麗幕と斬宴のアンコール
フォリオ達とコレジール達はフラウマァを別ルートで追跡していた。
途中、出来る限り遺品を破壊して回った。
ざっと数えるだけでも2チーム合わせて十数体のリッチーを消滅させていた。
これが不死者勢力にとってはかなり大きなダメージで、リッチーの数は激減していた。
だが、問題はリーダーのロザレイリアだ。
聖属性の不死者であるフラウマァが彼女の遺品を握っている。
本来、自分の遺品を動かすことは出来ないが、ロザレイリアは自分のそれをフラウマァに託していた。
つまり、屍の女王を滅するにはワイトクイーンであるフラウマァに追いつかねばならない。
彼女はまだ存在が曖昧でスキがある。
いまならまだチャンスがあるように思えた。しかし、相手に動きがあった。
地図を見ていたコフォルが声をあげた。
「何ッ!? ロザレイリアがフラウマァのところへテレポートした!?」
ほぼ同時にコレジールも苦虫を噛み潰したような顔をした。
「これは……ハーモナイズ!! 融合じゃ!!」
フラウマァに接触したロザレイリアは優しく声をかけた。
「よくここまで遺品を守り抜いてくれました。さぁ、私と1つになって完全なる死を世界中に広げましょう……」
骸骨同士でキッスを交わすと2体は1体に合体した。
「これは素晴らしい……。2人の力が1つになりましたね、間違いない。互いの弱点を補い合う理想的な霊体ですね……。ややこしいので便宜的に以後、ロザレイリアの方を名乗るとしますよ」
ロザレイリアとフラウマァの声が同時に響く。
「これなら安々と遺品は破壊できないでしょう。よっぽどの威力の呪文で攻撃されない限りはフラウマァのくれた聖属性で防ぎきれるでしょう」
しばらくの沈黙のあと、彼女は現状を確認した。
「今の所、残っているのは私達、アルクランツ、そしてザフィアルですか。ここで楽土創生のグリモアが顕現した場合、3つ巴の戦いになりますね。いや、ザフィアルはアルクランツに強く、アルクランツは私達に強く、私達はザフィアルに強いという3すくみの構造ができあがっていると言えますね。すぐにザフィアルを手にかけてもいいのですが、アルクランツの戦力を削いでくれるならば泳がせておくのがベストでしょう」
新生の骸の女王は満足げに頷いた。
「そうですね……。しかし、ズゥル島での劣勢は看過できません。新たなる力を試すついでに報復してみるとしますか」
彼女は空中に2つの紫の魔法円を描いた。すると声が聞こえてきた。
若い男の声がする。
「おいおい。いいのかよ? キッズの肉、斬っちまってもいいのかよ? やっちゃうぜ。殺っちゃうよ?」
続けて若い女性の声がした。
「あらあら~ウフフ。私、頭が吹っ飛んで死んじゃったはずなのに、いいんですかぁ~? また嬲り殺しちゃってもいいんですかぁ~?」
女王は機嫌が良さそうだ。
「ええ。2人とも、思うままに暴れてやりなさい。貴方方はまだ死ぬには早すぎた。不死者としてのセカンド・ライフ……おっと。セカンド・デッドの始まりなのですから」
声の主は悦に浸っているようだった。
「誰に仕えようが仕えまいが、肉さえ斬れればそれでいいぜ」
「あ~~~~。ロザレイリア様、素敵~。私、頑張っちゃうわ~~」
そして一度、ロザレイリアはラマダンザ大陸のアジト、クリミナスに帰還して残ったリッチーを一斉に帰還させた。
頭数が減ったのは否めないが、まだ十分に総力戦に耐えうる力はあった。
この時点でほとんどのリッチーを帰還させたのでズゥルにほとんど不死者は居なくなった。
脅威はこれで去ったかと思われたが、凶悪なデモンが手付かずで残っていた。
