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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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一度死んだ少女の儚い生命

コレジールを中心としてアタックチームを編成している途中で彼がアシェリィとシャルノワーレをある部屋に呼びだした。


そこには彼女らを呼び出したコレジールと呼ばれた2人しか居なかった。


老人はけわしい顔付きで重い口を開いた。


「のう、アシェリィや。おんし、みたところ毎日のように悪夢にうなされているようじゃな。どんな夢をみておる?」


アシェリィは恥ずかしげに後頭部をかきながら答えた。


「いや~。うるさくってごめんなさい。大したことじゃないんです。ただ、誰かに首を締められて苦しむ夢なんですよ。女の人……かな。へへ。不吉で変な夢ですよね」


はたから聞くとかなり深刻な内容だが、本人は慣れっこだった。


「いいかアシェリィ。これから言うことをよく聞くんじゃ。恋人のノワレもな」


思わず2人は息をのんだ。


「単刀直入に言う。アシェリィ、お前は既に死んどるんじゃ……」


重苦しい沈黙のあと、思わず声が漏れる。


「う……ウソですよね……? な、何かの冗談ですよね?」


そうは言ってみたものの、ここでコレジールがウソをつく必要性はまったくない。


それでもそうたずねざるを得なかった。


「ええか。おんし、幼い頃は病弱で魔術も使えなかったじゃろ。何度か死にかけてオルバの狼が薬を届けに行ったことがあった。わしもそれは確認しとった。じゃがな、ある夜におんしは一度死んだ。これは間違いのない事実じゃ。じゃがおんしは完全には死ななかった。なぜ元気になったか、魔術が使えるようになったか。心当たりはあるか?」


少女は恐る恐る首を横に降った。


「え……いや、あの……。オルバ師匠ししょうの薬が効いたからじゃないんですか?」


コレジールは顔をしかめた。


「やはりわからんか。無理もない。ちょうどその頃、ソエル大樹海で瀕死ひんし大怪我おおけがを負ったトレジャーハンターの娘がおんしの家のそばで死んだんじゃ。ちょうどおんしと、そやつで死の思念がシンクロした。その結果、おんしと娘のたましいは1つに結びついた。それが今のアシェリィなんじゃよ」


そう指摘されて不完全な少女は頭を抱えた。


「そんな……。そんな……。あのときのお姉さんは……。もう死んじゃっていたなんて……。そういえば、なにかのきっかけのときは決まってお姉さんが会いに来てくれた。つまり……そういうことなの? 冒険にあこがれたのも、村の人より魔術が使えたのも……。お姉さんの影響なの!? でもなんで首を締めてきたの!?」


そんなことをいきなり言われたら誰でもパニックになる。


「おんしの魂が弱まってきたから、そのお姉さんがお前を乗っ取っとる……つまり殺そうとしてるんじゃ」


老人が言うとショックでアシェリィの脚はガクガクとふるえだした。


「どうして!? どうしてオルバ師匠せんせいもコレジール師匠せんせいも今まで教えてくれなかったんですか!?」


戸惑とまどいのぶつけさきを失って彼女は声を荒げた。


老人は少女の肩をポンポンと叩いた。


「まぁ聞け。最初はおんしらが不死者アンデッドにならないかわしもオルバも警戒しておった。しかし、運のいいことにおんしは生き延びた。ただ、不安定な状態じゃがの。そういうことはたまにあることじゃ。我々としては安心して見守り、育てていくことが出来た。ただ、これを本人に伝えるのはあまりにもこくな事じゃ。時が来るまでは黙っていよう。そうオルバと決めたんじゃ」


驚きを隠せないシャルノワーレが疑問を投げかけた。


「その、時……とは?」


コレジール老は首を左右に振った。


「さっき言ったようにアシェリィの魂は不安定なものじゃ。いままでは問題なかったのじゃが、ここのところは使う魔術……特に召喚術しょうかんじゅつでの消耗しょうもうが激しい。魂の融資ソウル・ファイナンスが最たる例じゃ。つまるところ、この先、更に戦いが苛烈かれつになってそれに応じた戦い方をしておるとアシェリィは……今度こそ間違いなく死ぬ」


またもや沈黙がその部屋をつつんだ。


これから重要な戦いがあるというのに自分だけ置いてけぼりなのか。


アシェリィは歯がゆさを感じて唇をんだ。


すぐに師匠ししょうがフォローに入った。


「まぁまぁ。言うでない。おんしの言いたいことは痛いほどわかる。じゃからノワレもここに呼んだんじゃ。アシェリィを1人にはせん。最愛の人に自分が死にゆく様を見せたくはないじゃろう。同時に、シャルノワーレもそんな光景は見たくない。だからワシは2人を呼んだんじゃ。ちっとばかし卑怯ひきょうな手段だとは思っとる。でもな、これがベストなんじゃよ。生きろアシェリィ。血なまぐさい道を歩くのはワシらだけで十分じゃ」


