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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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いま、アタシたちに出来る事

アルクランツは洋上でぼやいていた。


「学院のドラゴンは集中して狙わて、足を奪われたからな。お前みたいなレンタルでロートルの世話になるとは思わなかったぞ」


老いたドラゴンの背に乗った。竜はマイペースにあくびをした。


「ぼえ、ぼえぼえ~」


校長はヒタヒタと小型の飛竜をでた。


「ま、アタシはお前のそういうところ、嫌いじゃないけどな。でももうちょっと急いでくれないか。せめて4日でどうにかならんか」


レンタルドラゴンは心なしか羽ばたきを早くした。


「頼むぞ!! お前に学院生の命がかかってるんだ!!」


なんとかヨボヨボは3日間に間に合わせた。


「ぼ~え、ぼえ~え」


「よ~し!! よしよし!! よくやってくれた!! さ、お前は早く逃げろ!! こんなところにとどまっていたら死んでしまう。さぁ、行け!!」


「ぼぼぼぼ~~~」


老ドラゴンはアルクランツに頭をり付けると離陸していった。


着陸したのは薄暗いジャングルだった。


「ふむ。ズゥルか……最近は来ていないな。確か……ここの動植物は毒を帯びているはずだ」


白衣の幼女は思わずおいしそうな果実を拾って食べた。


通常の人間なら一噛ひとかじりで致死量の猛毒だ。


だが、彼女は口に入れると同時に果実を解毒してみせた。


「ふ~む。相変わらずここの食い物はこんなところか。そろそろ学院生の食糧しょくりょうが切れてくる頃か。空腹は人間を狂わせる。理性もな。さて、まずはどうしたものか」


幼女は神経をました。


(学院生はそれなりに生存している……。主な敵は不死者アンデッドだな。む、1体だけ凶悪なデモンが居る。ザフィアルか? いや、学院生の匂いもする……。だがコントロールを失っているようだ。ならば今は不死者アンデッドを狩るべきだな。ただ、ズゥルにはほとんど遺品はない。まぁ撃滅は無理にしても追い払うくらいは出来るだろう)


彼女が考えている時だった。足元の水たまりに波紋はもんができた。


「ズズン……ズズン……」


鈍い音が聞こえる。


振り返ると骨の恐竜がこちらに向けてえていた。


「グギャオオオオオオオ!!!!」


5~6mはあるだろうか? こちらが小さいので非常に大きく見える。


しかばねの恐竜が強襲きょうしゅうしてきたのだ。その隣にはリッチーが居た。


「フフ……私は―――」


アルクランツは握った拳を素早く開いてパーの形をとった。


無詠唱むえいしょうで彼女はスカル・サウラスを粉砕してぶっ飛ばした。


「な、な!!」


リッチーには怒りや焦燥感しょうそうかんはないが、時に驚くことはある。


混乱する敵をアルクランツはにらみつけてプレッシャーをかけた。


「お、あ……お……」


蛇ににらまれたカエルのようになったリッチーに幼女はオーラのかたまりをぶつけた。


相手はたまらんとばかりにテレポートで逃げ帰った。


その時、樹々の向こうからアルクランツは気配を感じた。


「……フラリアーノだな」


葉っぱの影から姿を見せたのは的中してフラリアーノ教授だった。


片腕のスーツをぶらんぶらんとぶら下げてやってくる。


「はは。校長先生にはかないませんね。もっともあんなに強い魔術を使えるのはあなたしかしない。うまく誤魔化ごまかしたようですが……」


校長は鼻で笑った。


「ハン。アレに気づくお前もお前だよ。それはそうと、隻幻せきげんになってから支障はないのか?」


片腕を失った男性教授は片手でサモナーズ・ブックを取り出した。


「まぁ、バトルスタイルがこれですしね。なんとかなっています。それより、校長先生がこんなところでお1人でいるとは……どういう事なんですか?」


校長の表情は晴れなかった。


「まずは生き残りの教授を集めてくれ。そこで説明しよう」


フラリアーノはブックをなぞると”えない信号弾”を打ち上げた。


「サモン!! イヴィジブル・ファントム・ライツ!!」


これは特定の指定した人物しか視認できない光源である。


フラリアーノがマーキングしたのはバレン、ケンレン、ナッガンの3名だった。


緊急時にしか打ち上げないというルールをつけたため、彼らは恐ろしい速度で駆けつけた。


一番先にきたのはケンレンだ。大きなトカゲにのって現れた。


「どうだ? リザちゃん。カワイイだろ?」


次にフィジカルが強いバレンが走ってきた。


「んだよ。やっぱりナッガンが最後じゃねぇか」


そうバレンが愚痴ぐちると誰かが樹から降りてきた。


「もう、いるぞ……」


これでズゥルに送り込まれた教授はそろった。


アルクランツは面々をそれぞれを見て声をかけた。


「お前ら、よく生きていてくれた。アタシがここにいるということは……エマージェンシー・ケースだ」


3人はゴクリとつばをんだ。


「多くの勢力……おもに不死者アンデッドの襲撃で学院へ半壊してしまった。残った戦力も数少ない。ごくわずかな実力者は残ったが、その他のリジャスターはほぼ壊滅だ……。もうアタシは誰も死なせたくなかった。だから1人で楽園ヘイブンを求めてた。そのためにはまず手の届くお前らを助けねばならん」