これは非常に頭の痛い問題で、常に学院生達は悪魔に襲撃される恐怖に追われていた。
それでも命からがら生き延びた生徒達は大規模な戦闘の終了の合図を受けて一箇所に集結しつつあった。
バレン教授が彼ら彼女らを保護する。
「お前らよくやったな!! あと一息だ。さぁ、生きてミナレートへ帰ろうぜ!!」
アフロでムキムキマッチョの大男は見た目に反して男泣きしていた。
多数が犠牲になった中、生還した学院生やリジャスターを見て泣くのは無理もなかった。
だが、恐怖はそれで終わらなかった。
ミラニャン、カルナ、ヴェーゼス、レールレールの4人は他のチームの5人とパーティーを組んで洞窟に隠れていた。
ズゥル島にはいくつもの天然洞窟がある。そのうちの1つに彼ら彼女らは潜んでいた。
そこは地下にあり、かなり狭かった。
反対側にそれぞれ2つ出入り口があって、地上へと通じている。
「もう不死者の波は引いたのか? いや、まだ用心すべきだ。グラークが使い魔を送ってる。誰か助けに来てくれるはずだ」
もう1つの班のリーダーがそう提案した。
島に棲息する素早いリスにマーカーをつけて最寄りの教授へと走らせていたのだ。
無闇に外に出るのはリスクが高い。そう思った一行は戦闘態勢をとりながら迎えを待った。
その時だった。洞窟の片側の入り口にゆらりと人影が現れたのである。
顔はよく見えないが、若い女性のようである。
ピンクのロングスカートにフリフリのフリル。明らかに浮いていた。
それはロザレイリアによって不死者として蘇った麗幕のソルマリアだった。
当然、一同は彼女に見覚えが無かったし、どれだけ力があり、かつ残忍な人物であることを知らなかった。
「ウフフ……首に縫い目が出来ちゃったけど、これもまぁアクセサリーみたいなものよね~。ウフフ……さぁ、どうやって嬲り殺しにしようかしら?」
ここまで来てこの人物が正気でない事がわかった。
だが、もうそのときには遅かった。
「マグマグツグツ・マントラ~。鍋底のプロミネンシィー」
彼女がゆる~い仕草をすると洞窟の床からマグマがせり出してきた。
あまりの高温に全員が動けなくなった。一瞬で全員が脚に大やけどを負った。
「うわあああああああああぁぁぁ!!!!!!」
「あつぅ!! あつーーーーーーッッッ!!!!!!!」
「助けてーーーーーーーーーッッッ!!!!!」
洞窟内は阿鼻叫喚と化した。
「ウフフ~安心してェ。すぐには殺さないわぁ。あなたたちの苦しむ姿。あぁ~。たまらない」
ソルマリアは両頬に手を当てた。
彼女の目は死んだ魚のような目をしていた。
そんな中、自分の出来ることを悟ったカルナはアロマキャンドルを構えた。
「炎には炎!! コイツで押し返すアル!!」
だが、火力が違いすぎる。その場しのぎは出来ても明らかに自殺行為だった。
ヴェーゼスが叫ぶ。
「カルナーッ!! やめて!! 死んじゃうわ!!」
ロウソク使いは強がって親指を立てた。
「わたしは……いいから……他の人達は生き残……るア……」
焔を一手に引き受けたカルナは炭になって力尽きた。
「あぁ~。仲間をかばって死んじゃうとかス・テ・キ。でもお姉さんもうちょっと苦しんでほしかったかな」
ヴェーゼスは殺人鬼を睨みつけた。
「みんな、受け取って!! ハートフル・エイル!!」
彼女は自分のマナを全て残りのメンバーに分け与えた。
混乱していた場は冷静を取り戻して火傷が一気に完治した。
レールレールが声を荒げる。
「ユーまでそんな事を!! 死ぬつもりか!?」
ヴェーゼスは苦笑いを浮かべた。
