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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter7:終わる凪(なぎ)来る禍(まが)
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アタシのお菓子タイム、邪魔すんなよ

パッっと植執しょくしつのアンサンテが消えた直後だった。


「ぬかった!!」


いきなりコレジールが声をあらげた。


「おんしら!! 服をめくって背中を出せい!! 下着も脱げ!! 早く!!」


あまりの唐突とうとつな要求に女子達は激しく戸惑とまどった。


「おい、じーさん。それはシャレになんねーセクハラだぞ!!」


「師匠……そんな人だと思いませんでした……」


「全く失望しましたわ!! さ、街に帰りましょ」


だが、ニャイラだけ反応が違った。


「みんな、早く背中を出して!! これは多分、リッチーの背呪はいじゅだ!! 目に見えないことをいいことに背中に体をむしばむ呪いを植え付けるんだ!! アイツらは襲撃というよりこっちが目的だったんだよ!! コレジールさんはそれを除去しようとしてるくれてるんだよ!! 恥ずかしがってる場合じゃないよ!! ほら、早く脱いで!! 遅いって!! ほら!!」


結局、下着どころではなく、女子達は上半身ひんむかれてしまった。


乙女の柔肌やわはださらされる。


各々(おのおの)の背中にはあからさまに邪悪な刻印が浮き出していた。


すぐに彼女らは熱い砂漠に耐えてうつせになった。


コレジールは無心で彼女らの背中をなでた。


「コオオオォォォォォォ…………」


明らかに肩のこりが抜けた気がする。まだ初期状態だからこの程度ですんだのだろう。


女子連中は恥ずかしがってすぐに服を着た。


だが、老人の息は荒く、真っ青な顔をしていた。


「コレジールさんはボクらの背呪はいじゅを吸い込んでくれたんだ。だから彼自身を含めて5人分の死の呪いを受けてしまったことになる!! いくらコレジールさんでもこれだけの呪いを受けたら……。基本的に背呪はいじゅは本人では解呪できないんだよ!!」


ウィナシュは穏やかではないといった表情だ。


「そんな!! あたしらには手段がねーじゃん!! 教会で進行を抑えることは出来ても、侵蝕しんしょく自体は止められない!!」


するとコレジールは重い口を開いた。


「ほっほ。死ぬというのは案外、あっけないものじゃの。こんな無駄に生きたおいぼれは捨て置け……。それより遺品の……遺品を何としても破壊するんじゃ……。たのむ……ぞ……」


もう彼は終わった。その時だった。


「あっちー。こんなとこに送り込むとかバカじゃねーの? 海龍様のクランに入ってなきゃこんなのやってらんねーっての」


アシェリィの体内から声が響いた。


「この声……リーネちゃん!?」


オルバの使い魔で、水属性の少女の姿をした妖精ようせいである。


彼女の声が体液をつたって確かに感じることができた。


幻魔の存在は召喚術師サモナーの素養がないものには目視できないはおろか、声も聞こえない。


周りから見ていたらアシェリィが1人ごとを言っているように見えた。


だが、メンバーは彼女の能力を知っていたのでそれを察した。


「ホントにあのクソオヤジは。帰ったら文句言ってやる」


そして彼女は本題に入った。


「そのじいさんは一応、おっさんの師匠だからな。さすがにここで死んでもらっては困る。だからアタシが送り込まれたわけだ。普通は解呪かいじゅの能力なんてないんだが、海龍かいりゅう様とリンクしたことによって色々出来るようになった。試しにやってみ。まず、手のひらをながめる」


