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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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これは……ナッツじゃないか

ファイセル達はソエル大樹海だいじゅかいの上空を高速で飛んでいた。


フォリオがゴンドラを下げて4人を運んでくれていたのである。


「いや~。生身での空の旅というのもいいものだ。凶悪なモンスターと遭遇しなくて済む」


コフォルはとんがり帽子が飛ばないように頭を押さえた。


ルルシィは頭上を向いてたずねる。


「フォリオくん、大丈夫? 疲れたりはしない?」


彼はその問に笑顔で返した。


「このくらいはフライトクラブでやってますから心配ありませんよ」


穏やかな雰囲気な流れていたが、アバウトな位置でマジックアイテムはリッチーを感知した。


すぐにコフォルが指示を出した。


「ゴンドラを切り離して散開!! フォリオくんはこれを!!」


フォリオは飛んできたものを受け取った。


「これは……I・2・ボール……?」


彼もそれなりにマジックアイテムに精通しており、それを何に使うかがすぐにわかった。


「そこだッ!!」


投げた途端とたんすみの玉でリッチーが染まり、もがいているのが見えた。


「ダメージが通るのかはわからないけど、攻めるなら今だ!!」


青年は急上昇するとホウキで勢いをつけてリッチーの頭に強烈なりを食らわせた。


相手は地面にぶつかって動かなくなった。


コフォルが大きな声を上げる。


「いいか!! おそらくあれはただのリッチーじゃない!! ワイトだ。まだ体に馴染なじんでいないようだが、あれが校長から連絡のあったヤツに違いない。既に大きな音を立ててしまったから猛獣が集まってくる。オンボロだが、ルルシィの持つリッチー探査機で骸守護者ネクロ・ガーディアンを叩くぞ!! おそらくワイトには反応しない!! 各自、見つけ次第しだい、交戦に入ってくれ!!」


ファイセルは制服に体を受け止めてもらい、ルルシィは器用に折った木の枝を木に引っ掛けて、百虎丸びゃっこまるは反射神経で回転して着地した。


ルルシィはぐるんぐるんと枝を回って着地した。


「これは……私が一番近い!! リッチー探査機たんさき骸守護者ネクロ・ガーディアン投げつければより強い光が発生して他の皆が見つけやすくなる!!」


彼女はせて魔物を目視した。


それは樹の側面をペタペタっている。


(あれは……リザードタイプ……先手をとらないと延々(えんえん)と逃げられるタイプだわ。かといって私の一撃では仕留めそこねる。やはりここはリッチー探査機たんさきを打ち込むしか!!)


ルルシィはそでに仕込んであった小型ボウガンを取り出した。


彼女は一見して普通の女性に見えるが、実際はあちこちに武器が装備された人間武器庫と言っても過言ではなかった。


それらを装備して更にマジックアイテムを持てばかなりの重量がかかる。


だが、その肉体は洗練されていた。


ゆえに適応能力だけ見ればコフォルを上回る面もある。


(当たれッ!!)


ジェムで出来たアンテナが深く刺さるように彼女は探索機たんさくきを発射した。するとリザードは緑色に光った。


まだ昼間だが、森深く薄暗うすぐらい大樹海だけあってすぐにモンスターの場所はわかった。


だが、恐ろしく速い。目で追えないくらいの速さである。


フォリオはコフォルと合流した。


「素早いアイツは僕が追うのがベストなんでしょうけど、今はリッチー……いや、ワイトのほうが気がかりです。さっきのマジックアイテムを補充して、動きを封じます!!」


コフォルは首を縦にふるとありったけの1・2ボールを手渡した。


その時、森の向こうから声がした。


百虎丸びゃっこまるくーん!! 今から光に従ってアイツを追い詰めてみるよ。動かなくていいからそこで構えてて。あ、声も出さないこと」


ファイセルは諸刃のブーメランを放った。太い樹をなぎ倒しながら走るトカゲを追撃し、追い詰めていく。


物凄ものすごいスピード光源は走り抜けていくが、得物えものは着実に骸守護ネクロ・ガーディアンを追い込んだ。


ブーメランから逃げているリザードはすぐにやってきた。


ファイセルの攻撃は絶妙ぜつみょう)なコントロールで軌道を外れ、百虎丸びゃっこまるの脇を抜けていった。


彼は全く動じず、目をカッっと開いた。


近距離だというのにまだ抜刀ばっとうしない。


(西華西刀……抜粋昇華ばっすいしょうか!!)


彼は抜刀ばっとうで相手に強烈な打撃をらわせた後、鮮やかに斬り上げた。


「まだでござる!! 飛燕転疾ひえんてんしつ!!」


さむらいはひるんだ魔物に宙返りの回転をつけた追撃を放つ。


これがクリティカルヒットし、溶けるようにしてリザードは消えていった。


するとリッチー探知機たんちきがトカゲのそばの草むらを示した。


コフォルが近寄ると大樹の根本に遺品らしきものを発見した。


「これが……遺品? 木の実……ナッツじゃないか」


直後、フォリオの叫びが聞こえた。空に舞い上がっていく。


「うわあああああぁぁぁッッ!!!」


思わずメンバーも彼を読んで叫んだ。


次の刹那せつな、コフォルのすぐ横にワイトクイーンが現れた。


油断しては居なかったが、いつの間にかナッツを奪われてしまった。


「くそっ……、お前ら、リッチーの遺品には触れられないんじゃなかったのか!!」


ワイトクイーンになったフラウマァは首を横に振った。


「いいえ。なぜなら私はワイトクイーンですから。もはや不死者アンデッド呪縛じゅばくから解き放たれたのです。こうなれば遺品の移動も可能でしょう? 愛するロザレイリア様をっされてたまるものですか、フフフ……」


