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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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レッツ!! ファントム・パーリィ!!

しかばねだけの虚都、クリミナスでリッチーたちの会合があった。


提案をしたのは言うまでもなくロザレイアである。


「皆さんに説明するのは今更になってしまいますが……。人間とは誰しもマナを持ちます。魔力と言ってもいいでしょう。彼らは一定数のマナを内臓ないぞうなどの生命依存にいています。つまり、マナをすべて奪えば死んでしまうのです。ただし、生命の力は強いと認めざるを得ません。闇の属性とて簡単にたましい灯火ともしびを消すことは不可能なのです」


フラウマァとリッチーは聞き入っているようだった。


「ただ、人間は余った魔力で魔術を行使しています。攻撃、防御、補助、マジックアイテムなどなど。つまるところ、マナをけずってしまえば戦闘能力をゼロにできるのです。これはどんな達人にも通じる事です。よっぽどの手練てだれでなければ私の長年にわたって編み出した術式を突破することはできません」


ロザレイリアは空中に魔法円を書いて提示ていじした。


思わずリッチー達から歓声と感嘆かんたんの声がれる。


「これはかねてから実行したいと思っていましたが、出力不足とスピードに難があって実用に耐えなかったのです。しかし、フラウマァが同志になった今、想定を超えるエナジーが発生しています。これならば問題なく効果を発揮はっきできるでしょう。た・だ・し……人間を無力化できるのは『5分間』です。これを短いとみるか、長いとみるかは各々に任せるとしましょう。なお、発射後に侵入した者にはこの魔術は効きません」


そう言うと彼女はリッチーの面々を見渡した。


「皆さんあまり気が進まないようですね。ですが、どうです? たとえ侵入者が加わっても相手は私達の遺品を破壊できない。そんな余裕はないでしょう。ノーリスクハイリターンで間近で人間の魔術を観察できるのですよ? 知識的欲求をそそられませんか」


むくろの女王の誘いにリッチー達はざわめいた。


結局、満場一致まんじょういっちでこの襲撃作戦を決行することになった。


プロジェクト「ファントム・パーティ」と名がついた。


もっとも物見遊山ものみゆさんやめんどくさがりつつも参加した者も居たが。


その時だった。いきなり見慣れたリッチーがテレポートしてきたのである。


「これはこれは。うるわしいうるわしいロザレイリア様。お忘れで? 私、悦死えっしのクレイントスでございます」


たもとを分かったとはいえ、最終的に不死者アンデッドの世界にする意思に変わりはなかった。


そのため、ロザレイリアはフレンドリーに彼に接した。


「おやおや。クレイントス。死のにおいをぎつけてやってきましたね。全く、目ざといお方です」


悦死えっしはペコリとお辞儀じぎをした。


寛大かんだいな対応に感謝いたします。それでですが、今回のリジャントブイル襲撃、私もご一緒してよろしいでしょうか? もちろん骸兵むくろへいしまず投入するつもです。私も人間には興味がありましてね。特に変わった戦い方をする者に対する知識が欲しくてですね。学院はそんな連中がゴロゴロ居ます。研究の対象としてはこれとない場所なのです!!」


ロザレイリアは満足げに笑った。


「フフフ……クレイントス。貴方あなたのそういうところ、嫌いではありませんよ」


一方、ザフィアルはチェアに深く座りながら目を閉じていた。


「メリッ……メリメリ……ニッニッニ……ニッニ……たべ、たべたべ……」


教主はそのデモンのうらみの感情に感心していた。


「悪魔としての素養そよう懸念けねんしていたが、これは想像以上だな……。オレンジのデモンを超えるだろう。おっと止まれ。ロザレイリアに合わせて襲撃をかけろ」


強制的な命令でミントブルーの悪魔は頭を押さえた。


「があああああああああああっっっ!!!!!!」


同時にザフィアルは別の悪魔デモンをキャッチした。


「これは……かなり強力なヤツだ。北方砂漠諸島群ほっぽうさばくしとうぐんのアイツだな」


白いローブを着た者はそちらへ意識をリンクさせた。


「ぐへへへ。ごあああーーッッ!! ゴアアアアーーーーーーッッッ!!!!」


ザフィアルはすぐにリンクを切った。


「なんだあの男は!! 危うく精神汚染されるところだった!! もはや完全に理性を失っている!! 魔玉まぎょくを取り込んで……いや、飲み込まれてイカれたか!! あれではもはやナンバーワンを目指すどころではないぞ!!」


脳が焼ききれるようなメンタル・ショックに滅多めったに取り乱さない教主でさえ声を荒げた。


「しかも低級ではあるが、多くの悪魔……ガーゴイルやバットリアンなどを連れているな。個々は大したことがなくてもあれだけ数がいればリジャントブイルのほんの少しくらいは足止めくらいにはなるだろう。ついでに学院がアレの脳筋も掃除してくれると楽なのだが……」


