唸れ! 2人の熱波掌底
レイシェルが潰されたのを確認した2人だったが、諦めること無く無言で手に汗握り、固唾を呑んだ。
まだ、かすかにゴーレムの掌の中でマナの生体反応があるのを2人とも確認していたからだ。
やがてその生命の輝きは勢い付き始めた。それを感じ取ったのか、パルフィーは落下しながらニヤリと笑いながらまた繰り返した。
「ニッヒヒ~。これくらい避けてもらわなきゃ、困るよなぁ?」
気配を殺しながらマナを練るレイシェルの生存に気付かず、アーヴェンジェは慢心し、異常なまでに舞い上がっていた。
「ヒヒヒヒ……このままこうやっておびき出してればウルラディールの当主、ラルディンの奴が出てくるのも時間の問題だなァ……。自分の娘を殺されたとあっちゃあ黙っちゃいられないだろう。それを更に討てば……ヒヒヒ!! 今いる残りの仲間も皆殺しにすればこの”罠”が知られることもない。したらラルディンさえ目じゃないねェ!!」
「……ま……な……って?」
アーヴェンジェはかすかに空耳のような声が聞こえたような気がして耳をすませた。
「おとう……が……なん……て?」
徐々にその小さな声がハッキリと聞こえるようになってきた。
「違うッ!! これは空耳なんかじゃぁないッ!! あんのガキ!! 生きてやがる!!」
「お父様が、……お父様がお父様がお父様がお父様が何ですって!? 何人たりともお父様に手出しはさせない!! させてたまるわけが、たまるわけがたまるわけがたまるわけがたまるわけがたまるわけがあるわけないでしょうにィィィーーーーーーーーッ!! 漲れ我が魔力!! マナよ我に呼応して大気を揺らせ!! 炎龍の魂、今我に宿りてその雄叫びを地の果てまで轟かせよ!! 紅蓮の爆轟!! エゴイスティカ・マントラー・デトネイション!!」
向かいの丘にもレイシェルの雄叫びのような怒りを込めた呪文詠唱は聞こえていた。
サユキとアレンダはレイシェルの生存を確認して安堵の表情を浮かべた。詠唱が終わるとレイシェルを叩き潰したはずのマッディ・ゴーレムの拳は一瞬で乾いた脆い土に変わったのが確認できた。
土のあちこちに深い亀裂が入る。その間から真っ赤に光り輝くレイシェルの姿が現れた。両手を握った彼女は腰からワンドを引き抜いて高く天に掲げた。
辺りは昼間だというのに一瞬、まばゆい閃光が走った。間髪入れずにレイシェルは自分自身を中心に熱を持った強烈な大爆発を起こした。
大地を揺らすような轟音が響き渡ったかと思うと、彼女のマナに呼応してか実際に大地が地震のように揺れ始め、更に強烈な熱風が辺りに吹きつけた。
そして辺り一面に乾燥して粉々になったマッディ・ゴーレムの土のかけらが降り注いだ。飛び散った土のかけらが真っ白な雪に落ち、模様のようになっていく。
見守っていたサユキたちのいる丘にも土が雨の様にバラバラと降り注いだ。あまりの爆風にサユキとアレンダは思わず伏せた。
強烈な炸裂を繰り返しつつ爆発が30秒間は続いただろうか、爆発が収束したのを確認して2人がダッザ峠を見るとなんと山頂の半分が爆発によってぽっかりと抉れていた。
それと同時に辺りに巡回していた泥人形が居なくなっていた。その様子をみたサユキはすぐにパルフィーの安否を確認しようとイヤリングにささやいた。
「パルフィー!! パルフィー!! 大丈夫!? 爆発に巻き込まれていない!?」
すぐに応答があった。パルフィーの荒い息遣いがイヤリング越しに伝わってくる。
(ハァッ、ハァッ、……んとか、なんとか無傷で済んだよ。着地したあと、すぐに山の斜面を一気に飛び降りて……ハァ、今はすそ野の森の中に居る。着地がもう少し遅かったらバラバラだった……。まったくお嬢は……ほれ見ろいわんこっちゃない。これじゃ死体なんて跡形もないよ)
その報告を聞いて緊張が解け、サユキは脱力した。だが、隣のアレンダは警戒を促すようにサユキに声をかけた。パルフィーにも聞こえるように大きめの声で伝える。
