精神破壊(ブレイン・ブレイク)
「ピエーン!! ピエーン!!」
上空を見上げるとケンレンの乗る怪鳥が飛んでいるのが見えた。
一方のバレンはジャングルの中を疾走していた。
テイマーのケンレンが声をかける。
「そのデモンは自分に有利な地形を好む。おそらく高山帯より密林のほうが本領を発揮できるんだ!! どこに潜んでいるかわからないぞ!! 走るのを止めて警戒して索敵するんだ!!」
バレンは空に向けてひらひらと手を振った。
「んなこたぁわかってんだ。問題は相手がどんな野郎なのかって事だ」
ぼやいたバレンだったが、彼の抜群のセンスが敵意を捉えた。
「グゥワバッ!!!」
バックステップをふんだバレンの前をエ・Gが通り抜けていった。
「おっと残念。ハズレだぜ」
彼は親指を下に突き出して挑発した。
だが、同時にバレンはそれがただの悪魔で無いことに気づいた。
「こ……ゴろジて……ゴろジて……」
アフロでムキムキの教授は戸惑いこそしなかったが嫌悪感を抱いた。
「おい。寄生タイプの悪魔だなんてきいてねぇぞ。やりにくくてしょうがねぇじゃねぇか。おいケンレン!! 呼んだからにはしっかりサポートしろよ!! 見たとこ俺と同格の強さだ!! ……それにこの濃い血の臭い……。学院生を数人喰ってやがるな!?」
「ピエーーーン!!!!」
エアリアル・リッパーは鳴き声を上げた。
その直後、真正面からエ・Gが突っ込んできた。
丸飲みにしようという殺気がプンプンと漂っていた。
「それが学院生を殺った口かぁッ」
犠牲になった学院生と同じ目にあうかと思われたが、教授の戦闘力は半端ではなかった。
なんと、大きな悪魔の口をつっかえ棒のようにして踏みとどまったのだ。
「ふっざけんなよ!! リジャントブイルの底力、味あわせてやるぜ!!」
そのままバレンは顎の内側をつかむと大きく横にデモンを投げ飛ばした。
「ズズン……」
鈍い音があたりに響いた。
すると、バレンは右腕にパワーを貯め始めた。
まだエ・Gからはだいぶ距離がある、これでは当たらないと思われた。
だが、ケンレンがヘルプに入った。
「ベノム・チューチューちゃん!! 悪魔を押して!!」
彼がそう命令を出すと小さなネズミが集まってローラーのようにひっくり返った悪魔を押していった。
ノーガードの絶妙のタイミングでバレンのパンチが決まる。
「愛の鉄・拳・制・裁ストレイトォォォ!!」
さすがのエ・Gもこれにはダメージを喰らったようで、もがきながら大木に叩きつけられた。
だがすぐにムクリと起き上がる。
「チッ!! タフな奴だぜ!! バケモンなだけはある!!」
バレンとケンレンが手応えを感じていた時だった。
デモンは少女を盾にしはじめた。
「うグぅ……わタしハ……むシしテ……あクまヲ……わタしゴと……こロしテ……」
悲痛なかすれ声を彼女は発した。
普通ならここで一歩、退いてしまうところだが、バレンは容赦しなかった。
ここで楽にしてやるのがお互いのためだと思ったからだ。
それに、もはやスララは取り込まれてデモンそのものと化していた。
「おい悪魔。それで人質をとった気でいるらしいけどな、手加減はしねぇぜ!!!!」
バレンが身構えるとあちこちに蜘蛛が降ってきた。
彼らは白い糸を全力で吹き出してエ・Gの動きを縛った。
「う~ん。いつ見てもスレッディ・スパイダーの糸は芸術的!!」
スキを見つけたバレンは全力で必殺技を叩き込んだ。
「愛の鉄拳制裁!! 千本ノック!! うぉらうぉらうぉらーーーーーーーー!!!!!」
糸で動きを封じされているので連続パンチは面白いほどにヒットしていく。
連撃を打ち終わるとほんの一瞬のスキが生じた。
「チッ!! なんてタフな野郎だ!! まるでゴムを殴ってるみてぇな感触だぜ!! 物理攻撃に耐性があると見た。ケンレン、予測を見誤ったな。これなら校長、ナッガン、あるいはフラリアーノほうが適任だったな」
するとエ・Gとスララは地面を掘って逃げた。
掘ってと言うか、地面を食べたというべきか。
物凄い勢いで地中に潜伏しようとした。
だが、バレンは逃すまいとすぐさま反応した。
「喰らえ!! 大地をカチ割る愛の岩穿掌!!」
彼は思い切り地面に向けて強烈なパンチを放った。
クレーターのようにその一撃は地面を抉った。
確かに手応えはあった。少なからずダメージを与えたのは間違いなかった。
しかし、デモンの動きは止まらなかった。地中深くに逃げていく。
「クソッ!! 取り逃したか!! アイツはやべぇ。並の学院生じゃまず勝てねぇぞ!! おい、ケンレン!! 一般コードで学院生に注意喚起しろ!! 白いデモンからは逃げろってな!! ただ、土のニオイに紛れちまったからどっから来るのかわからねぇ。厄介だぜ。教授陣は積極的に捜索。発見次第、仲間を呼んで撃破と伝えるんだ」
上空のケンレンは早速コードを怪鳥の鳴き声に乗せて島中に発信した。
そして彼は森をぬって地上近くに降りてきた。
「バレン先生の攻撃、さすがにあれで無傷という事はないでしょう。いいところまで行ったと思います。逃げられたのは惜しいですけど、悔いてもしょうがない。後のことを考えましょう」
