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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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真剣さながら拳の決着

どうしてだろうか、女将軍セリッツォとパルフィーは初めて会った気がしなかった。


敵であるはずなのにまるでかつてからの好敵手ライバルのようだ。


パルフィーは親指で鼻先をこすった。


「あんた……良い拳の持ち主だ。悪魔にしとくのはしいぜ」


セリッツォは瓢箪ひょうたんから酒を飲み干すとそれを投げ捨てた。


「それは俺も同じだ。お前を亜人にしておくにしてはしい。死ぬ前ならまだ間に合うぞ!!」


猫耳っをピコンと動かしてタヌキのしっぽをゆらゆらと振ると亜人の少女はニヤリと笑った。


「ハン!! 冗談!! 悪魔になるくらいなら死を選ぶね!!」


それを聞いて魔界の武将は豪快ごうかいに笑った。


「ガハハハ!! そうでないとな!! さぁ、おしゃべりはここまでだ。いざ尋常じんじょうに……勝負ゥ!!」


「おうよ!!」


セリッツォは正拳を振り下ろしてきた。


「いくぞぉッ!!」


ルルシィほど体格差はないが、それでもパルフィーの2倍近くは大きい


手加減なしに虫を潰すような拳が飛んでくる。


(この娘……殺気が感じられない。かといっておびえているわけでもない。なぜだ!?)


「ぬりゃぁああ!!!!!」


学院の人たちはパルフィーがペシャンコになるとしか思えなかった。


だが、パルフィーは掌底しょうていでそれを打ち返した。


拳の衝突が生み出すパワーでその場の人々は圧倒された。


「ぐぐぐ……娘ェ!! お前……相当な手練てだれだな!?」


パルフィーも拳越しにセリッツォを見つめた。


「お前こそ!! どうやらデクノボウではないらしいな!!」


しばらくの間、激しい打ち合いが起こった。互いに一歩もゆずるところはない。


学院勢としてはパルフィーを応援すべきところだが、あまりにも実力伯仲じつりょくはくちゅうたたかいに声が出なかった。


観戦者のノナネークは目を細めた。


「お~、これはこれは。想像以上だね。ボクもちょっと楽しくなってきたよ」


このままではらちがあかないとセリッツォは攻めの一手に出た。


「ぬおおぉぉぉ!!!!! 粉々になれーーーい!!!!!」


彼女は思いっきり拳を振り下ろし、屋敷内の地面に思い切り叩きつけた。


地面は揺れ、そして割れた。それらがめくりあがって無数のつぶてがパルフィーを襲った。


「よっと!!」


亜人の少女はひらりとジャンプしてその猛攻をかわした。


「もらったぞ!!」


宙に浮いたパルフィーめがけてセリッツォのスキのないアッパーが繰り出された。


直撃間違いなしと思えたが、彼女はうまくこれも受け流した。


女将軍の拳に片手をつくと衝撃を殺しながらくるりと回ってアッパーの上に着地した。


「な、何ッ!?」


セリッツォは驚きのあまり、一瞬の間、動けなかった。


「これならどうだ!! 突日とつじつ!!」


パルフィーはぐっとひじを突き出して相手の頭部をねらった。


これなら頭に大ダメージを負って戦闘不能になる。そう思えた。


「ぬはははは!!!! お前、俺が石頭なのをしらんな!? 悪魔界でもそれになりに有名でな!!」


亜人の少女の一撃はたしかにセリッツォに直撃したが、それは石頭で弾かれてしまった。


ひじを通じてジーンという反動が彼女を襲う。


「痛って~!! 知るかよそんな事!! なんつう石頭いしあたまだ!! こっちの腕が折れるってんだよ!!」


だが、パルフィーはすぐに次の攻撃へと繋いだ。


するりとセリッツォの足元へと飛び降りると、股の下をスライディングで抜けた。


同時にセリッツォの脚めがけてパルフィーは自分の脚をひっかけた。


「ぬぉあ!!」


女武将はバランスを崩した。それを亜人の娘は見過ごさなかった。


サマーソルトのように蹴り上げつつ、そのまま脚を伸ばしたまま今度はセリッツォの背中めがけてりおろした。


逆落夜ぎゃくらくや!!」


無防備な背中に鋭いかかと落としが決まり、それは悪魔の将軍の衣服の背中を切り裂いた。


服は防具というほど厚くはなかったが、その下の肉体はわずかに傷ついて血がにじむだけだった。


「お前……速いな!! 強敵とはそうこなくてはな!! 私も血がたぎってきたぞ!!」


この頑丈がんじょうさにはさすがに亜人も驚いた。


「う~む。本気で仕留める気でやったんだけど。あんた、想像以上にかたいみたいだな……」


少しの間のスキを悪魔は見逃さなかった。


背中からぐらりとパルフィーめがけて倒れ込んでくる。


すかさず彼女はバックステップでこれをかわしたが、時間差でセリッツォの拳が襲ってきた。


気づくとパルフィーは大女の両拳にはさまれていた。


なんとか潰されないようにん張る。


「ぐぐ……ぐきぎぎ……なんてパワーなんだ。このままだと押しつぶされるッ!!」


メリメリと肢体したいが悲鳴をあげた。


「く……そ……相手が悪い。こんなところで……負け……死んじゃうのかよ?」


パルフィーが歯を食いしばりながら瞳を閉じた。その時だった。


どこからか育ての親であり、拳術の師匠である玄爺げんじいの声が響いてきた。


(お前をこんな軟弱者なんじゃくものに育てた覚えはない!! 思い出せ!! 月日輪廻げつじつりんねとは窮地きゅうちにこそ生きるということを!! わしを殺したときのようにな!! わしの死をムダにするのかこの阿呆あほうめ!! しっかり前を見んか!!)