フラリアーノはさすがに信じられないといった様子だ。


「そ、そんな……無茶苦茶な話が……。そもそも他の教授の方々はどうなったんですか? 学院生は?」


校長はうつむいて答えた。


「お前ら以外の……生き残りはほとんど居ない。ズゥル島に送られた奴らだけと言っても過言ではない」


バレンは思わず脱力した。


「そんな……ウソだろ? 教授も教え子も死んじまったってことか……」


ケンレンは黒いあごひげをさすりながらつぶやいた。


「ふ~む。嘘だと思いたい。たとえそれが現実であったとしても」


ナッガンは失意しついの3人を叱咤しったした。


「お前らが感傷かんしょうに浸るのは構わないが、それで死んでいった仲間たちがむくわれるのか? よみがえったりするのか? 俺だって悲しくないわけがない。だが、いつまでも後ろを見ていてもしょうがないのだ。校長の言う通り今はここで生徒たちを1人でも多く助ける。それが俺たちに残された道だ」


思わずアルクランツはつぶやいた。


「ナッガン……。フラリアーノ、バレン、ケンレン……」


ナッガンの言葉に他の教授はほほをひっぱたかれた気分になった。


それぞれが感想を述べようとした時、校長が指示を出した。


「ナッガンの言葉で十分だろう。いいな、お前たちは危機に陥っている生徒をとにかく助けるんだ。ズゥルは不死者アンデッドだけでなく、野生生物も手強い。おまけに大抵の学院生は食糧しょくりょう不足でえているはずだ。ライネンテ海軍レーションはちゃんともってきてある。これらの補給も重要な役割だ。それと特に警戒するのはリッチーだ。ヤツらの大抵は学院生より強い。取りつかれたら勝ち目が薄い。それを追い払うのもお前らに任せる」


フラリアーノはにっこり笑ったような細目でたずねた。


「校長先生はどうするんですか?」


アルクランツはどこからともかくありキャンディーを取り出してめながら話した。


「単独行動に決まってるだろうが。どうせお前らだって1人で生き残れるんだからチームは組まないぞ。各々がやれるだけやってみろ。ただ、あくまでまもるのは学院生だ。戦いに集中しすぎるなよ。緊急時はフラリアーノのえない信号弾でやり取りする。あ、フラリアーノ、アタシを登録しとけよ」


片腕の召喚術師サモナーはペラリペラリとオートでページをめくってしおりはさんだ。


「確かに。発射の権利を校長先生に譲渡じょうとしておきました。もし再度、集合する場合は校長先生が念じて下さい。自動発射されますので」


フラリアーノは黒いスーツで炎柄ほのおがらのネクタイをキュッとめた。


「しかし、お前も隻腕せきわんになってもよくやってるよ。ほこらしい優秀な教授だ。ああ、ナッガン、ケンレンにバレン……。お前らも負けず劣らずの優秀さだ。正直、アタシはナーバスになっていた。だが、目の前にこうして生き残ってくれた教授陣がいる。それだけでアタシは救われた気分なんだ。1人で賢人ウィザーズ楽園ヘイブンちかうのも自信がなかったんだが、お前らに勇気づけられたよ」


彼女なら賢者ウィザーズ楽園ヘイブンつかむことができる。


そう確認した生き残りの教授は皆が笑みを浮かべていた。


ケンレンが黒くゲジゲジとしたヒゲをさすった。


「先生、何言ってるんですか。学院がやられた今、この場に残った者は一蓮托生いちれんたくしょうですよ。地獄の果までお付き合いしますぜ」


バレンも力こぶを作って応じた。


「おうよ!! 死んでいった連中のためにもな!!」


盛り上がる2人をよそにフラリアーノはアルクランツにたずねた。


「そういえば、先程さきほどから地図に不思議なマッピングが出たのですがこれは……?」


幼女は赤い靴で小石をった。


「スヴェインが命をけたリッチーをマーキングするための地図だ。本来、ズゥルに来るはずだったチームが全力でリッチーとワイトキングの遺品をおいかけている。魔術局タスクフォースから引き抜いた奴が2名、あとはフォリオ・フォリオ、ファイセル・サプレ、百虎丸びゃっこまるの3名だ」


バレンは驚いたようだった。


「ファイセルって優等生のわりに、あのへなちょこか? ずいぶんたくましくなったようじゃねぇか」


ナッガンは額に手を当てて下を向いた。


「はぁ……フォリオはもっとひどかったぞ。だが、最近はまぁ見られるようにはなったが。百虎丸びゃっこまるは他のメンバーに比べば劣るが、土壇場どたんばやあと一騎打いっきうちちで本領ほんりょう発揮はっきするのは強みだな」


だが、ナッガンには自信があった。


「フォリオの速度は保証する。やつらに任せて俺らは俺らに出来ることをやろう」


一同はうなづくとジャングルの深みに消えた。


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