「皆さん、まだです!! アーヴェンジェはまだ死んでいません!! 山頂に残った土塊に反応があります。きっと、爆発を察知して山の端まで一気に退避したのでしょう。さきほどの様子からして、アーヴェンジェはマッディ・ゴーレムの内部にいるようです!! マッディ・ゴーレムの体内ならばかなり高速で移動する事も出来るはずです。彼女は泥、いや大地からマナを吸い上げているので、内部に潜んでいる本体を仕留めない事にはマッディ・ゴーレムは再生し続けてしまいます!!」
サユキは再び焦燥の面持ちで山肌のほうを見た。そこにはすっかりマナを使いきってバテて頭の冷えたレイシェルが今にも手を地面につきそうな姿勢で前かがみになっていた。
膝に手を付けて、息を荒らげている。遠くから見ても息が上がっているのが見て取れた。
「しまったッ!! お嬢様にはアーヴェンジェとマッディ・ゴーレムがまだ動ける状態にあることが伝わっていない!! 今からパルフィーがあの位置に着くまでは急いでも3分以上はかかるわ!! 限界に近い魔法を放った放心状態のお嬢様ではマナサプライ・ジェムを使うのは難しい……これは本当はやりたくなかったんだけど背に腹は変えられないわね!!」
山頂の土塊は再び土を吸い上げながら泥を練っているようだった。その形は徐々に変形し、両腕が生え始めた。そして抉れた部分を補修しつつ、泥を補給して元の大きさへと戻っていった。
峠に陣取っているため、足まで生成する必要はなく、山の頂上に顔と腕だけのゴーレムが出来上がっていった。その顔はまるでハロウィンのカボチャのようだった。
土を吸い上げられたダッザ峠は明らかに標高が低くなっていた。
「ふぅ、さすがにあの威力の爆発にはたまげたが、私を仕留める事は出来なかったようだねェ……。しかも今のはほぼ全力で放った呪文と見た。したらこっちはもう怖いものなしさね!!」
ゴーレムが縦チョップをレイシェルに当てようと掌を縦にして構え、レイシェルに照準を定めた。
その時、サユキがレイシェルが腰から下げたマナサプライ・ジェムの袋に向けて、カンザシを打ち込んだ。
カンザシはすぐさまレイシェルの腰につけた小袋の中のジェム一粒を串刺しにして、そのまま彼女の太ももに刺さった。カンザシを介して宝石のマナがレイシェルの体に補給される。
太ももの痛みでレイシェルは放心状態からカムバックした。鈍い痛みと同時に、体中に魔力が戻るのを感じられた。
行動するための余裕が戻ってきたのを感じて、前かがみをしたままでスタミナ切れを装ったまま相手の出方を見た。マッディ・ゴーレムは縦にした手でチョップを繰り出してきたが、すかさずレイシェルは横っ飛びで避けた。
「痛っつ……サ~ユ~キィ~、覚えておきなさいよ……あとで必ずお返ししてやるわ……ぐっ!!」
レイシェルはふともものジェムの刺さったカンザシを引き抜いて、地面にたたきつけた。回復用のカンザシもあるのだが、今回は宝石を貫く必要があったため、狙撃用の鋭く硬い物だった。
そのため、地面に叩きつけてもびくともしない。レイシェルはサユキに苛立ったが、助けられたのもまた事実だったので、なんとか怒りを収めた。
それにこの狙撃はやむをえない行動だったわけで、仲間に気を使わず呪文を唱えるレイシェルがどうこう言える義理ではなかった。
「肉叢の安息!! コンフォータブル・ブリーズ・フォーカス!!」
そう詠唱するとレイシェルの傷口を温かい微風が覆った。みるみる傷穴はふさがっていき、1分と立たないうちに彼女の傷は跡形もなく完治した。
いざ治療してみるとごくごく浅い傷で、サユキが限界まで手加減して撃ったものだと分かった。ももの痛みが引いたのを確認して、レイシェルは巨大なマッディ・ゴーレムを見上げた。
「死にぞこないのクソがぁ!! ここで死ぬのは私じゃない!! アンタ、アンタなンだよォ!! どうだ、これなら避けられないだろ!? たとい何度乾燥させて吹き飛ばそうとも、またマッディ・ゴーレムは復活するんだよォォ!!」
ゴーレムはそう大声を上げながらレイシェルのいる峠道を狙って左右の掌を開いたまま手当たり次第に何度も山肌を打ち付け始めた。
レイシェルは全力で回避行動をとったが、さすがに攻撃範囲が広すぎて長い時間は避けきれそうにない。