すぐさま各々が攻撃をしかけるも、相手は半分、霊体である。


フォリオの一撃がくらったのもマジックアイテムでかろうじて存在を揺らがせたに過ぎない。


おそらく他のリッチーと同じく、遺品を破壊せねば撃滅げきめつできないだろう。


一瞬いっしゅんでフラウマァは姿を消した。


「くっ!! 仕留しとめそこねたか!!」


コフォルは草むらを拳で叩きつけた。


いつの間に合流したルルシィが肩を叩く。


「らしくないわよ」


コフォルはコクリとうなづいた。


すぐに班員達は1箇所かしょに集中した。


ダメージも受けたと思われたフォリオも無事にたどり着いた。


どうやら衝撃波をうまい具合に打ち消したようだった。


彼はゴンドラをつなぎ直して皆をかした。


「早く!! 早く!! 猛獣が迫ってきます!! この状態では分が悪い!! 早くゴンドラに乗って下さい!! 逃げますよ!!」


彼らが飛び出すと今まで居た場所にソエル・サウラがぎをぎつけて獲物を狙ってやってきていた。


10mを超える巨大個体だ。勝てないことはないが、からまれたら厄介なことになるのは間違いない。


空中でルルシィは水色のリポート・ジェムを取り出した。


(うわ~。これ絶対、校長ブチギレじゃん。イヤだなぁ~)


恐る恐る彼女は遺品を取り逃したことを報告した。


「あ、あのぉ……校長先生。最後の1個の遺品、ワイトクイーンに持っていかれちゃいました……」


しばらくの無言が続く。たまらずルルシィはドキドキした。


だが、意外にもアルクランツはヒステリックを起こさなかった。


「……わかった。対象が動き回っている以上、それをむやみに追うのは生産的ではない。よって、お前らは学院に帰ってこい。出来る限り敵勢力を削ったあと、ズゥル島に向かってもらう。ズゥルに関してはかなりギリギリだ。リジャスターのヘルプが追いつかん可能性が高い。それには1人でも多く学院での迎撃に割く必要がある。相手だってバカじゃない。それ相応の戦力でかかってくるだろう。いくら腕利うでききとはいえ、無敵ではない。消耗しょうもうを抑えねば……」


校長は常にキレているわけではなく、冷静なときは冷静だった。


「お前らはリッチー探査に長けているわけではない。さっきの話とは矛盾むじゅんするが、ニャイラ達には追いかけっこでロザレイリアやワイトクイーンを追ってもらう。全く可能性がないわけではない。今は連中にかけるしかないな」


その頃、ライネンテの教会はロザレイリアの牙城がじょうと化していた。


もはや神殿守護騎士テンプルナイトが不在な事と、マッドラグーンの1戦で出た大量の死者が運ばれたことによって負のオーラが高まっていたからだ。


ロザレイアとフラウマァは教会を上から見つめてえつに浸った。


「ああ、肉体の呪縛じゅばくを解くだけでここまで清々(すがすが)しいものなのですね」


ロザレイリアは元教主の骨の手に指をからませた。


「フフフ……。私も思ってもみない出会いがありましたわ。愛というのは全くわかりませんが、あなたとはシンパシーを感じます」


せいの2人が抱き合うとすさまじいエネルギーが発生した。


それはありとあらゆる存在を消し去る力だった。


別の教主、ザフィアルはいつものしけたワインを飲んでいた。


「これは……そうか。ワイトクイーンが出来たか。まぁ今のところは脅威になるでもないし、むしろ私はむくろの連中とは関係ないとも言える。それはそうとそろそろリジャントブイルにちょっかいを出しにいくか。……関係ないとは言ったものの、タイミングを合わせてはさみ撃ちにすれば使えなくはないか」


ザフィアルはあかつき呪印じゅいんの部屋に入った。


「強力な触媒しょくばいは……これが良いだろう。オレンジの悪魔が喰った娘の肉だ。喰った直後に肉だけここに転送させた。魔術師としての素養は悪くない」


ドロドロに溶けたミントカラーの物体を教主は手にとった。


「いや、いささか魔力不足感はあるが、コイツには恋人に食われたという強烈な未練がある。大量破壊の要素としては十分すぎるくらいだ。さて、オレンジのデモンよりたのしませてくれよ」


呪印じゅいんの上に破片を置いてザフィアルはローブを脱いで半裸はんらになり、紅い文様のんようを浮き上がらせた。


「あ……メリ……メリメリ……メリメリメリ……ッニ。ッニ。ニニッニニ…………たべ、たべたべ、たべッたべ」


全身ミントカラーのデモンはスーッと天井を抜けて出ていった。


「フフフフ……絶望というワインは……たまらんな……」


教主はローブを羽織はおり直すと部屋を後にした。

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