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楽土創世のグリモア  作者: しらたぬき
Chapter7:終わる凪(なぎ)来る禍(まが)
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イモータル・デモン

メリッニにコテンパンにやられたパルフィーはバウンズ家の魔術修復炉まじゅつしゅうふくろかっていた。


「パルフィーはどう? 交代しましょうか?」


レイシェルハウトが傷の具合ぐあいを見に来た。


だが、見守っていたサユキは首を左右に振った。


「お嬢様も知っておいででしょう? このの驚異的な回復力は。もっとも、普段はリアクターには入りたがりませんが……」


全裸の女性の亜人が不思議な液体の入った容器で浮き沈みしている。


「……いい意味でバケモノね」


先の戦いで重傷を負った彼女だったがリアクターにかると怪我けがはみるみる治った。


いくらと言えどここまで回復は早くない。


パルフィーの持ち味であるフィジカルの強さが彼女を支えていた。


その時、パチリとパルフィーが目覚めた。バシャバシャとリアクターの中で暴れる。


(ぬわっぷ!! うわっぷ!! アタシ、これ苦手なんだよ!! 早くだしてくれよォ!!)


このままの勢いで暴れられるとリアクターが壊れる。


レイシーとサユキは彼女をなだめた。


まったく恥ずかしがる様子もなく、あぐらをかいて座り込んだ。


「ハァ……いくらヤバかったからって勝手に放り込むこたぁないだろ!!」


パルフィーは珍しくイラだって声を荒げた。


こういうときにはお決まりの解決策かいけつさくが有る。


サユキはかがむと笑顔を浮かべて提案した。


「パルフィー、お腹は減っていない? こんな状況だけど、腹が減っては戦は出来ないっていうでしょ? みんなはバウンズ家からご馳走ちそうになっているのよ。あなたも、もちろん来るでしょう?」


亜人の少女は素っ裸のまま飛び上がった。


「そりゃいい!! 早速、食堂に行こうぜ!!」


駆け出しそうになる彼女の腕をがっしりサユキがつかんだ。


「パルフィー、あなたね、お洋服くらい着なさいな……」


パルフィーは自分の体を見直して手で裸体らたいおおった。


「へへへ……いっけね~」


レイシェルハウトもサユキもひたいに手を当てて首を左右に振った。


食堂に向かうとレイシー、サユキ、カエデ。リクの顔色は優れなかった。


あの強敵を取り逃してしまったのだ。次はどういった形で襲ってくるかわからない。


あまり食事にも手がついていないようで出てくるのはため息ばかりである。


空気を読まずにパルフィーはムシャムシャバグバグとテーブルの上の料理を食べ始めた。


さっきまで瀕死ひんしだったとは思えない食欲である。


他の者は大して気にしていなかったが、目の見えないランカースは彼女の変化に気づいていた。


(このふくれ上がるオーラ……。パルフィー殿どのか!? そうか……彼女は満腹になるほど力が発揮はっきできるタイプなんだな。屋敷に着いた時点ではかなり空腹だったはず。今の彼女だったならいい勝負ができたかもしれないな……)


一行が休憩きゅうけいをとった頃、再び橙色だいだいいろの尾をひいてあの悪魔がやってきた。


「あはははは!!!! 大復活ぅ!! 今度こそ八つきにしてやるよ!!」


それはどういう手段化はわからないが、全快ぜんかいしたメリッニだった。


リクがずいっと前に出る。


「けが人を出すのは得策じゃない。俺がやります」


だが、サユキがそれを止めた。


「あなたの戦略と手の内はバレているわ。しかもまだ疲れが取れていない。戦うにはリスクが高すぎる。ここは……」


誰が対決するか考えている時だった。


「アタシがいく。さっきはボコボコにされたけど、二度目はないぜ!! 傷はえたし、今は満腹だ。全力でいく!!」


サユキは彼女を気遣きづかって止めた。


「貴女だって戦術がバレてるのよ!? それに相性あいしょうも悪い。無謀むぼうだわ!!」


するとパルフィーは背中越しに親指を立てた。


「へへ。さっきは遅れを取ったけどここ一番でアタシが負けたこと、あるかよ?」


その背中はとてもたくましく見えた。


「ケヒヒヒ……ザコの亜人がよぉ。今度は生かして返さねぇぜ……!! 死になぁ!!」


メリッニは猛スピードで頭突ずつきタックルを放ってきた。


「ふぬっ!! ぐぐぐぐっ!!」


パルフィーはまるでカブトムシが相手をひっくり返すようにして悪魔を宙に投げ飛ばした。


「今だッ!! 覇月はげつ!!」


彼女は両手からオーラの球を打ち出した。


「何ぃ!? 遠隔攻撃だと!? だが当たらんなぁ!!」


デモンにはあっさり避けられてしまった。だがそれで終わらなかった。


「あり……? おじょうの呪文、なんだっけかな? チュリス、チュロス、チュイス……そうだ!! チェイス!! ほっ、チェ~イス!!」


すると覇月はげつのルートがぐいっと変わってメリッニを追撃し始めた。


「ぐっ!! 避けられん!! 受けるしかあるまい!!」


油断していたせいもあってか、攻撃はクリティカルヒットした。


だが、パルフィーは追撃の手をゆるめなかった。


ジャンプして脚で突くようにして無数の蹴りを放つ。


「まだだ!! 襲蹴夜しゅうしゅうや!!」


確かな手応えがあった。


(コイツ……攻撃力が高くてすばしっこいけど、打たれ弱い!! 攻撃を避けながら狙っていけば勝てない相手ない相手じゃないぞ!!)


