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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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ボクは誰にも負けるわけがない天才なんだッ!!

アルクランツは戦況が変化していることに気づいた。


「なんだ? 次から次へと不死者アンデッドが消えていく……。これは……コフォルとコレジールがリッチーの遺品を片っ端から破壊してるんだな? いいぞ!! これならズゥルを落とせる!! 学院生の生存率も上がる!!」


だが、それをていたザフィアルは良い顔をしなかった。


「リッチーの連中め。情けないヤツらだ。もっと血と混沌こんとんを見せてくれると思ったのだが……。まぁいい。全くの他力本願たりきほんがんというのも面白くないからな。このスララという女、必死に抵抗ていこうしているようだが、パワーバランス的にはエ・Gが上回っている。悪魔使いというよりは寄生されているというのが正しい。ならば解き放つ!!」


教主はファサッっと白いローブを脱ぐと色白な肌をあらわにした。


そして力をこめると体中に紅い紋様もんようが走った。


そしてズゥル島の方向へ手をかざした。


「さぁ!! 目覚めろ!! エ・G!!」


理性のちぎれたスララは絶叫した。


「あアあアあアあアあアあアァアァ!!!!!!」


ザフィアルはニヤリと笑った。


「フフ……アルクランツにバレたら面白みに欠ける。幸いこの女は学院生の皮を被っている。うまいことカモフラージュすればすぐにはデモンとは気づかれまい。既に見つかってはいるようだが、今は他に視点が向いている。アルクランツよ。昔っからそうだ。お前はいつもツメが甘いのだよッ!!」


紅い稲妻いなずまがバチバチと女のような男の腕に流れた。


「ほぉ。これはうれしい誤算ごさんだ。この術式……ライネンテの悪魔研究機関でいじられたな? どうせ封印をほどこすなどとたぶらかして、実際はより強力なデモンを生み出していたわけだ。本当に悪魔なのはどちらなのだろうなぁ? 人間とは実にみにくいものだ。やはり全てをっさねば救済は訪れないのだな……」


教主の中のわずかな迷いは確信へと変わった。


一方、高山帯で召喚術師の3人パーティが順調に勝ち抜いていた。


それもそのはず、アシェリィと同じクラスの優秀な大気使い「アトモスフィアラー」のクールーンが居たからだ。


ここぞというピンチは彼が救ってきた。


「ふぅ。不死者アンデッドの数が減ってきた。小休止しようか」


彼と女生徒2人らは飛び出た岩の上にそれぞれが腰かけた。


なんだか地響きがしているような気がして3人はあたりを見渡した。


次の刹那せつな、まるでクジラが跳ねるようにエ・Gが飛び出して女子生徒を1人、丸呑まるのみにした。


骨を砕き、肉を裂く生々しい音が響き渡る。


「ゴリッゴリッ……メリメリ……クッチャクッチャ……」


すぐにクールーンが声をかけた。


「マーリーン!! 落ち着いて対処しろ!! 悪魔に有効な幻……」


だが、デモンは恐ろしく速かった。


クールーンの前を横切るともう1人の女子生徒をいとも容易たやすく飲み込んだ。


「ブチィッ!! ブシュッ!! メキメキ!! ニチャァ……」


残り1人になったアトモスフィアラーは必死の抵抗ていこうをした。


「クッソぉ!! こんなこと、こんなことってあるか!! ボクは天才なんだ!! ボクは天才なんだ!! こんなところで負けはしない!! ボクは天才なんだぞォ!!」


彼はサモナーズ・ブックを構えた。


「いでよ!! 大気乱たいきらんの竜!! アトモス・バーン!!」


どの属性であれ竜族を召喚できるのはかなりの実力者だった。


天才を自称するだけあって、年の割には優秀なのは間違いなかった。


リジャスターといい勝負が出来るレベルまで仕上げてきている。


「うおおおおおおぉぉぉぉ!!!!! 切り裂け!! バーン!!」


竜が羽ばたくと激しい旋風せんぷうとかまいたちが起こった。


これで敵はズタズタに引きかれるはずだった。


だが、その羽ばたきを無視して悪魔は突っ込んできた。


一瞬でクールーンの上半身を飲み込む。


「あ……ぐあ……あ……」


生暖かいミンチと骨がコツンコツンと体に当たる。


そこで彼は人間だったモノの感触を味わうことになった。


さすがにこの極限状態に追い込まれると彼は狂ったように地獄のような口の中で叫んだ。


「ボクは天才、天才なんだッ!!! 誰にも!! 誰にも負けるわけがない天才なんだッ!!」


騒いでジタバタする青年を無慈悲むじひに無視してエ・Gは全身を飲み込んだ。


「バリッ!! メキョメキョッ!! グチョグチョグチョ……」


クールーンも肉塊と化し、スララに……いや、悪魔に飲み込まれてしまった。


これでデモンによる犠牲者ぎせいしゃは4人になった。


それをあかつき呪印じゅいんていたザフィアルは満足そうだった。


しけたワインの入ったグラスをクルクルと回す。


「ははは。この程度で終わるわけがあるわけがない。フェスはこれからだ!! アルクランツや他の教授が寄ってくる前にできる限り学院生を食い殺してやる。リッチーや不死者アンデッドが減って油断したのが裏目に出たな。学院生とはいえ、リジャスターでなければこの程度か。本拠の勢力を根こそぎ潰してくれたロザレイリアとフラウマァには感謝しなければならないな。とはいっても反吐へどの出る連中だ。ただ、今はまだ泳がせておこう」