「ハァッハァーーーー!! 今度は呪文詠唱の隙なんか与えないよ!! 連打でミンチにしてやるからねェ!!」
連打が始まって間もなく、麓の方から大きな叫び声が聞こえた。レイシェルとの合流を図れとサユキから指示を受けたパルフィーの声だった。
「お嬢!! こっちへ飛べぇ!!」
パルフィーのその声を聞いてレイシェルは出来る限り高くジャンプして呪文を唱えた。
「音速の扇旋!! アトモスフェリク・ファン!!」
そう唱えたレイシェルはあっという間に高速スピードで後方へと吹っ飛んだ。本来、相手に向けて打つ風属性の魔法を空中で放つことによって自身に推進力を持たせたようだった。
それを見ていたパルフィーは先ほどのサユキの様にレイシェルをキャッチしようと構えた。サユキより遥かに高くジャンプして、レイシェルを腋で掴んで森の中に着地した。
「私はまだやれたのよ!! もう1発アイツに打ち込んでやるわ!! パルフィー、私をアイツのとこまで投げて頂戴!! って、ちょっと聞いてる!?」
レイシェルは強がりを言って暴れたが、パルフィーの腕に抱えられて手足をバタバタする事しか出来なかった。
パルフィーはというと暴れるレイシェルを無視したまま、ピンと耳を立ててマッディ・ゴーレムの方を見つめた。
「このぉ!! 逃がすものかぁっ!! 死ねェェェェェェ!!」
ますます肥大化したゴーレムの腕は裾野をなぎ払うのに十分な大きさになっていた。チョップの形で腕を裾野に突っ込むと掌を立てたまま薙ぎ払うように、森林を倒しはじめた。
まるで整地でもするかのように樹木を根こそぎ巻き込みながら掌がパルフィーに迫った。
サユキが早口でサユキに指示を出した。
「パルフィー、跳んでは駄目!! ここから見るに、不用意に上空に跳んで避けると開いている方の片手で迎撃されかねないわ。なんとかして地上で対応するのよ!!」
それを聞いたパルフィーは「話を聞いていたな」とばかりにレイシェルに指示を出した。
「お嬢!! エレメント・アタッチの赤!!」
「わかってるわ!! 私に指図するんじゃないっていってるじゃないの!!」
パルフィーはレイシェルを右腕から左腕に抱き変えて、右腕を流派の型に構えた。地面ごと薙ぎ払う轟音が徐々に近づきつつある。
ギリギリまで引きつけるために2人は息を殺気を殺してできるかぎり森の中に溶け込んだ。レイシェルがマナを込め始めると2人の体が炎のようにうっすら輝き始めた。
マッディ・ゴーレムの手は巨大なだけあってあっという間に接近してきた。絶妙なタイミングで相手の動きに合わせて受け流すようにパルフィーがしなやかな掌底を放った。
同時にレイシェルが詠唱する。パルフィーもそれに続けて叫んだ。
「伝播の業火!! コンダクト」・「照・焦・底―――――ッ(しょう・しょう・てい)!!」
パルフィーとレイシェルは真っ赤に光り輝いた。その光は丘の上のサユキ側からも確認することが出来た。
マッディ・ゴーレムに直撃したパルフィーの掌底は高熱を帯びており、それが伝導して泥の腕をどんどん土屑に変えていった。あれだけ巨大だった片腕はバラバラと自重で瓦解し始めた。
それを見ていたサユキとアレンダは驚きのあまりしばらく言葉を失ったがポツリとサユキが言った。
「め、珍しい……。お嬢様が連携行動するなんて……明日は真夏日だわ……」
「いや、あれはただパルフィーの腋に抱えられてたから結果的にああなっただけじゃないですかね……でもぶっつけ本番であれだけやれればあるいは……」
アレンダが分析をしつつ、何かを考えこむようにうつむいた。サユキは状況分析に戻った。
「まだマッディ・ゴーレム本体は片腕を残して健在ね……。流石は百戦錬磨、100年間も闘争の中に身をおいているにも関わらず生き残っているだけの腕前はあるわ……パルフィー、聞こえていて?」
「はぁ、はぁ……えぇ!? まだあれでもくたばらないの!? このままだとアタシら何気にやばいんじゃないの?」
そう会話するサユキの隣でアレンダはずっと難しそうな顔をしていたが、何か閃いたとばかりに開いた左手の掌を右手の拳で叩いた。そのまま大きめな声でパルフィーにも伝わるように解説し始めた。