反撃がくると感じた亜人の少女は回避の構えをとった。


「バカにしやがってぇ!!」


人の肉を食らったからか、メリッニは凶暴化していた。またもやデモンは突撃をしかけてきた。


「ワンパターンなんだよッ!! 闇鎌あんれん!!」


相手が地面スレスレになった時、首を刈るようにパルフィーは脚を地面に叩きつけた。


「うぐっ……がああああ!!!!!!!」


バウンズ家当主のランカースには亜人の少女のオーラが見えていた。


(いけない!! みるみる消費されていく!! このペースでは!!)


そんな時、サユキの声が聞こえた。


「パルフィー!! 骨付き肉よ!! お行儀ぎょうぎが悪いけど、食べながら戦いなさい!!」


メリッニは妨害ぼうがいしようとした。


「バカめ!! やらせてたまるかよ!!」


だが、異常な食欲を持つパルフィーはやってきた悪魔をり飛ばして肉をキャッチした。


「へへ~ん。も~らいっと!!」


例のごとくムシャムシャと肉をむさぼる。


「うっし!! こっからが本番だぜ!! 穿掌せんしょう!!」


広範囲にわたって大きく肉を貫く強烈な掌底しょうていだ。


これはパルフィーがフルパワーに近いときでないと出せない必殺技だった。


メリッニは吹っ飛んで屋敷の壁に叩きつけられた。


砂煙が晴れると腹部に大きく穴が空いた悪魔が見えてきた。


「ぐっ……ごぼっ……」


相手は体液をドボドボと吐いている。


「さすがにデモンはこのくらいじゃ死なないか。しぶといやつだなぁ。なら、今度こそ楽にしてやるよ」


パルフィーは気合を込めた。そして脚を高く構えた。


「奥義!! 終夜しゅうや!!」


そのりは悪魔の首を吹き飛ばした。だが、すぐにデモンは頭を拾いに行った。


そして頭を胴体どうたいにくっつける。


「うげぇ……不死身ふじみかよ……」


メリッニの傷はジュウジュウとえていく。


すぐにカエデが指示を出した。


「パルフィーは後退!! 私とリクくんで更に相手を消耗しょうもうさせるわ。お嬢様じょうさまとサユキは最後に仕留しとめるように力を温存おんぞんをしておいて!! いくわよ!! リクくん!!」


そう言うと2人は回復しつつある悪魔へ向かっていった。


最初にリクがシールドを張って構え、カエデをかばった。


「お前の作戦はお見通しだぞ。喰らえ!! トライレーザー!!」


3つの黒い目から光線が発射された。


いくらリクの盾が頑丈がんじょうとは言え、このレベルのビームを受ければそう長くは持たない。


「カエデさん、2手に分かれて戦いましょう。俺がおとりを買って出ます。アイツが集中しているスキに斬ってください。いくら再生するからといって高速で斬りつければ無傷というわけにはいかないはず。そしてお嬢様とサユキさんに繋げばトドメをさせるはずです!!」


カエデはコクリとうなづくとリクと反対方向に走り出した。


「クソアマァ!! やらせるかよぉ!!」


レーザーがカエデを襲うが、彼女は鮮やかに側転やバク転をからめてこれを避けきった。


「よそ見してると!!」


メリッニの背後から魔導盾まどうたて使いのバックラーがかすめる。


彼の盾の命中率は高く、また的確に腕をえぐった。


「くそぉ!! ちくしょうちくしょうちくしょう!!!!!!」


もはや本来の性別である女性性も失っていた。


リクに気をとられているうちにカエデは刀の早業を打ち出した。


千桜せんおうまい


斬りつけざまに花びらのようなオーラが舞う。


それは敵をめった切りにするように展開して深い傷を多数負わせた。


「ぐぼぁ……」


スキを見つけたリクは大きなタワーシールドごとジャンプして思いっきり地面めがけて悪魔を叩きつけた。


「もらったッ!!」


刀使いはデモンの胸を貫いた。だが、そこが心臓なのかもわからないし急所とは限らない。


すぐにやいばを抜いてカエデは退しりぞいた。


戦況は上々で、スタミナを削るどころか大幅にダメージを与えることに成功していた。


こればカエデとリクのチームワークのたまものであった。


幼い頃からずっと組み手を繰り返してきたのだ。


相手の強みも弱みもわかっていた。その上の立ち回りが可能だったのである。


「これはいけます!! カエデさん!! 一気にしかけますよ!!」


「了解ッ!!」


青年はタワーシールドを構えた。その後ろにカエデが刀を抜いた。


「てやあああああああぁぁぁ!!!!」


突っ込むリクを盾にしてカエデも突っ込んだ。


後少しでリクのタックルが当たるかどうかというところだった。


刀の使い手は身軽にちゅうを舞ってメリッニの背中側に回り込んだ。


そして2人は悪魔を挟み撃ちする形になった。


リクが打撃を、カエデが突きをそれぞれ放った。それぞれがギリギリと力を込める。


「おああ……おああああああ!!!!!!!!」


オレンジの悪魔は断末魔のような叫びをあげた。


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