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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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全員ホンモノさ!!

コフォル、ジュリス、ファイセル、ラーシェ、リーリンカの4人は暴走しきったスララの悪魔、エ・G対峙たいじしていた。


だが、エ・Gは直前のリーリンカの激辛薬品をモロに喰らって体を震わせていた。


コフォルがずいっと前に出た。


「このうちの1人でも欠くことは出来ない。全員、生き残るんだ。いいね?」


残りの4人はコクリとうなづいた。


「さて……ここまで来て出し惜しみして犠牲者ぎせいしゃが出たりしたら悔いても悔いきれない。慣らし運転だ。いくぞ!!」


コフォルが身構えた。一切スキがない。


「ソロ……デュオ……トライ……キャトレット!!」


なんと彼は分身して4人になった。


ジュリスは驚きのあまり声を上げた。


「ウ、ウソだろ!? 本体はどれだ!? まやかしが3体いるはずだ!!」


ファイセルは目をぱちくりさせた。


「いや、どれも本物ですよ!! 全員が質量を持ってるし、魔力も感じる!!」


気づくとラーシェは冷や汗をかいていた。


「そんな!! これだけの戦力を劣化させることなく分離させてるの!?」


リーリンカは焦りながらも冷静に分析した。


「む、む……。こういったたぐいには影が出来ないと効いたことが有るが、確かに影はある!!」


思わず呆然ぼうぜんとした4人にコフォルがげきを入れた。


「気を抜くなッ!! 全員、死ぬ気で食ってかかれ!!!!」


4人のレイピア使いが恐れること無く悪魔に突進していく。


「ミリオンヌ・ビーハーヴィエ!!!!!!」


凄まじい突きの連続でエ・Gは穴ぼこだらけになった。


「ぐがおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


悪魔を貫く銀のレイピアが炸裂さくれつした。


「こっちは内側からだ!! 頼んだラーシェ!!」


リーリンカは素早く魔法薬を生成するとそのフラスコをラーシェにわたした。


「うわ~、何これくっさ!!! もう無茶苦茶だよ!! 自分にできること、やるしかないじゃんか!!」


薬を受け取ると彼女は高くムーンサルトを決めて開けっ放しのエ・Gの口に吐き気をもよおす魔法薬を投げ込んだ。


着地すると同時に白い悪魔へ思いっきり肘打ひじうちを繰り出す。


「こんにゃろッ!!」


それにピッタリ合わせるように紅蓮ぐれんの制服がパンチを食らわせた。


「いっけぇ!!」


挟み撃ちがクリーンヒットして悪魔はぶるんぶるんと揺れて苦しんだ。


容赦なくコフォルの攻撃は続く。


完全な分身呪文でこれだけの時間を維持できるのは超人としか言いようがなかった。


「オ……おごぉ……げぇぇぇぇぇ……」


そして、毒物の効いてきたエ・Gはドロドロと汚い泥のような汚物を垂れ流し始めた。


「コフォルの旦那だんなが本気を出したんだ。俺も負けちゃいられねぇな!!」


そう言うとジュリスはいつものようにレーザーを無数に放った。


だが、それらはいつもと異なり、網状になって垂れ下がっていった。


人形劇をするようにジュリスは精密に指を動かせる。


「光線だけが脳じゃないぜ!! 喰らえ!! スパイダルムー・ウェイバー!!」


そのネットはコフォルとラーシェをすり抜けた。敵味方の区別できるらしい。


「くっそ、コイツ、意外と弾力性があるな。これで切断できるか怪しいが!!」


少しずつ網目が細かくなって上の方からエ・Gに食い込み始めた。


悪魔はというと抵抗なしに嘔吐おうとし続けていた。


「先輩、失礼します!! 赤のエンチャント湿布しっぷ!!」


リーリンカがジュリスの背中に何かをぺたりと貼り付けた。


「あ、お、おい!!」


次の瞬間、エ・Gに放り込んだ薬物と、ジュリスのウェイバーに流れ込んだ成分が反応して大爆発を起こした。


とても不利になるかと思われたこの戦いだが、それなりにダメージを受けてはいたが、大きな怪我なく進んでいた。


だが、それを面白く思わないものが居た。ザフィアルである。


「ふむ……。あの悪魔、もう少したのしませてくれると思ったのだが……。だが、素材は悪くない」


もとはザフィアルだった悪魔は腕を伸ばした。


全身に赤い紋様が浮かんだ。あかつきの呪印である。


セリッツォとノナネークは興味深げにそれをながめていた。


巨体の魔界の女武将はあごに手をやった。


「人間の身でありながら悪魔を造り出していたのはこういうことか……」


紫の胎児たいじは満足そうだった。宙でくるりと周る。


「うん。いいねぇ。キミはやっぱり才能あるよ。悪魔界に来てみないかい?」


ザフィアルはその誘いをつっぱねた。


阿呆あほうが。悪魔界も含めて滅亡の救済をしてやろうというのだ!!」


聞き捨てならないとばかりにセリッツオが物凄い形相ぎょうそうで前に出た。


「貴様……ノナネーク様の前で!! くびり殺してやる!!」


だが彼女はそれ以上、動かなかった。いや、動けなかった。


「だからね、セリちゃん。言ったでしょ。ボクはおともだち同士とのケンカは嫌いだって。仲良くしないと。ね?」


ノナネークは真っ赤で不気味な瞳をチラつかせた。


「エ・Gくんはさ、話が出来ないから面白く無いんだよね。出来る限り人間の恨みを貯めろっていったのに、人間の数世代なんてスケールが小さいし。大してかせげてないし。おまけに人間に封印なんてされてるしね。だからね、ザフィアルくん。しめしがつかないからあの子は放っておいてよ。ちなみに、キミの何%のパワーまであの子をたせられると思うの?」


