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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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幾重もの影を残す

ジオの班が敵と遭遇そうぐうした。相手はリッチーだった。


「フフフ……私には二つ名はおろか名前もありませんが、あなたがたのようなヒヨッコ程度に送れをとるほどくだびれてはいませんよ。貴方あなたがたの死に恐怖する姿、見せてください」


そのリッチーが骨の手をひらひらと動かすとあたり一面をスケルトンが沸き出てきた。


それぞれが骨の剣と盾で武装している。骨の動物にまたがっているものもいる。


普通ならここでパニックを起こすはずだが。ドライアドの亜人であるはっぱちゃんが味方のストレスや焦燥感しょうそうかん、そして恐怖を打ち消した。


体力の敵を前にジオのチームはひどく落ち着いていた。リーダーのジオが皆をまとめる。


「リッチーは倒せないかもしれないけど、追い払うなら出来ると思う!! ファイッオーーーー!!!」


チーム全員が手のひらを重ねて天高く突き上げた。


この意味不明な自信にリッチーは疑問をうかべた。


(おや……ただのヤケクソですか? それとも研究生エルダー程度の実力で私を退しりぞけるとでも?)


すぐさまキーモが動いた。特有のお菓子、チェルッキーを連射し、迫ってくる不死者アンデッド蹴散けちらした。


「フゥー。どうでござるか? この塩味は。亡者にはお似合いでござろう?」


射撃の網を縫ってきた敵はニュルが迎撃した。


剣や斧、槍、盾などを器用に使いこなして10本の足というか腕で戦った。


「ナッガンクラスの武器のデパートたぁ俺のことよ!!」


ジオが指示を出す。


田吾作たごさく!! お願い!!」


彼は野菜を食べて急速にパワーアップした。


「むおおぉ!!!! カラフル・コーンだべ!!」


田吾作たごさくは両腕を下に突き出す構えをとった。


「いっくよぉぉぉぉ!!!!」


リーダーは走り出して団子だんごぱなの青年の腕に乗りかかった。


すると田吾作たごさくは全力でジオを打ち上げた。


彼女は高く舞い上がった。


「喰らえ!! レイニー・レイニー・フィワークス!!」


彼女は空中で派手に回転しながら豪雨のように花火を放った。


ジオは厳しい修行の末に味方を巻き込まない魔術を習得していた。


故にこの呪文も本来なら仲間を貫くところだったが、花火は器用に不死者アンデッドだけをピンポイントで狙った。


「見事でござる!!」


「ヒューッ!! 相変わらずハデにやるぜ!!」


「皆、油断するなや。残った奴らを殲滅せんめつするでよ!! そおらッ!!」


田吾作たごさくはラリアットを決めて無数のスケルトンを砕いた。


手下が次々とやられていったのでリッチーは感心していた。


彼らには焦りや、怒りの感情はない。そのため、彼は全く動じていなかった。


「おやおや。これは予想外ですね。これがチームワークというものですが。互いが互いにおぎない合う。大変、興味深いテーマですね。まぁいいでしょう。ズゥルで戦闘しろというロザレイリア様の言いつけは守りましたし、私は帰っても問題ないかと」


リッチーがテレポートによって転移てんいして逃げるというのはしっかり教わっていた。


しかし、それを食い止める手があるかと言えばかなり難しかった。


彼らのテレポートは恐ろしく速いのである。


ジオは彼に問うた。


「ねぇ、そのロザレイリア様っていう不死者アンデッドの女王様ってどんな人なのかなぁ?」


名もなきリッチーは目を黄色にキラリと光らせた。


「ロザレイリア様というのはです………………は?」


ジオの質問は実のところただの時間稼じかんかせぎで、キーモがそのスキをついて銀の塩で出来た特製の菓子を打ち込んだのである。


遺品を破壊することがなくても、リッチーに苦痛を与えることは可能だとも聞いていた。


「ぐほっ!!! おああああああ!!!! あおおおおお!!!!」


まさにこれがそうなのだと一同は思った。


怒りの感情がないので逆恨さかうらみなどの心配はなさそうだった。


ならば彼はどうなるのだろうか?


