放っておいてこちらはこちらで一触即発いっしょくそくはつだった。


「今はいいだろう。それより、始末をつけるぞ」


ザフィアルはアルクランツの首をつかんで持ち上げた。


「どうだ? まだ意識はあるか? 痛みは感じるか?」


必死に幼女は抵抗した。


「ぐっ……離せ……」


悪魔は感心したように話した。


「ほぉ。まだ息があるか。ムダに長生きしているだけはある」


すぐにザフィアルはアルクランツを蹴り飛ばした。


彼女はロザレイリアの方へ飛んでいったが、今度はロ骸の女王が見えない壁で弾き返した。


こうして互いにドッジボールをするようにして瀕死ひんしの校長をもてあそんだ。


「どうだ? そろそろ死にそうか?」


「いいえ。まだ息がありますことよ」


意識が遠のいていく中、アルクランツは念じた。


(生ける者全てのちからはこんなもんじゃないはずだ!! 私のたましいけて潜在的な魔力を全て引き出すッ!! みんな頼む、受け取ってくれ!!)


この瞬間、全ての生き物に彼女の意識がリンクした。


学院の人々は彼女の死をさとってそろって涙した。そしていのった。


また、そうでない者たちも女神のような少女の死に思わず祈りをささげた。


いのりはやがてちからになり、滅びや死にあらがおうとする者たちに祝福を与えた。


散らばりかけていた願いをアルクランツが繋げたのだった。


ザフィアルは不機嫌そうに物言わぬ死体を踏みつけた。


「種をいたか……それが死に際の足掻あがきか? 半端者が生まれても私達にはかなわない。結局は滅ぶことがわからんか。くだらん最後よのアルクランツ。現に生ける者のお前が死んでいては世話がない」


だが、悪魔はなにやら考え込んでいるようだった。


「おいむくろ。もうしばらくはお前らの道楽に付き合ってやってもいいぞ」


ロザレイリアは骸骨がいこつの顔で笑った。


「おやおや。ウルティマ・デモンでも怖いものもあるのですね。確かにアルクランツ先生の最後の一手は馬鹿にできない。今後、我々を脅かす魔術師が出てきてもおかしくはありません。人の行路いくみち道楽どうらく呼ばわりしゃくにさわりますが、付き合ってもらえるのならばしばしお付き合い願いましょう」


2人は無言で視線をかわした。


そしてザフィアルはアルクランツだったものを蹴り飛ばした。


「なにが”人”の行路ゆくみちだ。お前らも人外だろうに」


ふっとんだ死体はロザレイリアのシールドで粉々にはじけとんだ。


「いえいえ。言葉遊びというものですよ。それに厳密には我々は人外ではないでしょう。元は人間なのですから……」


教主は鼻で笑った。


「フッ。まぁどのみちお前らも滅亡するのだ。楽になれるのだから大差あるまい」


むくろは肩をすくめた。


「はいはい。お気に召すままに。ただ、あまりおふざけが過ぎるようですと夜道をおびえて歩くことになりますよ」


彼らは非常に険悪な仲だったが、未知の魔術師に備えるという点では2人の意見は合致がっちしていた。


組みたくないが組むしか無い。縁を切りたくても切ることが出来ない。


だが、それは末端まったんにはあまり関係がなく、ウォルテナでは悪魔と不死者アンデッド達が酒を飲み交わし始めていた。


すっかり化物の根城となったウォルテナだったが、諦めない心がまだウルラディールにはあった。


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