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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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5人はずっとずっと大親友

リーダーであるコフォルはすばやく現状を分析して最適解を出した。


「白い悪魔だけを狙うのは難しい!! あの悪魔憑あくまつきの少女と、悪魔本体は私とジュリスくんで引き付ける!! その間にファイセルくん達はチームメイトを倒すんだ!! 私とジュリスくんは彼らの魔術や特性を知らない。こくなようだが、有利に立ち回れるのは君らしか居ないんだ!! いいか、3人でその2人を倒すんだ!! くれぐれも容赦ようしゃするんじゃないぞ!! たとえ生きていてももう理性を失っている。さぁ、楽にしてやる――」


指示が終わる寸前でエ・Gがこちらに突っ込んできた。


コフォルはとんがり帽子を片手でおさえながら回避し、無数のレイピアによる突きを目にも留まらぬ早業はやわざで放った。


「白銀のレイピア……不死者アンデッドや悪魔に効果てきめんなアレか……。おっと、俺もぼっとしてねぇで、攻撃を仕掛けなきゃな!!」


ジュリスは両手の人差し指を立ててコフォルと同じように連続突きの動きをした。


すると指先から細いレーザーがいくつも放たれて悪魔に風穴かざあなを開けた。


だが、エ・Gはびくともしない。


突っ込んできた悪魔をジュリスはローリングでかわした。


「ちぃっ!! アイツ、前見たときよりだいぶ強化されてやがる!! コフォルの旦那だんな、2人で引き付けることはできるかもしれねーが、こりゃ5人であたらねぇと機能停止までは追い込めねーぜ!!」


それを聞いていたレイピア使いは不敵に笑った。


「フッ。それだけしゃべる余裕があれば上等だ。よほどバテない限りはあの悪魔の動きが見切れるはずだ!! 今はファイセルくん達を信じよう!!」


一方、ザティスとアイネはふらふらとつかみどころの無い動きで悪魔から少し離れた。ここからではコフォル達の援護はできないし、そのまえに親友がこちらをねらっている。


真っ先に飛び出したのはラーシェだった。


「うわあああああッッッ!!!!!」


ザティスの後方に居たアイネの腹部にパンチ・パンチと打ち込んで首刈りのハイキックを打ち込んだ。


喰らったほうは首が吹っ飛んだが、てとてとと歩いてそれを拾いに行った。


リーリンカが叫ぶ。


「そいつらの本体は感染者の肉体じゃない!! ウジだ!! ウジを死滅させれば動けなくなる!! ラーシェ、一旦退け!!」


3人は彼らとの戦闘に入る前に予防薬を飲んでいたのでマゴッティ病には感染しないようになっていた。


当然ながら、ラーシェのこの突進は迂闊うかつだった。


だが、こう勢いでもつけないと大親友を殺すことは出来るわけがなかった。


次の瞬間、ザティスが加速魔法でラーシェに接近して後ろから腕を締め上げて羽交はがいい締めにした。


「ぐぐっ!!! うあああ!!! ざ、ザティスのヤツ、まだこんなにパワーを……。このままだと腕が、折られる!!!」


ギリギリとザティスはラーシェの腕を締め上げた。しまいには突き出された胸部さえゆがんでしまいそうになった。


だが、すぐにその拘束こうそくゆるんだ。


ラーシェが振り向くとそこにはファイセルの紅蓮の制服が居た。


お返しとばかりにザティスの両腕をギリギリと締め上げる。


「い、いでぇぼぼぼ。いてぇじゃぼぼぼぼ。かんべんしぼぼぼぼ……」


ザティスは痛みを覚えているようだったが、ファイセルはもう手加減てかげんしなかった。


するりと敵の腕の束縛そくばくが解けた。そう思った時だった。


今度は力強くザティスの腹部をがっちりつかんで制服は後ろ向きに投げつけた。


そして見惚みほれるような見事なバックドロップが決まった。


「ゲゲほぉ!!!! ぼぼぼぼぼぼ!!!!!!!」


攻撃を喰らった青年は体中のあちこちから大量に白いウジを吐き出した。


ダウンしている彼に紅蓮ぐれんの制服は追撃をかけた。


腕はすその部分までしかなく、拳は存在しないように見えるが確かな実体が存在した。


「でぇやっ!!!!」


ファイセルがりきむと制服の拳がザティスの腹部を貫いて地面にはりつけにした。


「いてぇぼぼぼぼな、なんでこぼぼぼぼするんだよ……」


そのうちに身軽なステップでラーシェが後退してきた。


「今だリリィ!! アレを!!」


リーリンカは泥のような怪しい色の薬と薬をミックスした。


それぞれが混ざると不思議と色が美しいサンゴしょうのような色に変色した。


「すまないっ!!! まだお前らの方に行くわけにはいかないんだ!!!」


彼女がフラスコを投げつけると青い炎が上がった。


「消えない灯火ともしび……。これでうじを燃やし尽くしてやる!!」


炎と聖属性の混合魔術で虫や不死者ふししゃにはよく効く。


今のザティスとアイネにはベストなチョイスだった。


ファイセルの制服は耐火機能はついているものの、長いこと炎の中心にいれば少なからずダメージを受けてしまう。


ザティスの腹部から拳を抜いそれを撤退させた。


有効打を確信したファイセルたちだったが、そう簡単にはいかなかった。


アイネが捨て身でザティスをかばったのである。


「あああ!!!!! あつぅ!!!! あつぅ!!!!!」


その叫びはこうなる前のアイネそのものでチームメイト達は心をえぐられた。


ただ炎にあぶられている訳ではない。


彼女はザティスを炎の中から引っ張り出すと、彼と自分自身を治癒ちゆし始めたのである。


傷や火傷やけどがみるみるふさがっていく。


ラーシェの能力の高さというのもあるだろうが、よく見るとウジを練っているようにも見えた。


それを驚きの表情で見ていた3人だったが、ファイセルは直感的に思った。


(この直後、きっとザティスはアクセラレイトで加速して僕を狙いに来る。これは最大のピンチではあるけど、同時にチャンスでもある。ならば!!!!)


