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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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ウォルテナは七色に輝く

アルクランツ校長は嫌な予感がして後ろを振り向いた。


ほぼそれと同時に、20体はいるかというほどのリッチーが一斉いっせいにテレポートしてきた。


あっという間にウォルテナの半分は不死者アンデッドたちで満ちた。


これで学院の戦力は悪魔、不死者アンデッドからはさみ撃ちを受ける形となってしまった。


リッチーたちもここぞとばかりに全力を出しているし、デモンもどこから引っ張り出してきたのか強い悪魔を前線に放り込んできた。


いくら生ける者たちのちからを受け取ったからとは言え、不意の挟撃きょうげきに学院勢は混乱せざるを得なかった。


しかも、相手は緊密きんみつ連携れんけいが取れていて、互いに加勢しあってきている。


この猛烈な攻撃と混戦で次々と凄腕すごうでの魔術師達が生命いのちを落としていく。


一気に劣勢になったアルクランツは顔をゆがめた。


「ええい、不死者アンデッドとデモンが組んでるだって!? クソッ!! あいつら、とにかく我々の望む世界を潰したいらしいな!! 連中2人で願いを折半せっぱんか!? ハッ!! 冗談も休み休み言えッ!!」


共闘が上手く言ったのを確認するとザフィアルは目を開いた。


「まぁ今回の提案はどちらともなく、邪魔じゃまなアルクランツを消そうと意見が一致したからな。ロザレイリアを骨クズにするにはそれからでも遅くはない。さて、そろそろ行くとするか。あいつは何度も私を無力にし、コケにしてきた。だが、今は地道に研究を続けていたこのあかつき呪印じゅいんがある。……まぁ、私自身が悪魔になるとは思っても居なかったがな」


まんざらではないといった様子で、教主は身体中にあかく浮き上がった紋様もんようぜた。


「ところで、お前らはどうするんだ? 学院の連中でも狩りにいくか?」


戻ってきたセリッツォとノナネークは顔を見合わせた。


「う~ん。ボクらはそんなアクティブに行かなくていいや。それにリジャントブイルの人たちが逃げ込むとしたら空白地帯のここしかないでしょ。そしたら面白そうな人をつまみ食いするよ」


お付きの女悪魔もそれに同意した。


「そうか。ならば私はアルクランツの首をりに行くとするか」


ザフィアルはコウモリのような大きな羽を広げた。


羽のはじはエッジが効いていて、すれ違いざまに切りつけられる構造となっていた。


ウルティマ・デモンは高速飛行で城塞都市じょうさいとしの上空を舞った。


それはすぐにアルクランツの目に入った。


「あれは……ザフィアルか!! とうとう出てきたな!! みにくい悪魔に成り果てたお前なんぞ相手にすらならん!!」


敵はニッタリ笑って手招てまねきして挑発した。


幼女の校長は冷静に指示を出した。


「レイシェルハウト!! 指揮はお前がげ!! 城塞都市と屋敷の構造はお前が一番詳しい。敵を押しのけながら屋敷にもれ。籠城作戦ろうじょうさくせんだ!! 上手く行けば被害を抑えつつ乗り切れるかもしれん!!」


そう指示を出したアルクランツ校長にレイシェルハウトがたずねた。


「校長先生!! 校長先生はどうなさるんですか!?」


幼女はザフィアルを指さした。


「アイツとの決着をつけに行く。ヤツをっすることが出来れば指揮系統はぐちゃぐちゃになる。そうなればデモン達に大打撃だ!!」


戸惑いながらもレイシェルハウトは屋敷側の悪魔軍を打ち破るように号令をだした。


それを見届けるとアルクランツは天高くジャンプした。


そして無詠唱むえいしょうのまま滞空たいくうする。


「この時!! この時を楽しみにしていたぞ!! 私はお前を殺す日を夢に見ていた!!」


校長はそれを聞いてあきれていた。


「相変わらず気味の悪いやつだ。いいか。賢人会けんじんかいに入れたこともないやつが。りずに中途半端にちからをつけるからひどい目にあうんだからな」


ウルティマ・デモンは肩を震わせて笑った。


「ハハ……。あかつき呪印じゅいんは本物だ。もともとは悪魔を呼び出したり、強化するために使っていた。だが、私自身が悪魔になったことによって自らのパワーを引き出すことに成功した。残念だよアルクランツ。力量りきりょうさえおもんぱかることさえ出来なくなったか!! ならば、こちらからいくぞ!!」


