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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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実力伯仲!! ソールル再び!!

アルクランツは爆発的な光の呪文でズゥル島の一部を抉ってクレーターにした。


そこにはザバッっと海水が流れ込んでキラキラと光っていた。


「ハァ……ハァ……。ダメだ。全盛期の半分くらいしか出ていない。全く歳を取るのはいい気分じゃないな」


彼女は長生きはしているが有限の命を消費している。


見た目は幼女のままだが、確実に老いてはいるのだ。


一方、精神破壊ブレイン・ショックが直撃したザフィアルはあえてエ・Gリンクを切らなかった。


肉体を破壊するような激しいショックが全身をはしる。


「うおあああああああああああ!!!!!!!!」


ドロドロと腕の先から氷菓ひょうかのように溶けていった。


「ぐあッ!! ぐあおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


ザフィアルは絶叫して抵抗したが、体の溶解ようかいは止まらない。


最終的に脳だけが形をとどめたまま床に落ちた。そして教主は身体を失った。


だが、脳みそは非常にしぶとかった。味噌にあかつき呪印しゅいんが浮かび上がる。


なんと、アルクランツの放った一撃を全てエネルギーに変換したのである。


頭を保護するように首から上が、そして身体、腕、足と体が完全に蘇生そせいした。


ただ、もはや人間ではなくなっていた。完全なるデモンの誕生である。


「おお……これが悪魔の力。けがわらしいと思っていたが、どうしてなかなかこれがしっくりくる。いや、快感さえ感じるぞ!! まさにウルティマ・デモンだ!!」


普通ならここで調子に乗ってアルクランツをりにいくところだ。


しかし、そこは素体がザフィアルなだけあって慎重しんちょうだった。


ここまでクールなデモンはなかなか居ない。


凶暴な性格で返りちにされる悪魔が多い中、これは強みだった。


「ククク……。少し早くなったがおたのしみの開幕だ。もしかすると私が出向く必要は無いかもしれんな。またそれも一興。アルクランツよ。簡単には死んでくれるなよ? お前は苦しみぬいて死ぬのがお似合いだからな!!」


ザフィアルだったモノは待機していたミントブルーの悪魔の頭に手を当てた。


「さて、まずはこの素体でどこまでやれるか……。行け!! ソールルッ!!」


彼女はカタコンベの壁を破って地上に飛び出した。


ノットラント中央部から10分でズゥル島に到着した。


すぐにその気配に気づいてアルクランツは飛竜に指示を出した。


「おいお前!! このままでは戦いに巻き込まれる!! 逃げろ!!」


カンチューは切ない鳴き声をあげた。


「キュ~~~、キュ~~~」


幼女はポンポンと老ドラゴンを叩いた。


「わかったわかった。アタシは大丈夫だ。だからケンレンと合流しろ。いいな?」


そう言うと校長は宙高く飛んだ。


すぐにソールルと衝突した。いきなりの肉弾戦である。


「ズン!! ズズン!! バキッ!! メキッ!! ズゴッ!! バシバシ!!!!」


2人の姿が見えないほどその打ち合いは速く、音だけが響き渡った。


そして発生するあまりの強烈なプレッシャーに教授でさえおののいて立ち止まった。


アルクランツもソールルも完全に空中にとどまっている。


明らかに引力に逆らっており、生身であそこまでやるのは滅茶苦茶だった。


激しい格闘戦は続く。予想ではアルクランツが圧倒的に思われたが、実際は互角に近かった。


幼女が右ストレートを放てばガードされ、相手の回し蹴りを腕で防ぐ。


拳術が得意なバレンがようやく目で追えるレベルだ。


「あんなスピードでの打ち合いは無理だぜ……」


次の瞬間、ソールルが力いっぱい両拳でアルクランツを地面めがけて叩きつけた。


「ぐぅッ!!」


形勢が変わってきた。ミントカラーのデモンがやや押し始めたのである。


ザフィアルはその様子を傍観者ぼうかんしゃとしてていた。


「いいぞ!! この悪魔の力でザコでもアルクランツに対抗することが出来ると証明された。あれだけの出がらしでここまでやれるのだ。やはり私が出向くまでもないか。残念だよアルクランツ。お前は自分が永遠の命を持っていると思っているようだが、魂は徐々にすり減っていっているのだよ。死にこそはしないものの、着実に魔術の出力が落ちている!! 本当の出がらしはお前だったな!! ククク……」


アルクランツはめりこんだ地面から立ち上がると勢いよくジャンプした。


そのまま頭突きを狙っていったが、ソールルにはひらりとかわされてしまった。


「クッソ!! ザフィアルめ!! さては精神破壊ブレイン・ブレイクを吸収したな!? そうでなければここまで強いデモンはつくれない!! おそら本人が悪魔になったとしか考えられん。以前のアイツはこのミントブルーのデモンくらいしか力がなかったはずだ。それなのに使い魔でこのパワー。悔しいがザフィアルにしてやられた!! 我ながらこの腕のなまりはなんとまぁなさけないッ!!」


