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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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不吉な予感×2

腕の立つリジャスターが呼びかけた。


「おい!! こっちにも守備要員を回せ!! 何人もやられて……ぼ?」


彼の腹部を小柄な少女のような悪魔があっという間に貫いた。


「ぼ、ぼ、ぼ……ごぼっ。ごばぁ……」


オーラに耐えきった実力者をあっさり殺したのだ。


「メリ……ニッ……メリメリ……たべ、たべ、メッリリリ……」


ソールルだったものはその後も容赦ない攻撃で学院生を次々と惨殺ざんさつしていった。


まるで紙をちぎっているような光景だった。


集まったリジャスター達はどんどん減っていき、100人を切った。


それも無理のないことだった。


無力化された上にクリミナス、クレイントスの私兵しへい、ソールル、そして北方砂漠群ほっぽうさばくしょとうぐんの悪魔に袋叩きにされたのである。


しかもこちらのまともな戦力は20数人程度しか残って居ない。


なんとかする余力はあったが、人質をとられ巻き込むわけにはいかなかった。


故にこれだけ戦力が減るのも必然と言わざるを得なかった。


アルクランツ側にはこれが一体どれだけ続くのかわからず、余計に混乱した。


散々、人を殺したロザレイアとフラウマァが息を合わせた。


「これが最後です!! ファントム・クイーンズ・コープス・ダンス!!」


恐ろしいまでの破壊の波動がコロシアムを包んだ。


これは闇の力とは違い、純粋な破壊力である。生き物を一瞬で殺すことのできる威力を持っている。


それを見てアルクランツはさけんだ。


「アタシの後ろに隠れろーーーーーーッッッ!!!!!」


またもや彼女はカンバスの構図こうずを取るような仕草をした。


戦闘力が残ったメンバーが校長の後ろに隠れる。


すると物凄ものすご大量殺戮たいりょくさつりくの衝撃が飛んできた。


アルクランツは透明なシールドを張ってなんとかこれをふさぎきった。


だが、距離の離れていた生き残りはこの盾に退避たいひ出来ずに死んでいった。


残ったのは魔術が使えるおよそ10人。また10人も猛者もさが命を散らしてしまった。


同時にフッっと不死者アンデッド達は姿を消した。


闘技場に残ったのはミントブルーの悪魔と羽の生えた見にくいデモン達だった。


ザフィアルはすぐに自分の悪魔に指示を出した。


「お前を失うにはまだ早いッ!! すぐにその場から離脱しろ!!」


その命令に従ってソールルだったものは猛スピードで退しりぞいた。


追い打ちは死を招くことを知っていた生き残り達はデモンを見過ごした。


残るはジュエル・デザートの魔玉まぎょくに取り込まれた悪魔とその取り巻きだけだった。


老婆がジリっと歩み出た、


「こうなってしまったら人質も何もないよ。ほとんど全滅じゃ……」


彼女は手から光の球を出した。


「リフレクター・レイヤー・アドバ!!」


老婆から発射された球から無数の光線が出て的確にモンスターを貫通していった。


いつの間にか残るはナンバーワンになりたかった男の成れの果てだけになった。


そう、本来、リジャスターはこれくらいの力があるのだ。


だが練りに練り上げた高等な魔力無効化の前では赤子も同然だった。


誰がこんな結果を予想できただろうか。いや、誰も居なかった。


「貴様だけは生きて返さんぞーーーーーッッッ!!!!」


キレた校長は円を描くようにぐるぐる腕を回した。


「サイクローネ・テンペスターネ!!!!」


次の瞬間、猛烈な旋風つむじかぜが発生してデモンを細切れにした。


「お……おれの……おれが……ナンバー……ナン……」


粉々(こなごな)になった肉塊にくかいがボトボトとコロシアムに落下した。


ひとまず戦闘は終了したが、アルクランツはヒステリーを通り越して逆に冷静になっていた。


魔術を維持できたレベルのリジャスターが9人、その他の生き残りは50人程度だった。


一方、北方砂漠諸島群ほっぷさばくしょとうぐんでドラゴン便を待っていたコレジール達は学院の有様ありさまを知らなかった。


そんな時、空港にドラゴンが墜落ついらくしてきた。


色からして普通のドラゴンではないのは火を見るよりあきらかだった。


「あれは……ファオファオちゃんだ!!」


どうやらアシェリィの匂いをたどってここにたどり着いたようだった。


学院で保護されていた希少種きしょうしゅのドラゴンだ。アイスヴァーニアンという種族で全身が白い毛でおおわれている。


しかし今の姿はひどく違い、あちこちが真っ赤に染まっていた。


深い傷を負っているのが一目瞭然いちもくりょうぜんだった。


「なんでこんな事に!! 誰か、誰か、治癒師ヒーラーの方はいませんか!?」


アシェリィは悲鳴じみた叫びをあげた。


「キュウ……キュウ……キュ……」


今にもファオファオは息絶いきたえそうだ。


するち、いきなりコレジールがずいっと前に出て腰の小袋から木の実を取り出した。


そしてそれをファオファオの口の中に押し込んだ。


これにはシャルノワーレが思わず驚いた。


「こ、コレジールさん……なぜあなたがドラゴニア・シードなんて持っていますの!? 私でさえストックがないのに!!」


