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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter8: 散りゆく華たちへのエレジィ
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ソロだけど、ソロじゃなかった

ザフィアルの計画は成功し、ノットラントは東西のあちこちで衝突が起こっていた。


それをおさめるようにレイシェルハウトは各地で休戦を訴えかけたが、何しろ数が多くて対処しきれずにいた。


本気の殺し合いに発展した地域も少なからずあった。


一方、ザフィアルは白いローブを羽織はおりながらぶどう酒をちびちび飲んでいた。


「ほぉ……。アルクランツはズゥルを落とす気なのか。どうやら学院生に強力な悪魔憑あくまつきが混ざっているようだ。これは学院を叩くチャンスかもしれんな。デモンならばある程度、不死者アンデッドにも対抗できる。おそらくリジャスターの準備には時間がかかる。そこを襲撃すればズゥルへの増援が出せずに異名の通り死の島になる。これは面白くなってきた。時間稼ぎが出来るレベルのデモンを造らねば……」


ザフィアルは血のような色の液体の入ったワイングラスをテーブルに置いた。


そしてローブを脱いであかつきの呪印をナルシスト気味にでた。


女性のような上半身が怪しく光った。


「しかし……砂漠の悪魔の動きが気になる。頭は悪いが、デモンを従える力は確かだ。それでも表舞台にでてこないということはなにかたくらんでいるか。まぁ所詮しょせん浅知恵あさぢえだろう。質は私が上だからな。それ以外は後で考えればいい。さて、ズゥルにデモンを送れば学院の戦力が削れる。だが、本隊はあくまでリジャントブイルに集結したリジャスター共だ。連中を撹乱かくらんさせるだけで増援は遅くなる。となると……どうなるだろうなァ? フフフ……」


ザフィアルはローブを着直すと再びしけたワインを飲んだ。


一方、ロザレイリアの根城である虚都きょとクリミナスでは植執しょくしゅうのアンサンテが報告をしていた。


黄緑のローブがゆらゆらと揺れる。


「ロザレイリア様、学院の連中は骸守護者ネクロ・ガーディアンの撃破に乗り出しました。中でも3つのうち、1つはアルクランツが直々(じきじき)に討伐とうばつに出るようです」


ロザレイリアは満足げに声をあげて笑った。


「リーダーが本拠地ほんきょちを空けるなど愚の骨頂こっちょう。この機会に学院を攻めればズゥル島への援軍を大幅に遅らせることが出来る。そうすれば相当数の戦力をズゥルで始末できるでしょう。よくやりましたよ。アンサンテ。しかし、あなたは節操せっそうが無さすぎた。どれだけ貴重な植物を集めましたか? コレクションは順調ですか?……おきなさい」


ググッっとロザレイリアが拳を握るとアンサンテは震えだした。


「あ……あ、あ……」


そう言うと彼は瞬時に蒸発した。


「ボシュゥゥゥ!!!!」


実はロザレイリア直属の部下であるリッチーは彼女の意思でめっすることが可能なのだ。


独立した悦死えっしクレイントスは例外だが。


しかばねの王女は両手をかかげた。


「今までライネンテは聖属性が強く、攻めあぐねていました。ですが、教会の力が激減した事と、マッドラグーンの戦いで死んだ者たちの遺体が次々と教会に運び込まれています。皮肉にも教会が我々、不死者アンデッドの新たな拠点きょてんとなるのです!! 今こそライネンテを荒れ地……いずれは虚都きょとにする時!!」


リッチーたちからは感嘆かんたんの声が上がった。


それくらいロザレイリアのカリスマ性は高かった。


その夜、アルクランツは思慮しりょふけっていた。


「……アンサンテのリークからするに、アタシの留守を狙ってロザレイアは刺客を送ってくるらしい。頃合いからして、ザフィアルもそろそろこちらに牙を向けるけるはずだ。アイツの考えている事は一見、意味深に見えるがわかりやすい。ロザレイリアとは直接の協力関係に無いが、かこつけて学院を攻めてくるのは間違いないだろう。こっちは同時に2勢力に攻められるれることになる。しかし、リジャスターたちをズゥル島に送らねば島は悲惨なことになる。ここが踏ん張り時だな……」


