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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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えげ

ザフィアルは呪印じゅいんの間にいた。


「あのゴミ同然のデモンは死んだ。だが、魔玉まぎょくは破壊されてはいないはずだ。あれは触媒しょくばいとしても有用だが……。まぁいい。あれを手に入れればますます世界の滅亡のときが近づく。アルクランツよ、油断したな」


ザフィアルは白いローブを脱ぐとあかつき呪印じゅいんをフルパワーで発現させた。


上半身に刻まれた文様もんようが赤く輝いた。


「はあああああああぁぁぁッッッ!!!!!」


一方、その頃、学院のコロシアムでは校長が魔玉を砕こうとデモンの死体に近づいていた。


「小さなたまだが、すさまじい魔力を放つ。特に悪魔と相性がいい。もっとも、コイツは使いこなせず飲まれたに過ぎないがな。強力な使い手が現れれば戦況をひっくり返しかねないパワーを秘めている。ここで破壊しなければ……」


次の瞬間だった、漆黒しっこく魔玉まぎょくが磁石に吸い寄せられるように猛スピードで闘技場の壁をぶち破って飛んでいってしまったのだ。


「くッ!! こんな事が出来るのは……ザフィアルしか居ない!! まずい事になった!! アイツがどういう使い方をするかはわからんが、脅威きょういになることは間違いない!! どうする!? 打って出るか!? いや、相手のふところに飛び込むのはリスキーすぎる!!」


教授からムカデ・グミを受け取るとアルクランツはまた冷静に戻った。


「待てよ、落ち着け。もし私がヤツだったら……。強烈な悪魔デモンを練ってズゥルを落としに行くだろう。あそこを落とせばノットラントだけでなく、クリミナスも制圧対象になるからな。その気になれば魔玉まぎょくで遺品を破壊できるデモンもつくれる。ノットラントを防衛する学院に互いに島を欲しがる不死者アンデッド悪魔デモンか……。三つどもえだな。これは厳しい戦いになる。出来るだけ生き残ってくれよ……」


海を越えてぎょくをザフィアルはキャッチした。


「フフフ……いいぞ。ただ、コイツを使うのは後でも構わない。ズゥル島で強力な悪魔を察知した。どうやら学院所属らしいが、エ・Gという悪魔憑あくまつきだな。しかもかなり厳重にロックしてある。ただ、私の前にはこの程度、造作ぞうさもない。さぁ、悪魔の力は解き放たれた。おのれの欲望がままに暴れるといい……」


ズゥルではスララが両腕を抱えて震え(ふる)ていた。


「あアあアあ……み……ミんナ……にゲて……。あクまノふウいンがトけル……」


クラティスは首をかしげた。


「おい、どうした? 悪魔は厳重に封印ふういんされてるんじゃないのか?」


ドクはすぐにスララのみゃくはかった。


「これは……人間のそれをいちじるしく越えています!!」


レーネは顔色の悪くなった彼女をのぞいた。


「どうしちゃったのかな。すごく苦しそうだよ?」


ポーゼは無言だったが、気にかけているようだった。


「おオお……うアあアあアーーーーーーー!!!!!」


スララは雄叫おたけびをあげた。それは悪魔そのものだった。


彼女はすっかり理性を失い、巨大な白い悪魔を口から出してとびかかってきた。


するとあっという間にスララはのぞき込んでいたポーゼを飲み込んでしまった。


エ・Gはポケットがあって、飲み込んで保護する機能がある。だが、今回は明らかに違った。


「うっ……あ“あ”あ“!! 痛い!! イタイイタイ!! たす、助け……」


肉と骨が砕ける鈍い音がする。ポータブル灯台とうだいみ砕かれたようだ。


「ボギ!! ボギィボギィ!! メリメリメリィ!!!!! バリバリッ!!!」


あれだけかたいいものが破壊されたのだ。人間なんて即死なのは間違いなかった。


すぐにクラティス、ドク、レーネは臨戦態勢に入った。


「もうダメだ!! 殺す気でやらないとこっちが全滅するッ!!」


レーネが悲鳴をあげる。


「そんなぁ!! なんとかならないの!? 私、スララを殺すなんて出来ないよ!!」


戸惑とまどうレーネをクラティスがかばって回避した。


「危ねぇ!! シャキっとしろ!! ちょっとでも気を抜いたらポーゼみたくなんぞ!!」


後衛のドクが大声を上げた。


「これでは3人の力を合わせてもかなわない!! 散開して気をそらすんです!! 誰かが食べられても絶対に後ろを振り向かないこと!! 1人でも多く生き残るんです!! 3、2、1!!」


3人は3方に散った。この作戦は効果てきめんで、理性を失ったスララは誰を狙うかで迷った。


そのスキに3人は全力で走った。


クラティスは持ち前の体力とスタミナで森を駆け抜けていく。


「クッソ!! ウソだろ!? スララがあんなんになったこと、一度もなかったじゃねぇかよ!! でもポーゼに相手に放った殺気はハンパなかった。あれじゃあ説得も何もない!! くやしいし、悲しいがどうしてやることも出来ない!! スララ、これ以上、誰かを襲うんじゃねぇぞ!!」