対空した幼女は両手の人差し指を突き出してトゲのような衝撃波を連射した。


大量のニードルがソールルを貫く。人間なら即死間違い無しの攻撃だ。


だが、デモンはひるまず頭突きのお返しとばかりに突っ込んできた。


「甘いんだよッ!!」


アルクランツはひらりと突進をかわしてエルボーでソールルを地面に叩きつけた。


校長は手をにぎったり開いたりした。


「久しぶりの命がけの戦い……。カンが戻りつつある!! こんなところで死ぬわけにはいかない!! たたみ掛ける!!」


今度は両手で剣をかまえるような姿勢をとるとなにもないところから白いオーラの大剣が出現した。


「でやあああああぁぁぁッッッ!!!!」


幼女は自分の何倍もあるような魔術剣を思いっきりたたきつけた。


彼女は戦いのはじめから全ての呪文を詠唱えいしょうなしに繰り出してきた。


その魔術は恐ろしく早く、スキがない。思わず見惚みとれるような戦いだ。


月のような弧を描いてソールルは蒸発した。


この光景からズゥルを経験した者は2つの太陽と昼に昇る三日月みかづきを見たと口をそろえて語る。


「ハァ……ハァ……」


戦いには勝利したが、消耗しょうもうが激しく、アルクランツは落下していった。


いくら強くても完全に無防備むぼうびな状態で地面に叩きつけられたらただではすまない。


「ぐっ!!」


力をこめるが全身が悲鳴をあげる。激痛が体中に走った。


ケンレンは距離をとって見守っていたので間に合わない。そんな時だった。


「ぼえ~。ぼぼぼえ~」


幼女を老ドラゴンが背中でキャッチした。


「お……お前……。逃げろって……言ったじゃないか……」


カンチューは急いでケンレンのエアリアル・リーパーに近づいた。


「よくやりまちたね~~~!! えらいでちゅよカンチューちゃぁぁん♥」


ケンレンはカバンから貴重なエリキシルを取り出して虫の息のアルクランツに飲ませた。


しばらく安静にしていると校長は目を覚ました。


「うっ……ケンレン、それにカンチュー。助かった。そしてすまない……」


髭面ひげづらのテイマーは首を左右に振った。


「なにを謝ることがありますか。校長先生、立派に勝ったじゃありませんか。こりゃあ負けていられませんな。残りの学院生たちを助けねば」


アルクランツは身を乗り出した。


「おっと!! 校長先生は絶対安静です。あとは我々が引き受けます!!」


このやり取りの少し前、高山帯が吹き飛んだ頃の話だった。


精神破壊ブレイン・ブレイクをくらったエ・Gは確かに生きていた。


しかも、スララも悪魔の影に居て消滅しなかった。これが後に悲劇の原因となるのだった。


もはや役立たずとみなされ、ザフィアルに放棄されたエ・Gは完全に暴走状態に入った。


そして島のありとあらゆる物を喰らい始めた。


どさくさにまぎれて学院生も数人、飲み込んだし不死者アンデッドも喰らった。


その結果、性質がほぼ不死者アンデッドになってしまい、物を飲み込みながら白いうじを大量に吐くようになった。


そのデモンはパタリと止まった。


「れェねチゃン……れェねチゃンのニおイがスるヴォ……」


方向を一気に変えて飲み込みながらまた走り出した。


砂漠地方を進んでいたザティス、アイネ、リーリンカ、そしてレーネの4人にエ・Gは迫った。


砂をガバガバ喰いながら行く手をさえぎるように姿を現した。


「れェねチゃン……れェねチゃン……」


レーネの悪い予感は的中した。またスララとあたってしまったのである。


「いやあああああーーーーーーー!!!!!」


ザティスが振り向いてたずねた。


「おい、知り合いか!?」


顔見知りの少女は頭を抱えてしまった。


「れェねチゃン……れェねチゃン……」


レーネをつきとばして突っ込んで来た相手から遠ざける。


判断の速かったリーダーはすぐに指示をだした。


「俺が守れるのはせいぜい1人!! レーネ、お前は戦える状態にない。バトルに不向きのリーリンカも逃げろ。ここは俺とアイネのペアでる!!」


リーリンカは納得いかずに反論した。


「お前な、私だって役立つことはできる!! それにお前ら2人では……グッ!?」


筋肉質で茶髪のリーダーは小柄な青い髪の少女のみずおちを強打した。


「ザティスさん!?」


思わずレーネが声を荒げた。


その直後、デモンはあたりにうじき散らしてパーティーに浴びせた。


「そいつをかついで逃げろ!! 見たところお前は体力ありそうだからな。それに、そいつには旦那だんながいるんだ。こんなところで死なせるわけにはいかねぇのよ」


レーネは続けて大声を上げた。


「それじゃあ、それじゃあザティスさん達は!!」


ザティスは怒鳴どなり返してきた。


「聞き分けの悪いガキんちょは嫌いだぜ。それに、コイツを……仲間をれんのかよ? いいからずらかれ!!」


レーネは涙でにじむ視界の中、リーリンカを肩にかついでその場から逃げ出した。


ザティスとアイネは身構えた。


「へへ。どうだ? 勝てると思うか?」


「安心して下さい。ザティスさんとなら天国でも地獄でもOKですよ~」


2人は熱く抱擁ほうようして互いに聖属性をびた。


「俺は……まもるぜ!! 好きな女をよ!!」


ザティスは全身に星のように輝くオーラ、ホワイト・ファングを展開した。


「ぐフふ……おイしソ……おイしソ……」


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