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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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根暗で地味で戦闘も出来ない。だけど!!

アシェリィとフォリオはほぼ同時に学院に到着した。


2つのチームは驚かざるを得なかった。


あれだけ堅牢けんろうだったはずの闘技場がぐにゃりとゆがんでいたのである。


幾多いくたの激戦でも破損しなかったあのコロシアムが。


ところどころからけむりがあがり、生き物の焼ける嫌なニオイがした。


10人は闘技場とうぎじょうに降り立った。


それはもう死屍累々(ししるいるい)で、死体をまずには居られないほどだった。


気分が悪くなって胃の中をぶちまける者もいた。


「な、なんでこんなことに……。アルクランツ校長は……あッ!!」


ファイセルは彼女の背中を見つけ、かたに手をやった。


今まで見たことがなかったが、彼女はシクシクと泣いていた。


「すまん……私が不甲斐ふがいないばかりにリッチーや不死者アンデッド、デモンの襲撃を許してしまった。謝っても謝りきれん……うっ……うっ……」


だが、生き残りのリジャスターがペロペロ渦巻うずまきキャンディーを渡すとちょっと調子が少しだけ元に戻った。


「お前ら、よくやったな。逃げられてしまったのはしかたがない。その後、結果的にロザレイリアとフラウマァが組んだんだ。そのせいで魔力を無効化されてしまった。アタシ達は手も足も出なくてな。あとはごらん有様ありさまだ。飛び抜けて優秀なリジャスターは残り9名、腕の立つのは50人を切っている。正直、この戦力で争奪戦そうだつせんに挑むのは厳しい。リッチーもザフィアルも妨害ぼうがいしてくるだろうしな」


そしてアルクランツはうつむいた。


「……今回の戦いで希少生物保護官きしょうせいぶつほごかんのボルカ教授、バトルクッキングクラスのバハンナ教授、生物環境学せいぶつかんきょうがくのキュンテー教授、サバイバル学のシュルム教授、治癒師ヒーラーのニルム教授が亡くなった。皆が貴重な命であり、人材だった……くそッ!!」


校長は壁を「ドンッ」と強く殴りつけた。


授業を受けていたアシェリィ、ノワレ、フォリオ、ファイセル、百虎丸びゃっこまるは激しいショックを受けた。


「そ、そんな!! ボルカ先生が!?」


アシェリィとノワレはしゃがみこんで大泣きし出した。


フォリオも唖然あぜんとしてへたりこんでしまった。


ファイセルは思わず拳をギュッと握り、歯を食いしばった。


百虎丸びゃっこまるは手を合わせて死んだ者へ祈りをささげた。


コレジールは空高そらたかくを見つめるとひとみを閉じて瞑想めいそうした。


コフォルとルルシィは教授たちのことは知らなかったが、彼女ら彼らの悲しみをんで黙祷もくとうした。


アシェリィは恐る恐るたずねた。


「ほ、他の先生は……? まさか、全滅なんて事は……」


校長は渋い顔をした。


「ああ。ズゥル島に引率いんそつで行かせた奴らは生きてる。ナッガンに、フラリアーノ、ケンレンにバレンだ。あとはROOTSルーツにファネリとスヴェインが待機している」


だが、アルクランツはあきらめなかった。


「こいつらはウィザーズ・ヘイブンを実現するために死んでいった。ここで止めたらこいつらは浮かばれない。賢人ウィザードの輝きはまだ途絶とだえちゃいない!!」


意気消沈いきしょうちんしていた生き残りだが、このげきで腹をくくった。


「まずは戦力の補充だ。ROOTSルーツに連絡してみる」


金髪の幼女はリポート・ジェムを取り出した。


「ん? ガキんちょか? 何か用事でもあるのか?」


相手はノットラントでROOTSルーツ監査かんさをしているジュリスだった。


校長はかいつまんで事情を話した。


流石にこれには彼も驚いたようで声をあげた。


「へぇ!? あの学院がか!? 冗談だろ!? あの無敵の要塞ようさいがか!?」


話もそこそこにアルクランツは本題に入った。


ROOTSルーツの力を貸してほしい。今は猫の手も借りたい状況なんだ」


だが、思いもしない返事が帰ってきた。


「もうROOTSルーツはまとまった戦力の集団としては機能してないんだよ。賢人けんじんオルバのおかげで正面衝突からはまぬかれている。でもザフィアルのヤツが東西のヘイトをあおる目的でテロを各地で起こしてるんだ。それの仲裁ちゅうさいにレイシェルハウトは東奔西走とうほんせいそうしてるわけだが、どうしでも屋敷は留守るすがちになる。そうすると段々、組織が腐っていくんだ。今はひでぇもんだよ。当主そっちぬけで好き勝手やってる。くだらねぇ派閥はばつあらそいとかな」


更に彼は悪いニュースを運んできた。


「ドサクサにまぎれて西部を落とそうってバカもいるみたいぜ。まったく。校長の言う戦力がそろうだけで驚異になるってのはまさにこの事だな。あぁ、俺はあくまで監査役かんさやくだから大した事は出来ねぇぜ。ファネリのじいさんは出来る限りROOTSルーツこころざしぐ者を引き止めてはいるが、リジャスターがコテンパンにやられるような相手じゃ犬死にだな」


