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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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山になった泥の魔女

コフォルとルルシィは有効なマジックアイテムを見繕みつくろっていた。


実際にアーヴェンジェとハーヴィーがどう出てくるかわからなかったし、あらかじめ用意したものでは対抗しにくかった。


だからあえてその場で選ぶ必要があったわけだ。


その時、伏せたコレジールが声をかけた。


「2班と3班のつなぎじゃ!! 行けファネリよ!!」


魔術の構えをとっていた学院の老教授は両掌りょうてのひらから無数の炎の弾を連射した。


「レイピッド・ラビット・フラム・フリムッ!!!」


弾の巨大さもさることながら、連射速度もすさまじく、ヒットするたびに巨人はのけぞった。


「今だ!!」


ファイセルはマッディ・ゴーレム内部に潜伏せんぷくさせた赤く小さなブーメランを動かし始めた。


勢いのついた武器はアーヴェンジェのコックピットを狙った。


「もらったッ!!」


確かに操縦部の壁を破った感触があった。


「チイイイィィィッッ!!!! こんなオモチャ!! 小癪だねェッ!!」


ファイセルのブーメランは老婆の頭の脇を抜けていった。


しい!! でも、勝てない相手じゃないよ!! みんなで力を合わせれば!!」


そう仲間をはげましつつも彼は警戒を解かなかった。


「おりゃぁッ!! アンタのオモチャ、返してやるよぉ!!」


巨大な怪力を持つゴーレムが赤いブーメランを投げつけてきたのである。


陣をぐような軌道でそれは飛んできた。


このままでは味方全員が危険にさらされてしまう。


ファイセルは前におどり出た。


そして人差し指をゆっくり立てるとまるでちょうが止まるように指先にブーメランが戻ってきた。


「よ~しよしよし。よくやったぞ」


味方が安堵あんどした直後だった。


「いかんファイセル!! 援護範囲外じゃ!! 戻れ!!」


コレジールがそう注意するころにはもう遅かった。


地面から泥の触手しょくしゅが出てきて青年を拘束した。


「うわああああぁぁぁ!!!!」


ギリギリとファイセルを締め上げる音がする。このままでは骨を折られ、殺されてしまうだろう。


味方は手を出そうとしたが、コレジールの周囲からは触手がワラワラといていてどうしようもなかった。


そんなとき、ルルシィがサユキに歩み寄った。


「これ、消えない炎のランタンよ。これごと貴女のカンザシで貫いて。見ての通り、獲物をとらえてハーヴィーは油断しきっているわ。これが直撃すればただでは済まない。総攻撃をしかけるチャンスが生まれるわ。任せたわよ」


だが、サユキは戸惑った表情を浮かべた。


「しかし……狙いを付ける前にファイセルさんが……」


それを聞いたルルシィはにんまりと笑ってサユキの肩をたたいた。


「あら、ああ見ても彼、かなりのタフガイなの。さ、心配してないで狙撃そげきして。くれぐれも焦らないでね」


ファイセルはとても苦しそうだ。あんな線の細い青年が強力な触手の締め付けに耐えられそうにはなかった。


だが、それなのにハーヴィーは動揺どうようしていた。


「クソッ!? どういう事!? もう人間が耐えきれる圧力を超えてるってのに、なんでぶっつぶれないのよォ!? もっと、もっと締め上げてやる!!」


青年は更に苦痛の叫びをあげた。


「ぎゃああああぁぁぁッッッ!!!!」


サユキは淡々とマッディ・ゴーレム内のハーヴィー……脇腹のあたりを狙った。


消えない炎のランタンを貫通するようにしてカンザシを放つ。


見事にそれはハーヴィーのコックピットを貫いた。


「え……あ……ぎゃあああああああぁぁぁ!!!!!!!」


消えない炎の効果でハーヴィーは炎上して火達磨ひだるまになった。


攻撃が成功したのを見計らってファイセルはブチブチと触手を断って服を払った。


思わずサユキが声をかける。


「ファイセルさん!! 大丈夫ですか!? 早くこちらに来て治療を……」


だが、青年はコキコキと首を鳴らした。どうやらなんともないらしい。


「まったく。苦しむフリってのは難しいもんだね。それでも相手が慢心したのならまんざらでもなかったんじゃないかな」


驚きの表情を浮かべる狙撃手そげきしゅにルルシィがネタをバラした。


「言ったでしょ。あの子、CMMクリエイト・マジカル・クリーチャー手練てだれなのよ。特に布へのエンチャントが得意でね。彼の制服の防御力はそんじょそこらのよろいとは比べ物にならないのよ」


彼女らがそう話をしている間にコフォルが追撃をかけた。


「くらえッ!! カッティング・スプレッド・スパイダー!!」


筒状のものから何かが発射された。


「またオモチャかい!! 甘いよォ!!」


アーヴェンジェが飛来物を叩き落とそうとした時だった。


打ち出したものが展開してキラキラと光る蜘蛛くもの糸のように広がった。


それは軟体の泥に食い込むように沈んでいった。


この糸には切断の効果があって、目もかなり細かい。


いくらゴーレムの内部を高速で移動できるからと言って、隅から隅まで糸が走れば防ぎようがない。


ところてんのようにバラバラになるのは避けられない。


コフォルは手応えを感じた。


「これは行ける!! 回避不可能な上に頭部破壊も出来る!!」


だが、相手は予想外の行動に出た。


「ハーヴィー、いつまで焦がしてんだい!! しゃくに触ってしょうがないけど、アレをやるよォ!!」


消えない炎にあぶられつつ、ハーヴィーも同意した。


「おばあちゃん早くして!! アツイ!! アツーーーーーーイ!!!!!」


そうこうしているうちにマッディゴーレム全体にネットが行き渡った。


「コックピットは潰せたはず……やったか?」


だが、マッディ・ゴーレムは両腕をあげて雄叫おたけびをあげた。


コフォルは深刻な表情になった。


「あれは……もしかして泥と一体化しただと!? コックピットを狙う必要はなくなったが、山のように巨大なゴーレムの質量に打ち勝たねばならん!! ここからが本番だ!! 厳しい戦いになるぞ!!」