バレンは腕を組んで首を傾げた。
「後つってもなぁ……」
指を振りながらケンレンはアドバイスした。
「動物でも、魔物でも地面や水中に潜れる連中は追い込まれると深くに潜って休息するんです。つまり、あの悪魔は地中深くで眠っているでしょう。場所さえ特定できればアルクランツ校長の魔術で一発なんですが、この教師陣で見つけるのは難しい。スヴェイン先生が居たら発見できたと思うんですが」
彼らはスヴェインがもうこの世に居ないことを知らなかった。
「ひとまず、おねんねってとこか。だがあの調子だ。またそのうち学院生を狙い始めるぞ。何としても殺らねぇと。あの女生徒のためにも……な」
さびれたカタコンベを新たなアジトとしていたザフィアルはそれを視ていて不愉快そうにした。
「撃破スコア4……か。面白くないな。もっとやれるはずだ。リジャントブイルの教授……腐っても鯛と言ったところか。2ケタは喰いたい。そうすればより”養分”多くなる。まだやられてくれるなよ?」
ローブを羽織り直した教主はやや不満ながらも余裕を見せた。
なぜならエ・Gと彼は力の解放の際にリンクしていたからだ。
つまり、デモンが喰った生命エネルギーはザフィアルに流れ込むのである。
通常なら狩るのに苦労する魔術師をいとも簡単に取り込むことが出来るのだ。
「ハハハ!!! まぬけなアルクランツ……学院生の連中よ。今の段階で悪魔を練るだけで教授に匹敵する強さの奴が作れる。だが、あえて今、生み出すことはしない。お楽しみはクライマックスまでとっておくのが楽しいだろう? いくら校長先生と言えど、数十人のマナ、そして怨念に勝つことは出来まい!!」
いつものようにしけたワインをやる。
「非常に都合の良い事にリッチーの撃滅は学院の連中がやってくれる。ほっておいてもロザレイリアとフラウマァは消滅するだろう。……となれば、アルクランツさえ殺せれば邪魔者はもう誰も居ない!! ひしひしと……ひしひしと感じるぞ。向こうも私の首を獲りたがっているのが!! かかってこいアルクランツ!! 永き因縁に終止符を打とうではないか!!」
ザフィアルが興奮した時、悪魔の気配を感じ取った者が居た。
「これは……幻魔が騒いでいる!! 何かが地中を猛スピードで移動しているますね……。これは……クールーン君を殺したデモンですね!!」
次に察知したのはフラリアーノだった。
失った片腕のスーツの袖をゆらゆらとたなびかせて方向をさぐる。
「さきほどのコード……注意しろとはこのことですか。敵討ちといきたいところですが、私1人ではいざという時に対処しかねる。やはりここは誰かを呼ぶべきですね。やはりここは校長先生にヘルプを出しますか。サモン・アス・アンカー!! リンク・アルクランツ!!」
フラリアーノの呼んだ幻魔は地中を動くものを追尾するマーカーだった。
赤く、細いスティックが目にも止まらぬ速さで目の前を通り過ぎていった。
「やはり……恐ろしく速い。でも、校長先生にリンク済みです。あとは頼みましたよ!!」
その頃、カンチューに乗って空を飛んでいた幼女は異変を感じた。
「ピコン……ピコン……」
すぐに彼女はそれが何の魔術であるか気づいた。
「これは……マーキング・マジックだな!? さっきのケンレンのコードからすると白いデモンか。それをフラリアーノが捉えたと。よくやったぞ!! あとは音を追いかけて一発、強烈なのをブチ込むッ!! 可愛い教え子を殺したザフィアルめ!! 一気に大ダメージを与えて精神破壊させてやる!! 今のアイツは過度にシンクロしすぎている!! ツメが甘いってんだよッ!!」
飛竜の背中をペタペタと叩くとカンチューはスピードを上げた。
マーカーの音と赤いスティックがどんどん近づいてくる。
「ピコンピコンピコンピコンピコン!!」
老いぼれドラゴンは精一杯飛んだ。
「いいぞ!! 追いつけるぞ!! 踏ん張れ!! 呪文を唱えたら目を閉じて急上昇だ!!」
いよいよマーカーが迫ってきた。
アルクランツは瞳を閉じて集中した。
全てが無になる感覚。
直後、彼女はカッっと目を見開いた。
「そこだあああああッッッ!!!!! くらええぇぇぇxッッッ!!!!!!」
魔術によるあまりにも強い光源。
これを見た者たちはズゥル島の上空には2つの太陽が昇っているように見えたという。
もはや敵味方関わらず、何が起こっているかわからなかった。
下級の不死者はこの一撃で蒸発した。
最初からこの手段をとるべきなのかもしれないが、この呪文はここぞという時まで温存しておきたかったのだ。
フラリアーノがマーカーを使って器用に悪魔を人の居ない高山帯に追い立てた。
そのおかげで犠牲者は出なかった。
ただ、高山帯はまるまる抉られて海抜がマイナスになり、海が流れ込む湾に成り果てていた。
「チッ!! 明らかになまっている!! 出力60%ってとこか!?」
あれだけ強烈な呪文を放ってもアルクランツは納得いかなかった。
ザフィアルがただでは死なないと長年の経験でわかっていたからだ。