不安定な魂の少女はその場にへたりこんでしばらく放心していた。


だが、やがて実感が湧いてくると彼女は涙が止まらくなり、気づくと号泣していた。


シャルノワーレも彼女の肩を抱きながら浅葱色あさぎいろの涙を滝のように流した。


2人とも涙を止めることは出来なかった。


コレジールはミーティングルームに戻ると、うまい具合に事実をにごしながらメンバーからアシェリィとシャルノワーレを外すむねを伝えた。


アシェリィの負担が限界に来ているとは言ったが、さすがに既に死んでいるなどとは口がけても言えなかった。


それどころかそんな話をしたら逆に皆を不安にさせてしまうだろう。


その頃、東の武家と西の武家の仲裁ちゅうさいして点々としていたウルラディール現当主、「レイシェルハウトは何かを感じた。


「これは……まさか……アーヴェンジェかッ!?」


反射的に腰のヴァッセの宝剣をにぎっていた。


それをサユキもパルフィーもそれを感じ取ったのか、警戒し始めた。


どこにいるかはハッキリわからないが、それだけ泥儡でいらいの魔力はすさまじかった。


レイェルハウトは選択を迫られた。


「このままあいつを見つけて殺るか、それとも一度、屋敷に戻って態勢をを立て直すか……」


少し考えたのち、彼女は迅速じんそくに判断をつけた。


「屋敷に帰りましょう。出来るだけ戦力がほしいわ。もうROOTSルーツ全員が戦いに参加してくれるとはおもえないけど、まだ戦ってくれる人もいるはず。それに、ファネリやジュリス、ラーシェもいる。彼ら彼女らの助けを借りればそれだけで相当の戦力になる。さぁ、屋敷に戻るわよ!!」


彼女らが居たのはちょうど東側でウルラディール家からそう遠くはなかった。


全速力で帰ると運良くコレジールがアタックチームを編成している最中に帰還できた。


ミーティングルームの扉をあける。


「はぁ……はぁ……」


フィジカルの強いパルフィー以外、レイシェルハウトもサユキも息を切らしていた。


思わずファネリが立ち上がる。


「おっ!! お嬢様じょうさま!! どこにいらっしゃるかと思いましたぞ!!」


レイシェルハウトは息を整えると顔をあげた。


「ごめんなさい。リポート・ジェムを使うのはもったいなかったから。それで、今は……アタックチームを組んでいるのね。やはりアーヴェンジェが?」


コレジールとファネエリはコクリとうなづいた。そしてコレジールは当主にリーダーを譲ろうとした。


「お嬢様の登場じゃな。ワシは仮のリーダーじゃから、ここで降りるぞい。あとはお嬢様に任せることとするわい」


リーダー権をゆずられた彼女だったが、それをやんわり断った。


「いえ、きっとコレジール老の構築したチームは確かなものよ。それに私達は最近、仲裁ちゅうさいに専念していたわ。だから最新の内情や状況はわからないの。前線に立ってきた貴方がこのミッションのリーダーをつとめてくださる? 私達は戦うことに専念せんねんします。責任を放棄してしまうようで申し訳ありませんが、よろしくお願いしますわ」


そう言ってレイシェルハウトは深く頭を下げた。


老人はまいったなとばかりに頭をかいた。


「ご当主。なにもそこまですることはありません。老いぼれのワシでよければ喜んで引受させてもらいますわい。ただ、相手は死骸粘土ネクローシス・クレイよみがえったアーヴェンジェと、その孫のハーヴィーじゃ。きっとお嬢様達が撃破したときより相当パワーアップしてるはずじゃ」


レイシェルハウトはシリアスな表情でつぶやいた。


「それは厄介だわ……。やはり3人で向かわなくて正解だったわね」


意外な表情を老人はした。


「む? 連中がどこへ向かっているか見当がついていましたか?」


ウルラデx―ル当主はひたいに手のひらを当てた。


「ええ、泥儡でいらいが向かうとしたら決戦の地であり、未練の残るダッザニアやダッザとうげに違いないわ。それに、あの一帯の地中には上質な粘土が大量に含まれているの。まさにあいつらにとってはホームというわけね。それに挑むということは完全にアウェイという事になる」


作戦参謀さくせんさんぼうあごの白ひげをさすった。


「さすがにそこらへんは無策というわけでもないですじゃ。ファネリの強力な炎は泥を固めてボロボロにすることができるし、水属性で溶かすことも出来る。サユキ殿は氷結に加え、狙撃も出来る。おそらくゴーレムを生成してその中のコックピットに陣取るはず。その場合はジュリスのビームでもチャンスがある。ただ、今回は最悪の自邸も想定しなければなりません」


壁に寄りかかって腕を組んでいたジュリスが分析ぶんせきした。


「最悪の事態? もしかして、全身を泥と一体化させちまうとかか? そうすりゃ狙い撃ちされる心配もねぇし、泥が再生できる限り戦うことが出来る。炎であぶったりこおらせてもほとんどノータメージだと思うぜ。調べてみたが、ダッザニア周辺はマジで無限に粘土が手に入る。街の建物のほとんどに粘土ねんどが使われるくらいだからな。正直、一体化されるともう手がつけられん。おまけにハーヴィーも居るときたもんだ」


青年の表情がくもっていく。


「いや、極端な話、泥の有無は関係ない。ダッザニアでなくってもいいんだよ。ここで暴れるだけでも俺らに壊滅的かいめつてきな打撃を与えることが出来たはずだ。じゃあなんでわざわざダッザ方面に行くんだ? 因縁いんねんの地ってこともあるだろうが、何かしらたくらんでいる気がするぜ。あるいは俺の深読みが過ぎるか……」


部屋の全員がそれぞれの考えをめぐらせた。


だが、なぜアーヴェンジェとハーヴィーがダッザニアに移動したのかは誰も予想できなかった。


コレジールはジュリスの意見をしっかりとんだ。


「確かに。ジュリスの言うことも一理ある。あやつらとて阿呆あほでは無い。なにかしらの考えがあって屋敷を放置して向こうへ行ったのじゃろう。ホームで待ち受けるというのは積極的な攻撃方法ではない。かといって連中になにかまもるものがあるかといえば特に思い浮かばん。非常に好戦的なのに仕掛けてこない。そう考えると不気味じゃな。下手な誘いに乗りかねないというケースも考えてはおった。一応、偵察ていさつから奇襲きしゅうのチーム編成もある。ここは慎重にいくぞい。突っ込むだけが脳ではないからの」


こうして一同は陣形や編成の案をいくつも出しあって作戦の完成度を高めていった。


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