「はは……親友が死ぬ気でやったんだから。私も逝かないと寂しいでしょう?」
そう言うと彼女はバタリと倒れ込んだ。
ミラニャンはスイーツでマナを回復できるが、一気にマナを放出した場合は食べ物では追いつかない。
端からエールを送った女性は命を懸ける気だったのである。
「こんなときに!! こんな時に!! 悔しい!! 悔しいよぉ!!」
レールレールは首を左右に振った。
「まだだ!! ドンネバーギブアッ!! 洞窟から脱出できれば相手の魔術も分散する。閉所で戦うのは敵の思うツボ。だから俺は片っ端からレール・カタパルトで生き残りを射出する!!」
それを聞いてミラニャンは根性を出した。
「私も残る!! 出来る限りスイーツ生成でレール君を援護する!!」
そう宣言された大男はそれを拒否した。
「ユーまでそんな事を……」
言葉を遮って同行していたメンバーの2人が残った。
「僕はヒーラーだから君らの役に立てると思う!!」
「おうよ!! 俺の鉄壁の装甲、見せつけてやるぜ!!」
レールレールは額に手を当てたが、すぐにカタパルトを生成して気絶したヴェーゼスと別チームの3人を外に射出した。
ソルマリアは残念そうな顔をした。
「あ~。つまんないの~。何人か取り逃がしちゃった~。でも居残り組もいるし、いいかぁ~」
彼女は任務などに対してはひどく無頓着だった。
「じゃあ、アツいの次はお冷や? シュトローム・トロ~ム。 溺海の死ヲ招き~」
洞窟の中は一瞬で海水でいっぱいになった。
そして激しい水流の弾幕がグルグルとその中を回った。
「あ~。海水いっぱい飲むのって苦しいよね~。じゃあたっぷり飲ませてあげる。死ぬ寸前までね~~~」
残った4人はこの無慈悲な拷問に為す術もなかった。
「ゴボゴボゴボゴッッッ!!!!」
「ボゴッ!! ガボゴボッ!!」
弾幕に包まれた学院生達は手足を必死にバタつかせて抵抗している。
しかしそれも虚しく長いことかけて海水を飲む苦しみを味わいながら溺死していった。
ソルマリアはその人が苦しむ様子ををしゃがみこんでずっと見つめていた。
「ああぁぁ~~~。やっぱこれよね。たまらないわぁ~~~」
彼女は恍惚の表情を浮かべた。
ソルマリアがじっと獲物を見つめているころ、カタパルトで射出された3人は無事に着地した。
そしてまだ息のあるヴェーゼスを抱えた。
そして、使い魔によって味方のいる方へ移動しようとした時だった。
「まずは4体バッサリっと」
瞬く間だった。目にも留まらぬ早業で4人は細切れの肉塊と化してしまった。
抵抗したり、ガードしたりするという次元ではない。反応さえ出来なかった。
そのため、何が起こったかわからないうちに3人とヴェーゼスは絶命した。
ソルマリアに対して痛みを感じる前に死んだのは不幸中の幸いだろうか。
「んだよ。キッズじゃねぇじゃねぇかよ。しかもあっけねぇ。面白くもねぇぜ。ま、それでも硬い肉よりゃいいか。シャバに出て一斬としちゃあまずまずか」
男は二刀流のナイフの血を舐めてからはらい、腰のホルダーに収めた。
「チッ。俺ぁあんまり復讐とか考えねぇんだけど、さすがに俺を殺したジジイとガキには癪に障るぜ。ま、こうりゃって殺ってりゃそのうち会うだろ」
黒いタイトな服を身に着けた男はソルマリアと同じく蘇った斬宴のモルポソだった。
手遅れとは知らずに生き残りの救助に向かうナッガン教授とフラリアーノ教授が途中で合流した。
「フラリアーノか。嫌な予感がする。急ぐぞ」
「ええ。これは最悪の事態を想定せざるをえません。行きましょう!!」
2人は猛スピードで未知の敵めがけて走った。




