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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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ヨボヨボでヘロヘロ

アルクランツは上空の気配に気がついた。ジャングルの開けた場所に移動しててのひらで日光をさえぎる。


「あれは……さっきの老いぼれドラゴンじゃないか!! なんでこんなところに? 帰れと言ったはずだが……」


ヘロヘロのドラゴンはフラフラと飛んでいた。


幼女は気がついた。


「アイツ……。アタシが3日でズゥルに着けって言われて無茶をしたんだな? もうあの調子では海を越えることはできまい。かといって恩人? 恩竜か。あいつを見捨てるわけにもいかん。さて、どうしたものか……」


次の瞬間、猛スピードで別の蛇のような姿の茶色いドラゴンが迫ってきた。


「あれは……ブラッディ・ドレークだ!! 名前の通り血をほっする凶暴なドラゴン!! このままではあの老ぼれが喰われるッ!!」


思わずアルクランツは見えない糸のようなものをほぼスキ無しで投げつけた。


それは喰われそうになっているドラゴンの足に巻き付いた。


そのままドレークが接近してくる。


ぶら下がった彼女は手刀で相手を刺身さしみにした。


そしてバラけた肉塊にくかいはジャングルへと落下していった。


「ふう。さすがに焦ったぞ。誰かをまもるというのは楽じゃないな」


アルクランツは糸をぐるんと回して老いぼれの背に乗った。同時に糸を切った。


「仕方ない。お前には貸しがあるからな。ここで死なせはしない」


飛竜はおおきなあくびをした。


「ふぁ~~~~。ぼえぼえ~~~」


幼女は腕を組んで首をかしげた。


「しっかし、緊張感のないヤツだな。そうだ。レンタルドラゴンには名前なんか無いだろ。呼びにくいからテキトーにつけてやるよ。竜族のはしくれなんだから名前くらい覚えられるだろ」


またもや老竜はあくびをした。


「お前な~。いいだろう。じゃあカンチューにしよう。アタシの好きなお菓子のメーカーだ。なんでもジパ語で昆虫こんちゅうを意味するらしいぞ。虫のお菓子はたまらないからな!!」


カンチューと名付けられたドラゴンは首をもたげてえた。


「ぼあぼあ~~~~!!!!」


幼女はヒタヒタと体表のうろこに触れた。


「おうおう。いいぞ。腐っても竜族といったところか!! 気に入ったぞ!! ……とはいうものの……」


勢いはあってもヘロヘロな事に変わりはなかった。


「う~む。こういうのはケンレンと相性が抜群ばつぐんなのだが、こんな事で照明弾を打ち上げるのもアレだしなぁ……。あ、そういう手があったな。いいか? カンチュー、今から触るリズムで鳴くんだ。それがライネンテ海軍の暗号になる」


言っていることを理解したのか、老いぼれはリズムにのって鳴き出した。


「ぼ・ぼぼん・ぼ・ぼ・ぼぼん・ぼぼぼぼ~~~~」


その合図あいずを受けると恐ろしい速さで人がギリギリ乗れ大きさの鳥が近づいてきた。


「校長先生~。どうです? エアリアル・リーパーですよぉ~? こんなのが棲息せいそくしてるなんてズゥル島も捨てたもんではないですなぁ!!」


ケンレンは動物、魔物に関すると急にエキサイトする。


話もそこそこに校長はまたがったカンチューを指さした。


「おい。コイツ、すごく年寄りで足でまといになりかねないんだが、どうにかならんか」


飛竜は悲しげに泣いた。


「キュウウ~~~キュウウ~~~」


アルクランツは頭を抱えた。


「お前、そんな悲しげな泣き方も出来るのか。こんの猫かぶりめ……」


ケンレンはカンチューに接近すると体のあちこちを観察し始めた。


「ふ~む……これはこれは……」


幼女は首を左右に振った。


「どうだ? 手のつけようのないダメ竜だろ?」


こまめに隅々(すみずみ)を見なながらケンレンは驚いた。


「いえ……確かに歳をとっていますが、これは管理環境が劣悪れつあくなだけで。つまるところ、かなりのポテンシャルを秘めていると言って良いでしょう」


アルクランツはからかうようにペタペタと竜に触れた。


「ウッソだ~。こんなポンコツがそんなわけないだろ~」


真面目顔のケンレンは冗談ではないといった感じで何かを渡してきた。


「これは、滋養強壮じようきょうそうの効果のあるドラゴン用に練った薬草団子です。しばらくこれを食べさせてあげて下さい。きっと、本来の能力を取り戻してくれると思いますよ」