するとアシェリィの手が透明の水のようにゆらいで光りだした。


「そしたら呪いの患部かんぶにその両手をり込むようにしてぜる。いいか。意識を集中しなよ。体に巻き付いたへびを振り払うイメージで」


他の女子はとても驚いていたが、みるみる消えていく背呪はいじゅに希望を見出していた。


「ドクン……ドクン……バクバク!!」


アシェリィの体内の水分が激しく循環じゅんかんするのを感じる。


一旦いったんストップ!! このままだとお前が倒れる。力を微調整するんだ。そうだ。いいぞ。そこだ!! 一気に気力を吹き込んでショックを加えるッ!!」


精密な魔術に非常に苦戦しつつもなんとかコレジールの背呪はいじゅは消えた。


「はぁっ、はぁっ……。リーネちゃん。本当に、本当に助かったよ。ありがとうね」


妖精ようせいはツンとした態度で答えた。まるで反抗期の娘である。


「ふん。礼を言うならオヤジに言うんだね。それより直接、人にアクセスするのは滅茶苦茶に疲れるんだよね。アタシもう帰るから。ここぞという時に呼ばないと後悔するのはよく覚えておくこったね」


そう言い捨てると彼女の反応が体から消えさった。


コレジールは仰向あおむきに寝返ねがえって天に腕をかざした。


「ふぅ……もう少しで空の向こうにくところじゃったわい……。死ぬというのはこういうもんなんじゃな……」


カムバックした老人に仲間たちが駆け寄った。皆がポロポロと涙をこぼしていた。


「うっ、うっ、ごめんなさい。私達が足を引っ張ったせいでこんなことに……。コレジールさん1人だけならこんなことには……」


ニャイラはそう泣きじゃくった。


「じーさん!! 死ぬには早えーよ!! 無茶しやがってよぉ!!」


ウィナシュも足を引っ張った自覚があったので負い目を感じていた。


「ホントに!! 死んじゃうかと思いましたよ!!!!」


アシェリィはその場でへたりこんだ。


シャルノワーレはアシェリィの肩に手をやって、浅葱色あさぎいろをした涙をあふれるように流した。


「私が……私がもっとうまくやれれば……」


少しして彼は半身を起こした。どうやら呪いは吹き飛んだようだ。


「これこれ。これっぽっちで泣くんじゃない。世の中にはもっと辛いことがあるんじゃぞ? こういうときこそ涙をひっこめて……笑うんじゃ」


それを聞いた面々は涙をぬぐって笑顔を見せた。


「おかげさまで後遺症こういしょうは無いようじゃ。アシェリィ、よくやったの。見事な解呪かいじゅじゃったぞ」


彼女は首を左右に振った。


「これは私の力っていうか。力を借りたっていうか……」


自信なさげな彼女をコレジールは勇気づけた。


「良い依代よりしろになれるということはそれだけで素養の有る証拠じゃ。大事にせいよ」


コレジールは何事もなかったかのように砂をはらって立ち上がった。


「しかし難儀な事になったのぉ。虚都きょとクリミナスを中心にした正三角形とはいったものの、実際に遺品を破壊するとなるとそりゃあもう世界旅行じゃぞ。それに、このメンバーでは骸守護者ネクロ・ガーディアンを倒せるかは怪しい。それこそロザレイリアの生命線じゃからな。討伐隊レベルのアタックチームを組まねば撃破は難しい」