ファイセルはほんの一瞬の判断で紅蓮ぐれん、深緑、群青の学年別の3着の制服を脱いで、宙に浮かべた。


彼の読みは的中して、傷のえたザティスが猛スピードで突っ込んできた。


「1枚目で勢いを殺す!!」


群青の制服がクッションになったが、ザティスに弾き飛ばされてしまった。


「更に衝撃を吸収!!!」


2枚目の制服は突進してくる彼の勢いを鈍らせた。


ザティスはとにかくスピード第一で突っ込んできたので軌道が読みやすかった。


「ギリギリまで引き付けて……3枚めでクロスカウンターだ!!!!!」


加速があだとなってザティスのあごに強烈な一撃が決まった。


もちろん頭のない紅蓮ぐれんの制服はカウンターを受けることはなかった。


「やっぱり速さも精度も落ちてる。全盛期のザティスだったらこうはいかなかった……」


その衝撃でまたもやザティスの首が宙高くふっとんだ。


体制を整え直したラーシェはチラリと後ろを見た。


「アイネを倒さないとまた復活する!! リーンリンカ!! なにか手はない!?」


ちゃちゃっと薬師は魔法薬を合成した。


「イクスプ・リキッド!! 爆薬だ!! ると10秒くらいで爆発するぞ!! お前が押し込め!! いくぞッ!!」


リーリンカは空中のザティスの頭めがけてこれを投げた。


フラスコが割れてベットリと粘着質な液体が直撃する。


普通ならこのキラーパスに答えるのは難しい。


だが、そこは長い付き合いなだけあって、リーリンカがが何を考えているかがすぐにわかった。


ラーシェは高く、高く飛んで、空中でスピンして勢いをつけた。


そしてザティスの首の高度に追いつくと思いっきり脚を振り抜いて強烈なシュートを放った。


おもわずファイセルもリーリンカも太陽を手でさえぎってその行方ゆくえを見守った。


爆薬とキックがジャストミートした生首はアイネの胴体に直撃して激しい爆発を起こした。


彼女はバラバラに吹っ飛んだ。


以前の彼女ならこれくらいは耐えるだろうと思えただけあって拍子抜ひょうしぬけだった。


残ったザティスの体がフラフラとしている。


リーリンカはフラスコ片手に念じた。


「あれだけ加速呪文を連続したんだ。もはや体が持つまい!! リロード・メディ!! 消えぬ灯火ともしび!!」


彼女はすあまじい速さで薬品を再精製してザティスに投げつけた。


青い炎が火柱をあげて燃え上がる。


「おま……ぼぼぼ、なんで、こんなこぼぼぼぼ……おま、おま、うら、うらむかぼぼぼ……」


彼は怨嗟えんさの言葉を投げつけて焼け落ちていった。


非常に後味の悪い幕引きにファイセル、リーリンカ、ラーシェは黙り込んでしまった。


リーリンカとラーシェは涙をにじませていた。


ファイセルは歯を食いしばって拳をにぎった。


こんな事ならもう戦いたくはない。そう思えるほどだった。


それでも、背後では激戦が続いているのがわかった。


ザティスとアイネは救えなかったが、まだコフォルとジュリスは救うことが出来る。


「僕たち5人は……どんな形であれ大親友だからね……」


3人はうなづきあって2人の大親友の亡骸なきがらに背を向けた。


コフォルとザティスは積んでいる場数が違うだけあって体力の消耗しょうもうを抑える事がうまかった。


しかし、その戦い方では決め手にかけており、相手を追い詰める戦法とは言いがたい。


もっともそれこそ時間稼ぎであって、ファイセル達が合流すると一気に攻めの姿勢に転じることとなった。


合流直後、すぐにピンチが訪れた。


機動力に劣るリーリンカがエ・Gに飲み込まれかけたのである。


それと同時に彼女は悪魔の口の中になにか放り込んだ。


「ふぅ、ヒヤヒヤさせやがって。お前、後方援護に回れよ」


ジュリスは冷や汗を拭いながら指示を出した。


その直後だった。エ・Gが口を開けて苦しみだしたのだ。


「グゲェ!!!! ゲッゲッ!!!!」


リーリンカは姿勢を整えて相手を見据えた。


「どうだ!! マスター・マスタード・ペッパーだ!! 悪魔に効く香辛料で作ってある。口の中がヒリヒリしてツーンときて苦しいだろ!?」


何かと戦闘では後ろに退けと言われるリーリンカだったが、見てくれの割にはたくましいところもあった。


本人も足でまといにされるのはしゃくにさわっている。


だからこうやって自由に戦わせておくほうが本領を発揮できているとも言えた。


もちろん、引き際はわきまえていて危なくなったら援護に回るし、いけそうだったら突っ込む。


周りが思っている以上にオールラウンドで通用するのだ。


コフォルは現状を確認した。


「いいかね。白い悪魔が本体で、後ろの少女は宿主やどぬしに過ぎない。きっと少女を倒しても悪魔は自律で動き出すだろう。だからとにかく悪魔に攻撃を集中させればいい。もう邪魔者は居ない。今度こそ5人で力を合わせてアイツを叩くんだ!!」


「うっす!!」


「よぉし!!」


「OK!!」


「了解した!!」


5人は万全の状態で悪魔に挑んだ。


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