その頃、学院は万全の体制であらゆる勢力に対して戦力を整えていた。


集まったリジャスターは500人を越えた。


忙しい者やマイペースな者は来ないものの、それでもいかに愛校精神が高いかを思い知らされる層の厚さだ。


施設やミナレートが破壊されないように侵入者は闘技場に転送されるように設定されていた。


余裕のある空間で教会本部の中庭を拡張かくちょうした感じである。


老婆ろうばがアルクランツに声をかけた。


「あぁ、まぁ。お嬢ちゃんお久しぶり。長いこと腕は振るってないけれど、衰えた気はまったくしませんよ。まだまだ現役じゃて」


校長はチッチッチと指を振った。


「ナーネ、236歳程度で調子になってもらっては困る。アタシにとっては赤子も同然だということを忘れるなよ」


そういった彼女の頭をガタイのいい大男が叩いた。


「ガハハハ!!!! おめぇはいつも態度がでけェなぁ。相変わらずヒスは治ってねぇのか?」


早速、彼女はキレはじめた。


「ムッキー!! ガンテ!! 貴様くらいの小僧こぞうは木っ端微塵ぱみじん!!にできるんだぞ!! 黙れッ!!」


いつのまにか細身で顔色の悪い男性が気配を殺して現れた。


「いけませんねェ。校長先生をバカにしては。誰もがお世話になったのは疑いようのない事実でしょう? からかうのは感心しません……」


「よく言ったぞ!! クルーシーー!!」


こんな感じでリジャスターのツワモノ達がアルクランツに挨拶あいさつし、互いの生存を喜んだ。


全世界に散らばっていた猛者もさがリジャントブイルに集まった。


ここまでいくともはや一国と張り合うくらいの戦力はあった。


とはいえ、皆が戦いはシビアであるという認識は厳しく刷り込まれていて、油断しているものはほとんど居ない。


一緒に防衛にあたる研究生エルダーもそれに続いた。


だが、ここでアルクランツの身を隠しチャンスを狙うという方針は完全に悪い方に働いた。


まさかロザレイリアの妨害呪文ぼうがいじゅもんの完成度と、フラウマァとの間に発生するエナジーは読めなかったのである。


アルクランツ校長はこの戦いを単なる防衛戦ととらえていた。


迫りくる敵を闘技場コロシアムに誘い出して水際で食い止めればいい。少なくとも今はそう思っていた。


ついにその時は来た。リッチー達は互いに手を繋いで魔法円に魔力を注いだ。


「いいですね。カウントが終わった瞬間から5分間、皆さんは何をしても構いません。ですが、出来れば出来るだけ人間を殺して下さい。彼らは私……。いや、私達の障害にしかなりません。おひまなかたはご協力ください。フフフ……では……ファントム・パーティーの始まりです!!」


リッチー達は連携して魔法円にマナを注いだ。彼らは既に死んでいるのでマナの消費は無い。


人間のようにバテることもなければ命を落とすこともない。


「5……4……3……2……1!!」


うつろほうのような波動がクリミナスから発射された。


今までのむくろの兵器よりはるかに速い。


それはあっというまに学院に着弾し、一気にリジャスター達の戦力を奪った。


飛んでくるほんの少し前にアルクランツは飛んできたオーラに気づいた。


そして指で絵を描くようなキャンパスをはかる型をとった。そうやって彼女はオーラを無効化した。


だが事態は深刻だった。500人以上居たメンバーのうち、これに耐えたのは20人程度しか居なかったのだ。


飛んでいるものは落下し、飛び道具持ちは遠距離攻撃が不可能になり、魔術使いは魔法が出せなくなった。


当然、肉体強化フィジカル・エンチャントの格闘技の使い手もだ。刀剣の使い手も切れ味がただの鉄くず並になった。


治癒術ヒーラー聖騎士パラディン死霊使ネクロマンサーまで機能しなくなった。


正直、この状態ではただのスケルトンにも打ち負ける。


大多数が不死者アンデッドとデモンのいいえさといってもいい状態だった。


片っ端からリジャスター達が殺されていく。みるみる闘技場は血に染まっていった。


校長は何が起こっているのかがしばらく理解できなかった。


(アタシが自我を持ったのはおよそ600年前……。ロザレイリアはいつから存在している!? それよりも前だ!! クソッ!! 想定外だった!!)


次々とやられて行く味方を見てハッとした。


「戦闘能力が保持出来ているものは敵を撃退!! それと魔術が使えない者の護れッ!!」


だが、あっという間に仲間を人質にとられ、まともに攻撃が出来ない状態になってしまった。


波動をのりきったあるリジャスターは地上の骸兵団むくろへいだんを焼き払おうと腕を振り上げた。


「これ以上、やらせるかァ!!」


そんな彼の目の前にクレイントスが現れた。


「おやおやぁ? 私の可愛かわいい同志に手を出そうと言うのですか……? いっぺん死んで出直してきなさい。歓迎はしますよ?」


悦死えっしは男性を足元からあぶるように焼き始めた。


「うあああああああああっっっ!!!! あつ!! あつあつゥゥゥ!!!」


彼は拷問ごうもんのようにジワジワ焼かれていく。誰も助ける余裕がなかった。


「うあ……あうあう……こ、ろしてグデ……」


クレイントスはゴミのように彼を投げ捨てた。


「プス……プスプス……プス……」


まっ黒焦くろこげになってそれはけむりを上げ、悪臭を放った。


「ん~。まだ殺したりませんね。”死”が足りない。なんですかね。リジャスターというのを過大評価していたのかもしれませんね……。時間いっぱいまで殺してみますか」


クレイントスは次の獲物をさだめにいった。


その光景を見ていた者が居た。悪魔と視界をリンクしたザフイアルである。


「これは……動きがあったな。ロザレイリアが学院を落としにかかった。これに乗らない手はない。どさくさにまぎれてリッチーとあの阿呆あほうを潰せ。デモンではリッチーを撃滅げきめつすることは出来んが、苦痛を与える程度は出来る。ショックで引きこもるくらいにはな。攻撃する価値は十分にある。さぁ、行け!! ミントブルー!!」


物凄いスピードで学院内部にソールルだったモノが強襲きょうしゅうをかけた。



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