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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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信頼関係ってことにしておくか!

アシェリィは屋敷を飛び出したものの、雪原を越える足が無くて困っていた。


「う~ん、ファオファオちゃんを引っ張り出すにはいかないし……う~ん、どうしよ。どうしよ。早くしないとノワレちゃんが追っかけてくるよ~」


彼女はキョロキョロと見渡すとベロを出してコツンと頭をつついた。


「いっけない。マナボードを忘れてたよ!!」


アシェリィのバッグにはいつもボロい木の板がくくりつけてある。


最近、めっきり使う機会が少なくなってしまったが、これはただのガラクタではなくて乗用のマナボードという立派なマジックアイテムだ。


「久しぶりだけどよろしくねっと!!」


器用に足先で板をね上げると荷物をかついでそれに飛び乗った。


「アシェリィ!! アシェリィ!!! 戻ってきて!!!!! お願いだから!!!!!」


案の定、シャルノワーレが悲痛な声を上げて追いかけてきた。


うしろ髪を引かれる思いだったが、あんなふうになったフォリオを見せられては黙っていられなかった。


(ノワレちゃん!! ごめん!! ごめんね!!! でもきっとあなたならこの気持ち、わかってくれるはずだよ!!!)


雪を猛スピードで滑走する彼女を見てノワレはがっくり肩を落とした。


「アシェリィ……やはりこうなりますのね……。わたくし……わたくし、貴女あなたが死んでしまったらどうすれば……」


すぐに彼女は前を向いた。


「はっ……こうしてはいられませんわ!! 彼女を死なせるわけにはいかない!! 彼女が死ぬくらいなら私が盾になります!!」


やはり互いに思うことは同じだったが、それは簡単に生命をけるという危険性もはらんでいた。


その頃、ついにアーヴェンジェへの陸上部隊の攻撃が始まった。


周辺で争っていた両軍は街を飲む泥のゴーレムを見て散り散りに逃げ出していった。


その結果、戦場にはほとんど人が残らなかった。


「いいな!! ワシは死んだふりをしつつ距離を詰める。本陣はワシと付かず離れず動け。そうすれば補助、回復呪文の範囲内に入れる。それよりはみ出ると援護は受けられないものと思うんじゃ!!」


かなり速い速度でコレジールは匍匐ほふくしていった。


「ええか? さっき打ち合わせたように、アーヴェンジェの巨大なマッディ・ゴーレムには死角がない。側面や後ろに回る意味はあまりないんじゃ。よって、正面からチームを変えながら波状攻撃をしかける!! おそらく、ハーヴィーは近づいてくる相手を迎撃するタイプじゃ。仕掛けてこない分、厄介だと言える。接近する際はハーヴィーにも注意せい!!」


レイシェルハウト、パルフィー、サユキがずいっと前に出た。


「まだそうやって私達の前をはばむのね……」


「死にぞこないの懲りねぇばーさんだ。かなりパワーアップしてるようだが、それはばーさんだけではないかんな」


「今度こそ冥府めいふに送ってやるわ。覚悟なさい」


前衛のパルフィーに後衛のサユキ、そしてオールレンジのレイシェルハウトとこのメンバーには穴がなかった。


そして3人は息ピッタリに動き始める。


サユキはうつ伏せになると手の上にカンザシを置いて敵を狙い始めた。


(やはりあの巨人、前と同じでマナにムラがある。どこかにアーヴェンジェのコックピットがあるはず。そこをピンポイントで狙えば!!)


「ビスンッ!!」


彼女の射撃は寸分の狂いもなくアーヴェンジェ本体を狙った。


だが、泥のよろいはばまれてカンザシは飲み込まれてしまった。


(やはりパワーアップしている。ゴーレムの体内を自由に行き来しているようだわ。このまま狙撃そげきを続けてもらちがあかない!!)


レイシェルハウトとパルフィーはその間に一気に距離を詰めた。


すると2人の頭上に影が落ちた。


泥の板が降ってきたのである。かなりの質量があって、潰されたらひとたまりもない。


すぐさまパルフィーはレイシェルハウトを片腕でかつぎ上げた。


すると彼女はあるじを思いっきり上に投げつけた。


「いっけえええええええええぇぇぇぇx!!!!!」


レイシェルハウトはすぐにヴァッセの宝剣を抜刀ばっとうした。


軟断なんだつのフォルタ・ターネ!!!!」


連続で斬撃を放つと泥の板はバラバラになった。


地上のパルフィーも攻撃に出る。


「ハーヴィーってのはお前か!! 覇月はげつ!!」


発射された白いオーラが敵を包んだ。だが、パルフィーの反応は思わしくない。


「チッ。この手応えは泥だな。どこからかアタシ達を眺めているに違いない!! アイツを潰さないとアーヴェンジェを倒すジャマになる。おじょう、先にそっちをやろう!!」


着地したレイシェルはうとはコクリとうなづいた。


「ええ。了解よ。仲間の犠牲ぎせいを減らすために私達の出来ることをやるわ。きっとサユキもこちらの動きを読んで今頃はターゲットを変えているはずよ!!」


次の瞬間、彼女ら2人の間に本物そっくりの泥のドッペルゲンガーがき出てきた。


見た目ではまったく見分けがつかないほど精度が高い。


「フフフ……かかってらっしゃい!!」


「へへ。容赦ようしゃはしないぜ!!」


不気味な声が何重にも響く。


だが、その直後にレイシェルハウトはパルフィーを宝剣で串刺くしざしにしてパルフィーはハイキックで主の頭をねた。


これっぽっちの容赦もなかった。互いが刺し違えたようにも見えたが、彼女らが攻撃したのは泥の偽物だった。


思わず使い手のハーヴィーは動揺どうようした。


(どうして!? そっくりそのまま真似まねたはずなのに!!)