ザフィアルは猛烈なスピードで突っ込んできた。


「ッ!? 速い!!」


アルクランツはこれを回避するつもりで居たが、そんなスキは無かった。


「ビキュィィィィン!!!!!!!」


ウォルテナの上空から激しい衝突音が響いた。


悪魔の右ストレートを幼女は細い右腕でガードした。お互いの体が振動でビリビリとしびれる。


いつのまにかザフィアルとアルクランツがくっついて離れなくなった。


「クッ……!! 接着せっちゃく!?」


デモンの死角から目に見えないほどの速さで校長は相手の腹部にアッパーを決めた。


「ぐほぉ!!」


めり込んだ拳を更に奥へと突くと彼女の腕は真っ赤に染まって超高温になった。


「くたばれザフィアルゥゥゥゥゥッッッ!!!!!!!」


アルクランツが拳をぐりっとえぐると凄まじい大爆発が起こった。


この熱気によって下級の不死者アンデッドや悪魔はそれだけで消滅した。


煙があがって視界が悪くなったがすぐに幼女は空中でバックステップを踏んだ。


「はぁッ!!」


ザフィアルが翼を立てて突進してくる。


校長はこれをかわしたが、ほほに浅い切り傷が出来た。


「ち……。しぶといな。口だけじゃないようだな」


なんだかウルティマ・デモンは楽しそうだった。


「もし、お前が私より弱かったらつまらんなと思っていたところだ。相手として不足はない。こちらも本気で―――」


教主がなにか言いかけたのを無視してアルクランツは攻撃をしかけた。


「お前におしゃべりしている余裕があるのか!!」


冷気を帯びてドラゴンを模したオーラがザフィアルを襲う。


体中を締め付けられてギリギリと音を立てる。少しずつだが悪魔の身体はこおり始めた。


「子供だましか!! お前こそ死ぬ気で来いッ!!」


あかつき呪印じゅいんあやしく光る。


すぐにドラゴンのオーラは敵に吸い込まれてしまった。


そのままそのエネルギーに変換して練って固める。


「お返しだ!! くたばれ!!」


ザフィアルは3連射で冷気の弾を打ち出した。かなり大きい上に速かった。


アルクランツは見事にステップをんでこれを避けたが、体勢をととのえた時にわずかな時間が生じた。


また放たれたザフィアルの右ストレートが彼女の顔面に直撃した。


「ぐううっっ!!!!!!」


幼女はクリーンヒットでほほを殴り飛ばされて、滞空したまま吹っ飛んだ。


ウルティマ・デモンは笑っていた。


「フフフ。おいおい。まだ私はほとんど魔術を使っていないぞ? この調子では魔術を使う必要もなくお前を殺せそうだ。アルクランツよ。やはり不老ふろうとは言え、たましいには限界がある。お前はおよそ600年前から劣化する一方だったのだ。かつてのように私を叩けると思ったら大間違いなのだよ!!」


校長は口から垂れる血を指でぬぐい飛ばした。だが、絶望や恐怖は感じられない。


「大間違いなのはどっちだろうな? アタシはここ最近、久しぶりに強敵との戦いを続けてきた。ザフィアル。お前と当たって昔の感覚が戻ってきたらしい。そう長くは持たないかもしれないが、お前を潰すくらいなら問題ない。皮肉にも自分の死因を自分で作るとはな……。いくぞザフィアル!! 粉々にしてやるぞ!!」


鈍っていたちからが一時的に活性化したアルクランツは頭突きをしかけた。


「ぐっ!? 冗談ではないだと!?」


幼女の頭が悪魔の腹部にメキメキっとめりこんだ。


後方へ吹っ飛んだザフィアルに追撃をかける。


「うおおおおおぉぉぉッッ!!!!!」


アルクランツは両手をギュッと握りしめると悪魔の頭を思いっきり打ちのめした。


「バギャッ!!!」


鈍い衝突音をしてザフィアルは地面に叩きつけられた。


あまりの振動でウォルテナは揺れた。


不死者アンデッドと下級の悪魔が舞い上がって滅びた。


そこまで意識しているわけではなかったが、この戦いによって学院勢は被害を抑えて屋敷に向かうことが出来ていた。


アルクランツは容赦ようしゃなく攻撃を続けた。


手首をくるりと回すと電気を帯びたオーラが生成された。


それを何発も繰り返して地上のザフィアルめがけて滅多打めったうちにした。


おそろくべきことに、彼女は今まで1回も詠唱えいしょうという詠唱えいしょうをしていない。


簡単な魔術ならともかく、これだけ強烈で性能の高い呪文を連発するのはまず不可能と言っていい。


それが出来るのは人外くらいしかいないからだ。


だが、さすがにスタミナは切れてくる。


戸惑とまどうこと無く彼女は高級なマナ・サプライ・ジェムでマナを回復した。


だが攻撃の手は決してゆるめない。


(ザフィアルの事だ。徹底的てっていてきにやらないと滅びはしないだろう。ジェムの数と相談して出来る限り打ち込むッ!!!)


彼女はあらゆる属性のオーラでしかけようとしたのでウォルテナの上空は虹色に輝いた。


残されたルルシィの残留思念ざんりゅうしねんがそうさせたのかもしれない。


ザフィアルも受け身を取ろうとしたのだが、圧倒的なスピードでつかまってしまっていた。


それをていたノナネークは目を細めた。


「う~ん、ザフィアルくん、死んじゃうかもしれないね……」


セリッツォは我関われかんせずと言った様子だった。


「それよりこちらです。ほら、向こうから客人がやってきますよ」


むらさき胎児たいじはツッコミを入れた。


「いやいや、ここボクらのおうちじゃないし。おきゃくさまどころか、むしろボクらがおきゃくさまでしょ……」


女武将はそれを聞き流した。


「で、ノナネーク様はどうなさる気で?」


上級悪魔は指をくわえている。


「う~ん、そうだなぁ……。ま、ザフィアルくんは、あれだけ大口たたいてたんなら平気でしょ。死んじゃったらバイバイだね。それより、こっちも結構おもしろそうだね。セリちゃんの言う通り客人をおもてなししよっか」


2人の悪魔は屋敷の入口の門に視線をやった。

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