彼はあまりジョークを言う人間ではない。


その人物が言うのである。しかもその筋のエキスパートだ。ウソや勘違かんちがいとは思えなかった。


アルクランツは団子の入った袋を受け取った。


「確かに受け取った。ケンレン、信頼しているからな!!」


ヒゲの教授はハンドサインを送って離れていく。


「信じるのは私じゃなくて、そのドラゴンちゃんでちゅよ~~~♥ あと、その子、男の子……おじいさんだから。よろしくね♥」


アルクランツは小袋を開けてみた。


「うわっ!! なんだこのクセのあるにおいは!! 青臭ッ!!……本当にこれで元気になるのかぁ?」


幼女は再び懐疑的かいぎせてきな姿勢に転じた。


そして薬草団子を取り出すと、カンチューの頭の前めがけてそれを山なりに投げた。


「だふッ!! だふだふッ!!」


彼は食べそこねて団子をおっことした。


「お前な~。本当にどんくさいやつだよ。ほれ!!」


アルクランツは身を乗り出して怪しい団子を口に押し込んだ。


「ぼぉふ!! ぼふぼふ!!」


ドラゴンはむせた。乗っかっている主は思わずひたいに手を当てて首を左右に振った。


「ハァ……。ダメだこりゃ。ケンレンめ。いい加減なものを渡して。あとで『お仕置き』だな」


だが、しばらくすると効果が現れ始めた。


今までヘロヘロだった姿勢が明らかに改善して翼のはばたきも力強くなった。


「ぼぼ? ぼぼぼ?」


このパワーアップにも本人も戸惑とまどっているようだった。


呑気のんきにしていると今度は暴れドレークが襲いかかってきた。


「チィッ!! コイツはただひたすらに早くて凶暴だ!! お前をかばいきれん!!」


だが、カンチューはすんでのところでドレークを回避した。


「な……ま、まぐれじゃないよな!?」


迫りくるドレークを老ドラゴンは急上昇で距離を離す。


そして宙返ちゅうがえりのように急下降して凶暴な竜にに強烈な体当りをかました。


「グギャオ!! ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ~~~!!!!!」


ドレークはグネグネと苦しそうにからまりながら落下していった。


それを驚きの顔でアルクランツはながめていた。


だが、彼女はすぐに我に返った。そしてひじでカンチューをつっついた。


「なんだよ!! お前やるじゃん!!」


あくまで単身飛行用の竜であるので線は細い。ましてや炎など吐けるわけもない。


それでもドラゴンの風格のようなものが彼からは感じられた。


だが、カンチューは急ブレーキをかけた。


眼の前に巨大な骸骨がいこつのドラゴンが襲って来たのである。


勢いに乗っていた飛竜だったがさすがにこれには二の足をんだ。


だが幼女はヒタヒタと彼の背中に触れた。そしてサラサラと背中に光で魔法円を書いた。陣が光を帯びる。


「リッチーだな……。いいか? お前はこんな奴に負けるたまじゃあない!! アタシがついてるんだ!! 勇気を出して突っ込め!!」


カンチューは白いオーラをまとった。


「ぼふっ!! ぼふぼふ!!」


飛竜は素早く臨戦態勢を整えるとおののく事もなく、骸竜むくろりゅうに突撃していった。


すれ違いざまに骨のドラゴンは粉々に砕け散った。


「お~。こりゃいいな!! 速さだけならゴンドラを担いでいるフォリオより速いかもしれん!! ズゥル島を落としたら遺品破壊を手伝ってもらうか。な~に。お前はもうレンタルじゃない。アタシが買い取ってやる。約束だ」


アルクランツは飛竜の口に薬草団子を押し込んでやった。


「ぼっふ!! ぼふぼふ!!」


カンチューは思わずむせた。


「お前……そういうとこはじいさんなんだな……」


アルクランツはズゥル島を見渡した。


「この島はジャングルだけじゃない。高山帯もあれば雪原もある。おまけに砂漠に洞窟どうくつもだ。いずれも過酷な環境に置かれる。およそ100人の学院生が出撃しているが……気配からすると7割残っているかどうかといったところか。あとは不死者アンデッドり合っている。もう1匹……恐ろしくパワーのある悪魔デモンが居るが、これはザフィアルのヤツか? その割には今は悪意がない。ひとまず学院生を助けるか!!」


「ぼわ~ん」


老竜はあくびをした。


「あのな、お前、そういうとこは緊張感を持てよ。ここは普通の島じゃない。生半可なまはんかな覚悟じゃ死ぬぞ?」


「ぼあ~……ぼふっぼふっ!!」


またカンチューはむせた。


「あー。ダメだこりゃ。ちょっとでも期待したアタシが間違ってたよ。今の力なら海を越えられるだろ。さぁ、帰れ」


老いたドラゴンは猫をかぶった。


「キュゥ~~キュゥ~~~~」


アルクランツは美しいブロンドの髪をワシャワシャした。


「あぁ!! そうかよ!! わかった!! ただし、足でまといにはなるなよ!! いざというときは自分で切り抜けろ!! いいな!?」


校長が念を押すとカンチューは嬉しそうに返事をした。


「ぼぼぼぼ~~~」


老いた飛竜は内心、不安に思っていたが、幼女は前言を撤回てっかいした。


「海の向こうに帰れといったが、実際はお前が居ないと困る。たとえ学院生の気配を感じ取って、全力で走ったところで時間がかかりすぎて全滅しているケースもありうる。おまけにさすがのアタシでも四方八方しほうはっぽうをカバーして走り回るにはこの島は広すぎるしな。なんだかんだで頼らざるをえん」


カンチューは長い首をぐるぐる回してうれしそうな仕草をとった。


同時に長い尻尾もぐるぐる回してご機嫌きげんな様子だ。


「レンタルドラゴンなんて酷い扱いだしな。こうやって自由に空を飛べるだけで幸せなのかもしれん。無事に帰ったら他のやつらも自由に開放してやるか。いいか、お前がエースだ!! 気張きばっていけよ!!」


空気を読まずにカンチューはあくびをした。


「ぼえ~~~ん」


思わずアルクランツは落ちそうなくらいずっこけた。


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