猫耳の亜人は人差し指で鼻頭をこすった。


「確かに雰囲気や匂いまでそっくりだ。それでもなんつーかな。くさえんか? これでも付き合いはそこそこ長いからな。ま、直感って感じだな」


数体を斬り捨てたレイシェルハウトはいまひとつ納得いかない様子で答えた。


「フフフ。まぁ、その通りね。でもくさえんというのはひどくなくって? 私は貴女あなたのこと、とても信頼してるのよ」


思わずパルフィーは肩をすくめた。


「アタシを巻き込んで殺傷呪文さっしょうじゅもんを平気でぶっ放してるのにか? よく言うよまったく。信頼……か。まぁそういうことにしておくか!!」


不思議と2人のやり取りからは主従関係しゅじゅうかんけいが感じられなかった。


パルフィーの態度からして自然とこういうフランクな関係に落ち着くのだが。


すぐにその場は激しい乱戦になった。


数え切れないほどのレイシェルハウトとパルフィーが交戦を始めてもう誰が誰だがわからなくなっていった。


それを自陣から見ていたサユキはターゲットを変えた。


「大量にお嬢様じょうさまとパルフィーが出現しているけど、本物は確かに2人。それと……器用に立ち回っているのが1人!!」


片っ端から本人たちは泥のニセモノを潰していったが、互いに間違って攻撃してしまうことは無かった。


サユキの狙撃も確実で偽物にせものだけを次々と仕留しとめていった。


「おい!! おじょう!! この中にハーヴィーってやつが混ざってるぞ!!」


レイシェルハウトもうなづく。


「泥の兵士に擬態ぎたいしているからかすかにしか気配は感じないけれど、この中に司令塔が居るのは間違いないわ!!」


一方のサユキは敵の群れの外に居たので状況がよく読めていた。


「ハーヴィーは……あれね!!」


彼女はすばやくカンザシを構えるとカモフラージュしたハーヴィーめがけて発射した。


混戦に気を取られていたターゲットは高速で迫るカンザシを回避できない。


だが、直撃する前にマッディ・ゴーレムが彼女を地面に 叩きつけた。


そのままハーヴィーは泥の巨人の内部に緊急回避した。


「ちッ!! 討ち損ねたわ!!」


レイシェルハウト達は思いっきり頭上から平手打ちを喰らった。


だが、パルフィーが頭上へ掌底しょうていを放ち、衝撃を相殺そうさいしたので無事だった。


1つ目のチームの役割は果たしたと判断したコレジールは2チーム目を投入した。


コフォル、ルルシィ、ファイセルの3人だ。


とんがり帽子の男は思わず目を細めた。


アーヴェンジェのヘイトはまだパルフィーたちに向かっていたので考えるスキがあった。


「ふ~む。レポートやミーティングの通り、アーヴェンジェはあのゴーレムの中を絶えず移動していると見ていい。更にそのコックピットは堅牢けんろうだ。おそらくはハーヴィーも今はあの中にいる。なんとかして本体の……死骸粘土ネクローシス・クレイであるからして、頭部をふっとばす必要がある。これは骨が折れるぞ」


コフォルがそう悩んでいるとファイセルが前に出た。


「とりあえず試してみましょう。耐水加工のこれで!!」


彼は腰のベルトから小型の赤いブーメランをとりだした。


「いけっ!! アイゴニー!!」


ブーメランはかなり距離のあるマッディー・ゴーレムに接触し、飲み込まれていった。


「ヒーーーーッヒッヒヒィ!!!! そんな玩具オモチャが効くもんかい!!」


ファイセルが意識を集中すると飛び道具は巨人の体内を進み、アーヴェンジェを追尾し始めた。


(くっ!! 速いな!! これじゃあ追いつくのは難しそうだぞ……。でもあいつの体内にキープしておけばいざという時に奇襲をかけられる!! とりあえず静止させておいて、敵意を殺しておこう……)


ファイセルはコフォルとルルシィにそれを伝えた。


「あなたのCMCクリエイト・マジカル・クリーチャーの腕は一級よ。短時間でも動きを封じられれは、コックピットを破壊できると思う。ファイセルくんはブーメランに集中。チャンスは私とコフォルで作ってみるわ」


ルルシィは親指を立てて場を勇気づけた。


すると2人は魔術局タスクフォースからくすねてきたマジックアイテムをあさり始めた。


「生身での戦闘は最終手段だ。私達までバテていてはいざという時にどうしようもないからな」


コフォルはとんがり帽子をかぶり直した。


「わかってるわよ。でも、この調子じゃマジックアイテムだけじゃ済まないかもね。お互い覚悟しておきましょ」


2人は目線を合わせると使えそうなアイテムを探した。


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