校長はリポート・ジェムを取り出してニャイラとのコンタクトをとった。


骸守護者ネクロ・ガーディアンの場所はわかったか?」


宝石ごしにニャイラの声が伝わる。


「1体目はラマダンザ大陸の北西、2体目は北方砂漠諸島群ほっぽうさばくしょとうぐんの東部、3匹目はソエル大樹海。これで間違いないと思います」


心なしか幼女は満足げだった。


「よくやった。1体目はアタシに任せろ」


ニャイラはまだ戸惑とまどっているようだった。


「ほ、ホントに1人でるんですか……?」


アルクランツはニヤリと笑った。


「勝算の無い相手に挑むと思うか? まぁ見ていろ」


そう言うと宝石は粉々になった。


次に校長は指先をチョイチョイっと動かして扉をあけた。


見た目にそぐわないボロいホウキを持った青年が入ってきた。フォリオ・フォリオである。


「校長先生。なにかご用ですか?」


「ふむ。骸守護者ネクロ・ガーディアンの1体はラマダンザ大陸にいる。ここから羅国ラマダンザまでどのくらいで到着する?」


青年は腕を組んで目を泳がせた。


「フルブーストなら片道2時間を切れます。瘴気しょうきを突破する訓練はやってますのでそこまで影響はないと思います」


星の光る夜空を幼女はながめた。


「ざっと見積もって5時間……か」


フォリオは思わずのけぞった。


「も、もしかして今から骸守護者ネクロ・ガーディアンを狩りにいくおつもりですか!?」


アルクランツはくちびるに指を立てた。


「シーッ!! バーカ!! 声がデカい!! いいか、誰にもバラすなよ。間違いなく混乱する。学院が不死者アンデッドとデモンのはさみ撃ちをくらいそうになっている。いくらロザレイアとはいえ、遺品の1つを破壊されれば警戒せざるを得ない。攻撃の手がゆるむはずだ。可能なら今晩こんばんのうちにどうにかしてしまいたい。お前は空中で待機して移動だけに専念してくれればいい。厳密言えばソロでは無くなるが……。出来るか?」


フォリオは校長におくすること無く意見を述べた。


「しかし校長先生!! 不死者アンデッドは夜間の間、かなり強くなります。明日の明け方でもいいのでは?」


するとアルクランツは首を横に降った。


「そんなのガキんちょでも知ってるだろ……。いんや、それはゆずれないね。アタシが不在の状態で2方向から叩かれたらいくら精鋭せいえいのリジャスターとは言え、少なからずダメージ受けてしまう。殺るとしたら今なんだよ。そうしなければ大量のに死人が出る。壊れた物は直せばいいが、人材はそうはいかない。綺麗事きれいごとだが出来る限り犠牲は出したくないんだよ」


普段、暴君ぼうくんな彼女の変わった一面を見て、フォリオは意外に思った。


「わかりました。そういうことなら早速、行きましょう。コルトルネー、フルブーストで行くよ!! ふっとばされないでくださいよ!!」


幼女は大きな窓をガラリと開けた。


「夜空のフライトと洒落しゃれ込もうじゃないか!!」


フォリオの後ろのちょこんとアルクランツは座った。


「一応これでもレディだからな。横乗りだ」


これから戦いだというのに彼女は無邪気むじゃきだった。


目的地につくのは本当にあっという間で街の光や星をながめているうちに着いた。


フォリオは首をかしげた。


「本当にここなんですか? それらしいモンスターは見当たらないんですが……」


幼女は首を左右に振った。


「いや、この魔力、例の魔物に間違いない。おそらく地下にラボがあるんだ」


フライトクラブのエースは振り向いた。


「えー!? それじゃ撃破でき……えっ?」


もうそこにはアルクランツは居なかった。彼女は拳に力を込めて落下していったのだ。


らえッ!! フレアブル・ヴァンカーーーーーー!!!!!!!」


すると大爆発が起きてあたりが昼間の様に明るくなった。


「うわっ!! まぶし!!」


思わずフォリオは目をつむった。


しばらくして彼が目を開けると洞窟どうくつの天井を破って真っ黒焦くろこげになったラボが露出ろしゅつしていた。


独特な焦げくさいイヤな臭いがする。


骸守護者ネクロ・ガーディアンらしきものは存在しなかった。死体さえもだ。


あれだけの魔術だ。一撃で吹き飛んでしまったのかもしれない。


フォリオはアルクランツのそばに着陸した。


「校長先生!! 大丈夫ですか!?」


彼女は肩をすくめた。


「お前な、目は確かか? これのどこが怪我けがしてるように見えるんだ」


校長は服についたススをはらった。


「見てたろ? 骸守護者ネクロ・ガーディアンは一発で撃滅。ラボも完全破壊したから何が遺品だったとしても間違いなく跡形あとかたも残っていない。ここはもう用済みだ。あと2チームが上手くやればいいんだがな。それよりとっとと学院に戻るぞ。遅かったらお前のせいだからな」


彼女は冗談交じりにフォリオをおどした。


帰りもスムーズに帰ることが出来て夜中の3時ごろには2人で学院に到着した。


「ふぁ~あ。ちょっと疲れた。明け方まで寝る」


そういうと幼女はソファーに身を乗り出して寝てしまった。


あわただしかったのでいつの間にかチーム達がアルクランツの様子を見に来ていた。


そこでフォリオは今までの出来事を話した。


コフォルはとんがり帽子をいじった。


「しかし……フォリオくんにしか伝えないとは我々も信用されていないものだな」


ルルシィがひじでコフォルをつっつく。


「今回は仕方ないわよ。フォリオくんしか適任はいなかったと思うし。……寝顔はカワイイんだけどねぇ」


ファイセルは驚きを隠せなかった。


「こんな小さな体の中にどうして絶大なマナを持っているんですかね? やっぱり事故で教授たちの能力を吸収したってのは事実なのかもしれないですね……」


百虎丸びゃっこまるはゾワゾワしていた。


「仲間だから良かったものの、もし彼女が敵だったら……学院くらい軽く吹き飛ばしてしまのでは?」


百虎丸びゃっこまる物騒ぶっそうな想像に一同は寒気を覚えた。


「ま、まぁ、今回の件を秘密していたのは申し訳ないですが、結果的に成功したから良しとしましょう。でも、これからはどんな事情があっても互いに物事をごまかしたり、ウソをつかないようにしましょう。そうでないとチームメイト意味がないですからね」


そう言いながらフォリオはさわやかに笑った。


ウソをついていた本人がそういうのも矛盾むじゅんしていたが、今回は事情が事情だけに不満を言う者は居なかった。


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