クラティスは切り替えが早く、逃げ切ることに専念した。


レーネは完全に混乱してなみだで前が見えないくらいだった。


「え!? どうして!? どうしてスララちゃんがポーゼくんを食べちゃうの!? ねぇ、誤解だよね!? これはなにかの夢だよね!? 夢なら目覚めてよーーーーーッッッ!!!!!」


彼女はポロポロとなみだを流しながらとにかく逃げ回った。


一方、ドクは冷静れいせい分析ぶんせきしていた。


「スララさんの様子を見るに、無理やりデモンの封印ふういんをこじ開けられたと見ていいでしょう。なら逆に封じ込めることもできるはず。どうにか出来ることはないでしょうか……む!?」


目標を定めたスララはドクを追ってきた。


「スララさん、来なさい!! 私は時間をかせぎます!! ここで食い止めてみせます!!」


インチキDrは進路をふさぐように正面で仁王立におうだちした。


「ウま……ウまうマ……にンげン……うマうマ……」


喰われるかと思ったときだった。エ・Gの爪がドクを襲った。


彼は何メートルか吹っ飛んで背中から木に激突した。


「ハァ……ハァ……」


すぐに青年は二の腕に注射をした。


(気配を消す代わりに体の痛みが消えるという恐ろしい副作用のある薬……)


スララだったものは彼のわきをすり抜けて森の奥へ消えていった。


ドクはメインの効果の薬を射つと同時に必ずかなり悪い副作用が出るという魔術の持ち主だ。


「はは……ははは……。痛みが消えるという副作用は体のどこが傷ついているか把握はあくするのに重要な要素です。それに比べればメインの気配を消すこと程度は軽い。天秤てんびんにかければ痛みを消すほうがはるかにまずい。今回はそのバクチがうまくいったようですね……。もし、痛みを感じていたら死んでいたでしょう」


なんと先程さきほどの一撃でドクの腹部はけてちょうが飛び出していたのである。


運良く中身にはダメージはない。彼は優しく内臓を腹に収めた。


「はは……自分の臓物ぞうもつをいじることになるとは思いませんでしたね……ぐッ!!」


今度は皮膚ひふい付ける専用の針と糸で手際よく腹部をくっつけていく。


すぐに止血すると5分も経たないうちに処置が完了した。


常に冷静な、というかなかば狂っている彼でないと出来ない芸当げいとうだった。


「はぁ……はぁ……冗談なしに死ぬかと思いました。あらゆる意味でラッキーだったとしか……。しかし、早くも我々の班は散開してしまった。皆、他の班と合流してくれていればいいのですが。それは私にも言えることであって、こんな島で1人で行動するのは得策とくさくでない。ナッガンクラスでなくとも、合流できそうな学院生がいれば頼ることにしましょう。……スララさんには遭遇そうぐうしないことを願ってね」


スララの封印を解放したザフィアルは満足げに笑っていた。


「フフフ……フハハハ!!!! これは想像以上じゃないか!! 思わぬ掘り出し物を見つけた。複雑なロックがかかっていたから気づかなかったが、こんな逸材いつざいが隠れていたとは!! 研究生エルダーとはいえ、1飲みで食い殺すとは上等!! これならリジャスターでもやりあえる、いや、上回るだろう!! しばらくはこのデモンで退屈しないだろうな。当面はこの玩具オモチャで遊ぶとするか。死の島、ズゥルでな!!」


この絶望的な事態を感知した者がいた。


危険な状態をむアンジェナだ。


ただし、その代償だいしょうは大きく、危機がより切迫せっぱくしていると大量に吐血してしまう。


あえてまないことも出来るが、彼の性分しょうぶんからしてそれらを見過ごすわけにはいかなかった。


「うっ……うぇっ……ごばッ……」


急にアンジェナが大量の血を吐き出した。


思わずガンが歩み寄る。


「無茶するなって!! そのペースでやると死んじまうって!!」


ファーリスは心配そうだ。


「ガンの言うとおりだ。どんな危機があったのかわからんがそのくらいにしておかないと……」


グスモもそれに続いた。


「ほんとでさぁ。リーダーがつぶれちゃあたまんねぇでがすからな」


リーチェは紅い長い髪をかきあげながら忠告ちゅうこくを続けた。


「そういうのはな、とっておきのためにとっとくもんだぜ」


それでも苦しそうにアンジェナは森の奥へ指を向けた。


「接している時間が長いからわかる。ナッガンクラスの誰かが死んだ……。誰だかまではわからない……」


一同はショックでだまらざるを得なかった。


「ウソ……だろ?」


「ありえない、ありえないと言ってくれ!!」


「そんな馬鹿なことが……。冗談でやんしょ?」


「は? このスパルタのナッガンクラスが誰に負けたってーんだよ!!」


アンジェナはむなしげにうつむくとまた血を吐いた。


「見てくれ……。これが真実なんだ。血が……止まらない……」


するとチーム内で意見が別れだした。


ガンとリーチェは敵討かたきうち、ファーリスとグスモは慎重派だった。


結局はリーダーの意見に頼らざるをえなかった。


「俺は……今、行くのは得策とくさくではないと思う。このチームではきっと歯が立たない。ガン、リーチェ。今はこらえて生きびるんだ。他のチームと合流すればこの正体のわからない脅威きょういにも対抗できるかもしれない」


リーダーであるアンジェナの説得にガンもリーチェも同意して、危険から離れる道を選んだ。


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