その言葉をさえぎって彼は語気ごきを強めた。


「いいから早く!! シード・アウェイカーじゃ!! 早く!!」


すぐにノワレは我に返って植物の成長を激的に早める魔術、シード・アウェイカーを念じた。


するとみるみるうちにドラゴンの種のパワーでファオファオの傷がふさがり、元気を取り戻した。


「キュルル!! クキュルルル!!!!!」


アシェリィは飛びねて喜んだ。


「やったぁ!! 師匠、ノワレちゃん、本当にありがとう!!」


無邪気にドラゴンをでる娘の裏でシャルノワーレはたずねた。


「コレジールさん。どうしてエルフの秘術であるドラゴニア・シードをもってらっしゃいますの?」


老人は遠い目で空を見つめた。


賢人会けんじんかいからはのけ者にされてしまったが、当時はエルフも争奪戦に参加していたんじゃ。本当に若気わかげいたりとしか言えんが、わしとエルフの娘が恋におちての。じゃが、彼女は目の前で戦死してしまった。瀕死ひんしのとき渡されたのがアレじゃよ。飲めばドラゴンに変身できる……とは言われたが、形見かたみじゃからな。使えなかったんじゃ」


エルフの少女は気の毒そうに彼を気遣きづかった。


「それじゃあ!! あれは……大切なものでしたのに……」


コレジールは首を左右に振った。


「ええんじゃ。命には変えられん。きっとアイツも満足じゃろう。さて、湿気しけっぽいのはいかんわい。せっかく元気になったんじゃからアイスヴァーニアンには活躍してもらうとするかの」


コレジールは今まで無いくらいに晴れ晴れと笑っていた。


「ファオファオじゃったか? ほ~れ、ワシも乗せてくれ~い!! おお、フカフカじゃ!!」


シャルノワーレは悪い事を聞いてしまったなと気分がしずんだ。


「アイスヴァーニアンは温厚おんこうな種族じゃ。戸惑とまどってないで早く乗れい!!」


アシェリィは真っ先に首元にまたがり、コレジールもそれに続いた。


ニャイラもノワレも恐れること無く飛び乗った。


1人だけウィナシュが残った。


「待った。アタシ、っぽだからまたがれねーんだけど。釣り竿ざおでぶら下がるか?」


その案だとどうしても人魚が疲労してしまうし、なによりスピードが出せない。


「大丈夫!! ファオファオちゃんは優しいから手でつかんでもらえばいいよ」


マーメイドは覚悟を決めてドラゴンの手にくるまれた。


「ええい、ままよ!!」


一息つくとアシェリィは疑問がわいてきた。


「でも、なんで学院にかくまわれているファオファオちゃんがこんなとこで大怪我おおけがをしてるんだろう……あッ!!」


彼女が振り向くと全員がシリアスな表情をしていた。


「しまった!! 学院が狙われるパターンは考えてなかったよ!! でもあれだけの戦力をどうやって!? ええい、考えていてもしょうがない!! ファオファオちゃん!! リジャントブイルに向けて全速前進ッ!!」


「キュルルルルル!!!!!!!」


ファオファオは力いっぱい羽ばたいて高速で学院へ向かった。


その頃、コフォルたちも異変を感じ取っていた。


北に向かいつつはるかホウキでつないだゴンドラで上空を飛ぶ。


「まずいな……」


ルルシィも違和感を隠せない。


「ええ。アルクランツ校長からの連絡がピタリと止んだわ」


フォリオは下を向きながら飛んだ。


「リポート・ジェムは高価なものですし、定時連絡するとも言ってないのだから、気にすることはないんじゃないですか?」


女性はフォリオに意見を述べた。


「逆に考えて。もし、ジェムを使えない状況にあったら? 実のところ、応答しないのよ。校長が」


ホウキ乗りはすぐに表情を変えた。


「そ、それ、ヤバくないですか? どうして今までだまってたんですか!!」


ルルシィは首を左右に振った。


「私もコフォルも魔術局タスクフォース時代のクセが抜けなくてね。確証かくしょうが得られないと動かないのよ。リポート・ジェムをすべて使いきっても反応がない。それが異常事態発生の確証かくしょうよ」


ただ事ではないのが伝わってきた。


「でも、精鋭せいえいのリジャスターの方々がそろっているはずなのになぜ……?」


フォリオは考え込んだ。


「もしかして……ワイトクイーンを取り逃したのが原因……? 聖属性と闇属性が合わさると恐ろしいまでのエナジーが生まれるって授業でやりました。結局、リッチーのリーダーは撃滅できなかった。ということは相手は未知のパワーを行使できるかもしれない……違いますか?」


コフォルはとんがり帽子を深くかぶった。


「ああ、あそこで仕留めそこなったったからな」


ルルシィも憂鬱ゆううつな顔をした。


「ええ。最悪の事態を想定するしかないわね……」


それを聞いたフォリオは一同を勇気づけるように声をあげた。彼は強いメンタルの持ち主だった。


「まだ、まだ間に合うかもしれない!! ここから学院まで全速力で飛ばせば45分!! 一気に加速しますよ!! したまないでくださいね!!」


いざという時にまいってしまわないようにファイセルも百虎丸びゃっこまるも気合を入れた。


「どんな状況であろうと、生き残りはいるはずだ!! こらえてくれッ!!」


何奴なにやつが相手でも味方を護るためには刀を抜く覚悟は出来ているでござる!!」


ゴンドラから振り落とされそうなくらいのスピードでフォリオも学院へ向かった。

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