その時、リポート・ジェムが鳴った。


ニャイラがそれを取り出すとアルクランツの声がした。


「どうだ? アンサンテからなにか聞き出せたか?」


女性はクイッっとメガネを上げた。


むくろのトライアングルという話がありまして……」


色々と経緯いきさつを説明すると机を叩く音が聞こえた。


「あんのクソリッチーが!! 二重で報酬を要求しやがってセコい奴だ!! その話ならもう聞いてるんだよ!! クソッ!!」


今度は何かを蹴飛けとばす音がした。


教授の声がはさまる。


「校長先生、キャンディ。キャンディを……」


すると通信は静かになった。


「で、むくろのトライアングルだろ? それがわかれば位置の特定はそう難しくはない。どこか一箇所いっかしょ見つければあぶり出せるからな」


そう簡単に言ってもらっては困るとニャイラは反論した。


「でも!! 骸守護者ネクロ・ガーディアンが3体もいるんですよ!? ズゥル戦も考慮するとそんな戦力はかけられないはずです!!」


アルクランツは机に腰掛けて紅い靴をぶらんぶらん揺すった。


「バーカ。お前らが1体倒すんだよ。死にかけてパワーアップしたジジイがいるだろジジイが」


あまりにもぞんざいな扱いにニャイラはくちをパクパクした。


「もう1チーム、5人の精鋭を送って2体目。んで、3体目はアタシがソロで殺る」


これを聞いていた一同は驚愕きょうがくのあまり口をあんぐりと開けるしかできなかった。


我を取り戻したニャイラが聞き直す。


「す、すいません。校長がソロで殺るって……聞き違いですよね?」


アルクランツは腰丈の美しいブロンドを振り乱した。


「お前らなぁ。バカにするのも大概にしろよ。まがりなりにも魔術学院の校長だぞ? 腐ったゴミの始末くらいは容易たやすい」


彼女の横暴な態度が目に浮かぶ。


「んじゃ、そういうわけで。ニャイラの能力で腐ったゴミを見つけたら教えろ。そこからミッション開始だ。ズゥルはともかく、お前らにはまだ時間はある。焦るな。その間にチークワークを徹底的てっていてきに鍛えろ。勝てない相手じゃない。根性見せてみろ」


プツッっと通信が切れるとジェムは砕け散った。


これにはメンバー皆が顔を合わせるしかなかった。


一方、学院の校長室ではアルクランツが新たな指示というか命令をだしていた。


「コフォル、ルルシィ、ファイセルは遊撃隊ゆうげきたいとしてズゥル島に送るつもりだったが、緊急で別の任務についてもらう。お前らでもないとこなすことが出来なさそうなミッションだ。心してかかれよ」


校長はチョイっと指を曲げて扉を開いた。


「お前らにも腐ったゴミの処理……骸守護者ネクロ・ガーディアン狩りをしてもらう。まずは魔術局タスクフォースからヘッドハントしたコフォルとルルシィだ。認めたくはないがどちらも一級。そしてマジックアイテムに精通している。スキのないコンビだ。二人をじくにして戦いを進めることになる」


2人はそろってお上品にお辞儀じぎをした。


「次に。しばらくこの2人とチームを組んでいたファイセル・サプレだ。まだ荒削あらけずりなところはあるが、伸びしろには光るものがある。有望株ゆうぼうかぶといっても良い。アマちゃんなのが欠点だな」


ファイセルは恥ずかしげに部屋に入ってきた。


「そこまでめられるとちょっと……」


扉を開けて次のメンバーが入ってきた。


「お次はフライトクラブのエース。フォリオ・フォリオだ。本格的な実戦の経験はないが、エースとして肝が座っているし、何よりその音速とも言える高速飛行はあらゆる局面で応用可能だ」


フォリオはくたびれたホウキを片手に持って堂々と部屋に入ってきた。


ハキハキとした声で彼は挨拶あいさつした。


「フライトクラブのフォリオ・フォリオです!! よろしくお願いします!!」


元気ハツラツといった感じでなんというかまぶしかった。


「最後だ。百虎丸びゃっこまる。コイツはノットラントからズゥル島に合流させるつもりだったんだが、実戦経験がある。なおかつ負の残留思念ざんりゅうしねんに打ち勝ったガッツのあるヤツだ。そこで心が折れるものが多数だが、コイツはそれでも立ち直った。こういうヤツは土壇場どたんばで強いからな。腕はまだまだだが、それは訓練で克服こくふくできる。ズゥルに送るにはもったいない。そういうわけだ」


百虎丸びゃっこまるはペコリと頭を下げた。


僭越せんえつながら……。選んでいただいたには全力を尽くしたいと思うでござるよ」


こうして5人のアタックチームが出来た。


「よし、お前ら早速、演習だ。気を抜くと本番で死ぬぞ。気合をいれろ!!」


それを聞いてファイセルは恐る恐る聞き返した。


「あ、あのぉ……校長先生は訓練とかしないんですか?」


アルクランツはバッタのチョコ棒をかじりながら答えた。


「バーカ。アタシのお菓子タイム、邪魔すんなよ」


これにはさすがに皆があきれざるをえなかった。


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