直後にもうひとりの恩師おんし陽日流師範ようじつりゅうしはんのマツバエの声が響いてくる。


(君の拳は皆を護るため……なにより君自身を護って、先に進むための拳なんだよ。もし、もうダメだと感ても諦めてはだめだよ。陽日流はここぞという危機に真価を発揮するのだからね。いいね、ピンチに陥った。そこからが始まりなんだ。はは。まぁここらへんは月日輪廻げつじつりんねの受け売りなんだけどね……)


パルフィーはゆっくり目を開いた。


彼女の中で曖昧あいまいだった2つの流派が噛み合った瞬間だった。


「へへ……2人とも好き勝手かって、言ってくれるぜ。でもそのとおりだ。こんなとこであきらめめるなんて、アタシどうにかしてたよなッ!!!」


直後、強烈な押し返す力でセリッツォのはさんでいた手が跳ね除けられた。


女将軍は逃げられたのを確認するとすぐに手をね上げて立ち上がった。


「どこへ逃げた!?」


すぐに目についた。逃げるどころか正々堂々とした構えだ。


もう戦闘開始からしばらく経つ。パルフィーは闘いのセンスで相手の弱点を探った。


(コイツ……メチャクチャかたいぞ。すくなくとも斬撃での攻撃で致命傷ちめいしょうにはならない。かといって打撃も硬い肉体に防がれてしまうだろう。それなら……逆に相手の油断している長所を突くッ!!)


亜人の娘は手をチョイチョイと振って挑発し始めた。


「な~。その石頭、本当に悪魔界屈指あくまかいくっしなのかぁ? 誰にも負けたこと無いのか~? あたしも石頭で負けたことないんだよ。どうだい? 一勝負してみないかい?」


セリッツォは豪快ごうかいに笑った。


「ガハハ!!!! いくら俺が腕を認めたとは言え、頭突きでかなうなどとは笑止千万しょうしせんばん!! いいだろう。お前の頭、真っ二つに割ってくれるわ!!」


パルフィーはチラリとセリッツォの顔を見た。


「ホントにいいんだな? いくぞッ!!」


彼女は地をると頭の天辺てっぺんから相手の額に突っ込んでいった。


「はぁッ!! のうしんよう!!」


セリッツォは勝利を確信した。


だが、衝突と同時にぐらりと目眩めまいがした。体が言うことを聞かない。


彼女は思わず、仰向あおむけに倒れ込んでしまった。


それをパルフィーがのぞき込んだ。彼女はピンピンしている。


「あらら。あわ、吹いちゃってるよ」


ダウンして頭がぐるぐる回った女武将はかたわらの亜人にたずねた。


「お、お前……ど、どうして……」


パルフィーはニカッっと歯を見せて笑った。


「なぁに。ただの内部破壊だよ。振動によっておデコから脳に内側からダメージを与えたんだ。今まで内部破壊の技がバレやしないかとヒヤヒヤしたぜ。さ、座って安静にしなよ」


彼女が悪魔に手を差し伸べたその時。


「あ~、セリちぇん。今のはダメだったねぇ。惨敗ざんぱいじゃないか。はい、たましいボッシュー」


ノナネークがピッっと指を立てるとセリッツォが苦しみ始めた。


「うおおおおおおおお!!!!! うごおおおおお!!!!! ノナネーク様!! 何卒なにとぞ!!  何卒なにとぞお許しおぉぉぉ…………」


一瞬でセリッツオォはシワシワのミイラのようになってしまった。


パルフィーが思わず上級悪魔をにらみつける。


「おまえ!!!」


ノナネークはニタリと笑った。


「まぁまぁ。役立たずの部下の首が切られるのは人間界でもあることじゃん? セリちゃんには終わりのない地獄の道を永遠にさまよってもらうよ。それよりさ……」


彼は頭上のなまりの雲を指さした。


「勝ったら落とさないなんて約束は一言も言ってないんだよね……」


学院の人々は真っ青になった。パニック寸前と言ったところである。


だが、頭上の落しぶたはパッっと消えていた。


「なーんてね。落とさないよ。ハハハ。君たちのそのビビった顔が面白いんだ。所詮しょせん、命にしがみついてるニンゲンって感じでさぁ。ん~、そろそろザフィアルくんとアルクランツちゃんの対決が終わる頃かな? どっちが死んじゃうんだろうね? 両方? それともあるいは? もし、助けに行こうとしてるなら止めたほうが良いよ。絶対に足手まといになるか、無駄死にになるから」


紫色むらさきいろ胎児たいじはくるりくるりと宙で回った。


「ん~。ボク的にはどっちが勝ってもいいんだけど。どうやら事はそう単純にはいかなさそうだよ? そうだな~。ボクも賢人会けんじんかいに混ぜてもらっちゃおうかな~な~んて。でもさ、このままじゃきっとキミらはそれどころじゃないよねぇ? 人類の存亡自体が絶望的じゃない?」


彼がどこまでやるかはともかく、その振る舞いには王者の余裕のようなものが感じられた。


「じゃ、ボクは高みの見物と行くよ。キミたちも限界まで足掻あがいてみなよ。可能性はゼロじゃないと思うし、なにより楽しいからね」


真っ赤な瞳を開けてジトっとニンゲンを見るとノナネークはスーッと消えていった。


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