アルクランツは項垂うなだれて力なく返事をした。


「あぁ……わかった。ファネリにとスヴェインも伝えておいてくれ。特に最近はリポート・ジェムに頼りすぎている。スヴェインなら消耗しょうもう無しで通信が可能なはずだ。アイツは今、どんな感じだ?」


通信先でため息をつくのが聞こえる。


「どこにも属してねーよ。っていうか根暗ねくらで目立たないからって誰にも相手にされてねぇな。実力を知ってるヤツからすりゃあとんでもねぇ使い手だと思うんだが。きっとを声をかけたら喜ぶと思うぜ。とりあえずお前らをつなげてみるように頼んでおく」


渦巻うずまきキャンディをめながら白衣の幼女は答えた。


「ああ。悪いな。手間をかけてしまって……」


しばらくの沈黙のあと、真剣な声でザティスはアルクランツ聞いた。


「あんたさ……本当にこのまま戦いを続ける気なのか? 勝算はあるのか? これ以上死人を出してまで楽土創世らくどそうせいのグリモアがほしいか? 賢人会けんじんかいに持ち込まれるかもしれないのにか? 賢人ウィザードは血を流すのは良しとしないと思うぞ……」


なかなか痛いところをつかれ、校長は考え込んだ。


「そうだな……戦いは続ける気だ。でないと死んだ者達への顔が立たない。勝算は正直言って賢人会なら70%、単独勝利なら30%ってところか。無くはないと言ったとこだ。当然、単独勝利をとりにいく」


賢人会けんじんかいとは争奪戦で優位に立ったものが優先的に世界を創る権利を得られる楽園分割方式である。


「当たり前だがこれ以上、死人は出したくない。だが、楽土創世らくどそうせいのグリモアを手にしなければ魔術師ウィザーズ楽園ヘイブンは実現できない。これも必要な犠牲ぎせいだ。ふふ……にしてもお前に賢人ウィザードを説かれるとは思わなかったな。案外、お前のほうが賢人ウィザードなのかもしれんな」


そんな話をしていると学院に助けに来た10人とアルクランツの脳内にノイズ音がかかった。


「あー、みんなー、聞こえますかー。目立たないスヴェイン先生ですよ~」


声の主は明らかにいじけていた。


「おい、スヴェイン!! お前、せっかく生き残ったんだからもっとシャッキっとしろ!! 死んだ教授たちに申し訳がたたないと思わないのかッ!!」


アルクランツは怒号どごうを上げた。


「え……。皆さん、死んじゃったんですか……? 本当に? 本当に!? ウソですよね!?」


またもや校長は声を張り上げた。


「馬鹿者!! そんなウソついて誰が得をする!! お前は生き残った貴重な人材なんだぞ!?」


スヴェインはくだらないことで悩んでいた自分をいた。


「私は……私は、亡くなった皆さんのためにもやります。この命にかけて!!」


群青色の青い髪、特徴なヘアバンドをした中性的な男性は気合をいれた。


スヴェインとは情報をやりとりしなくなってから久しい。


故にまずは互いに情報交換を行った。


「ふむ……問題はリッチーで、ニャイラさんという方だけが遺品の察知さっちが可能と……」


彼から思わぬ返事が帰ってきた。


「私は通信以外にも物を探すダウジングやペンデュラムという探知呪文を使えるんです。まぁ、戦闘はからっきしですけどね。ですから、ニャイラさんの魔術を分けてもらえば遺品の正確な位置が普通の地図にも投影できるはずです。大丈夫、ニャイラさんの魔術には影響ないです」


これは朗報ろうほうだった。ただの地図にでも遺品がマッピングできるのである。


「それと、どれがだれの遺品なのかわかるようにもなるはずです。もっとも、フラウマァは持ち歩いている可能性が高いので、逃げられてしまうかと思いますが。ですが、こちらの魔術を知らない状態でどこかに隠せばそれをピンポイントで破壊することも可能です」


更にロザレイリアやフラウマァの撃滅げきめつの可能性も出てきた。


「ニャイラさんの魔術はおそらく闇の遺品に反応していますので、聖のフラウマァは追えないと思いますが、その気になれば改良してそちらも察知できるようになるでしょう。まぁ、多少は時間はかかってしまいそうですが……」


校長はあごに指をやった。


「フラウマァはなんだかんだでまだ霊体れいたいになってから日が浅い。リッチー特有の感情とは異なっている。つまり、恐怖や焦りを感じるということだ。存在が不安定なんだよ。そこを突くのは非常に有効だと言える。アイツが不死者アンデッド馴染なじむまでに猛攻もうこうをかければうっかりボロを出すかもしれん。思いっきり叩きつけたりすれば遺品を落としたりしてな」


一同に光明こうみょうが差し込んだ。


「よし、ファオファオ組はノットラントのウルラディール家に、ゴンドラ組はズゥル島で遊撃部隊になってもらう。あそこは毒の動植物ばかりだから、食糧しょくりょうはしっかり準備していけ。現地の学院生を援護するんだ。ここに残った面々は学院の防衛に置くが、出来る限りズゥルにく。あそこを落とされると不死者アンデッド悪魔デモンのノットラント侵攻が一気にやりやすくなる。何としても守りきれ!!」


張りけそうな心を押し殺してアルクランツは腕を振り抜いた。


死者が不死者アンデッドにならないように歌われる聖歌がむなしく闘技場にこだましていた。


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