そう言いながら教主はちびちびとワインをやった。


だが、完全なノーマークというわけにはいかなかった。


ケンレンはリアリアル・リーパという怪鳥にのって島の上空を巡回じゅんかいしていた。


野生の直感にけ彼が反応した。


「これは……動物でもない、不死者アンデッドでもない。とすると……悪魔デモンか? その割には学院生のニオイしかしない。これは何者かが潜伏せんぷくしていると見ていいな」


普通ならここですぐに叩きにいくところだが、彼は慎重しんちょうだった。


基本的に勝てない戦いはやらない。彼は勇敢ゆうかんに戦って死ぬよりは、臆病おくびょうでも生き延びるべきだと思っている。


なぜなら生きている限り、必ずリベンジのチャンスが来るのだから。


「バレン先生、ナッガン先生、フラリアーノ先生、アルクランツ校長先生……さて、誰を呼ぶべきか。全員呼ぶと人員が余るし、残りのリッチーを叩いている戦力をきたくない。必要最小限で仕留める必要がある。となると相性的には近接戦闘のバレン先生を呼ぶのがベストだろう」


ケンレンはまたがっているあかいエアリアル・リーパーの背中をリズミカルに叩いた。


「ポ・ポポポン・ポポポ・ポポン・ポン」


それはライネンテ海軍の暗号コードだった。


「ピエーン!! ピピ・ピエーーーーン!!!!! ピエピエーーーーン!!!!」


その鳴き声は島中に響き渡った。


もっとも暗号コードなのでこれを解析かいせきできる者はごくわずかだが。


指名のあったバレン以外は身構えた。


もし、彼らと連絡がつかなくなったら残りの教師陣で事に当たらねばならない。


フラリアーノ、ナッガン、アルクランツの間にも緊張が走った。


常に最悪のケースを考えるのは彼らの共通認識であるわけだし。


アルクランツは悔しそうに腕を振った。


「チッ!! あの学院生に化けていたヤツか!! アタシもいたもんだな……。おそらくこれはザフィアルのがねだろう。アイツめ、今頃、アタシらを笑っているはずだ。だが、そううまく行くとは思うなよッ!! いつまでも傍観者ぼうかんしゃでいるつもりだろうが、必ずその首、りにいくからな!!」


校長は宙に魔法円をかいて上空から襲撃をかけていた。


「あそこの連中、危なっかしいな。いくぞ!! ほむらしずくッ!!」


幼女が力をこめると雨粒あまつぶのようにしとりと紅い液体が落ちていった。


次の瞬間、しずくは大爆発を起こし、ジャングルの一部を根こそぎ焼け野原にした。


「ふーむ。出力30%ってとこか。やっぱりなまってるな」


一方、地上では死を覚悟していた学院生達だったが、彼らは無事だった。


「え……今の何? 私達、あんな爆発に巻き込まれたのに無傷なんだけど?」


アルクランツは上空で腕を組んだ。


ほむらしずくは敵味方を識別する。これなら適当にぶっ放しても余計な犠牲ぎせいは出ないだろう。さて、ケンレンがバレンを呼んだようだが……。これはかなり大事おおごととみていいだろう。助太刀すけだちに行きたいところだが、あくまでバレンへのヘルプだしな。アタシらは出来ることをやるまで」


別の場所では学院生たちが不死者の群れに囲まれていた。


「くっ!! ここまでなのか!!」


重症の生徒も何人か居る。もう終わりだと思った時、炎をまとったボウガンが飛んできた。


思わず不死者アンデッド達はのけぞった。


「お前ら。重傷者に薬をやれ。コイツらは俺が引き受ける……」


学院生たちは思わず笑顔えがおを浮かべた。


「ナッガン先生!! ナッガン先生が来てくれたぞ!!」


ナッガンは腰のバックパックから爆弾を取り出した。


「強烈なのいくぞ。風圧で吹っ飛ぶなよ」


それは明らかにヤバい爆弾だった。


統率者とうそつしゃのリッチーのいないこの連中では端微塵ぱみじんになるレベルだ。


ナッガンはぬいぐるみはもちろんのこと、あらゆる武器に精通せいつうしている。


案の定、すさまじい爆発と熱量でむくろの群れは吹き飛んだ。


魔術局タスクフォースの地獄教官の名は伊達だてではなかった。


「……アレを使うまでもなかったな。お前ら大丈夫か?」


重傷者はいたが、幸い死人は出なかった。


学院生達は思わずナッガンに泣きついた。


「お前らやめないか。こそばゆいだろう」


他の教授が活躍する中、フラリアーノは学院生の気配を追っていた。


「この強烈な風属性の反応は……クールーン君ですね」


そうして彼は導かれるように高山帯へとやってきた。


「確かに、ここでの召喚術を使った衝突の形跡けいせきがある。しかし、あれだけ強いクールーンの気配が急に消えかかっている。認めたくはありませんが、これは死者の残り香……。マーリーンも、アルケナも……私はまた生徒を守れなかった!!」


フラリアーノは残った方の片腕で岩を殴りつけた。


そしてバレンは全力疾走でケンレンのもとへ向かった。


「相手がどんな野郎であってもぶっ飛ばす!! 学院生殺しの罪は重いぞ!! 体にわからせてやるぜ!!」


こうして教授2人は猛スピードで合流した。


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