ウワサではある程度、ひきこもってしまうとも言われている。


だが少なくともこのリッチーを撃退したのは間違いない事実だ。


このチームはイケイケムードになったが、はっぱちゃんのリラックス効果で全員が冷静に戻った。


彼女は一切、戦闘には参加できないが精神的なやしの効果はすさまじかった。


「やった!! やっつけられるか怪しかったけど、私達でも無名なリッチーに勝てる!! 今調子で他の隊と合流したり、はぐれた人たちを助けていこう!!」


ジオ達のジームは力強くうなづいた。 


その頃、百虎丸びゃっこまるのリーダーが不在になっていたミラ、ヴェーゼス、アカルナ、レールレールは別の班と合流していた。


彼らの魔術はほとんどが補助的なものだったのでその班の単体では戦闘は厳しかった。


他の班5人に加えて4人で合わせて9人なのでだいぶ大所帯おおじょたいとなった。


だが、何が起こるかわからないズゥル島である。人数が多いに越したことはない。


「幸い、ウチの班は攻撃中心なんだ。あんたらが居てありがたいよ」


向こうのリーダーがそう評価した。だが、その平穏もあっという間だった。


目の前にリッチーが出現したのである。


「フフフ……私は残影ざんえいのマクウェーと申します。転生する前に既についていた二つ名です。短い間ですが、よろしくお願いしますね」


面々は背中をくっつけ合って死角を無くした。


「フフ……人間の無駄なあがきというのは愉快ゆかいなものですね。ああ、私もかつては人間でしたね。では、とくとご覧あれ……」


「ヒュッ!!」


風をきるような音がした直後、メンバーの周囲をリッチーが分身してぐるりと回った。


「フフフフ……まだまだ。この程度で身構えていてはいけませんね……」


残影ざんえいは今度は2周、ぐるりと回った。


周りを回転しているというのはわかるのだが、早すぎてとらえることが出来ない。


残影ざんえい……フフフ、残影ざんえい……」


ますます敵は加速していく。一か八かで攻撃するものも居たが、相手にはさっぱり当たらなかった。


「フフフ。遅い。遅い遅い遅い……。人間だった頃の私はどうしても肉体の限界を超えることが出来なかった。ですが、リッチーとなった今ではご覧のとおりです」


目がぐるぐる回りそうになるくらいマクウェーは高速回転した。


次の瞬間、ジオ班でないメンバーが1人吹っ飛んだ。


「うおおおおおおおーーーーーー!!!!!」


「オルセーーーーーュュュ!!!」


闇のオーラを発射してきた。なんとこのリッチーは攻撃手段も持ち合わせていた。


「おやおやぁ? 誰が分身だけの脳しかないと言いましたかぁ? いけませんねェ。そういう悪い子はジワジワ殺していかないと……」


少し時間はかかったが、はっぱちゃんのリラックス効果が発揮はっきされ、残った9人は心が落ち着いた。


「ふむ。リラグゼーション・マギですか。小癪こしゃくですね。早めにつぶしておきますか」


すると前衛中心のもう1つのパーティーが前に出た。


「俺らはヤツの攻撃を防ぐ!! お前らは自分にできる援護を精一杯せいいっぱいやればいい!! 無理してやられるのが一番痛い。一番得意な事を考えて実行してくれ!!」


彼らはシールドを重ねがけしてなんとか波動はどうね返したりして回りながら回転するリッチーに対応した。


「わからない。どうしてこんな勝ち目のない戦いに必死になるのでしょうか。人間とはおろかなものです」


前衛が叩きのめされると思えたときだった。


ミラが完成したスイーツを放り投げて戦士に食べさせたのである。


彼は一気に気力が戻り、スピードも上がった。


その調子で彼女は片っ端から甘味を投げて傷と疲労を取り去った。


カルナはヒーリング・ランプを燃やし、ヴェーゼスは投げキッスのエールで男子達の気力を引き出した。


レールレールは聖なる魔術を込めたレールを形成して残影ざんえいのテレポートをほんの1時、食い止めた。


だが、これにマクウェーはいい感情を抱かなかったらしい。


リッチーは怒りや焦りは無くとも、不快感ふかいかんは持ち合わせているらしい。


「フフフ……私は言いましたね。二つ名が残影ざんえいである、と。まさかこの程度でチームワークの勝利だ……とか思ってるんじゃぁないですか? 世の中、そんなに甘いもんじゃぁないんですよォ……」


急にマクウェーの語りがねっとりしたものに変わってきた。


明らかな殺気を感じ取って一行は臨戦態勢りんせいたいせいに入った。


「悲しいですねェ。貴方方あなたがた人間には生命の制約がある。我々、リッチーや不死者にはそれがない。つまるところ魔術を使いすぎてもバテたり、命を落とすことはないのです、あぁ、優秀な人物が揃っているのに残念ですねェ。ここでお別れになるなんてェ……」


心にも思っていないことを口に出しているのがわかった。


すると、回転しているリッチーの内側に更に2層目のリッチーが現れたのだ。


「おっとォ。これくらいでビビってもらっでは面白くないですねェ……」


今度は最初の位置の外側に回転するリッチーが現れたのだ。合わせて3層になった。


「残念ですねェ。残念ですねェ。もうどれが本体かわからないでしょう。いや、もう本体はここにいないのかもしれないですねェ。もっとも。遺品を壊せない限りは私を撃滅できることはありませェん。おっとォ。ただでは殺しませんよ。ゆっくり、じわじわと炙り(あぶ)殺すようにお死になさい」


分身したリッチーは四方八方から闇のオーラを放ってきた。


すぐに盾役はダウンし、攻撃が後衛におよぶようになってきた。


ジオ達はなんとかならないかと考えこんだ。


しかし、猛烈な攻撃に全身にダメージ受けていく。


いやらしいことにわざと残影ざんえいは手加減して真綿まわたで首を締めるような攻撃をしてきているのだ。


弱い攻撃だが、あまりの連撃にジオ達はもう限界を超えていた。


もう全員が立ち上がれなかった。死んでいそうな者も居る。


「うぅ……みんな……ごめんね……。リーダーのあたしのせいだよ……。あぁ……これが走馬灯そうまとう?」


ジオはふらふらと手をのばしたが、力なくパタリと地面にした。


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