奇妙な質問だったが、ザフィアルはなんだかノナネークが気になり始めた。


「そうだな……。7%……か。それ以上だと暴れる前に崩壊する。今ので私の実力を測ったな? お前……面白いヤツだな」


上級の悪魔は我流のウルティマ・デモンに微笑ほほえみかけた。


「フフフ……。今ので実力を測ったって? それは邪推じゃすいだよ。深い意味はなくってただの雑談さ。それより、キミだってボクの実力が知りたいんだろう? だとしたらお互い様だね。と、いうわけでエ・Gちゃんは放っておいて。そろそろ宿主やどぬしに限界が来る。あの子は誰かに乗り移らないと人間界では生きられない体だからね。あの女の子の血統でないと寄生できないし。だからスケールが小さいっていうんだよボクは。ほら、”て”ごらん」


エ・Gは5人から猛攻撃を受けていたが、しぶとく耐えていた。


4人に分身したコフォルの周辺にはファイセルの投げたブーメランがクルクルと回っていた。


コフォルが接近するたびにブーメランが追撃をかけていて、ダメージはともかく手数は跳ね上がった。


ファイセルが念じる必要はなく、生きたブーメランたちが剣士から付かず離れずを判断して加勢していた。


あまりの消耗しょうもうに魔法生物使いは汗をかきはじめたが、攻めるなら今しかないと思えた。


彼は重ね着していた紅蓮、深緑、群青色の学院服を脱ぎ捨てた。


その下には頑丈がんじょうな青いサバイバルジャケットを身に着けていた。


「いっけえぇぇぇ!!!!! ラリアートに、デンプシーロール、そしてスレッジハンマーだぁぁぁ!!!!!!」


群青は腕を曲げてエ・Gの胴体に食い込ませた。


その反対側から深緑がウェーブを描きながら連続パンチを繰り出す。


最後に紅蓮ぐれんの制服が両手を握って思い切り悪魔の小さな頭部を殴りつけた。


口だけで構成されているように見えて、ちゃんと頭部はあった。


もっとも、この悪魔の場合は頭はさほど重要ではなかったが。


ラーシェもバテて汗をかいていたが、ファイセルの奮闘ふんとうを見てニヤリと笑った、


「リーリンカ!! あれをやるよ!! 私じゃ非力過ぎる。ならスピードを活かすしか無いじゃんか!!」


リーリンカはマントの内側から手持ちの魔法薬を取り出した。


「いいのか? 後で公開しても知らないからな!!」


彼女が取り出した薬は強炭酸きょうたんさんのように見え、レモン色をしていた。


時々、バチバチとスパークしている。


「ここで後悔せずにいつ後悔するっての!!」


ラーシェは怪しい薬物を一気飲みした。すると彼女は急加速してエ・Gに格闘技を決めまくった。


とにかく手数で攻める。そして攻める。


これはアクセラレイトに似た効果だが、ラーシェとリーリンカの2人で連携発動しているので加速魔法よりは負担が少ない。


そのダメージでまるで噴火するかのように悪魔は泥色の吐瀉物としゃぶつを吹き出した。


それには色々なものが混じっていた。生き物の死体のみならず砂や樹木まで大量に飲み込んでいたのだ。


ジュリスはこれを見て確信した。


「リーリンカの予想通り、内部からの攻撃には弱いらしいな。ほんじゃ、これでどうだ!!」


彼は細いビームをエ・Gの穴から通すと、悪魔の内部で光線を反射させた。


「おごぉっ!!  おごぉっ!! おげぇっっ!!!」


明らかに相手がパワーダウンしているのが目に見えた。


「コフォルの旦那だんな!! 今ですぜ!!」


声が届く前にとんがり帽子の剣士はエ・Gの口から飛び込んだ。


そして内側から外に向けて無数の突きを放った。


「ミリオンヌ・ビーハーヴィエ!!!!!!」


するとついに耐えきれなくなった白いバケモノは汚物をき散らしながら吹き飛んだ。


まだ宿主は滅んでいなかったが、コフォルたちは悪魔を撃破しきった。


「み……みンな……あ、アり、あリが……」


宙に浮いていたスララは風に吹かれるかのようにサラサラと消滅していった。


この中でスララを知るものはラーシェとジュリスだった。


ナッガンクラスのサポートをしていたラーシェはしゃがみこんだ。


「そんな……。こんなのって……ザティスやアイネ……スララちゃんまで……こんなのってあんまりだよ……」


ガリッツの時からクラスメイトであるジュリスもやるせない表情だった。


「すまねぇ……。こんな形でしか、お前を救けることが出来なかった……。力及ちからおよばずってやつだ。我ながら情けねぇよ」


分身が解けて1人になったコフォルは息を荒げつつも彼をなぐさめた。


「ハァ……そう言うな。フゥーー……。君らはよくやったよ。こうするほかなかったんだ。よく全員が無事でいてくれた。しかし、このチームはもう魔力が残っていない。これでは不死者アンデッドを倒しに先行した西の部隊とは合流できそうにないな。我々は一旦いったん、学院の要塞ようさいに戻ろう。この戦いではそれぞれが大切な人をくした。体だけではなく、心を休めることも大切だ」


コフォル達のチームは死者を出さなかったが、もはやボロボロだった。


互いが互いを支えつつ、彼ら彼女らは来た道を引き返した。

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