コレジールは立ち上がると泥の魔神に向かって走り始めた。


距離を詰めて援護できる場所まで移動する気なのだ。


「全チーム前進!! ハーヴィーが合体したからもう使い魔の気配はない!! ここまで来たら正面衝突じゃ!! いくら巨大だとしても恐れるな!! 肝を据えい!! 援護は任せるんじゃ!! 前線までわしを護衛してくれい!!」


残った30人規模のアタックチームはコレジールの盾になりつつ、アーヴェンジェとハーヴィーのマッディ・ゴーレムに接近した。


もともとはダッザとうげに陣取っていたが、今はさらに泥を吸い込んでいてあの時より巨体になっていた。


それこそ山と戦うようなもので未経験の圧倒感に多くの者がふるえた。


だが、それでも物怖ものおじしない魔術師達を見て全員が互いに勇気を振り絞りあっていた。


「3チーム目攻撃!!」


コレジールが指示を出すとカエデ、百虎丸びゃっこまる、リクの3人が前進した。


西華西刀さいかさいとうの竜はで固められたメンバーだ。


牽制攻撃でリクが魔法のバックラーをマッディ・ゴーレムめがけて打ち込んだ。


アーヴェンジェが高笑いした。


「ヒィーーーーーーッヒッヒ!!!!! ムダだよガキンちょ!! もうアタシたちゃあこのゴーレムそのものになったのサ。倒すなら跡形あとかたもなくぶっ飛ばすしか無いさネ!! でもホントに出来るかねぇ? この一帯には良質な粘土ねんどの宝庫なんだよォ? いくらでも体を再生させる余力がある。お前らもう終わったンだよ!!」


ハーヴィーもそれに呼応して愉快ゆかいな様子で笑った。


「あっはぁ!!!! ねぇねぇ、おばあちゃん。こいつらどうやって殺すの? あたし、ワクワクしてきちゃったよぉ!! 火だるまにしたやつをジワジワぶっ殺していきたいな!!」


泥の魔女は孫をなだめた。


「まぁまぁ。ちょっと待ちな。まずはご挨拶あいさつと行こうじゃないか!! さて、この一撃で何体死ぬかねェ!?」


泥の魔神が大きく腕を振り上げた。


このまま自陣をぎ払うつもりだ。


思わず足がすくんだ者もいたが、コレジールが叫んでかつを入れた。


「ボケっとしておるな!! 全員、全力で高くべい!!」


うつ伏せになっていた老人がそう声を張り上げた。


我にかえった陸上戦力は一斉いっせいにジャンプした。


さすがにこの横薙よこなぎは避けられない。皆がそう思った時だった。


からだがフワーッと浮き上がったのである。まるで重力が軽くなったように感じられた。


足元をアーヴェンジェの強烈な一撃が通り過ぎていく。


コレジールは絶妙に地面にめり込んで頭の上の攻撃をスレスレでかわした。


この跳躍力ちょうやくりょく老練ろうれんの魔術師の援護に間違いなかった。


「いまじゃ!! メルティング・ブレイド!!」


ジャンプした者たちの武器が赤く輝いた。


「炎属性のエンチャントじゃ!! それで攻撃を与えれば泥木偶どろでくを溶かすことが出来る!! 総攻撃をかけて再生不能にしてやれ!! 回避行動をとるのを忘れるなよ!!」


すぐにカエデと百虎丸がとりついた。2人はピッタリと息を合わせた。


炎走斬えんそうざんッ!!」


炎走斬えんそうざん――!!」


同時にマッディ・ゴーレムの太い両腕が切り落とされた。


それによってフリーになったパルフィーが付け根の部分に強力な攻撃をお見舞いした。


日昇炎華ようしょうえんげ!!」


目にも留まらぬ掌底しょうていの連打が放たれた。


いままでゴーレムに対して手応えが今ひとつだったが、この連撃にはからだをプルプルと震わせた。


両腕が落ち、脇腹は大きくえぐられた。


だが、想像以上にアーヴェンジェとハーヴィーの蘇生は早く、すぐに元の姿にもどってしまった。


「バカだねェ!! バカだねぇ!! ほぼ無制限に泥はあるんだよ!!」


その言葉を遮るようにジュリスが回転しながらレーザーを放った。


結果、巨人は穴だらけになったが、すぐにジュウジュウとふさがれてしまった。


倒れながらそれを見ていたコレジールハ重い口を開いた。


「あれは……それこそ端微塵ぱみじんにするほか活路はない。予想より早かったが、今しかあるまい!!」


ファネリがあせってそれを引き止めた。


「そんな!! こんなところであなたを失う訳にはいかない!!」


ジュリスも続いた。


「そうだぜじいさん!! バカなマネはやめろって!!」


弟子のファイセルも必死になった。


師匠せんせい!! そんなのって無いですよ!! まだ教えてもらたい事がたくさんあるのに!! それに、臆病者おくびょうものでもいいから生き残れって言ったのは師匠せんせいじゃないですか!!」


そうしてアタックチーム全員がコレジールを止めるような声をかけた。


だが、それを聞いた彼は不敵なみを浮かべていた。


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